鹿井初寧(しかい はつね)の奔放な性格を抑えるため、父は最も信頼する部下――三条千臣(さんじょう ちおみ)を呼び寄せ、彼女を躾けさせた。だが初寧が、たかが子会社の社長の言葉に耳を傾けるはずもない。彼女はあの手この手を使い、彼を諦めさせようとした。初出勤の日、彼女はいきなり彼のポルシェを叩き壊した。しかし千臣は冷ややかに一瞥をくれただけだった。「修理に出せ。費用は鹿井さんの給料から差し引け」二日目、彼女は千臣の会議資料とPPTを卑猥な映像にすり替えた。だが千臣は動じず、その場で計画書を丸暗記で一字一句淡々と語り上げ、大型案件を見事に落札して場を驚かせた。それでも初寧は諦めず、接待の席で彼の酒に強い薬を仕込んだ。彼を人前で醜態を晒させるつもりだったのだ。だが結果は逆で、彼女が彼にホテルのスイートに担ぎ込まれ、さんざん弄ばれることになった……世間の人々は、彼を清廉で温厚、まさに君子のようだと評する。だが初寧だけは知っていた。夜の帳の下、彼が彼女をベッドに押し伏せ、狂おしいほど翻弄する姿を……ロールスロイスの後部座席。会議室のデスク。オフィスの大窓の前でさえ……燃えるような赤いドレスを纏った初寧は、禁欲を装った男に細腰を掴まれ、様々な姿勢で「躾け」られ続けた。ひとしきり終えたあと、男は浴室へ入っていった。その間に初寧の携帯には、親友からのメッセージが届いた。【信じられない、鹿井お嬢さん。まさか本当に恋愛脳になったの?】【三条千臣なんて、所詮鹿井家の子会社の社長にすぎないのに。彼のために、南市一の大富豪である東三条家の御曹司との婚約を捨てるなんて!?】初寧は返信しなかった。彼らは知らなかった。千臣の本名が、東三条千臣であることを。そう、東三条家の御曹司が千臣だった。彼女が骨の髄まで愛し、夜ごとに抱きしめたいと渇望する男――もともと婚約していた相手なのだ。本来なら、この上なく幸福であるはずだった。だが初寧の顔に、笑みはひとつも浮かばなかった。しばしの沈黙ののち、彼女は父に電話をかけた。「東三条家の御曹司との婚約、鹿井麗(しかい うらら)に譲ってもいい。でも条件がある」受話器の向こうで、両親の歓喜の声が弾けた。「条件って?いくらでも言いなさい!婚約を譲ってくれるなら
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