「今年の最優秀主演女優賞は誰の手に渡るのでしょうか?さあ、発表します……」客席の最前列に座る時野星璃(ときの せいり) はドレスの裾を整え、立ち上がる準備をしていた。隣に座る人々も、すでに先走って彼女に祝福の言葉をかけ始めている。「――春川美々(はるかわ みみ)さんです!おめでとうございます!」司会者の声が響いた。半ば立ち上がったところで、星璃の顔色は一瞬にして真っ白になった。割れんばかりの拍手とざわめきの中、彼女はぎこちなく、気まずそうに席に着いた。爪先は深く掌に食い込み、痛みを覚えるほどだった。ゆっくりと振り返った彼女の視線は、観客席の奥へと向かう。一番隅の暗がりに、ひときわ存在感のある男が身を潜めていた。星璃には、その姿が一目で分かった。彼女の婚約者――篠宮承司(しのみや しょうじ)。しかし、彼がここにいるのは彼女のためではなく、舞台の上の美々のためだった。耳元には、あちこちから不満げな声が飛び込んでくる。「ちょっと待って、この春川美々ってどこの無名新人?なんで最優秀賞なんか取れるの?」「本来なら時野星璃さんに決まってただろ!今回の受賞は誰もが納得するはずだったのに!」「一体どうなってんの?」……理由を知らない者も多い。だが星璃には分かっていた。これは承司の仕業だ。なぜなら、彼は授賞式の最大スポンサーであり、そして美々は、彼の義姉であり、かつての初恋相手だったからだ。昔、誤解がもとで二人は別れ、再会した時には彼女はすでに彼の兄と結婚していた。その兄が三か月前に病で亡くなり、承司は義姉を守ることを当然の責務のように引き受けていた。昨日、美々は彼に何気なく言った。「この賞が取れたらいいなあ。なんかすごそうじゃない?」そして今日、承司は彼女の願いを叶えた。星璃が七年間も努力して手にできなかった賞を、デビューしたばかりの美々があっさりと持ち去ったのだ。これほど皮肉なことがあろうか。授賞式が終わり、星璃は魂の抜けたように控え室へ戻った。しばらく立ち直ることもできなかった。そんな彼女に、すらりとした長身の男が近づいてくる。星璃は顔を上げ、承司を見つめ、理解できない気持ちをぶつけた。「どうしてこんなことをしたの?」だが承司は平然と、罪悪感など微塵もなく答えた。
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