「さすが、うちのお嬢様。骨のある女だな」司の顔にはほとんど表情がなく、肩をすくめて少し楽しげな調子で言った。「お前は自分の命がどうでもいいかもしれないが、寿樹の命まで無視していいのか?」「あなた……」汐梨は言葉に詰まり、悔しさのあまり笑ってしまった。「司、私の大事な人を脅しに使うなんて、あんた、本当に人格者ね」「お嬢様、俺は自分が人格者だなんて一度も言ったことはない」細目になった彼の眼差しは曇り、瞳の奥に潜む感情は底知れず、言葉を続けた。「お前は寿樹が人格者だと思ってるのか?」汐梨の胸がぎゅっと締まり、眉をひそめる。「どういう意味?」「汐梨、お前は本当に甘いね」司はベッドの脇からスマホを取り上げ、彼女の前に差し出した。汐梨は一目で、それが寿樹のものだと分かった。パスワードは彼女の誕生日。寿樹は笑って言った。「一生忘れられない」と。「あなた、寿樹に薬を盛っておいて、さらに彼のスマホまで盗んだの?」汐梨は拳を握り、指の関節が白くなる。「司、あんた最低だわ!」「お前が騙されてるのを見てられなくて、教えただけだ」司はついに抑えきれず、声を荒げた。「信じられないなら、聞かなかったことにしろ」その言葉は、石のように汐梨の胸に落ち、彼女は呆然とした。お前が騙されてるのを見てられなくて?どういう意味?思わず、彼女はパスワードを解除した。未読メッセージが一件現れ、汐梨の瞳孔は一気に縮む。そこには監視カメラの映像が添付されている。画面には、猛スピードで走るトラックが路肩の自転車に衝突し、自転車に乗っていた男が血まみれで倒れる瞬間が映った。そして傍らを通りかかった女性が巻き込まれ、その場に意識を失って倒れ込んだ。その顔は、記憶にある敦美の姿だった。悲惨な光景は、焼き付くように目に刺さる。汐梨の顔から血色が一瞬で消え、唇は紙のように白い。映像のほかに、三件のメッセージが残されている。【寿樹、これは当時お前が人をはねた証拠だ】【早く処理しろ】【婚約者に知られたら、大変なことになるぞ】目の前がぐらつく。汐梨は足がふらつき、そのまま膝をついた。司は素早く、彼女を抱き上げる。「汐梨……」彼女は今にも崩れ落ちてしまいそうなほど追い詰められている。敦美を殺したのは、あのい
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