それでも、奥の部屋から響き渡る高村教授の大げさな悲鳴は、遮る壁を突き抜けて聞こえてきた。「江崎社長?」その時、不意に名前を呼ばれて顔を上げると、そこには太一が立っていた。父である厳の薬を受け取りに来たらしい。彼は詩織の姿を見て、驚いたように目を丸くした。「ここに来るってことは、どこか具合でも悪いのか?」「いいえ、付き添いです」「あ、そう」太一は詩織に対して妙に萎縮しているところがある。挨拶を交わすのが精一杯といった様子で、詩織の方も長話をする気はなかったため、二人は会釈をしてすぐに別れた。太一は受け取った薬を持って厳の病室に戻ると、詩織に会ったことを報告した。すると厳は、呆れたように息子を睨みつけた。「馬鹿者が。なぜその足で江崎社長を食事に誘わんのだ」「だから、付き添いだって言ったろ?」「相手は誰だとか、どこの重鎮だとか探りは入れたのか?こちらからもお見舞いに行くべき相手かもしれんだろうが」矢継ぎ早の質問に、太一はげんなりした顔で答える。「親父、頼むから余計な気を使わないで大人しく寝ててくれよ」「まったく、お前という奴は!今後、江崎社長に食わせてもらうつもりなら、もっと機転を利かせんか」「はいはい、わかったよ」父の小言を適当に聞き流し、太一はソファに寝転がってスマホを取り出した。SNSを開くと、タイムラインに志帆の投稿が上がっているのが目に入った。どうやら柊也と一緒にゴルフ場にいるらしい。太一はすかさずグループチャットを開き、二人にメンションを飛ばした。【柊也、志帆ちゃん、水臭いぞ。ゴルフなら俺も誘えよ。病院に缶詰でカビが生えそうだ】すぐに志帆から返信が来た。【今から来ても間に合うわよ。まだ始まったばかりだから】【了解、すぐ行く!】スマホをポケットに突っ込むと、太一はそそくさと身支度を始めた。「親父、ちょっくら志帆ちゃんたちとゴルフしてくるわ。夜には顔出すから」言い捨てて病室を出ようとした太一の背中に、厳の鋭い一喝が飛んだ。「待て!行くことはならん!」「なんだよいきなり」「ならんと言ったらならん!何度言ったらわかるんだ。あの柏木志帆とは距離を置けと言っただろうが。お前の耳は飾りか!」昂ぶった感情に呼吸が追いつかず、厳は激しくせき込んだ。太一は慌てて引き返し、父親の背中をさする
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