日が変わり、リサは再び石場佐和子の自宅近くに車を停めた。 昨日、佐和子の露骨な警戒心を目の当たりにしたため、近隣への聞き込みを即座に行うのは危険だと判断し、あえて一日置いたのだ。石場の耳に入れば、美咲のように自分も危険に晒されかねない。 リサはコートの襟を立て、冷たい空気を遮るように周囲を慎重に見回した。視線は佐和子の家の方角ではなく、その隣家のインターホンへと向けられている。 今日の目的は佐和子本人ではない。 彼女が口にした「ごく普通の家庭」という言葉が、虚構である証拠を掴むこと──それがリサの狙いだった。 リサの脳裏には、佐和子が必死に隠そうとした「決定的な何か」の像が鮮明に浮かんでいた。 それは石場の異常な行動の根源にある、幼少期の家庭環境── 特に佐和子への聞き込みの中で不自然に欠落していた「罰則」に関する情報だった。 リサは石場の家の周辺を歩き回り、石場について何か知っている人がいないか尋ね回った。 近所の人々は口を揃えて、石場が時折、奇妙な行動を取っていたことや、夜中に頻繁に出歩いていたことを語ってくれた。 さらに話を聞くうちに、石場だけではなく、一家の評判は決して良いものではないことも分かった。どうやら周囲からは距離を置かれているらしい。 リサは足を止めず、次の家へと歩みを進めた。「石場さんには妹さんが一人いますよ。今は一緒に住んでいませんが」「妹ですか……」 石場家には息子だけではなく、娘もいたのか。そのような話は佐和子の口からは一度も出なかったが……。部屋の中にも、それを示す痕跡は見当たらなかった。「ええ、この町を出て、今は遠く離れた場所で暮らしているようです」 近所の住人はそう答えた。 そして別の人物が、さらに重要な事実を付け加えた。「石場さんにはお兄さんもいましたよ。幼い頃に亡くなりましたけどね。それが少しおかしな亡くなり方でね……。当時は随分と騒ぎになったものです」 リサの頭の中で、佐和子の言葉と、集めた断片的な情報が絡み合い始める。 兄の「不可解な死」」、妹の「遠い場所への逃避」、そして佐和子の「弁明とも受け取れる態度」── そして最後に訪れた、長くこの地域に住む老婦人の口から、リサはついに核心を突きつけられることになる。
Last Updated : 2025-11-25 Read more