志帆の沈んでいた表情も、それを聞いて和らいだようだった。「もう、お母さんったら。婚約したばかりなのにもう結婚の話なんて、気が早すぎるわよ。私が結婚したくてたまらないみたいじゃない!」志帆はわざとらしく拗ねて見せ、佳乃に甘えた。佳乃もすぐに話を合わせた。「そうね、お母さんがせっかちだったわ。志帆は優秀なんだから、引く手あまたよ。焦って結婚する必要なんてどこにもないものね」そして、釘を刺すように柊也に言った。「柊也くん、うかうかしてたらダメよ。志帆は本当にモテるんだから。海外にいた時だって、外国の貴族の方々から熱烈なアプローチを受けてたんですもの」「肝に銘じておきます」柊也は生真面目な顔で頷いた。佳乃はさらに『賀来グループ』の内情についても尋ねた。要は、財政状況や経営権について探りを入れたいのだ。「自分の会社を立ち上げてからは、グループの経営には一切関与していません。ですから、私が知っている情報は皆さんがニュースで見聞きするものと大差ありませんよ」柊也はさらりと答えた。佳乃は不満げに眉を寄せた。「そう言っても、あなたは賀来家のたった一人の跡取りでしょう?もっと関心を持つべきだわ。お父様もご高齢なんだから、あなたがもっと負担して差し上げれば、お父様だって楽になるはずよ」「現在は専門の経営陣に任せているので、父の負担はそれほどでもありません。それに私の方も自分の事業で手一杯でして、これ以上抱え込むのは正直難しいんです」そこまで言われてしまうと、さすがの佳乃も二の句が継げなかった。これ以上踏み込むのは得策ではない。所詮、自分はまだ義理の母になる予定の立場に過ぎないのだから。志帆が目配せで「もうやめて」と合図を送った。佳乃はそれを見て口をつぐんだ。もっとも、母娘の腹の中は決まっていた。どう転んでも、柊也が海雲の一人息子であることに変わりはない。つまり、『賀来グループ』の唯一の継承者だ。それは確定事項であり、揺らぐことのない事実だ。心配する必要などない。……一方、海雲は詩織を『華栄キャピタル』の本社ビルまで送り届けた。詩織が「せっかくですから、中をご覧になっていきませんか?」と誘うと、海雲は快諾した。彼もまた、詩織の会社がどの程度成長しているのか、その目で確かめてみたかったのだ。海雲の訪問は急遽決
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