Semua Bab 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した: Bab 431 - Bab 440

485 Bab

第431話

業界最大手の『エイジア』を袖にし、国内屈指の資金力を誇る天宮グループすら退ける企業――そんな相手が、果たして存在するのだろうか。「江崎さん」賢が遅れて会場に現れた。彼は行政からの来賓として出席している。会場に足を踏み入れるなり、その視線は詩織を捉えて離さなかった。彼女を取り囲む挨拶の列が途切れたのを見計らい、ようやくそばに近寄る。同時に、悠人にも軽く会釈を送った。「篠宮室長」詩織も小さく頷き返す。「頭痛は?もう大丈夫?」賢の第一声は、周囲の人間とは全く違う種類の言葉だった。詩織は柔らかく微笑んで首を振る。「ええ、もうすっかり治ったわ。ありがとう」「ならいいけど」二人の会話を聞いていた悠人は、違和感に眉をひそめた。賢とは長い付き合いだが、彼が誰かに対してここまで親身になる姿など見たことがない。それに、詩織を見るあの眼差し……何かがおかしい。悠人の脳裏に、以前賢が「江ノ本で気になっている女性がいる」と語っていたことが蘇り、嫌な予感が背筋を走った。賢がさらに言葉を継ごうとした時、スタッフが慌てた様子で詩織を呼びに来た。スピーチ原稿の確認があるらしい。詩織は権田に断りを入れ、スタッフと共に足早に去っていった。賢は名残惜しそうにその背中を見送るしかない。悠人は不吉な推測に胸をざわつかせ、たまらず賢に問いかけた。「……賢さん、江崎と親しいんですか?」「まあね」賢の返答は曖昧だった。親しいと言うには、まだどこか距離がある。かといって、他人行儀と言うには心が傾きすぎている。そんな微妙な感情が「まあね」という言葉に集約されていた。だが、悠人には十分だった。賢は公私の区別を厳格につける男だ。その立場上、うかつな人間関係は築かない。その彼が「まあね」と肯定したこと自体が、悠人の推測を裏付ける決定的な証拠だった。信じられない。理解に苦しむ。悠人は混乱した。よりによって、なぜ江崎詩織なんだ?賢ほどの男が、一体彼女のどこに惹かれるというのか。それとも、あの女の手練手管がそれほどまでに巧みだということか?賢のような清廉潔白なエリートをも籠絡してしまうほどに?結局のところ、賢は恋愛経験が少なすぎるのだ。だからこそ、あんな性悪女の毒牙にかかってしまう。友人として、黙って見過ごすわけには
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第432話

司会者の紹介が終わり、割れんばかりの拍手が巻き起こる中、今大会の発起人が登壇した。無数のスポットライトを浴びて演台の前に立ったのは――江崎詩織だった。志帆の瞳に宿っていた期待の光が、瞬時に凍りついた。信じられない、という表情で硬直する。すぐ近くにいた太一もまた、息を呑んで絶句した。無意識に隣の譲の腕を掴み、揺さぶる。「おい、俺の目がおかしくなったのか?」譲は嫌そうに太一の手を払い除けた。「触るな、シワになるだろ」まだ詩織と顔を合わせていないのだ。身だしなみは完璧にしておきたい。だが、空気が読めない太一は、払われてもなおしつこく譲の腕を掴んだ。「絶対幻覚だって!なんで江崎があんなところにいるんだよ!」ただ会場にいるだけなら驚きはしない。だが、総会の発起人として、あろうことか壇上でスピーチをするなど、常識では考えられない事態だった。会場中がざわめき立ち、困惑のさざ波が広がっていく。悠人は眉をひそめ、隣の賢に問いかけた。「何か手違いですかね?彼女が……総会の発起人だなんて」だが賢の耳には、悠人の声など届いていなかった。彼は檀上の詩織に釘付けになっている。悠人が返事がないのを不審に思って横を向くと、賢の瞳には隠しきれない称賛の色が滲んでいた。もちろん、誰よりも愕然としていたのは志帆だ。彼女は反射的に拍手をしてしまっていた。掌に残るわずかな痺れが、まるで見えない平手打ちを食らったかのような屈辱となって彼女を襲う。詩織は堂々としていた。これほど大規模な総会の進行を任されながら、臆する様子など微塵も見せない。会場のざわめきなど意に介さず、彼女は落ち着いた声で語り始めた。「ご来賓の皆様、ビジネスパートナーの皆様、そして本日お集まりのすべての皆様、おはようございます。本大会の代理発起人を務めさせていただきます、江崎詩織です――」代理人、か。だとしても、衝撃の事実に変わりはない。その肩書きが持つ意味を、ここにいる全員が痛いほど理解していたからだ。海雲は詩織を見込み、信頼し、その育成に全力を注いでいる。この破格の扱いは、ビジネス界全体を揺るがすほどのインパクトがあった。ここに集うのは海千山千の強者たちだ。彼らは瞬時に悟った。『サカザキ・モータース』や『衆厳メディカル』がいち早く『華栄キャピ
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第433話

ただ、真剣だった。志帆の悲痛な呼びかけが耳に入らないほどに、彼は詩織の言葉に聞き入っていたのだ。無意識に拳を握りしめ、志帆は声を張り上げた。「柊也くん!……気分が悪いの」ようやく我に返った柊也がこちらを向く。冷え冷えとしていた彼の瞳に、志帆の姿が映ると同時に、いつもの体温が戻っていく。「どうした?」「加減が悪くて……」「病院へ行こう、今すぐに」柊也の判断は早かった。席を立とうとする二人を見て、譲が声をかける。「始まったばかりだぞ、もう帰るのか?」「志帆の具合が悪いんだ。病院へ連れて行く。あとは頼む」柊也は譲の返答も待たず、志帆を支えて足早に会場を後にした。高い演台の上にいる詩織からは、会場のすべてが見渡せる。誰が残り、誰が去ったのかも一目瞭然だ。だが、彼女は出ていく二人に特段の関心を払うこともなく、淡々と自らの役割を全うした。スピーチを締めくくると、次なる登壇者として権田を紹介する。権田は足の怪我で歩行が困難なため、詩織は自ら歩み寄り、彼の手を取ってエスコートした。その細やかな気遣いに気づいた賢が、眉をひそめて悠人に尋ねる。「権田先生、怪我でもされているのか?」だが、悠人の心は途中退席した志帆のことで一杯だった。賢の問いかけなど上の空だ。「えっ?そうですか?」「歩き方が不自然だとは思わないか?」指摘されて初めて、悠人はまじまじと権田を見た。言われてみれば、確かに足を引きずっているように見える。「……なるほど。江崎さんがずっと権田先生に付き添って、他の招待客への挨拶もそこそこにしていたのは、先生のサポートをするためだったのか」賢は合点がいったように頷いた。悠人はハッとした。そういえば、ホテルへ権田を訪ねた際、部屋から煎じ薬特有の匂いが漂っていたのを思い出した。つまり……二人がホテルから出る時に寄り添っていたのも、男女の関係などではなく、単に足元の覚束ない権田を支えていただけだったのか?一瞬、悠人の脳裏に百合子の言葉がよぎった。悠人は唇を強く引き結び、険しい表情を浮かべた。自分の中で信じてきた「正解」が、音を立てて崩れ始めるのを感じた。その時、マイクを握った権田が口を開いた。冒頭、詩織から招待を受けたことへの感謝、そして献身的な介助への礼を述べる。賢の推察通りだったことが
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第434話

権田のスピーチが終わると、詩織がマイクを引き継ぎ、高らかに宣言した。「権田先生を新たなパートナーとして迎え入れることで、『中博テック』はさらなる飛躍を遂げると確信しています」会場内を駆け巡った情報は、すぐに二人の耳にも届いた。詩織がいかにして権田の心を掴んだのか、そのカラクリが判明したのだ。彼女は権田を単なる「技術顧問」として雇ったのではない。中博テックの「共同経営者」として迎え入れたのだ。賢が感心したように評する。「利益で人を集めるのは常道だが、相手に十分な『価値』と『敬意』を感じさせる提案だ。権田先生が前の会社と契約を早めに切り上げた理由も、まさにそこにあったからな」職業柄、人の心理を読むことに長けている賢は、冷静に分析を加えた。「利益は組織を繋ぎ止める最低限の論理に過ぎない。だが、優秀な人間に明確な『承認』と『居場所』を与えることこそが、人心掌握の第一歩だ」賢は詩織の姿に目を細める。「江崎さんは完全に『対症療法』ならぬ『対人療法』をやってのけたわけだ。これじゃあ、先生が陥落するのも無理はない」最後に賢は、悠人の肩をポンと叩いて慰めるように言った。「この点に関しては、お前も江崎さんから学ぶべきだな。優れた指導者というのは、『人の心を掴むこと』こそが組織を動かす極意だと知っているものだ」そして、悪戯っぽく微笑む。「負けるべくして負けたんだ。恥じることはないよ」……病室の外で。夜勤のナースステーションでは、二人の看護師が802号室への訪室を巡って、互いに仕事を押し付け合っていた。「ねえ、じゃんけんで決めようよ。負けた方が行くってことで」「いいよ、乗った」結果は一発勝負であっさり決まり、負けた方の看護師が深いため息をついた。「うわーん……なんで私、こんなについてないのよ」勝った方は同情の眼差しを向ける。「まあ、どっちみち誰かが行かなきゃいけないんだから。意を決して行ってきなよ」「本当、あの人何様なのよ!マリー・アントワネット気取りだか何だか知らないけど、注文は多いし態度はデカいし……私だって仕事でやってるだけで、彼女の奴隷じゃないっての!金持ちだからって人を見下して、本当にムカつく!」負けた看護師は薬の準備をしながら愚痴が止まらない。その時、廊下の向こうから人影が近づいてくるのが見えた
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第435話

柊也がつくづく羨ましくなる。「ところで……」悠人は心に引っかかっていた疑問をぶつけてみた。「あのニュースの件、一体どういう経緯だったの?」志帆は即座に意図を察し、困り果てたようにため息をついた。「柊也くんと婚約してからというもの、メディアに追いかけられるのは日常茶飯事だけど……今回は権田さんまで巻き込んでしまって。ただ不思議なのは、いつもなら芸能ニュースで騒がれるのに、なぜか今回は経済ニュースとして大々的に扱われたのよね。まるで誰かが裏で糸を引いて、わざと騒ぎを大きくしたみたいに……おかげで権田さんにも誤解されちゃったわ」その言葉を聞いた瞬間、悠人の脳裏に詩織の顔が浮かんだ。この騒動で一番得をしたのは誰か?江崎詩織だ。つまり、あのフェイクニュース騒ぎは、ライバルを蹴落とすために彼女が仕組んだマッチポンプだったのか?もしそうなら、あまりにも汚いやり口だ。……総会はつつがなく終了した。詩織は海雲に報告をするため、直ちに賀来家の屋敷へと足を運んだ。ダイニングルームに入った瞬間、目に飛び込んできたのは、テーブルで夕食を摂っている柊也の姿だった。詩織の足がぴたりと止まる。胸の内に疑問が浮かんだ。太一の話じゃ、確か志帆の具合が悪くなって……柊也が病院まで付き添ったはずじゃなかった?なんで病院に詰めて、あの大切な婚約者様を看病してないわけ?もし彼が今夜在宅だと知っていたら、報告なんて後日に回していたはずだ。だが、来てしまったものは仕方がない。ここで逃げ帰る道理もなかった。詩織は意を決し、堂々とした足取りで部屋へと進んだ。キッチンで立ち働いていた松本さんが、物音に気づいて顔を覗かせる。詩織の姿を認めるなり、その表情がぱっと明るくなった。「あら、詩織さん!どうしたの、こんな時間に。ご飯は?まだなら食べていきなさいよ」詩織が「もう済ませました」と断ろうとした、その時だ。「総会が終わってそのまま直行してきたんだろ。食ってるわけがない」柊也が先回りして答えた。その口調はぶっきらぼうだが、事実は言い当てていた。「それもそうね。じゃあお茶碗持ってくるから、手を洗っていらっしゃい。温かいうちにどうぞ」松本さんは嬉しそうに笑うと、詩織の分の食器を用意し、スープをよそい始めた。一日中駆け回っていたせいで、詩織も確かに空腹だっ
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第436話

そこへ、老眼鏡をかけた松本さんが救急箱を抱えてやってきた。どうやら、柊也の腕の傷の手当てをするらしい。その痛々しい様子を見て、詩織はようやく思い出した。少し前、柊也が志帆を庇って腕を負傷したという話を。当時は人づてに聞いただけで、詳しい病状までは知らなかった。まさか、あれからずいぶん経つというのに、まだ完治していないとは。想像以上に深い傷だったようだ。志帆を救うためなら、自分の命さえ投げ出せるってことね。松本さんは視力が衰えてきているせいか、手元がおぼつかない。柊也に痛い思いをさせまいと慎重になるあまり、余計に手間取っているようだ。本来なら詩織に助けを求めたいところなのだろうが、今の二人の微妙な関係を察してか、彼女は一人で奮闘していた。「痛かったら我慢してちょうだいよ……それにしても、どうしてまた傷が開いちゃったのかねぇ」松本さんはぶつぶつと愚痴をこぼしながら処置を続けている。詩織はあえてその光景に関心を示さず、帰り際に松本さんへ声をかけるだけに留めた。「松本さん、私もう行くわね」「あっ、そうだ。持って帰るもの忘れないでちょうだいね」松本さんは詩織のために手土産を用意していたらしく、あわてて立ち上がろうとした。「あ、いいのいいの。自分で持っていくから、松本さんはそのままで。お見送りも大丈夫よ」詩織は彼女を制止し、ダイニングテーブルに置かれた包みを自分で手に取ると、玄関へと向かった。松本さんはそのまま柊也の傷の処置に戻る。その時、手元が狂ったのか、消毒薬が傷口に染みたらしい。「っ……」柊也が低く唸り、苦痛を噛み殺した。そのわずかな呻き声に、玄関へ向かっていた詩織の足がピタリと止まる。彼女は反射的に振り返り、ソファの方を見た。まるで示し合わせたかのように。男もまた、顔を上げて彼女の方を見ていた。何の前触れもなく、二人の視線が空中で絡み合う。詩織の瞳に浮かんでいたのは困惑、躊躇い、そして言葉にし難い心の震え。胸の奥にざわざわと雑草が生い茂るような、落ち着かない感覚。彼女の視線を受け止めたまま、柊也の瞳がゆっくりと色を変えていく。けだるげで、冷ややかな光を帯びていき――やがて、ふわりと興味なさげに視線を逸らした。それでも、柊也の胸の奥は、鳥の羽でそっと撫でられたかのように擽ったかった。
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第437話

車を走らせて十分ほど経った頃、赤信号で停止した。六十秒の待ち時間。詩織は信号機を十秒ほどじっと見つめてから、車内の沈黙を破った。「あなたの傷……まだ治らないの?」「少し深かったからな。治るのに時間がかかってるだけだ。もう大したことはない」柊也は淡々と答える。「……5月20日は、どこにいたの?」詩織が重ねて問うた。柊也は迷うことなく、まるで心に刻み込まれた事実であるかのように即答した。「婚約式に出ていた」ハンドルを握る詩織の手に、ぎゅっと力がこもる。そうだ。5月20日は、彼と志帆の婚約披露の日だった。主役である彼が、その場を離れられるはずがない。やっぱり、全部私の考えすぎだったんだ。信号が青に変わる頃には、一瞬波立った詩織の心は再び凪いでいた。それからは一言も発することなく、車内にはただ沈黙だけが流れた。ホテルに到着すると、詩織は柊也を降ろすなりすぐに車を発進させた。テールランプの光は、瞬く間に強まる雨脚の向こうへと消えていく。柊也は車が去った方角を無言で見つめ続けていた。いつも冷ややかなその表情に、一瞬だけ深い寂寥の色が滲む。だが彼はすぐに感情を押し殺し、表情を引き締めると、ホテルのエントランスへと背を向けた。ロビーの片隅。まさかこんな光景を目撃するとは、悠人は夢にも思っていなかった。病院で志帆を見舞った後、ホテルに戻ったものの、どうにも胸が塞いで仕方がない。気分転換に外の空気でも吸おうとロビーに降りてきたのだが、あいにくの雨に見舞われ、カフェの窓際の席でコーヒーを啜っていたところだった。タイミングが良すぎるというか、悪すぎるというか。嫌でも目に入ってしまう。あの江崎詩織が、わざわざ車で柊也を送り届けていたのだから。志帆先輩には「柊也くんのお父様の具合が悪いから実家に帰る」って言って病院を抜けたんじゃなかったのかよ?これが奴の言う『実家』か?笑わせるな、と悠人は心の中で毒づく。江崎も江崎だ。柊也と先輩が婚約していて、世間公認のカップルだと知っていながら、平然と二人の間に割って入る。やってることは泥棒猫そのものじゃないか。どこまでふしだらで、節操がない女なんだ。賢さんがこんな女に好意を寄せているなんて――考えれば考えるほど、受け入れがたい事実だった。たまらず
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第438話

こんな夜更けに誰だろう?訝しみながらドアスコープを覗き込んだ詩織の瞳が、ぱっと輝きを帯びる。慌てて鍵を開け、ドアを勢いよく開け放った。「ミキ!?どうしたの、こんな時間に!」部屋に入ってきたミキは、雨の湿気をまとったまま、玄関先のスーツケースも放り出して詩織に抱きついた。「詩織補充しに来たァ……!」ぎゅーっと力強く抱き締め、詩織の首筋に顔を埋めて離れようとしない。ただ事ではない。すぐに彼女の異変を察知した詩織は、あやすように彼女の背中をポンポンと叩きながら、身体をゆらゆらと揺らした。「ご飯は?食べた?」「まだ。死ぬほど腹減ってる」「じゃあ、焼き鳥でも食べに行く?」「行く!」顔を上げたミキが付け加える。「あと酒!ちょっと飲みたい」「了解!」詩織は笑って、足でミキのスーツケースを引きずり込んだ。「いつもの店に行こっか」「うん」「……で、そろそろ着替えさせてくれない?」ミキはまだしがみついたままだ。「なに水臭いこと言ってんのよ。あんたの身体なんて隅から隅まで知ってるっつーの」三十分後、二人は江ノ本大学から二百メートルも離れていない場所にある、昔なじみの串揚げ屋にいた。店主の顔ぶれも変わらず、味も懐かしいあの頃のままだ。ただ違うのは、二人がかつてのような能天気な女子大生ではなくなったということだけ。二人とも酒には強い方だ。ビールじゃ物足りないと、ミキがいきなり焼酎をボトルで頼む。詩織もそれに乗っかった。「私も焼酎でいいよ」ミキが「珍しいじゃん」という顔をするので、詩織は言い訳めいたことを口にする。「明日は週末だしね。早起きしなくていいから」もちろん、そんなのは建前だ。詩織という名の仕事人間に「週末」という概念がないことなど、ミキは百も承知だ。ただ自分のために付き合ってくれているのだと分かっているから、何も言わずに笑って受け入れる。おつまみをつつきながら、話題は自然と大学時代の思い出話へと移っていった。「今でも覚えてるわよ。あんた、あの頃ホント忙しそうだったもんね。授業がない時間は全部賀来のところに入り浸っててさ。マグロみたいに止まらなくて、ぜんぜん疲れた顔見せないし。入学して二ヶ月くらい、同じ寮の部屋なのに十回も喋らなかったんじゃない?」ミキは懐かしそうに笑うと、意地悪く続けた。「大学
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第439話

その時、ミキのスマホがけたたましく鳴り出した。マネージャーからだ。出なくても用件は分かっている。ミキが電源を切ろうとしたが、詩織がそれを制して代わりに電話に出た。通話ボタンを押した瞬間、向こうから怒号が飛んできた。「近藤!今どこにいる!今すぐ戻って曾根社長に謝罪しろ!俺がやっとの思いで取ってきた仕事をなんだと思ってるんだ!」「社長がお前をご指名してくださったんだぞ、光栄に思いやがれ!それを酒ぶっかけて「豚野郎」だァ?お前みたいなタレントがいるか!」「いいか、今すぐ社長に土下座して許しを請え!さもないとクビだ、事務所を解雇するからな!」詩織の堪忍袋の緒が切れた。ギャンギャンと喚き散らすマネージャーに対し、冷然と言い放つ。「だったらどうぞ、解雇してください」「あ?誰だお前!」ミキの声ではないことに気づき、マネージャーが声を荒らげる。「誰だって構わないでしょ。ただ一つ警告しておくわ。所属タレントに性接待を強要するのは立派な違法行為よ。法的措置も検討しますので、そのつもりで」その言葉を聞いた瞬間、マネージャーは鼻で笑った。「証拠?こっちが無理やり性接待させたって証拠がどこにある?言っておくがな、近藤はウチと十年契約を結んでるんだ。会社の指示に従わないなら契約違反だぞ。きっちり違約金払ってもらうからな!」詩織は眉一つ動かさず、涼しい顔で言い返す。「違約金なら私が払うわ。その代わり、そちらの不当な扱いについては徹底的に追及させてもらうから。今のこの会話、立派な証拠になるんじゃないかしら?」録音されていると思い込んだのか、相手は慌てた様子で通話を切った。ミキは串を咥えたまま、目を丸くして言った。「詩織、早まったわよ……違約金、ベラボウに高いんだから!」「お金で解決できる問題なら、問題のうちに入らないわ」詩織は冷静に、ミキの手から竹串を抜き取った。ミキの瞳がキラリと輝く。「よっ!詩織様!一生ついていきます!」「こんなつまらないことで悩むのは時間の無駄よ。解約の件は弁護士に任せておくから。いっそのこと、ミキのためだけに芸能事務所でも立ち上げましょうか。所属タレントはあなた一人の」「一生離さない!コアラになるぅ!」詩織という強力な後ろ盾を得て、ミキの悩みは一瞬で吹き飛んだ。二人は心置きなく飲み明かし、上機嫌で帰路につい
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第440話

詩織は明日のスケジュール調整に追われていた。もうすぐ新卒採用のシーズンだ。準備すべきことは山積みである。それでも、親友のテンションに合わせて話を乗っかる。「そこまで興奮するってことは……宝くじが当たったか、それとも柊也が破産したか、どっちかじゃない?」ミキは爆笑した。「賀来破産よりメシウマなネタよ!」そこまで言われると、さすがに詩織も気になってくる。「もったいぶらないで早く教えて」「賀来柊也、寝取られ確定!あははははは!」ミキはひとしきり笑って電話を切った。少し冷静になって考えると、こんな面白いネタ、一人で楽しむのはもったいない気がしてくる。彼女はスマホの連絡先アプリを開き、柊也の番号を検索して、LINEの「友だち追加」ボタンを押した。以前、詩織が入院した際、パニックになったミキは小林密から柊也の番号を聞き出し、かけたことがあったのだ。その時は電源が入っておらず繋がらなかったが。詩織と柊也が別れた後、消そうかとも思ったのだが、なんとなく「いつか使えるかも」という予感がして残しておいたのだ。ほら見ろ、やっぱり役に立ったじゃないか!柊也はあっさりと承認してきた。誰なのか確認もしないのか。企業のトップともなれば、そう簡単に個人の連絡先など交換しないイメージだったが、拍子抜けだ。まあいい、そんなことはどうでも。友だち追加が完了するや否や、ミキは柊也にスタンプを一つ送りつけた。のんびりと茶を啜っているキャラのスタンプなのだが、重要なのはそこではない。そのキャラの頭には、立派なツノが二本生えていた。一部のネット界隈で「寝取られ」を意味する、あのツノだ。今の状況にこれ以上の適役はいない!少しして、柊也から「?」という一文字だけの返信が来た。ミキはそれを既読スルーし、今度は自分のタイムラインに、この「ツノが生えたキャラ」の絵文字を二十個連打して投稿した。意味深すぎるその投稿に、すぐさま反応があった。『駄犬』という登録名の男からのコメントだ。【?】類は友を呼ぶ、駄犬は群れるってか。反応まで全く同じじゃないの。けっ、男なんてどいつもこいつもロクなもんじゃない!遠く離れた北里市にいるミキの婚約者は、不意に背筋が寒くなり、大きなくしゃみを一つした。……ミキの休暇を利用して
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