All Chapters of 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した: Chapter 861 - Chapter 863

863 Chapters

第861話

けれど、ミキの心が揺らぐことはなかった。今さら泣いたところで、何になる。詩織が流した涙は、こんなものでは済まなかった。これはすべて、この男が背負うべき因果応報だ。「……もしあんたに一片の良心でも残っているなら、命を懸けてあんたを愛したあの子のために、永遠に、永遠に、私たちの前から消えて。お願いだから、あの子を一人で自由にさせてあげてよ」それは警告であり、ミキなりの切実な願いでもあった。もう二度と、あの子が誰かのために涙を流す姿など見たくはなかった。......ミキは、自分が柊也を徹底的に罵倒したことを詩織には伏せていた。もしあの男の面の皮が厚ければ、詩織に向かって「君の友達にこんなことを言われた」と泣きつくかもしれない。だが、どちらにせよ詩織が味方してくれるのは自分の方だ。告げ口などすれば、自ら恥をかきに行くだけの話だった。その後、詩織の口から柊也の名前が出ることはなかった。どうやら、本当に告げ口はしなかったらしい。あの一件からの一週間、ミキは暇さえあれば窓から下を覗き込んでいた。時間が空けばわざわざマンションの下まで散歩に行き、あの男がまだ図々しく詩織にまとわりついていないか偵察を繰り返した。幸いなことに、それ以来一度も柊也の姿を見ることはなかった。ミキは心の中で忌々しく吐き捨てた。――まあ、あれだけ言われれば普通はわかるわよね。次にまたノコノコと姿を現すようなら、今度という今度は物理的に叩きのめしてやる。一方の詩織の生活も、すっかり元の活気を取り戻していた。最近は江ノ本市と北里市を頻繁に往復し、通信業界のクライアントのIPO(新規株式公開)案件に忙殺されているらしかった。週末であっても書斎にこもりきりで、仕事の手を休めようとしない。ミキが特製スープを携えて書斎をノックした時、詩織はちょうどオンライン会議の真っ最中だった。「月曜の朝礼までに、監査の最終レポートと筆頭株主の口座明細を私のメールに送っておいて。瑠美、先方への納税証明書の督促はどうなってる?」画面越しに、部下である西野瑠美(にしの るみ)の声が歯切れ悪く響く。「それが、何度か催促はしたんですが……先方の対応が鈍くて」詩織の目がスッと冷ややかに細められた。「そんな程度のタスクもこなせないなら、仕事をやめて誰か養って
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第862話

ところが、店内に入った途端、ミキのテンションは急降下した。「ちょっと、どういうこと!?動画の顔と全然違うじゃない!あっちじゃみんな八頭身の足長イケメンだったのに、実際に見たら私より足短いじゃないの!これ完全に詐欺よ!」ミキは案内されたVIPソファで憤慨していた。「消費者センターに訴えてやる!」詩織はクスクスと笑った。「だから言ったじゃない。あんなの全部、加工とフィルターの産物だって」「あーあ、世の中嘘ばっかり。私もう誰も信じられない。恋なんて二度としない……」ミキはすっかり意気消沈し、ソファの上にだらしなく突っ伏した。「はいはい、わかったから。もう帰るわよ。これなら家で資料を読んでる方がマシだわ」詩織はミキの腕を引いて立たせると、ソファに放り出されていた彼女のコートとバッグを拾い上げた。期待外れもいいところだった、とミキは心中で毒づいた。すっかり興冷めだ。この店はブラックリスト入り確定だし、フォローしていたTikTokのアカウントも今すぐブロックしてやる。「もう最悪!ネットの男なんて、どいつもこいつも嘘八百じゃない! 全員詐欺師よ、詐欺師!」個室を出て通路を歩きながらも、ミキの怒りは収まらない。先導するマネージャーが申し訳なさそうに頭を下げる。「ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません。以後、精進いたしますので……」二人が通路に差し掛かったその時、隣の個室のドアが勢いよく開いたかと思うと、猛烈な音を立てて閉まった。「バタン!」と鼓膜を震わせるような衝撃に、流石の詩織も思わずそちらに視線を向けた。けれど、すでにドアは固く閉ざされており、中を窺い知ることはできなかった。一方、その閉まったドアの内側では――太一の心臓が口から飛び出しそうになっていた。たった今の一瞬、生きた心地がしなかった。電話をかけようと廊下に出ようとした瞬間、詩織とあの猛獣のような親友がこちらに向かって歩いてくるのが見えたのだ。体が条件反射で後ずさり、弾かれたようにドアを閉めていた。焦りすぎて力加減を誤り、とんでもない音を立ててしまったが、あちらに気づかれてはいないだろうか。……いや、そもそもどうして自分が江崎から逃げなければならないのか。太一は冷静になって自問自答したが、恐怖の源泉はどう考えてもあの親友の
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第863話

「他人の痛みなんて、本当の意味じゃ分かりっこねえ。だから、あいつが歩いた道を、俺もなぞってみたくなったんだ」詩織がかつて耐えた、あの地獄のような苦しみ。それを自分も肉体で味わいたかった。だが、実際に胃が出血するよりも先に、激しい後悔と自責の念に押し潰され、呼吸すらままならない。自分のような男が許されないのは、至極当然のことだ。詩織の視界から永遠に消えろと言われるのも、甘んじて受けるべき報いなのだ。「……お前がそこまで自分を追い込んだところで、何の解決にもなりゃしないんだぞ」あまりの痛ましさに、太一の声が沈んだ。「分かってる」柊也の喉が、引き攣るように動く。「今さら芽生えた憐れみなんて、道端の雑草ほども価値がねえ。許してくれなんて、これっぽっちも思っちゃいねえよ」......通信テクノロジー企業のIPO案件でチームを率いて北里市を訪れていた詩織は、ひょんなことから篠宮賢と遭遇することになった。彼はお見合いの真っ最中だった。その時、詩織たち一行は雰囲気の良いレストランで食事を取っていた。ふと気がつくと、隣のテーブルに一人の若い娘が座っている。見たところ、大学を卒業したばかりなのだろう。社会の垢や社畜の疲労感に微塵も染まっていない、どこまでも澄み切った瞳をしていた。どうやらお見合い相手が遅刻しているらしく、娘は結婚を急かす両親に電話で不満をぶちまけているところだった。「お見合いに遅刻してくるような男が、まともなわけないじゃない!」「だいたい、私まだ二十二歳だよ?なのにお見合いしろって急かすなんて、いくらなんでも早すぎない?私がそんなに売れ残るのが心配なわけ?」「今回のは条件がいいって、それこの間も言ってたよね? 実家にお金と太いコネがあるけど、顔は平凡だからって。行く前は『顔で飯は食えない』って必死に自分に言い聞かせてたけど、蓋を開けてみればどうよ。あんな顔じゃ、こっちの飯が喉を通らないっつーの!」「別に高望みしてるわけじゃないよ。普通に見られるレベルならそれでいいのに、なんでお父さんたちが持ってくる話はいつも見事にハズレ物件ばっかりなの?それに、そんなに年上なのも嫌! あと数歳も年をとってたら、私のお父さんになれちゃう年齢じゃん!」鈴を転がすようにコロコロと高く澄んだ声で、不機嫌そうに早口で
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