業界最大手の『エイジア』を袖にし、国内屈指の資金力を誇る天宮グループすら退ける企業――そんな相手が、果たして存在するのだろうか。「江崎さん」賢が遅れて会場に現れた。彼は行政からの来賓として出席している。会場に足を踏み入れるなり、その視線は詩織を捉えて離さなかった。彼女を取り囲む挨拶の列が途切れたのを見計らい、ようやくそばに近寄る。同時に、悠人にも軽く会釈を送った。「篠宮室長」詩織も小さく頷き返す。「頭痛は?もう大丈夫?」賢の第一声は、周囲の人間とは全く違う種類の言葉だった。詩織は柔らかく微笑んで首を振る。「ええ、もうすっかり治ったわ。ありがとう」「ならいいけど」二人の会話を聞いていた悠人は、違和感に眉をひそめた。賢とは長い付き合いだが、彼が誰かに対してここまで親身になる姿など見たことがない。それに、詩織を見るあの眼差し……何かがおかしい。悠人の脳裏に、以前賢が「江ノ本で気になっている女性がいる」と語っていたことが蘇り、嫌な予感が背筋を走った。賢がさらに言葉を継ごうとした時、スタッフが慌てた様子で詩織を呼びに来た。スピーチ原稿の確認があるらしい。詩織は権田に断りを入れ、スタッフと共に足早に去っていった。賢は名残惜しそうにその背中を見送るしかない。悠人は不吉な推測に胸をざわつかせ、たまらず賢に問いかけた。「……賢さん、江崎と親しいんですか?」「まあね」賢の返答は曖昧だった。親しいと言うには、まだどこか距離がある。かといって、他人行儀と言うには心が傾きすぎている。そんな微妙な感情が「まあね」という言葉に集約されていた。だが、悠人には十分だった。賢は公私の区別を厳格につける男だ。その立場上、うかつな人間関係は築かない。その彼が「まあね」と肯定したこと自体が、悠人の推測を裏付ける決定的な証拠だった。信じられない。理解に苦しむ。悠人は混乱した。よりによって、なぜ江崎詩織なんだ?賢ほどの男が、一体彼女のどこに惹かれるというのか。それとも、あの女の手練手管がそれほどまでに巧みだということか?賢のような清廉潔白なエリートをも籠絡してしまうほどに?結局のところ、賢は恋愛経験が少なすぎるのだ。だからこそ、あんな性悪女の毒牙にかかってしまう。友人として、黙って見過ごすわけには
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