午後の鐘が鳴り、教室の前方に立て札が並んだ。黒板には「合同演習・班別協議」と書かれている。順番ごとに、各班が前へ出て連携手順を説明する。模擬戦ではない。けれど、誰もがこれは勝負だと分かっていた。「一班、前へ」貴族班が整然と立つ。資料はそろっていて、板書の順も乱れない。短い実演を挟み、代表が結ぶ。「以上です」ぱちぱち、と素直な拍手が起きる。後列で囁きが転がった。「やっぱり段取りが違う」「揃ってるよね」二班が入れ替わる。庶民班はまだ手元を確認している。教員が視線を巡らせ、淡々と告げた。「三番、前へ」椅子が擦れる音。トマスが立ち上がり、班の先頭に立つ。* * *「本演習では、協力の形式を共有します」トマスの声は落ち着いていた。緊張はある。けれど、言葉は流れる。「役割は三つ。前列、補助、記録。状況に応じて交代可能にします。交代の合図は——」隣の仲間がすっと前へ出て、合図の札を示す。「これです。色で段取りを合わせます」「交代の際、足を止めないために——」もう一人が短く動いて、入れ替わりの線をわかりやすく示す。無理はない。作り物の笑顔もない。教員が小さく頷くのが見えた。空気が少しだけ和らぐ。そのとき、後方の貴族席で小さな声。「言葉は整ってるけど、手は動かないね」「見本はどこ?」ふっと浅い笑いが広がる。トマスは顔を向けない。説明を続ける。「交代の責任は、交代される側にもあります。——以上、骨子です」* * *「補足、あります」マリナが一歩前に出た。自分でも驚くほど、足はまっすぐだった。「手順の再確認を。……私たちは、順番を守ることを選びました。誰かが代表になるんじゃなくて、支え合う形です」教室が一瞬だけ静かになった。教員も口を閉じる。その静けさに乗るように、別の声が投げられる。「支え合う? 庶民らしいわね。前に出られないって意味でしょ」笑いがまた広がりかける。隣の仲間が袖を引いた。「マリナ、もういい」「違う」マリナは下を向かなかった。「“立つ場所を分け合ってる”。誰かが倒れても、次に立つ人が決まってる。だから、順番を守る。——それだけです」教員が短く言う。「静粛に。続けなさい」トマスが視線だけで礼を伝え、前へ向き直る。* * *貴族席の端で、エリシアは腕を組み、場の温度を測っていた。胸の中に、はっきりし
Last Updated : 2025-10-07 Read more