เข้าสู่ระบบ遥side 「……なんで遥はここだと思ったんだ?」 俺が麗華に助けられたことの詳細を遥は知らないはずだった。それにもかかわらずなぜ『ここしかない』と断言しているのか不思議でならなかった。 「仕えていた西村家の息子がここが好きで家政婦や執事たちと一緒によく来ていたの。彼の方が少しだけ年下で私が川で彼のことを見張っていたんだけれど、ある日、川上から流されてきた同年代くらいの男の子がいて助けたの……。西村家の息子が大人を呼びに行って、私が川に入ってその男の子を引っ張り出して助けたんだけれど……その時、周りも助けに加わる中で遠くから傍観しているだけのグループがいたの。それが、星野家よ……」 「なんだって……?」 「星野家の存在を知っていた人は、彼らに助けを求めに行った。だけど、『一般人のために我々が動く義理なんてない』と一蹴されたわ。救急車を呼んで、駆けつけた救助隊が病院に搬送するために男の子の名前を叫んでいるのを聞くと、星野家の人たちがざわついて彼を助けると言いだした。それがあなたなの……」 「助けたのは麗華じゃなかったのか……それに、そのことを知っていたのか……何故、自分だと言わなかった?」 「もし言ったら、あなたは私の言うことを信じてくれた?……あなたは、麗華こそが命の恩人だと盲信していた。私が何を言っても信じてもらえないどころか、嘘だと罵倒したんじゃない?だから言わなかったの」 遥の言葉に何も言い返せなかった。麗華の嘘は、八年前ではなく出会った頃から、すべてが嘘で塗り固められていたのだ。 「いたわっ……」 茂みの向こうに、麗華と花蓮の後姿が見えた。麗華は花蓮に興味を持たず、つまらなそうにスマホをいじっている。スマホ自体に興味があるわけではなく、スマホの画面をじっと眺めて誰かからの連絡を待っているようだった。 「遥、二手に分かれよう。俺は麗華の気を引いて時間を稼ぐようにする。その隙に花蓮ちゃんを助け出してくれ」 「分かった」 麗華にバレないように奏多だけが迂回をして麗華の前に向かって走りだした。私はじっと草
奏多side遥の娘が行方不明になった。東宮俊からその事実を告げられた瞬間、俺の思考は強制的に停止した。そして、最後に一緒にいた人物が「星野」という女だと聞いたとき、麗華の顔が鮮明に脳裏に浮かび、喉の奥がカラカラに乾き、心臓が握り潰されるような痛みに襲われた。すぐさま住吉家の精鋭であるボディーガードたちを総動員させ、街中を捜索範囲に網を広げさせた。東宮花蓮の特徴を思い返した時、ふと疑念が浮かんだ。(遥の子は六歳……俺と離婚して一年と経たずに生まれているな。逆算すると、離婚した時に遥は既に妊娠していた事になる……。遥は何も言わなかったが、あの子は俺の子なんじゃないのか……)遥の会社ですれ違った時の様子を思い出す。リボンをつけてフリルの多いワンピースを着て見た目は幼い女の子なのに、歩き方や立ち振る舞いは堂々としていて大人顔負けだった。遥に似ていて目を奪われたが、もしかしたら本能的にそれ以外の何かを感じていたのかもしれない。もしそうなら、俺は、俺の子どもを授かった遥を無碍に扱い地獄に突き落としたことになる。そのことが背筋を氷のように冷やした。あの子は何があっても守る、そう強く思い、俺は麗華の思考回路を嫌悪感を押し殺して掘り起こす。(どこへ向かう?麗華が考えそうな場所はどこだ……?)その時、ポケットに入れていたスマホ
遥side岡田が警察の車両へ連行されるのを見届け、何十年にも及ぶ因縁がようやく終わったことに安堵を覚えたのも束の間だった。鞄に入れていたスマートフォンが激しく震えている。電源を入れると画面を埋め尽くす通知の山だった。執事長、運転手、そして秘書に至るまで数十件もの不在着信が私を追い詰めていた。「どうしたの? 遥、そんなに驚いて……」「……何件も着信があるの。何だか、嫌な予感がする」「僕のところにもだ……。何があったんだろう」俊も自身の端末を確認し顔を曇らせた。先に気が付いた私が執事長に掛け直すと、受話器の向こうから聞こえてきたのは、冷静さを欠いた悲痛な叫びだった。「遥様……大変、大変申し訳ございません! ピアノ教室へ花蓮様をお迎えにあがったのですが…………どこを探しても姿が見当たらないのです」「え……? 花蓮が、いない……? 」私の叫び声に俊と直人が目を大きく見開いて、私たちの電話に聞き耳を立てている。
麗華side都内でも屈指の有名幼稚舎の生徒が通う名門ピアノ教室。ここで、私はその時を待っていた。この教室に、東宮遥の娘である花蓮が通っていると突き止め、受付のアルバイトを志願したのだ。住吉商事の傘下を離れた後は散々だった。仮想通貨事業のみ残った五十嵐工業だったが、みなが離れていき残ったのは私一人。事業をやるために何をすればいいかさえも分からなかった。そして、最悪なことを二十年近く右肩上がりで急成長を続けていた仮想通貨はこの三か月で大暴落をし、一気に最高値の半値にまで下落したのだった。毎月買い増しをしていた口座は一気にマイナスに転じ、税金対策として税理士を雇った時にはもう何の対策がとれないほどにまで赤字が膨れ上がり、継続不可能と判断され、先月自己破産をしたのだった。私は、かつての肩書きもプライドも捨ててピアノ教室の受付に応募した。これもすべてあの女の娘が通っている。ただそれだけのためだ。「星野」という姓を名乗ると面接官は恐縮しその場で採用が決まった。仕事は受付として来客をさばき、セキュリティカードの貸し出しを確認する程度の些細な事務作業のみ。実質、私の監視の目は、この待合室という箱の中に固定された。レッスンの時間は毎週火曜の午後二時半から四時。私のシフトも、着替えを含めて退勤時間を彼女の退出タイミングに完全に同期させた。シミュレーションは万端。あとは、獲物が現れるのを待つだけだ。時刻は午後三時五十五分。レッスンを終えた子供たちが次々と部屋から溢れ出てくる
遥side「社長宛ての来客がありまして……今、応接室に案内しました」「来客ぅー?俺は聞いてないぞ。そんな飛び込みでやってくる無礼者なんか追い返してしまえと言っているだろう!」品のない岡田の声が応接室まで筒抜けで響いている。こんな会話を相手に聞かせるなんて本当に執事をやっていたのかと疑いたくなる。これだけで質の低さを露呈しているようなものだ。小さくドアをノックした後に面倒くさそうにドアを開けた岡田だったが、私の顔を見た瞬間に信じられないという表情で目を大きく見開いてその場で立ち尽くした。「遥……なんでお前がここに。……どうせ仕事もに見つからず路頭に迷って助けを求めてここにきたんだろう。恩知らずのお前を助ける義理なんてない」私の事を何も知らない様子の岡田は、馬鹿にした態度で嘲笑している。その態度にうんざりして呆れて大きく溜め息をついてから今までの雪辱を晴らすように力強く見つけて声を張った。「恩知らず?……私の人生を狂わせて、自分だけいい思いをしておいてよく言うわね。私が何も知らないとでも思っているの?」「なんだ、その聞き方はっ……!お前を育ててやったのはこの俺だ。もっと感謝すべきじゃないのか?」
遥side「直人君、遥。大事な話がある。僕の部屋まで来てくれないか」俊に呼び出されて私たちが部屋へ向かうと、俊の表情は重く、ただならぬ空気を醸し出していた。何か重大なことが起きたのだと予感し、直人と顔を見合わせながら彼の正面に座るとすぐに本題へと入っていった。「実は、住吉奏多から僕の元へ連絡があったんだ。遥が住吉と結婚するきっかけとなった、あのスキャンダルについて裏で糸を引いていた怪しい人物が浮上したとね……」俊はそう言うとタブレット端末から一枚の写真を私たちに見せた。画面に映し出された二人の男の顔を見た瞬間、よく知っている顔に喉元までせり上がるような激しい怒りがこみ上げてくる。「これは……岡田。もう一人は誰なの?」「岡田の隣にいる男は、当時住吉商事と成瀬商事の商談で統括責任者を務めていた安井という人物だ。二人は旧友であることが判明し、ある時期を境に急激に羽振りが良くなったという悪評が絶えない。岡田は執事を辞め、その実績を盾に家政婦やホームヘルパーを扱う派遣事業を経営しているよ」「岡田が派遣事業……? 岡田は私利私欲にまみれた男よ。きっと相手が拒否しにくいような理由をつけて中抜きをして私腹を肥やしているに決まっているわ」「もう一人の安井もまた