Semua Bab 離脱ヒロインと、狂ったアイツ: Bab 11 - Bab 20

25 Bab

第11話

「そして、もともとこの写真を週刊誌に売って私を貶めたのも紗耶香さんです。チャット履歴も送金記録も、証拠はすべて二つ目のファイルにまとめてあります」初芽ははっきりと言い切った。「紗耶香さんは私の権利を深刻に侵害し、個人として大きなダメージを受けました。すでに法的措置を取っています」ちょうど紗耶香がこの配信を見ているだろうと思い、さらにこう付け加えた。「弁護士は腕のいい人を探した方がいいですよ」ネット民がこの話題で盛り上がっている最中、また新たなニュースが駆け巡った。【パパラッチが紗耶香と既婚男性の不倫証拠を公開!】【映像は少しぼやけてるけど、この男は誰?】コメント欄が一気に盛り上がり、視聴者たちはみんな面白がって他の配信に流れていった。でも再び戻ってきたときには、すでに初芽の配信は終了していた。初芽のSNSのプロフィールには、現事務所との契約解除通知と、紗耶香への訴訟状がしっかりと固定されていた。美琴のSNSトップには、現事務所との契約解除通知と、紗耶香への訴状が掲載されていた。【#超特大のどんでん返し!実は美琴が被害者だった!】【#紗耶香、契約解除で巨額の賠償リスク!】紗耶香もなんとか反撃しようと、必死で他人の悪口をネットにぶつけようとしたが、気がつけば、周りの人間は誰も彼女に近づこうとしなくなっていた。知り合いも赤の他人も、誰ひとり紗耶香に関わろうとしなくなった。理由を聞いても、みんな腫れ物に触るみたいな顔をするばかり。体を使って手に入れたはずの仕事も全部取り消されて、結局何もかもが白紙に戻った。フォロワー数もついに底をつき、残ったのは動きのないゾンビアカウントばかり。ネットからも芸能界からも、完全に干されてしまった。会社からも追い出され、すべてを失った今でさえ、紗耶香には自分をここまで追い詰めた「黒幕」が誰なのか、最後まで分からなかった。一方、すべてが片付いた頃、美琴は退院の準備をしていた。手首はまだ無理ができず、日常生活も不便だったため、思い切って実家に戻ることにした。実家は市内屈指の高級住宅街にある一等地。数十億を超える豪邸で、不動産サイトにもめったに出ない希少物件だ。そう、美琴はれっきとしたセレブお嬢様。だから、システムに文句を言わなかったのも無理はない。この体は命
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第12話

圭吾は腰を下ろしかけたものの、すぐにムッとした顔で立ち上がった。まるで「美琴だけが本当の子で、自分は拾われたんじゃないか」とでも言いたげだ。初芽は思わず吹き出してしまい、涙を拭きながら笑った。「パパ、誰も私のこといじめたりなんかしないよ。私はパパの娘だもん。私をいじめた人には、全部仕返し済みだよ」「ははは、いいぞ!さすが俺の娘だ!」父親は大声で明るく笑った。その笑いには自信と誇りがあふれていたけれど、誰にも見せない心の奥では、実は涙が出そうなほど娘のことが心配で仕方なかった。「芸能界が合わないなら、もうやめちまえ。家に戻って財産を継いでくれ。圭吾をお前の部下にしてやるからな」初芽が芸能界でどんな目にあってきたか、父も全部知っていた。でも、初芽が一度も「助けて」と言わなかったから、黙って見守るしかなかった。今は、あのとき止めなかった自分を悔いても悔やみきれない。大事な娘に成長のためなんていらない。娘は一生、全力で守ってやりたかった。母の美和は、初芽を夫の腕から奪い取るように抱きしめて涙をこぼした。「本当に、バカな子ね。芸能界なんて、なにが良くてそこまで夢中になったの?一言も連絡しないで……こっちは全部ネットで知ったのよ」涙で濡れた美しい顔に、初芽はしばし見とれてしまう。あわてて母の涙を拭いながら、「ママ、私は本当にお芝居が好きなの。でもこれからは家に帰ってくるし、毎日一緒にいるから安心して」母の涙は、まるで宝石のようにきらきらとこぼれ落ちた。「ダメよ、ひとつだけ条件があるわ」「なに?何でも聞くから!」初芽は本気で泣いている人を見るのが苦手だった。前世で玲司に惹かれたのも、彼が泣いた瞬間に心を動かされたからだった。「篠原(しのはら)家の息子さんと、一度だけ会ってちょうだい。あなたたち、婚約してるのよ」母の涙が消えた途端、初芽は思わず苦笑い。美琴の演技力は母譲りかも……「嫌なの?」その言葉に、またも母の目に涙が浮かび始め、初芽はすぐに降参。「分かった、会うよ、絶対行くから!」記憶の中から「篠原家の息子さん」の顔を引っ張り出してみると、なんと見覚えのある人物だった。他人とお見合いならまだしも、知り合いとって……なんだか気まずい……でも、母の頼みを断れるはずもなく、その
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第13話

初芽はドキリとし、慌ててナイフとフォークを元の位置に戻した。「初芽?誰のこと?知らないけど」顔を上げて悠真の端正な顔を見る。しばらく会わないうちに、彼の雰囲気はどこか大人びていた。悠真はすっかり話す気になったようで、目の前の女性と初芽の顔がどんなに違っても、なぜか親しみを感じているようだった。「芸能界に入ったばかりの頃、初芽さんに助けられたんだ。ずっと彼女のことが好きだったけど、想いを伝える前に……」……死んじゃったんだよね。初芽は心の中で続きをつぶやいた。自分のちょっとした善意が、彼の心にずっと残っていたなんて思いもしなかった。あのとき、悠真は業界の女性プロデューサーに目をつけられて、酔わされて車に連れ込まれそうになっていた。初芽が止めに入り、演技力を見込んで名監督に紹介した。その映画がきっかけで、悠真は一気にトップ俳優になったのだ。悠真は美琴が物思いにふける間の、さりげない仕草や指先の癖をじっと見ていた。その姿が、あまりにも初芽にそっくりで――似てる!驚くほど似てる!「……俺、決めた」「え?」「婚約、受ける。君が俺を選ばなくても、おばさまは絶対お見合い話を続けるし、俺も状況は一緒だ。だったら、お互いに盾になろう」悠真がぐっと身を乗り出してきて、強い男の気配が一気に押し寄せてきた。初芽は思わず身をのけぞらせる。「え、いや、それはさすがに……」自分を好きだった人を前に「カップルのフリ」なんて、なんか無理すぎる。「深く考えなくていいよ。互いに利用するだけ。それとも、君にはもう好きな人がいるの?」「いない」「ならOK。俺のほうで仕事のチャンスも用意できる。君の夢が芸能界のトップなら、断る理由ないだろ?」その一言で、初芽の心は一気に揺らいだ。今の自分は前の事務所とも契約を切ったばかり。確かにいくつか新しい仕事のオファーは来ているけれど、「芸能界トップ」の目標にはまだまだ遠い。でも、もし国民的俳優の悠真と組めたら、少なくともあと十年は苦労しなくて済む。「やる!」二人は顔を見合わせて微笑み合った。その瞬間、どちらの心も少しだけ弾んだ気がした。食事を終えて悠真が初芽を送るためにレストランを出ると、ちょうど入り口からもう一人、圧倒的なオーラをまとった男性が入ってきた。背
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第14話

悠真の声は穏やかながら、どこか皮肉がにじんでいた。玲司が浮気したせいで初芽が絶望してこの世を去ったことを、悠真は忘れていなかった。その言葉を聞いて、玲司は初芽の顔から視線を外し、隣にいる悠真を無愛想に見やった。なぜか、胸の奥でざわつくような不安を覚えた。相手は芸能界の先輩で、業界でも一流の俳優、篠原悠真だ。玲司は、初芽の手を掴んでいた力が抜け、そのまま手を離した。手を放されると、初芽は一瞬もためらわず、玲司に体をぶつけてでも逃げるようにその場を離れた。玲司は気まずそうに悠真へ会釈した。「し、篠原さん……」悠真は玲司のことなんてまるで気に留めず、冷たく笑ってそのまま初芽のあとを追いかけていった。「美琴、無関係の人のことで怒る必要はないよ」並んで歩きながら、悠真は優しく声をかける。初芽は大きく息を吐き、首を振ってみせた。「怒ってなんかないよ」本当は平気なふりをしているだけだった。車に乗り込みシートベルトを締めながら、初芽は話題を変えた。「そういえば、明日は撮影の衣装合わせだよね。何か準備いる?」初芽は悠真と一緒に時代劇ドラマの仕事を引き受けることになった。でも、この身体の元の持ち主美琴は、いわゆる清純派演技女優。それに対して、初芽はと言えば、ただの演技初心者だ。美琴の演技力に泥を塗りたくなんてない……「心配しなくていい。君が現場に来てくれればそれで十分だよ」初芽が尋ねると、悠真はハンドルを握りながら軽く笑って答えた。「え、それだけでいいの?」初芽は芸能界の常識がまったく分からず、不安そうに尋ねた。悠真は少し笑って答える。「君の顔立ちはもともと古風な美しさがあるし、姿勢も綺麗だ。衣装とメイクさえすれば、まるで本物の時代劇のヒロインそのものだよ」初芽は、悠真の言葉が本当はこの美琴という体に向けてのものだと分かっていた。どこか気まずさを感じつつも、小さくうなずく。「ありがとう」一週間後、二人の衣装ビジュアルが公式SNSで公開された。瞬く間に話題になり、ネットは大盛り上がり。公開されたビジュアル写真では、初芽はシンプルな髪をきゅっとまとめ、美琴の体で薄い緑色の着物をまとい、本を手に優しく微笑みながら静かに立っていた。一見すると、箱入り娘のようにおしとやかで学問好きなお嬢様。でも、その澄んだ瞳をよく見
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第15話

「本当に彼女によく似てる……」玲司は思わずつぶやいた。「玲司、何言ってるの?誰が誰に似てるって?」スマホ越しにマネージャーの水野の声が響き、玲司は我に返った。「いや、なんでもない」「それで、今後どうするつもり?」「もっと金を積め。いくらでも出す。必ず一位にしてくれ」玲司は、やたらと勝負心を燃やしていた。悠真のトレンドを全部押しのけてやりたかった。「さっき運営と話したけど、せめて二位が限界だって」「一位じゃなきゃダメだ」玲司は電話を一方的に切った。悠真と競うのがどうしてもやめられない。昔、初芽をめぐって争っていたとき、最終的には悠真に勝った。――その頃、悠真は初芽を壁に押しつけ、ほとんど鼻先が触れ合う距離まで迫っていた。悠真の呼吸が初芽の唇にかかり、思わず顔が熱くなる。「キスして」悠真が甘い声で言う。「え?」初芽は固まってしまい、思わず彼を押し返そうとした。悠真はその手をそっと取り、さらに優しく促す。「リラックスして、キスしてみて」初芽は躊躇しつつも覚悟を決め、つま先立ちでゆっくりと悠真に顔を近づける。――その瞬間、スマホの着信音が鳴った。初芽の体がびくっと震える。悠真は手を離し、スマホを取りに行って電話に出た。「はい、今稽古中だけど、何か?」「トレンド?そういうの気にしないんで、運営の仕事にいちいち口出すつもりもないし、そういうことで電話してこなくていいから」あっさりそう言って電話を切ると、悠真は再び初芽のもとへ戻ってきた。「続けようか」初芽は自然と半歩後ずさり、顔が熱くなって唇まで震えてしまう。「ちょっと、休憩してもいい?」悠真はじっと彼女の顔を見つめ、少し考えてから優しくうなずいた。「いいよ。少し休もう」そう言ってソファへ移動し、テーブルの上の台本を手に取った。初芽はようやくホッと息をつき、気まずさを紛らわせるために声をかける。「何か飲み物持ってくるけど、コーヒーがいい?それとも何か他に?」悠真は台本から顔を上げ、初芽の全身をさっと見てから言った。「俺、ぬるめの水がほしい」初芽は小さくうなずき、稽古場を出てリビングのバーカウンターでぬるま湯を注いだ。ついでに自分用のコーヒーも用意し、また稽古場に戻る。「どうぞ」初芽はぬるま湯のグラスを悠真の
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第16話

初芽は思わず美琴をフォローしようとしたが、悠真に話をさえぎられてしまう。悠真はそのまま席を立ち、初芽のすぐ隣に腰を下ろした。「美琴、今まで恋愛したことある?」いきなりの質問に、初芽は驚いて悠真の方を見た。そのまま、底の見えない悠真の瞳と目が合う。慌てて視線をそらし、言いかけた言葉をぐっと飲み込む。悠真はさらに問いかける。「答えたくない?」初芽の顔がまた熱くなる。本当は、恋をしたのは玲司だけ。だけど、あの人を選んだ自分がバカだったと、今なら分かる。できることなら、玲司なんて、最初から出会わなければよかったのに。初芽は、あの名前を口に出しそうになったけど、何とか飲み込んで、心に誓う。もう二度と、橘玲司という名前を口にしないと。深呼吸して顔を上げ、少し顎を上げて言った。「ないよ。恋愛なんて、したことない」悠真は、優しく微笑んだ。「恋愛経験がなくても、ちゃんと愛されている役は演じられるさ」初芽はホッとした。悠真がそれ以上追及せず、むしろ励ましてくれたことが嬉しかった。「……がんばる」「このドラマの間だけは、俺のことを本気で好きだと思って」初芽は思わずきょとんとした。どういう意味か分からず、じっと悠真を見つめ返す。悠真は眉を上げて、「それとも、君は他の方法でやりたい?」と少しからかうように言った。その言葉に初芽はすぐに首を振った。演技論なんてまったく分からない。そんな高度なこと、自分には無理だ。「じゃあ、実際に感じてみるしかないね」悠真はそう言うと、初芽のほうにゆっくり体を寄せてきた。初芽は反射的に手を伸ばして、悠真の胸を押さえる。「ちょっと……今はやめてくれない?」悠真は一瞬驚いたように間を置き、やがて肩をすくめて後ろに引いた。「まさか、美琴も俺と同じで、キスシーンNG派だったとはね」その言葉に、初芽は思わず安堵した。「それなら監督と相談して、キスシーンなしにしてもらえないかな?」「努力してみるよ」悠真は立ち上がり、「俺、ちょっと用事があるから」と言って、その場を離れた。「セリフ、できれば何度も練習しておいて。現場で噛まないように」そう言い残して、大股で去っていった。初芽はその背中に少し寂しさを覚えて、思わず後を追いかけた。「悠真先生、もしどうしてもキスシーンがあるなら、
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第17話

玲司は眉を上げたが、怒ることもなく立ち上がり、右手を差し出した。「美琴さん、改めてご挨拶します。橘玲司です。このドラマで一緒に出演させてもらいます」「私と共演?」初芽は眉をひそめた。悠真は降板したの?玲司は彼女の心を見透かしたように、「俺は準主役をやる」と、少し残念そうに説明した。初芽は無意識にほっとして、差し出された玲司の手を見たけど、どうしても握り返したくなくて、「分かりました。もうすぐメイクするので、出て行ってください」と冷たく言った。玲司も自分から無理に関わろうとはせず、手を引っ込め、初芽の脇をすり抜けて部屋を出ていった。初芽は化粧用の椅子に座り、目の前の長方形の鏡越しに部屋の奥からドアまでの景色がすべて見える。玲司がドアまで歩いて行き、そこで足を止めて、鏡越しに初芽を見つめて言った。「もう一度聞くけど。初芽を知ってる?」初芽は鏡に映った、自分でも見慣れない美しい顔を見つめる。まるで仮面で素顔を隠しているみたいで、そのおかげで堂々と嘘がつけた。「知りません」その言葉が終わると同時に、玲司は一切追及せず、さっとその場を立ち去った。何か思い出したように、初芽が声をかける。「玲司さん!」玲司はすぐに立ち止まり、振り返る。「この数か月、気持ちよく仕事ができるといいですね」鏡に映る玲司の半身を見ながら、冷たく告げる。つまり「これ以上は踏み込まないで」という最後通告だった。「安心して。俺はプロだから」玲司は短くそう答えて、メイクルームを出ていった。玲司の足音が完全に消えてから、初芽はようやく体の力を抜いて、ふわっと椅子にもたれた。その日は朝六時には家を出ていた初芽。少し眠気が残っていたので、メイク担当が出勤する前に椅子にもたれて目を閉じ、しばらく休んでいた。どれくらい時間が経っただろう――「美琴さん……美琴さん……」やさしい声が耳元に響く。初芽がゆっくり目を開けると、目の前には笑顔を浮かべた若い女性が立っていた。美琴の記憶を借りて思い出す。彼女は美琴の専属のメイクさん、松岡(まつおか)だ。「おはようございます」本能的にそう挨拶すると、松岡は一瞬きょとんとした後、さらに明るく微笑んだ。「おはようございます!これからメイクとヘアセット始めますね」と松岡が嬉しそうに化粧品を並べ
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第18話

初芽はスマホのメッセージアプリを開き、悠真に「先生、今日の17番目のシーン、一発OKだったよ!」と入力した。けれど、その文章を打ち込んだ瞬間、ふと指が止まった。今の自分は「演技派女優の美琴」であって、もう初芽じゃない。一発OKも、当たり前のことなのかもしれない。そう思い直して、打ちかけたメッセージをそっと消した。ちょうどその時、白い大きな弁当箱が目の前に差し出された。顔を上げると、ドラマの衣装を着た玲司が、自分のことを静かに見下ろしていた。もう一方の手には自分用の弁当も持っている。「ご飯、食べなよ」初芽は首を振って、やんわり断る。「私、食べられないものがあるから、自分で取ってきます」現場では、こうやって無駄な波風を立てない理由を使うのが一番だと分かっている。みんな忙しくしているし、私情で空気を壊したくなかった。初芽はそのまま立ち上がろうとしたが、玲司はすぐに続ける。「これは美琴さんの好みに合わせて用意したやつだ。他のはたぶん食べにくいと思う」その言葉を聞いて、玲司が自分の生活にまで踏み込んでくることに、どこか侵害されるような気持ちになった。でも、ここは撮影現場。みんながスケジュールに追われて必死になっている中で、自分だけ感情をあらわにするわけにはいかない。少しでも険悪な雰囲気を出せば、すぐに誰かに写真を撮られて拡散されるかもしれない。美琴は以前、そうやって何度も悪意ある人たちにバッシングされてきたのだから。今はやっと信頼を取り戻しつつある大事な時期だ。初芽は心の奥の怒りをぐっと飲み込んで、冷たい表情のまま玲司から差し出された弁当を受け取る。「ありがとうございます」初芽はスマホを脇に置き、弁当箱のフタを開けた。中には、初芽が大嫌いなパクチーがびっしり詰まっている。初芽は顔をしかめ、バッグからティッシュを二枚取り出して小さな椅子の上に重ねる。割り箸を開けて、パクチーを一本一本、丁寧に弁当箱からティッシュの上へと取り分けていく。パクチーの量があまりに多くて、しばらく無心で作業が続いた。気がつけば唇も無意識に尖ってしまっていた。やっと全部のパクチーを取り除いて、初芽は小さく息をつく。「やっと食べられる……」顔を上げると、同じドラマの俳優たちが何人か集まっていて、みんなで初芽の手元を見ていた。
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第19話

初芽はアシスタントが何か話し出す前に、さっと言葉を遮った。最近、本当に自分と玲司を絡めたがる空気にうんざりしている。「はい」ちょっとしたゴシップの話題が始まりかけた瞬間、当事者である初芽がその空気を一気に断ち切ったので、アシスタントはガッカリ。でもしつこく食い下がる勇気もない。最近の美琴は、前と雰囲気が変わった気がする……それは自分の気のせいだろうか?初芽はそんなアシスタントの心の変化には気付かず、心の中は別のことでいっぱいだった。玲司の性格を知っているから、一度疑念を持ったら絶対に簡単には手放さないタイプだと分かっている。そして、その読みは正しかった。午前の撮影が終わると、初芽が撮影所を出た瞬間、大きな花束が目の前に差し出された。花があまりにも大きすぎて、初芽は慌てて後ろに下がる。危うく花で顔を埋められるところだった。「玲司さん、また何なんですか?」二歩ほど下がって立ち止まり、花束を持った玲司と対面した初芽は、不機嫌な表情を隠さなかった。「もちろん花を渡したくて。前は青いバラが好きだったよね」玲司はじっと初芽を見つめ、花束を差し出す。「は、はくしょん!」バラの強い香りが鼻をつき、初芽はくしゃみが止まらなくなった。すぐに鼻を押さえて、大きく後退する。「近寄らないで!」「初芽……」初芽に触れてはいけないものを見るような冷たい目で避けられて、玲司は胸が張り裂けそうだった。自分が間違っていたことは、痛いほど分かっている。心から反省して、やり直そうとしている。せめて償いのチャンスくらいくれてもいいじゃないか――そう考えると、玲司の目にはほんのり血の色が宿った。それでも、もう一歩踏み出して初芽に近づこうとした。初芽は顔がかゆくなってきたのを感じて、さっと背を向けた。昔はバラが好きだったけど、今はもう触れることすらできなくなってしまった。玲司が、すべてを壊してしまったからだ。初芽は早足で自分の控室へ戻る。玲司はまたもや外で止められた。「美琴さん、玲司さんがまだ外に立ってます。『会うまで帰らない』って言ってますけど」アシスタントが控室の外を見て、リアルタイムで報告してくる。初芽はアレルギー用のクリームを塗りながら、眉間にしわを寄せる。「ほんと、しつこい……警備員
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第20話

初芽の顔から笑顔が一瞬で消えた。「お兄ちゃん?……それって、もしかして彼のこと?」初芽は冷たい目で、いつの間にか近くまで来ていた玲司を見た。「うん、そうだよ」子役は嘘が苦手で、素直にうなずいた。初芽は思わず深く息を吐き、呆れて笑ってしまった。玲司、本当にやるわね。今度は子どもまで利用するなんて。「分かった、ありがとう。遊んできて。あとでお姉さんがお菓子をあげるね」子役を優しく送り出すと、初芽は立ち上がって、手に持っていたギフトボックスをそのまま一番近いゴミ箱に投げ込んだ。「初芽!」玲司はそれを見て、目が真っ赤になった。「もう一度言うけど、私は初芽じゃない。美琴って名前です!」初芽は玲司を真っすぐ見据え、冷たい目で言い切った。しばしにらみ合いが続いたが、先に折れたのは玲司だった。「その中身は、お前が昔一番好きだって言ってたネックレスだ。欲しいって何度も言ってた。あのときは仕事で忙しくて、気持ちに気づけなかった。だけど今なら――」玲司は必死で弁解し始めた。でも、もう初芽には何の意味もない。「人違いです。私、そんなに欲しいネックレスなんてなかったし、もし欲しかったとしても自分で買えます」初芽は玲司の言葉をばっさり切り捨てた。初芽が欲しかったのはネックレスなんかじゃない。ただ、その奥にある気持ちだった。玲司が過去にそれをくれなかったなら、今さら差し出されたってもう意味がない。その言葉を聞いて、玲司の顔色はサッと真っ白になった。初芽は玲司を無視して、言い終わるとすぐに背を向けて歩き出す。玲司は無意識に手を伸ばそうとしたが、一歩遅く、ただ自分の手が彼女の肩をすり抜けていくのを見ているしかなかった。それから数日間、玲司はまた何度も初芽に花やプレゼントを送り続けたが、初芽は全部容赦なく捨てた。それでも、現場では次第に噂が広がっていった。監督が台本を持って現れ、初芽に言いかけて口ごもる。「監督、何か問題でも?」初芽が不思議そうに聞く。普通のキスシーンで、別に難しいものでもない。それなのに、監督がこんなに悩んでいる理由が分からない。「いや、実はな、最近玲司が君を追いかけてるって話があってな。このシーンはリアリティを出すためにズラさないでやりたいんだけど、もし妙な噂が立
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