二人は車で駅前のファミリーレストランへと移動した。 喧騒に包まれた店内の一角で、由美子はブラックコーヒーを一口飲み、意を決したように口を開いた。「兄は……和弘は壊れているんです。昔から……」 由美子の瞳が揺れている。怯えているのがこちらにも伝わってくるかのようだ。「あの家は、地獄でした。父は厳格を通り越して暴力的で、母はそれに従うだけの操り人形。そして兄は……父の暴力の矛先を一心に受けていました」「土倉のことですね」 リサがそっと尋ねると、由美子は驚いたように顔を上げた。「知っているんですか……? そう、あの土倉です。父は気に入らないことがあると、兄をあそこに閉じ込めました。暗闇の中で泣き叫ぶ兄の声を、私は布団の中で震えながら聞いていたんです。……でも、本当に恐ろしいのは、そこからなんです」 由美子はカップを持つ手に力を込めた。「ある時を境に、兄は変わりました。土倉から出された兄は、泣くことも、謝ることもなくなったんです。ただ、能面のような無表情で、冷たい目で父を見つめるようになって……。まるで、中身が別の何かに入れ替わったみたいでした」 由美子はカップを持つ手に力を込めた。「そして、上の兄……健太兄さんが亡くなったのも、その頃です」 由美子の言葉に、リサは息を飲んだ。 ついに、核心に触れる時が来たのだ。「健太兄さんが亡くなった時のこと、詳しく教えていただけますか?」 リサの問いに、由美子は唇を噛み締め、遠い過去の記憶を手繰り寄せるように話し始めた。 由美子はテーブルの上で組み合わせた指を、白くなるほど強く握りしめた。視線はカップの中の黒い液体に落ちたままだ。「健太兄さんが亡くなったのは、私が小学校に上がる前の夏でした。あの日、和弘兄さんと健太兄さんは、二人で近くの川へ遊びに行ったんです」 リサはペンを走らせる手を止め、由美子の横顔を見つめた。「私はまだ小さかったので、家で留守番をしていたのですが、夕方になっても二人は帰って来ませんでした。母が心配して探しに行こうとした時、和弘兄さんが一人で戻ってきたんです」 由美子の眉間が険しく寄る。当時の光景が、今まさに目の前で再生されているかのような反応だ。「兄さんは……和弘兄さんは、びしょ濡れでした。でも、慌てている様子も、泣いている様子もなかった。ただ玄関に立ち尽くし、母に向か
Last Updated : 2025-11-29 Read more