数時間後、リサは北関東にある地方都市へと辿り着いた。 灰色の雲が垂れ込める空の下、フロントガラス越しに見える街並みは冷たく沈んでいた。 妹の行方を掴むのは容易ではなかった。 以前、調査会社時代のツテを使って、裏から戸籍の附票を洗ってみたが、その試みは門前払いに終わった。 閲覧制限が掛けられており、役所の窓口で請求が拒絶されたのだ。それは、DV被害者などが利用する支援措置が適用されているという決定的な証拠でもあった。 彼女は公的な記録から姿を消し、徹底的に石場家から逃げていたのだ。 現在の名字さえ定かではない中、数年前に途絶えた最後の記録と、「北の地方都市にいるらしい」という不確かな情報だけを頼りに、リサは調査を進めるしかなかった。 この街に、石場家の闇から唯一逃げ延びた生存者がいる。 リサはアクセルを踏み込み、妹の現在の住所と思われる場所へと車を走らせた。 そこは新興住宅地の一角だった。鉛色の空が低く垂れ込め、冷たい風が乾いた路上の埃を巻き上げている。 石場が支配する古びた洋館や、両親が隠れ住む寂れたアパートとは対照的な、あまりにも普通で、平和な風景── 同じような色合いの建売住宅が整然と並び、庭先には子供用の自転車や遊具が置かれている。 その過剰なまでの普通さこそが、妹・由美子が何よりも渇望し、過去を捨てて必死に守ろうとしてきたものなのだろう。 リサは並びの一つに車を寄せ、表札を確認した。『高木』 事前の調査によれば、これが由美子の現在の姓だ。彼女は結婚し、母としてこの街で生きている。 リサは深呼吸をして、インターホンを押した。 しばらくして、扉の向こうから女性の警戒したような声が聞こえた。「はい、どなたですか?」「突然申し訳ありません。フリージャーナリストの沢村理沙と申します。少しお話を伺いたいことがありまして……」「ジャーナリスト……。申し訳ありませんが、そういうセールスは結構です」 冷ややかな拒絶。すぐに通話を切られそうになり、リサは慌てて言葉を継いだ。「石場家のことについてです! お兄さんの……石場和弘さんのことで、お伝えしたいことがあります」 その瞬間、インターホンの向こうの空気が凍りついたのが分かった。 長い、重苦しい沈黙。 やがて、ガチャリと鍵が開く音がして、ドアがわずかに開いた。チェーンはかかっ
Terakhir Diperbarui : 2026-01-03 Baca selengkapnya