Lahat ng Kabanata ng 冷酷御曹司は逃げた妻を愛してやまない: Kabanata 111 - Kabanata 120

136 Kabanata

5-2 詰問と怯え

「遺体で発見って……」「デスク……病気だったの……?」ざわつく報道部の中で、総務課の男性は苦しげに首を振った。「い、いえ……こちらも、あまり詳しくは聞いていないのですが……どうやら井上デスクは、後頭部を強打して亡くなっていたそうで……。遺書のようなものが残されていた、と……。すみません、それ以上は……」深々と頭を下げる男性。その話を聞いた瞬間、空気がさらに凍り付く。「え!? それって……もしかして自殺ってこと?」「でも後頭部を強打って……普通じゃないよね」「自殺じゃそんな亡くなり方、ありえなくないか……?」「ひょっとして殺人……?」「だったら取材に行かないと!」誰かが声を上げ、憶測が憶測を呼び、騒ぎはさらに広がっていく。「もし殺人なら……誰かに恨まれて……?」「そ、そんな……!」次々と飛び交う言葉に、沙月は全身から血の気が引いていくような感覚を覚えた。(そんな……殺人……? デスクが……!?)昨日の光景が脳裏に蘇る。司に呼び出され、青ざめていた井上デスク。そして、霧島がデスクとすれ違いざまに囁いた謎の行動。(まさか……そんな……)呼吸が荒くなり、足元がふらついた。もはや報道部は仕事どころではなく、混乱の渦に飲み込まれている。耐えきれなくなった沙月は、外の空気を吸おうと席を立ち、報道部を出た――その瞬間。ドンッ!「きゃっ……す、すみません……!」「沙月!?」聞き覚えのある声に顔を上げる。そこには、髪を乱し、肩で息をする司が立っていた。額には薄っすら汗が滲んでいる。「え……司……!?」「沙月……ちょっとこっちへ来い!」言うが早いか、司は沙月の腕を掴んだ。その手は強く、震えているようにも感じられる。「ちょ、ちょっと! どこ行くのよ!」沙月の問いに返事もせず、司はまっすぐどこかへ向かって歩いていく。通路にも局員たちが溢れかえり、井上デスクの件で物凄い騒ぎになっていた。(局内が大騒ぎになってるわ……)腕を引かれながら沙月は周囲を見渡して歩いていると、司は不意に足を止めた。そこは会議室で『空き室』となっている。「……ここがいいな」司は小さく呟くと、扉の前でスライド式のサインプレートを乱暴に『使用中』へと滑らせ、そのまま中へ押し込むように入った。「ちょっと! 勝手に何を……!」「誰にも聞かれたくない
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5-3 澪の怯え

 楽屋に鍵を掛けた澪は、スマホを握りしめたままガタガタと震えていた。恐る恐る画面をタップし、送られてきた写真を開く。そこに映っていたのは、床に倒れた男性の身体。首から下だけが写されており、左腕は胸の上に置かれている。その手首には、澪がよく知る特注の腕時計が巻かれていた。そして……胸の上に、白い百合が一輪。(この腕時計……デスクが特注品だと自慢していた物……それに白い百合……これは、粛清の証……!)「ど、どうして……井上デスクが……? こんな写真、送られてくるなんて……つ、次は私の番……?」そのとき。ドンドンッ!扉が強く叩かれた。「ヒッ!!」声にならない悲鳴が漏れ、澪の両肩が大きく跳ねる。『朝霧さん! いらっしゃいますか!? リハーサルが始まるのですけど!』廊下から新人ADの声が響いた。澪は怒りと恐怖が入り混じったまま扉を開けた。「何なのよ! あんな強くノックすることないでしょ!」新人ADの青年は澪の剣幕に怯え、青ざめながら深々と頭を下げる。「す、すみません! 慌てていたのでつい……大変申し訳ございませんでした!」心臓は驚きで早鐘を打ちながらも、震える指でスマホの画面を伏せた。(見られてはいけない……絶対、誰にも……!)「……もういいわ。行くから。先に戻ってて」「は、はいっ!」青年は慌てて廊下を駆けていった。扉が閉まった瞬間、澪は膝から力が抜けそうになり、壁に手をついて呼吸を整える。(落ち着いて……落ち着かなきゃ……。でも……なんで私に……? 誰が……?)澪は真っ暗なスマホの画面を見つめる。しかし、胸の上に置かれた白い百合の残像は瞼の裏に焼き付いて離れない。「駄目よ……しっかりしないと……今からリハーサルなんだから。そう、私は朝霧澪。この局の看板女子アナなのよ」鏡に映る自分に言い聞かせ、バッグにスマホをしまうと、澪はリハーサルスタジオへ向かった――**** スタジオ入りした澪は、表情を整えて立ち位置に立った。これから出演するのは、局の朝の情報番組。挨拶をして本日のテーマを読み上げ、軽いトークを交わす――いつもなら何でもない仕事のはずだった。だが、この日の澪は違った。カメラが回ると、言葉がふっと途切れる。スタッフに呼びかけられても、反応が僅かに遅れる。視線は宙を漂い、焦点が合わない。どこか上の空
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5-4  容疑者 1

 司が黙って頷いた瞬間、会議室の空気がさらに重くなる。話を聞いていた沙月は息苦しと供に、胸の奥にひとつの疑念が浮かび上がる。「……ねえ、司。どうしてあなたは、デスクが亡くなったことを知っているの?」尋ねる声が震えていた。総務課が報道部に知らせたのは、ほんの数分前。部外者であるはずの司が、なぜそれを先に知っていたのか。だが司は答えない。その沈黙が、沙月の不安をさらに煽る。「総務課の人が言ってたわ……デスクは後頭部を強打して亡くなっていたって……」沙月は唇を噛み、司を見つめた。「ま、まさかとは思うけど……司、あなたが……? 井上デスクを……?」その瞬間、司の表情が険しくなる。「馬鹿なことを言うな! 俺を疑っているのか!」怒りとショックが混じった声が、狭い会議室に響く。だが沙月も引けなかった。「だ、だって……昨日デスクを会議室に連れて行ったでしょう? 二人で戻ってきた時、デスク……物凄く青ざめてた……」司は深く息を吐き、低く言い返す。「……あれは、二度と沙月に手を出すなと警告しただけだ」「え……?」沙月は一瞬、言葉を失った。「そ、そうだったの……? あ……ありがとう……」だが、疑問はまだ消えない。「でも……だったら、どうして司がデスクの死を知ってるのよ?」司はしばらく黙り、やがて口を開いた。「忘れたのか? 天野グループはこの局の大株主だ。重大な事態が起きれば、真っ先に情報が入る」「そ、そうだったの……。それで……デスクが亡くなったことを知ったのね」人の死が関わっているのに、不謹慎だとは思った。だが、司が関わっていないと分かった瞬間、沙月は心底ホッとした。「それじゃ……何故ここへ来たの?」問いかけると、司はわずかに眉を寄せた。「さっきも言っただろう。お前のことが心配だったからだと」「つ、司……」その言葉に、沙月の心臓が跳ねる。だが……その直後、司は恐ろしい事実を口にした。「……あの男が、お前を性接待の餌食にしようとしていた相手。黒川だが……裏社会と繋がっていると言われている。その界隈では有名な話だ」「……え?」沙月は耳を疑い、司は続けた。「黒川は今まで、自分の権力を使って様々な企業から【特別な接待】を受けてきた。そして……その半数は性接待だと言われている」「……そんな……」沙月の呼吸が荒くなる。
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5-5 容疑者 2

司が会議室を出て行き、沙月は一人取り残された。(司が容疑者の一人……? それに、お前も気をつけろって……どういう意味なの……?)イヤな胸騒ぎを感じ、落ち着けない。会議室の時計を見ると、針はすでに十時になろうとしていた。「いけない……仕事に戻らないと……!」我に返った沙月は、慌てて会議室を飛び出すと、急ぎ足で報道部へ向かった。****「……申し訳ございませんでした……」恐る恐る報道部へ戻った瞬間。局員たちの視線が一斉に沙月へ向けられる。(な……何なの……? どうして、みんな……こっちを見るの……?)突き刺さる視線がいたたまれない。視線を逃れる為、俯いて席に戻ろうとしたその時。「失礼。天野沙月さん……ですね?」背後から声がかかった。「……!」驚いて振り返ると、スーツ姿の男性たちが数名。その後ろには、制服の警察官が三人並んでいた。いずれも沙月をじっと見つめている。(け、警察……!?)沙月の顔から血の気が引く。「どうされましたか? 天野沙月さんでお間違いないですね?」返事ができず固まっていると、壮年の男性がもう一度問いかけた。「は、はい……そうです……」緊張しながら頷く。「少々お話を伺いたいことがありまして。……場所を移動しましょうか?」「……はい……分かりました」緊張しながら頷く。「では、参りましょう」私服刑事と思しき男は、笑顔を向ける。しかし、その目は笑っていなかった。沙月は警察官たちに囲まれるように、報道部の奥にある打ち合わせ室へと案内された。(……また、この部屋……なのね……)「どうぞ、掛けてください」「はい……」刑事に促され、沙月は席に着いた。蛍光灯の白い光は冷たく、テーブルの中央には録音機が置かれている。(どうしよう……本当に、私が疑われているの……?)椅子に座らされると、背筋が自然と強張った。「それでは、早速お伺いします。先ほどまで席を外されていましたね。就業中のはずですが……どちらに行かれていたのですか?」穏やかな声なのに、逃げ場のない圧がある。まるで「嘘は通じないぞ」と告げられているようだった。(隠しても仕方ない……正直に言わないと)「……会議室にいました」「仕事中に、ですか?」「はい……部署の空気が……いたたまれなくて……」なるべく平静を装って答える。「いたたまれなかっ
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5-6 容疑者 3

「………会議室で一緒にいた相手は……天野司……さんです」沙月が絞り出すように答えると、刑事の眉がわずかに動いた。「ほう、天野司氏ですか。あの天野グループの。……彼も容疑者の一人でしたね」「……」その言葉に、沙月は俯いて黙り込んだ。刑事はわざとらしく首を傾げる。「そういえば、あなたと同じ苗字ですね。天野という苗字は珍しくはありませんが……これは偶然ですか? 偶然、同じ苗字の二人が容疑者で、会議室で話をしていたと?」冷たい視線が沙月を射抜く。「二人だけで話していたということは、知り合い同士ということになりますね。……どうなのです? お二人はどういう関係なのです?」逃げ場のない問いに、沙月は身を縮こませる。(もう……隠しきれない……)観念した沙月は唇を震わせながら答えた。「……天野司は……夫です。ですが、離婚予定です。すでに別居もしていますし……離婚届もサインして、彼に渡してあります」「なんと! お二人は夫婦だったのですか。いやぁ、これは失礼いたしました」刑事はわざとらしく頭を下げ、口元だけで笑った。「……いいえ」沙月は小さく首を振る。だが刑事はすぐに真顔になると、タブレットを指でタップした。「しかし妙ですね。確か、この局の朝霧澪さん……最近、天野氏との婚約発表を堂々としていましたね。これは一体どういうことなのでしょう?」「それは……!」沙月は思わず顔を上げたが、すぐに視線を落とした。「……私は何も知りません。尋ねても……司は何も話してくれませんので」その声は震えていた。刑事は鼻で笑い、椅子に深く腰を下ろす。「ふ~ん……なるほど。大事なことを話してくれない。夫婦仲が悪い、というわけですか」沙月の胸が痛む。反論することも出来なかった。刑事はタブレットを再びタップし、画面をスクロールした。「では……本題に入りましょうか」空気が一段と冷たくなる。「本日未明、下の階の住人から管理会社にクレームの電話が入りました。『上の階から水漏れがしている』とね」「……水漏れ……?」「ええ。管理会社が井上氏の部屋を訪ねましたが応答がない。そこで合鍵を使って室内に入ったところ、リビングで被害者は仰向けに倒れていたというわけです」刑事は淡々と説明する。「水漏れは風呂場からでした。浴槽からお湯が溢れ出ていたようでね」刑事は画面を見
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5-7 容疑者 3

「……さて、天野司さん」刑事は椅子に深く座り直す。「これだけの目撃情報があれば、疑われても当然だとは思いませんか?」沙月は心臓を握りしめられたかのような感覚を覚えた。(違う……私は……そんな……) 呼吸が乱れ、全身から血の気が引いていく。刑事が訪ねてきて、容疑者扱いを受けるのはドラマや小説の世界だけの……自分とは無縁の世界だと思っていた。(それが……今目の前に刑事が座って、尋問を受けることになるなんて……!)刑事は、淡々とした声で追い打ちをかけてくる。「では、もう一度伺いましょう。あなたは井上氏と、昨日何を話していたのです? 彼を脅迫でもしていたのですか?」「ち、違います! そんなこと私はしていません! ただ……仕事の話です! データの内容がおかしく感じたので質問に行った、それだけです!」「それを我々に信じろと?」「え……」沙月は絶句した。 刑事はタブレットを指で弾きながら、冷たく続ける。「仕事内容の質問に行っただけで、青ざめて逃げていくものですかねぇ? 局の人たちは、『あれは、ただ事ではなかった』と証言していますよ」「! そ、それは……! 昨夜のことについて話をしたかったからです!」あの夜の恐怖が、鮮明に蘇ってくる。「昨夜のこと?」刑事が首を傾げる。「昨夜、私は強引に井上デスクに料亭へ呼び出されて……無理やり性接待をさせられそうになって……」その瞬間、刑事の目が驚いたように見開かれた。「性接待? それは初耳ですねぇ」声は穏やかだが、目は鋭い。「もしかして、意にそぐわない接待を無理やりさせられて、それで井上氏を恨んでいた……そういうことですか?」「違います! それは確かに酷いとは思いましたが……! でも、未遂で済んだんです! 天野司が助けに来てくれたおかげ……で……」言いかけたところで、刑事の視線が鋭く突き刺さる。 沙月の呼吸が止まりそうになる。(だめ……話せば話すほど……自分がどんどん不利になっていく……)刑事はどこか嬉しそうに目を細める。「なるほど。あなたには恨みを抱く理由もあるということですね。そして夫の天野氏が間一髪で助けに現れた、と。それでしたら彼も井上氏を恨む可能性は十分ありますな」 「……」 沙月は何も言えなかった。あの夜の記憶を呼び起こす。司が黒川に激しい怒りを向けたあの瞬間。(違う
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5-8 介入者

打ち合わせ室の扉が音もなく開き、霧島が姿を現した。「霧島さん!?」突然現れた霧島に驚き、沙月は目を見開く。刑事の表情が一瞬だけ強張る。「驚きましたな……まさか霧島先生が現れるとは。ですが御覧の通り今は捜査中です。関係者以外、勝手に入られては困りますねぇ」しかし、霧島は落ち着いた声で返事をした。「いえ、僕はれっきとした関係者です。実は天野司氏の秘書、佐野さんから連絡を受けたのですよ。もしかすると天野沙月さんが警察から不当な追及を受けるかもしれないと。それで急いでこちらへ伺ったのです」沙月は眼を見開いた。(司が私のために……霧島さんに……頼んだの? だって司は……霧島さんを敵視していたはずなのに……どうして……?)霧島は続ける。「その前に、管理会社で監視カメラ映像を確認してきました。天野沙月さんは昨夜、帰宅してから一度も外出していません。そうですよね?」霧島が振り返ると、背後からジャンバーを羽織った男性が現れた。「この方は、天野さんが入居しているマンションの管理会社の担当者です」男性は霧島の紹介を受けると緊張した面持ちで語った。「……はい。記録に残っています。そちらの女性はマンションに戻られてから、朝まで一度も外へ出ていませんでした。間違いありません」その言葉に刑事の眉がピクリと動き……悔しさを押し殺すように、低い声で告げる。「……そうですか。では、天野沙月さんが犯人だという可能性は低くなるわけですね」犯人という言葉に、沙月の肩が小さく跳ねる「ですが、捜査はまだ続きます。また伺うことがあるでしょう」刑事は霧島を一瞥し、苦笑いすると立ち上がる。「では、本日はこれで失礼します」刑事たち、そして最後に管理会社の男性が打ち合わせ室を出て行き、室内には沙月と霧島が残された。「はぁ……」打ち合わせ室に静寂が訪れると、沙月はため息をついた。緊張の糸がプツリと切れたようで、脱力感に襲われる。(こ、怖かった……)沙月の手が小さく震えている。そこへ霧島が距離を詰めると、労わるように声をかけてきた。「大丈夫でしたか? 沙月さん」その声音は先ほど刑事に向けていた鋭さとはまるで違い、優しさに満ちていた。「……は、はい。霧島さんのおかげで……助かりました……あのままだったら、私……本当に井上デスクを殺害した犯人にされていたかも……本当に、あ
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5-9 新たな脅迫

 澪が楽屋にこもり、震えていた同時刻――  朝の日差しが差し込む自宅のダイニングに白石美和の姿があった。美和は、食後のコーヒーを飲みながら雑誌のページをめくっている。 そのとき、テーブルに置いたスマホにメールの通知音が鳴り響いた。「……誰かしら?」スマホを見ると、見覚えのないアドレスだった。しかし件名には、はっきりと「白石美和様」と記されている。訝しみながらメールを開いた瞬間、美和の顔から血の気が引いた。『白石美和。これは警告だ。お前たちの【商品】に勝手な値札をつけ、黒川に売ろうとした愚か者の末路を見ろ。添付の写真は、井上の【今】だ。まだ誰も知らないし、報道もされていない。娘を守りたいなら、黙って従え。彼女の扱いを間違えるな。彼女の【価値】が分かっているのは、この家ではお前だけだろう? 次に彼女の身に何か起これば、次はお前たちの娘がただでは済まないと思え』「だ、誰なの……メールを送って来たのは……」添付ファイルのアイコンに美和の視線が釘付けになる。(井上の今って……? 愚か者の末路って……どういうことなの……?)果てしなく、イヤな予感しかない。確かめたくない。けれど、知らなければならない。 美和は震える指で、添付フォルダを開いた。「キャアッ!」美和の悲鳴がリビングに響く。はずみでカップを倒してしまい、コーヒーがテーブルの上に零れる。画面に映っていたのは、口を半開きにし、目を見開いたまま仰向けに倒れている井上の姿だった。 左腕は胸の上に置かれ、その上に白い百合が一輪添えられている。井上の目は……とても生身の人間には見えなかった。「そんな……まさか井上は……こ、殺された……?」 そのとき。 出勤準備を終えた遥が、バッグを肩にかけてリビングに入ってきた。 白石家の会社に「名前だけ」で所属する遥。いつものようにゆったりとした出勤だ。遥は目の前の光景に驚きの声を上げる。「お母さん! 何してるの!? コーヒーこぼれてるじゃない!」「あ……は、遥……」美和は震えたまま動けない。「あ〜もう! 全く!」遥はキッチンからペーパータオルを持ってきて、こぼれたコーヒーを拭き取りながら訝しげに母を見る。「お母さん? ねぇ? どうしたの? 何だか様子が変だよ?」「そ、そんなこと……な、無いわよ」ひきつった笑みは、震える指先とまったく
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5-10 疑いの目

 沙月は、霧島と打ち合わせ室を出た。その瞬間、フロアの空気が一変していることに気づいた。ざわつく声に、走り回るスタッフ。そして……井上の席の周囲には黄色い規制線が張られ、数人の警察官がデスクを囲んでいた。PCは外され、書類や引き出しの中身、ゴミ箱の紙くずまで次々とビニール袋に入れられていく。その様子を、局員たちが不安そうに遠巻きに見つめていた。「……え……?」沙月が呟くと、霧島は警察官たちが押収している様子を見つめた。「……井上さんのデスク、警察が調べ始めたようですね」「調べ……?」「何しろ、殺人事件ですからね……。あまり近づかない方がいいでしょう」「そう……ですね」先程の取り調べのことを思い出し、沙月の身体が震える。「……これから一体どうなるのでしょう。私たち、どうすれば……」霧島は一瞬だけ沙月を見て、すぐに周囲の混乱へ視線を戻した。「暫くは落ち着かなくなるでしょうね。それに……どうやら、今日は仕事どころではないかもしれませんよ」廊下のあちこちでは、警察官が局員を呼び止めて事情聴取をしている。中には泣きそうになっているADや、落ち着かない様子のディレクターが見えた。広報が走り回り、報道部長は警察と話し込んでいる。少しの間、その様子を見つめていた霧島は沙月に向き直った。「それでは沙月さん、僕はそろそろ行きます。残っている仕事があるので」「本当に、ありがとうございました」沙月が頭を下げて礼を述べると、霧島はふっと笑った。「礼なんていいですよ。……そうだ。なら、お礼代わりに今度、食事にでも付き合ってください」「えっ……!」混乱の中での突然の誘いに、沙月の声が上ずる。「アハハハ。ほんの冗談ですよ。それでは失礼します」霧島は軽く手を振り、いつもの穏やかな笑顔を残して去っていった。残された沙月は、騒然とした報道部の真ん中で自分だけが取り残されているような気がしてならなかった。そしてふと、司のことが頭に浮かぶ。(……まだ司は取り調べを受けているのかな? 私は霧島さんのお陰で助かったけど……)その時。「天野さん」背後から突然名前を呼ばれて振り返ると、報道部次長が険しい顔で立っていた。「警察が、天野さんにも話を聞きたいそうだ。会議室へいってもらえないか?」「あ……はい……」沙月は返事をすると会議室へ向かった―
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5-11 暗号解除

「真実を知りたければって……どういうこと……?」沙月の身体が震える。怖いと思う反面、SDカードの中身が気になってならなかった。それは報道部に身を置く沙月の本能だったのかもしれない。震える指で、SDカードをノートパソコンのスロットに差し込んだ。カチリと小さな音とともに、画面に無機質なウィンドウが浮かび上がる。《パスワードを入力してください》まさかパスワードが表示されるとは思わず目を見開いた。「……パスワード……?」そのとき、テーブルに置いたスマホにメールの着信音が鳴り響く。「キャア!」あまりにもタイミングが良すぎて、沙月は悲鳴を上げてしまった。恐る恐るスマホを見ると差出人不明のアドレスからだった。普段の沙月なら、差出人不明のメールは無視するところだが、あまりにもタイミングが良すぎる。「な、何が書かれているの……?」震えながら画面をタップし、ヒュッと息を飲む。『濡れ衣を晴らしたければ、鍵を開けろ。1時間以内に解け。5回間違えれば、このデータは消え、真実は闇に沈む。』「……濡れ衣……?」(濡れ衣……濡れ衣って……きっと井上デスクの『死』についてに違いない……)動悸が激しくなってくる。そこへ再び追い打ちをかけるように、再び着信音が鳴る。「な、何!?」悲鳴のような声をあげる沙月。着信相手は先ほどと同一人物からだった。『パスワードのヒントは三つ』『ヒント①:表と裏、どちらも同じ葉だ。ヒント②:音で読め。ヒント③:裏に書かれた名を思い出せ』「ヒント……」沙月は必死で考えた。(元々、私が警察に疑われるきっかけになったのは……デスクが私と会話した直後に逃げ出したから……)あの朝の会話が、鮮明によみがえる。『それで……デスク。昨夜の件ですが……』井上の、怯えた表情。そして適当な仕事を押し付けて逃げる背中。(そうだ……私は、料亭での話を聞こうとして……あ……!)「そういえば、あの料亭の名前は紅葉だった。『葉』という漢字がついてた……」「……葉……? 紅葉……」声に出した途端、心臓の鼓動が早くなる。(紅葉……もみじ……やっぱり、あの夜のことなんだ……きっとパスワードの答えは……!)沙月は震える指で、最初の答えをゆっくり打ち込んだ。MOMIZIそしてEnterを押す《パスワードが違います》「……え……?」血の気が
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