「石場さんが職員に強く当たったとき……宅間様は、その場にいらっしゃったのですか?」 リサは冷静を装いながら、声を落として問いかけた。 宅間は一瞬、視線を宙に彷徨わせた後、宅間は作り物めいた落ち着き払った表情でリサを見据えた。 反応を探るような視線──その奥には挑発の色が混じっている。「……いましたよ。もちろん、現場にはね」「もし現場にいたのなら、なぜ止めなかったのでしょうか?」 宅間は背筋を伸ばし、椅子の背にもたれかかって距離を取った。口元には、皮肉とも取れる薄い笑みが浮かんでいる。責められること自体が筋違いだとでも言いたげな態度だ。「止める必要はなかった。何度も言うが、あれは教育の一環だ。多少厳しくするくらいで潰れるような人間なら、そもそもこの仕事には向いていない」 宅間の口調が明らかに変わった。抑え込まれていた本音が顔を覗かせている。 丁寧に塗り重ねられていた何かが、ふと剥がれ落ちたような、そんな印象を受けた。「その後、それらの女性職員は全員退職した。まあ結果的には良かったんじゃないか。人が増えすぎていたところだったし、整理の手間が省けたよ」 リサの手が、ほんの一瞬止まった。 整理の手間── 人の退職を、まるで不要になった備品の処分でもするかのように語るその口ぶりに嫌悪感が走る。 それでもリサは表情一つ崩さず、ただ黙って宅間の言葉を記録し続けた。その沈黙の中に、怒りと軽蔑を潜めながら…… 今、声を出してしまえば、感情を表出させてしまいかねない。 リサは深く息を吸い込み、心を落ち着かせた。 この男は、何も見ていないのではない。見て、知った上で、人間を「使えるか、使えないか」の道具としてしか認識していないのだ。 石場も異常だったかもしれない。だが、その異常さを利用し、問題が起きれば切り捨て、被害者の痛みなど歯牙にもかけないこの男の精神構造も、また腐りきっている。 何かが起きたとしても、それは自分の責任ではないという態度── すべては周囲の誤解か、過剰反応にすぎないとでも言いたげな口ぶりだ。
Last Updated : 2025-11-17 Read more