講堂は広いのに、音が近い。壇上の砂時計が静かに落ちて、補佐の声だけが真っ直ぐ来る。「一問一答。即答。沈黙は未回答。要約は評議の権限」マリナが砂に目をやる。「……急がせる音」トマスが小さく肩を回す。「砂、ひっくり返せるだろ」エリシアは息を整える。「順番、先に置く」補佐が続ける。「まず確認。記録は——」エリシアが手を上げる。「“公開記録”の白板を壇前に。全質疑に時刻印を」「記録は要約で足りる」「要約はあなた。記すのは、ここ」短い沈黙。渋い顔で、白板と時刻印が運ばれる。補佐が第一問を投げる。「“第四の声”の主導者は誰だ」三人の視線が交わる。二呼吸の黙印。マリナが口を開く。「名前、ありません」補佐のペン先が止まる。「未回答に記す」エリシアは白板に書く。[問:主導者/答:『名なし』/備考:二呼吸の黙/時刻:—]書き終えて、振り向く。「未回答ではなく“未だ”。——時刻、ここ」時刻印が小さく鳴る。ざわめきが一段、落ちる。補佐が第二問を重ねる。「黙礼や掌の合図は組織指示か」トマスが前を見る。「合図、見せる。音は出さない」輪の数人が掌を静かに見せる。客席のそこかしこで、同じ動きが連なる。収音具は何も取らない。エリシアが白板に追記する。[記録:視覚の返事/音響記録なし]補佐が苛立った声で言い直す。「要約:沈黙で扇動」エリシアは首を傾けるだけ。「要約に“扇動”の語。事実照合なし、と併記」ペンの音が、静かに戻る。客席の一角で椅子が鳴る。ヴァレンが立つ。「遊びだ。即答しろ」トマスが目を合わせる。「二呼吸、やるか」ヴァレンは何か言いかけて、一拍だけ止まる。空気がそこで落ちる。エリシアは白板の隅に小さく点を置く。[ヴァレン:一拍の黙]ヴァレンは舌打ちを飲み込んで座る。後方で紙がめくられる音。ルクシアが薄い冊子を掲げる。「前例。公聴規程、旧条文。“聴問の権利——答弁前に沈黙の時間を置くこと”」エリシアは条文番号だけを白板端に写す。補佐は否定せず、視線を逸らす。砂時計に指が向く。補佐が急かす仕草。トマスが一歩、壇に寄る。「順番。聴く→読む→……で、今は“聴く”」上級生が合図を送り、砂時計が反転する。張り詰めた糸が、少しだけ緩む。第三問が落ちる。「公開読み合わせで進行
Last Updated : 2025-11-02 Read more