ミキは一瞬呆然としたが、すぐに思考を振り払った。……待って、なんで私、あいつのことを深く考えてるのよ。澪士が何を好きだろうが、今の自分には関係のないことだ。泥沼の離婚劇の渦中にいる自分が、これ以上部外者を巻き込むわけにはいかない。何より、最近の白彦との言い争いで、やつが事あるごとに澪士の名を出して嫌がらせをしてくるのが、ミキには耐え難く不快だった。入院生活は退屈そのものだ。じっとしていられない性分のミキにとって、病室に閉じ込められているのは一種の拷問だった。午前中の点滴が終わると、彼女は「外の空気を吸ってくる」と宣言して立ち上がった。澪士に命じられていたアシスタントは「付き添います」と食い下がったが、ミキは彼女の目の前で見事なラジオ体操を披露し、自分がいかに元気でピンピンしているかを全力で証明してみせた。「……わかりました。お一人で大丈夫そうですね」なかば呆れたアシスタントの了承を得て、ミキはようやく解放された。外はあいにくの雨で、ミキは病院の廊下をあてもなく歩くしかなかった。一通り周ってみたものの、これといって目を引くものもない。退屈さに負け、病室に戻ってスマホでもいじろうと踵を返したその時、視界の端に見覚えのある二つの影が入り込んだ。廊下の突き当たり、背の高い男が隣の女を壊れ物を扱うように、いたわる手つきで支えている。男はわずかに腰をかがめ、女の言葉を一言も漏らすまいと熱心に耳を傾けていた。その眼差しは、驚くほど優しく、穏やかだ。寄り添う女はマスクで顔を隠していたが、その隙間からのぞく、庇護欲をそそるような、か弱げな瞳――たとえ灰になろうとも、ミキがそれを見間違えるはずはなかった。ミキの足が止まった。反射的に物陰へと身を隠す。胸の奥を針でチクリと刺されたような感覚。痛みはあるが、耐えられないほどではない。二人の傍らを誰かが急ぎ足で通り過ぎようとした瞬間、白彦はとっさに璃々子を抱き寄せ、誰にもぶつからないようその身を盾にして守った。その、至れり尽くせりの献身。ミキの脳裏に、ある記憶が鮮明に蘇る。白彦と結婚して間もない頃、重病を患っていた彼の祖父を見舞うため、二人で病院を訪れた時のことだ。同じ場所、同じシチュエーション。だというのに、あの日の白彦はミキを置き去
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