Semua Bab 秋風、骨を刺す: Bab 11 - Bab 20

悦美は山頂の小屋に座り、熱いお茶を片手に窓の外を見つめていた。彼女の体には包帯が巻かれている。大型犬に咬まれた傷は丁寧に手当てされており、顔色は悪くなかった。向かいの男は悠々とコーヒーを飲んでおり、眉の上の傷跡は凄まじく恐ろしい。「彼は私のためにここまで来るはずがない。この方法では全然うまくいかないわ」彼女の声はとてもか細く、今にも消え入りそうで、この世界に存在していないかのようだった。「この数年、彼が私に何をしてきたか、あなたもよく知っているはずよ。私を人質にしても、樋口を拉致したほうがよかったんじゃないの？あるいは……」「あるいは、何？」木村修司（きむら しゅうじ）は顔を上げ、向かいの悦美を見つめながら、唇の端に冷ややかな微笑を浮かべた。その笑みの中で傷跡は一層凶悪に見えたが、彼の絶世の美貌は少しも損なわれてはいなかった。「お前の方法通り、この数年で集めた告発資料をすべて提出して、彼に樋口と共に自発的に罪を認めさせる？あんな自己中心的な人間が、そんなことすると思う？」悦美は資料の置かれたテーブルを見つめ、しばらく動かなかった。彼の掌握する情報は、夕子が教えてくれたこと以上に多かった。つまり、この数年間、彼がずっと密かに樋口グループと川野グループの罪証を探していたというのは、決して誇張ではなかったのだ。彼女はもう何も言わず、丁寧に一枚の資料を手に取った。その中には一束の写真が挟まれていた。凛音と当時の案件に関係する人物たちが、私的に会っている場面を写したものだった。同じ厚さの札束を、彼女は一人ひとりに渡していった。証人、精神鑑定医、陪審員二人、そして当時の主審判事にまで……綿密に張り巡らされた大きな網のように、その人たちは悦美と子を金と権力の下に押さえつけた。ひとりは命を奪われ、もうひとりはあらゆる苦しみを味わわされた。だから、これらの中で最も肝心なのは時雨だった。凛音は冷酷であくどいが、感情に溺れた愚か者に過ぎない。時雨を掌握すれば、彼女はきっと慌てふためくだろう。ただ、悦美は修司が自分を餌に使うとは思わなかった。悦美は我に返り、修司に向き直ると、低く問うた。「なぜ私を餌に選んだの？彼が私を大事に思っているなら、子どもを傷つけたりしないはずよ。思っていないなら、あなたの計画は失敗するだけじゃ

ヘリコプターが、安定した飛行で山岳地帯を抜けて飛んでいった。悦美は医療用ベッドの上で静かに横たわり、閉じたままの瞳をわずかにしかめている。眠っているはずなのに、どこか落ち着かない様子だ。「気分はどうだ？」修司は持っている二枚の毛布を彼女に掛けた。この山間地は複雑で、彼らは山道で低体温になりかけていた彼女を見つけるまでに、時間をかけたのだ。彼女の顔は紙のように白く、弱々しくて呼吸すらほとんど聞こえないほどだ。修司は、自分の決断や計画があまりにも無謀だったのではないかと後悔せずにはいられなかった。悦美はゆっくりと目を開けると、虚ろな目で焦燥感に駆られた男を見つめ、全身の力を振り絞ってかすかな笑みを浮かべた。「大丈夫よ」修司は眉をひそめ、痛みに耐えて強がる彼女の姿を見ると、一瞬胸が痛んだ。彼女はわずかに体を丸め、手で腹部をぎゅっと押さえた。明らかに我慢できないほどの痛みだったが、それでも必死に耐えていた。体の傷は新しいものが古い傷の上に重なっており、少し動くだけで痛みが走る。それでも彼女は一言も発せず、歯を食いしばった。額には冷や汗が滲み、青筋が脈打つ。修司は異変に気付き、すぐに彼女を自分の腕に抱き寄せた。「体の傷以外に、どこか具合が悪いのか？どうしたんだ？教えてくれ！」悦美はやっとのことで顔を上げ、苦笑しながら言った。「精神病院にいたとき、誰かにウイルスチップを埋め込まれたの。トリガーを作動させると、腹部が耐えられないほど痛くなるの。ずっとこんな状態だったけど、誰がやったのかは分からなかった……」修司はさらに強くその人を抱きしめた。その声は完全に冷たくなり、一語一語を噛みしめるように口を開いた。「間違いない。樋口凛音だ！」悦美は視線を戻すと、自分のポケットからゆっくりと一枚のUSBを取り出し、そっと男の手のひらに置いた。唇にはかすかな微笑が浮かんでいた。完全に意識を失う前、かすれた声でつぶやいた。「全部無駄にはならなかったわ。落ちる前に、彼のポケットからこれを取ったの。彼が常に持っているものなら、きっと重要なものに違いない。しかも、私たちの小屋には360度死角なしの超高画質カメラが設置してある。樋口の楽しい日々は終わりよ。私は餌であり、絶命の切り札。彼女もついに代償を払う時が来たの」……一方、時

会場は騒然となった。全員の視線が、一斉に背後のスクリーンに集中した。最初に映し出されたのは、5年前の悦美の交通事故現場の映像だった。視点は一台の乗用車のドライブレコーダーからのものだった。事故現場は人里離れた場所で、監視カメラはなかった。修司は5年間、干し草の山の中で針を探すように探し続け、ようやく当日通りかかった唯一の車を見つけ出した。幸いにも、車の持ち主はドライブレコーダーの記録を定期的に保存する習慣があった。映像を通して、誰の目にもはっきりと映っていた。凛音が車を故意に操り、歩道を通常どおり通行していた悦美に後ろから突っ込み、彼女を十数メートルも吹き飛ばしたのだ。現場の状況は明白で、悦美が発狂して自ら車に突っ込んだという可能性は全くなかった。彼女は自分の背後に常に車がついてきて、狙われていたことすら知らなかったのだ。その後、スクリーンには凛音が重要人物たちを買収する写真、動画、音声が次々と表示された。そして5年前、あの裁判前に、裁判長の口座に一度に4億円現金を振り込んだ証拠まで映し出された。休憩室での二人の明瞭な会話の音声も含まれていた。会場の客たちは、一斉にステージ上で立ち尽くす凛音に視線を向けた。彼女は狂ったように自分の体でスクリーンを隠そうとしたが、焼け石に水だった。身に着けたウェディングドレスは動きに乱れた。ベールは床に落ち、化粧も汗で崩れていた。「でたらめよ！これはすべてでたらめよ！偽の動画に決まってる！私を陥れるために作られたんだよ！柳井悦美はただの精神患者よ。木村、あんたもあの女とグルだ。私を殺そうとしてるよね！夢を見るな！あの女はもう死んだの。あんたも私の敵じゃないわ。遅かれ早かれ私の手で死ぬのよ！」会場の空気はほぼ凝固し、全員が互いに顔を見合わせた。凛音はようやく気付いたかのように、時雨の方を向いた。「時雨、当時のことはあなたがよく知ってるわよね。私のために証言してくれるんでしょ？この動画は全くの作り話よ！」徳雄も軽く咳を二度し、現場で起きたことを全く気にしていなかった。どうせ身内のことだし、金を多めに渡せばなんとかなる。そう考えると、ステージの下にいる修司を一瞥した後、この息子を排除すべきだと思った。「時雨、お前はもう俺の婿だ。他のことは後でどう

悦美は裁判所に申請したDNA鑑定報告を持って、正式に花暖を迎え戻した。時雨はそれに協力し、全く異議を唱えなかった。花暖はまだ幼いが、凛音の影響を強く受け、悦美に猛烈に反発した。手に取れるものはすべて、彼女に投げつけた。「あなたは私のママじゃない。私のママは樋口凛音。あなたは悪い女よ。ママが言ったの、あなたは悪い女だって」悦美は胸が張り裂けそうな思いで娘を見つめた。別の女性に育てられたことで、娘は彼女が最も恐れる姿になっていた。彼女は胸を痛めると同時に、憎しみの感情も抱いた。母として娘に嫌われることは、いっそう無情で残酷に思えた。時雨は震えながら前に進み、彼女に触れようとした。自分に説明の機会を与えてほしいと願った。しかし、彼女が頭を急に上げ、血のように赤い瞳で見つめると、完全に怯えてしまった。その瞳には憎しみと恨み、極度の憎悪が宿っていた。愛情のかけらもなく、冷たく温もりのない絶望だけがあった。「あの時のこと、お前はもう知っているはずだ。俺はわざとお前を傷つけたわけじゃない。ただ、追い込まれて仕方なかったんだ。花暖のために、そんな芝居を演じていただけ。でも、心の中では、一瞬たりともお前への愛を止めたことはない」悦美は冷ややかに嗤った。「愛してる？あんたは私をどう愛したの？」時雨はわずかにハッとし、口を大きく開けたまま、しばらく声を出せなかった。悦美は彼の様子を見ると、苦笑しながら首を横に振り、ゆっくり立ち上がった。そして、バッグからスマホを取り出し、精神病院で入手した動画を再生した。あまりに残酷で、これまで一般には公開されていなかった。特別な病棟で、裸にされた彼女は尊厳を奪われ、特製のベッドに縛られた。電撃や穿刺、鞭打ちなどで虐待が加えられた。鮮血に染まった肌の上には、重なり合う傷が幾重にも刻まれていた。終わるたびに、特製の唐辛子水を全身の傷にかけられた。時雨はもう見ていられなかった。彼は頭を抱え、絶望の叫びをあげた。痛みと後悔は猛獣のようで、彼の心臓を粉々に引き裂こうとしているかのようだった。彼は一体何をしたのか？復讐のため、両親の会社を取り戻すため、娘を守るためという名目で、自分に忠実だったあの少女を最も非人道的な方法で精神病に追い込んだ。屈辱と虐待を受け、さらに

「終わりじゃない。終わるはずがない。俺、頑張るよ。行かないで、悦美。俺が悪かった、悦美。俺が証明してみせるから！」病室に凄まじい叫び声が響くが、悦美の歩みは少しも揺らがなかった。彼の必死のもがきのせいで、手の甲の針がずれてしまった。鮮血が真っ白なシーツの上に流れ、黒みがかった赤色の鮮やかな花のように広がった。数人のボディーガードが制止しようとしたが、到底抑えられなかった。最終的に時雨は点滴を抜き、裸足のまま病院を飛び出した。彼はすぐに法務部に命令を下し、樋口グループの司法手続きを迅速に進めさせた。さらに2億を投入し、ニュースを大々的に報道させて世論の圧力を高めた。公安調査庁の前には群衆が押し寄せ、縦横に横断幕が張られた。公安調査庁長官は自ら事件を監督し、病気を理由に保釈されようとしていた徳雄と凛音への強制措置を停止させた。さらに樋口家に直接出向き、勾留状を突きつけた。樋口親子が家から連れ出されるとき、まるで見放された負け犬のように、残飯や排泄物が次々と投げつけられ、全身血だらけになるまで打たれた。悦美は静かに人混みの中に立ち、凛音と視線を交わした。凛音は憤怒に自分の奥歯を噛み砕きそうになった。「柳井悦美、調子に乗るなよ。花暖はきっとあんたを嫌っているでしょう。あんたはこの一生、娘の愛なんて味わえないわ！私は地獄に落ちても、ずっとあんたを呪い続ける！」悦美は唇を引き、背後から花暖を引き寄せた。花暖は、目の前のまるで野獣のような凛音を見つめ、ぼそりと言った。「あなたは本当に私のママじゃないのね。私を愛したこともなかったの？そうなの？本当のママはいつも私に、この世界や自分を愛してって教えてくれたの。そして、他人を軽々しく嫌ったり傷つけたりしてはいけないって。毎晩、私を抱きしめて、一緒に眠ってくれたのよ。パパを呼ぶ道具としてじゃなく。樋口おばさん、誰が本当に私を愛してくれてるか、私はわかるの」幼い顔には哀しみが満ち、星のように輝く大きな目には無垢な純粋さが宿っていた。この変故で、こんな小さな子が一夜にして、急速に成長してしまったのだ。悦美はかがんで彼女を抱き上げ、頬に軽くキスをした後、落ち着いた声で話した。「私は娘のために全てを捧げる。何年でも待つ覚悟がある。でも樋口、あなたはもう二度と