「宿主様、全てのポイントを消費して、この世界から離脱しますか?ここに指印を押してください。確認後、半月以内に強制送還が実行されます」白石初芽(しらいし はつめ)はためらうことなく、指印を押した。テレビでは、橘玲司(たちばな れいじ)がマイクを握り、カメラに向かって彼女に愛を告げていた。「初芽、愛してる。ずっと一緒にいよう」画面の中の彼は、心から愛しているような真剣な眼差しをしていた。あまりに美しい場面に、記者たちはシャッターを切りながら口々に羨ましがった。「なんて素敵なんだ。こんな大勢の前で公開プロポーズするなんて」「分かってないな。あれは彼女を安心させたいからだよ。俺たちは見守ってりゃいい」「聞いた話だとさ、橘さんがまだ路上で寝てた駆け出しの頃に手を差し伸べたのが初芽さんだったんだって。それからずっと支えてきて、橘さんが成功したあと、毎年欠かさず特別な贈り物をしてきたらしい。十八歳には一点物のプラチナリング、十九歳には世界でひとつだけのトルマリンのネックレス、二十歳には最高級エメラルドのブレスレット!しかも、以前初芽さんが窃盗の濡れ衣を着せられたときも、橘さんは業界追放を覚悟で彼女の潔白を証明したんだ」――これが真実の愛でなくて、何だというのだ。初芽はもう見たくなかった。テレビを消し、心に残ったのは冷ややかな笑いだけ。否定はしない。玲司は確かに彼女を愛していた。命を懸けるほどに。それでも、彼は別の女を愛していた。三年も別の女を囲っていた事実は消えない。彼女が約束を破られ、窮地にひとりで立たされたとき、玲司は別の女を連れて酒の席に通い、仕事を取っていた。――男というものは皆そうなのだろうか。口では「愛してる」と言いながら、心も体も別の女に向かう。彼女がシステムと繋がり、案内されるままに路地裏で玲司を見つけ出した、あの日。最初は苦戦を覚悟していた。けれど、玲司の彼女への好感は思いのほか一気に高まった。冬の暖かいミルクティー、体調に合わせた気遣い、酔った夜には胃に優しいスープ。食事もすべて彼女の好みに合わせた。初芽は思った。これが「家」というものなのだと。攻略が成功した後、システムは何度も離脱を促したが、初芽は首を振った。「玲司は私にプロポーズしようとしている。ここで逃げるなんて、私にはでき
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