ただその場に立ち尽くし、凪いでいた心に次々と波が広がるのを眺めることしか。すっかり枯れ果てていた木から、少しずつ青い新芽が芽吹くのを見守ることしか。詩織はその紙切れをじっと見つめ、何度も迷った末に、そっとスマートフォンのケースの裏に挟み込んだ。そこでようやく揺れる感情に蓋をし、いつもの顔に戻ると、各部署へ会議の招集をかけた。午後、沙羅がやって来た。詩織は彼女としばらく仕事の話をし、ミキが合流してから三人で食事に出掛けた。最近、休暇を持て余して退屈していたミキは、暇さえあれば沙羅に連絡をとっていた。「こっちへ遊びにおいでよ。とびきりイイ男を端から紹介してあげるから」二人の話題の行き着く先はいつもそれだ。おかげで、ここ最近の沙羅は頻繁に江ノ本市へ足を運んでいる。今日のコースはすべてミキのプロデュースだった。まずはマッチョな店員が売りのコンセプトレストランで目の保養と食事を済ませ、その後はカラオケに河岸を変えて思い切りシャウトした。ミキの歌唱力はかなりのものだが、沙羅も決して負けてはいない。二時間ぶっ通しで、詩織の鼓膜が休まる暇は一秒たりともなかった。おまけにミキからスマホをマナーモードにするよう強制され、「みんなが羽を伸ばしている時に仕事を持ち込んで空気を壊すの禁止!」と釘を刺される始末だった。歌い終わると、ミキが「さっきの店じゃ筋肉を見るのに夢中で全然食べられなかった」と腹ペコをアピールし始めた。そこで三人はオープンテラスの屋台風居酒屋へ移動し、スパイシーな海鮮焼きや串焼きをつまみにビールで乾杯した。生粋の陽キャである二人から放たれる圧倒的なエネルギーに巻き込まれ、普段は控えめな詩織も、今日ばかりはすっかり肩の力を抜いて酒と会話を楽しんでいた。あいにく空はずっと雨模様だったが、三人のテンションが下がることはなく、むしろ雨音の響く風情が心地よかった。すっかりハイになったミキと沙羅は、かなりのペースで杯を重ねた。詩織は二人ほど羽目を外さずセーブしていたものの、それでも思考は少しふんわりと宙に浮いている。彼女は運転手に指示を出し、まずは沙羅を宿泊先のホテルへと送り届けた。だが、ホテルに着いてもミキはまだ飲み足りないらしく、「部屋で朝まで飲み直そう!」と沙羅に絡み始めた。詩織は軽く眉間を揉
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