Tous les chapitres de : Chapitre 121 - Chapitre 130

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5-12 戦慄

《パスワードが解除されました》PC画面に文字が表示された。「せ……成功……した……?」沙月の全身から力が抜け、膝が震えた。画面のロックが外れ、フォルダが表示された。「一体……何がこのフォルダに入ってるの……?」食い入るようにフォルダを見つめる。心臓は今にも口から飛び出しそうにドクドクと早鐘を打っている。開けてはいけないものを開けてしまったような、そんな感覚に襲われる。「……」沙月はポストに入っていた手紙に視線を落とす。『真相が知りたければ中身を確認しろ。警察には知らせるな』(怖いけれど……見ないと。私は真実を届ける報道部員……そのためにテレビ局に入ったのだから……!)「確かめないと……!」意を決すると、震える指先で唯一の動画ファイルを選択する。そしてカチリと再生ボタンを押す。すると画面が暗転し、ノイズが走る。次の瞬間、澪の顔が映し出された。「……え!?」その表情はいつも自信で満ちている澪とは違っていた。枕の上に頭を乗せている澪。恐怖による涙で濡れ、必死に訴えている。『いや……やめて……許して……お願い……』その声は、沙月が知っている澪のものとは思えないほど弱々しかった。直後、画面の外から低い声が落ちてくる。『うるさい女だ……黙れ』「!」その一言で沙月の背筋が凍りつく。すると映像が揺れて視界が切り替わった。薄暗い部屋の一部……ベッドの端が映り込んでいる。ギシ……ギシ、ギシ……ギシ……ベッドの揺れと軋む音。澪のすすり泣きと、懇願する声。そして呻き声が遠くから聞こえてくる。「う、嘘……」姿は映り込んでいないが、澪がどんな目に遭っているのか分かってしまった。「……うっ……」沙月は口元を押さえ、画面から目を離せなかった。背筋が凍り、身体が震える。(そんな……! 澪さんが……? 司は知ってるの……?)するとベッドが一段と大きく軋み、ベッドから降りてきたのであろう。男の素足が映り込んで映像が終わった。再び画面は暗転する。次に表示されたのは、一枚の写真だった。そこに写っていたのは——井上。口を半開きにし、目を見開いたまま仰向けに倒れている。「キャアッ!!」沙月は思わず悲鳴を上げた。虚ろな瞳は、生きている者のそれとは違う。「い、井上……デスク……」恐怖で沙月の身体が小刻みに震える。彼の左腕は胸
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5-13 封印された証拠

 沙月が震えていると、フォルダの一覧に再び変化が現れた。カチッ小さな音とともに見覚えのないフォルダがひとつ増えていた。「きゃああっ……! な、何……!?」監視されているかもしれないのに、思わず悲鳴をあげてしまう。自分の声に自分で驚き、さらに動悸が激しくなる。小刻みに震えながら、新しく現れたフォルダを見つめる沙月。「ど、ど、どうして……? なんで……?」怖い。怖くてたまらない。また、さっきのような「見たくないもの」が入っているのは分かりきっていた。(見たくない……でも、見なければ見ないで、それも怖い……。相手は私を見てる。このフォルダを開かなかったら……何をされるか……)呼吸が苦しい。(だけど……私は報道部の人間。この先、もっと酷い現場を見るかもしれない……! こんなところで怯えてたら……記者なんてできない……!)必死に自分に言い聞かせ、震える指でマウスを握り直す。そして――カチリ新しいフォルダをクリックした。すると瞬時に画面が切り替わり、PDFファイルが映し出される。《極秘 内部告発資料》「え……? 告発資料……?」(告発って……何の告発なの……?)震える指先でスクロールする。そこにはテレビ局幹部による贈収賄の詳細が、実名入りで何ページにもわたって記されていた。いつ、どこで、どのように金が動いたか。どのスポンサーから、どの番組へ、どんな見返りが約束されたのか。文章は淡々としているのに、内容はあまりにも生々しい。その下には、文章を裏付けるように画像が並んでいた。札束が置かれたテーブルを囲む背広姿の男性たち。机の上には札束が乗っている。男たちの顔は半分しか映っていないが、その仕草や体格、スーツの色で局内の誰なのか想像がついてしまう。「……腐っているわ……こんなことが許されるなんて……」沙月は歯を食いしばる。画像の下には、関連動画のサムネイルがひとつ表示されていた。再生ボタンの三角形をクリックすると、天井と思しきアングルからの映像が映し出された。男たちが札束を数えて封筒を交換し、握手を交わしている。「……嘘でしょう……?」沙月は慌てて停止ボタンを押した。再び画面をスクロールすると、今度は性接待についての記述が続いていた。誰が女性を用意し、どのような店に連れて行き……何をさせたか。淡々とした文体
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5-14 白石家の影

封筒を押しやる男の手首に巻かれていたのは、光沢のある金属ケースに包まれた高級腕時計だった。文字盤は黒。中でもひときわ目を引くのが深紅の秒針だった。そして12時の位置には、小さな一粒のダイヤが埋め込まれている。他のインデックスは金属製なのに、そこだけが異質で光り輝いていた。(……この時計……)ケースの縁もベルトの金具も、どこか見覚えがある。だが、沙月が一番注目したのは深紅の秒針と、12時のダイヤ。「……間違いない……義父が大切にしている腕時計……」沙月の耳に、義父の声が蘇る。『これはな、限定モデルなんだ。世界に百本しかない。でも俺のは、さらに特注で作ってもらった。秒針は情熱を示す赤だ。そして12時には頂点の証としてダイヤを入れた。こんな仕様、他にはないぞ。どうだ? すごいだろう。自慢の一品だ』袖口から時計を覗かせ、何度も自慢げに語っていた声が今も耳に残っている。「まさか……義父は、横領に……井上デスクの死に関わっているの……? 義母も……?」会社を経営する白石家。社長は義父だが、実権を握るのは義母・美和だった。沙月の額から冷や汗が流れ落ちる。(家を出たとはいえ、私は白石家の人間……その私に、どうしてこのSDカードを……?)沙月は恐る恐る部屋の周囲を見渡した。こうしている今も、どこかで誰かに監視されているのではないか……そんな妄想が現実味を帯びて迫ってくる。そのとき。傍らに置いたスマホから、突然着信音が鳴り響いた。「きゃあ!」すっかり神経過敏になっていた沙月は、反射的に悲鳴を上げた。(だ、誰……? まさか……私を監視している相手……?)恐る恐る画面を見て、息を飲む。着信相手は司だったのだ。(司……!)沙月は震える指でスマホをタップし、耳に当てると同時にショルダーバッグを肩にかけると玄関へ向かった。(ここで電話はかけられない――!)「も、もしもし?」応答する声が上ずる。『俺だ。仕事中じゃなかったのか? 念のために電話をかけてみたのだが……もし忙しいなら後でかけ——』「大丈夫よ!」沙月は部屋を飛び出し、鍵を掛けると通用階段へ向かった。『おい、職場でそんな大きな声を上げてもいいのか?』「大丈夫よ、今日はもう帰って来たから」階段を下りながら、沙月は必死に声を抑える。どこで監視されているか分からない以上、とに
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5-15 密室での会話

 司との電話を終えた沙月は、マンション近くにあるチェーン店のカフェに来ていた。一番奥の席に腰を下ろすと、震える指先でショルダーバッグの中を探る。咄嗟に持って飛び出したSDカードが、本当にバッグの中にあるのか確かめたかったからだ。「!」指先が固いプラスチックに触れた瞬間、安堵の息が漏れる。「……良かった……ちゃんと……」そのとき、指先がもうひとつの小さな機器に触れた。「……え?」取り出してみると、それはモバイル用のSDカードリーダーだった。(……そうだ……私……いつも持ち歩いてたんだ……)報道部員の沙月。写真や映像をすぐスマホで確認できるように、常にバッグにいれて持ち歩いていたのだ。(これがあれば、あの写真だけスマホに移せる……!)SDカードの中には、絶対に司に見せられないものが多すぎた。澪が性行為を供されている動画。井上デスクの遺体写真。義父の、賄賂の証拠。全部、見せられない。(でも……あの写真だけなら……!)「……これだけなら……司にも……」沙月は震える手で、カードリーダーにSDカードを差し込んだ。カチッ、と小さな音がしてスマホの画面にフォルダが表示される。(……大丈夫……落ち着くのよ……)深呼吸をひとつして、霧島と自分が写っている写真だけを選び、スマホへコピーする。指先が震えて、何度もタップを間違えそうになる。(……これだけ……これだけなら……)コピーが完了した瞬間、沙月は小さく息を吐いた。(移せた……でも……)店内をそっと見渡す。十名ほどの客と、数名の店員。その誰もが自分を監視しているように感じてならない。(司……早く来て……)スマホを握りしめて入口の方を不安げに見つめていると、自動ドアが開いて司が現れた。(司……!)司は少し髪が乱れていた。店内を見渡し、沙月を見つけると大股で近づいてくる。「すまん、待たせたか? 一体何があった?」向かい側の席に座ると、司は低い声で尋ねた。「……ここでは、話しにくいの。人の目があるから……」沙月は周囲をそっと伺う。「分かった。なら車で話そう。駐車場に止めてある」沙月は頷き、二人は店を出た――**** 車内に入ると、運転席に座った司が静かに尋ねる。「……それで、何があった?」沙月はスマホを握りしめたまま、小さく息を吸う。「私……監視されてい
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5-16 意地を張る二人

「……隠し事なんかしていないって言ってるでしょう」沙月は強く言い切った。けれどその声は、僅かに震えている。司はその震えを見逃さなかった。「嘘だな」「嘘じゃないわよ」「じゃあ、あのマンションは引き払え」思いもよらない言葉に、沙月は眼を見張る。「はあ? なんでよ」「監視されてたんだろう。住み続ける理由はない」「そんな簡単に引っ越せるわけないでしょ。お金だって——」言いかけて、沙月は口をつぐんだ。脳裏に浮かぶのは、井上の変わり果てた姿。何者かに性行為を強要されている澪の泣き声。義父の封筒を受け取る手。そして、自分の部屋を見下ろす監視カメラの影。(もしかして……次は私の番? 怖い……)思わず俯くと、司は躊躇いがちに言った。「……だったら、俺のところへ戻ってくればいい」「! 無理に決まっているでしょう!?」あまりの言葉に驚く沙月。「なんでだ」「だって……司の家にだって、監視カメラがあるかもしれないでしょ? そんなところに行けるわけないじゃない!」(だって私たちは離婚する。それに澪さんがいるのに、戻れるはずないじゃない! 何を考えてるのよ……!)司は一瞬だけ目を見開いた。「……そうか……俺の家も監視か……それは……思いつかなかった」声には焦りが滲んでいる。「それなら何か他に方法を考えないとな」「……いいわ。自分で何とかするから」「……まだ夫だからな。少しは頼れ。そのために俺を呼んだんだろう?」「!」沙月は息を呑んだ。「……だけど、迷惑じゃないの?」「迷惑なら来てない。とりあえず、あのマンションはすぐに解約だ。今夜はどこかホテルにでも宿泊した方がいいだろう」淡々と言い放つ司に、ほんの一瞬だけ沙月は迷った。(だったら……ここは……甘えてもいいのかもしれない……いずれ……この仮はちゃんと返せば……それでいい……よね……?)「……分かったわ。必要な物だけ持っていく」「とにかくすぐに次のマンションを探すぞ。単身者向けで、セキュリティの高い部屋だ。……何しろ、隣には油断ならない相手もいるしな」油断ならない相手という言葉に引っかかる沙月。「ねぇ、隣って……もしかして霧島さんのこと?」しかし、司は答えない。代わりにスマホを取り出し、電話をかけた。「……俺だ。佐野、今すぐ、セキュリティの高い単身者向けのマンション
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5-17 信頼が崩れる時

「霧島……」司は敵意を隠すことなく霧島を睨みつけた。その目は、今にも殴りかかりそうなほど鋭い。「そんなに睨むなよ。もうあの日以来、沙月さんの部屋には上がっていないんだから」霧島はおどけたように肩をすくめたが、その瞳の奥は笑っていない。「当然だ」司は吐き捨てるように言い、顎を引いて霧島を睨み返す。 二人の間に漂う殺気に、沙月は思わず間に割って入った。「こんにちは、霧島さん」「こんにちは。……沙月さん」霧島は沙月に笑顔を向ける。「こんな時間に、おそろいでどうしたんです? 天野は取り調べは終わったのか?」「……何だと?」司の声が低くなり、周囲の空気がピンと張り詰めた。(霧島さん……! どうして司を刺激するようなことを……)「見ての通りだ。終わったからここにいる。それより、お前こそ何でこんな時間にここへいる?」「仕事で使う私物を取りに来ただけだよ。それで天野、沙月さんの部屋の前で何をしているんだい?」「何故お前に話さなければならない? 関係ないだろう?」霧島の声は静かだが、挑発そのものだった。 司は苛立ちを隠さず、沙月の肩に手を添える。「こんな奴に構う必要はない。部屋に入るぞ」「すみません、霧島さん……」沙月が霧島に謝罪すると、司は眉を顰めた。「謝るな。あんな奴に頭を下げる必要はない」「そんな言い方、霧島さんに失礼でしょ」司を咎めると、沙月は改めて霧島に挨拶した。「それでは失礼します」沙月が扉を開け、司が続こうとしたその瞬間——「そうだ、天野」霧島の声が背中に突き刺さった。「……何だ?」「昨夜、二十時頃に新宿のスカイレジデンスホテルで朝霧澪さんとフロントにいたな。その後、二人でエレベーターホールへ向かっていったようだけど……朝霧さんと宿泊したのかい?」「!」沙月は息を呑み、司を振り返った。 司の顔は、血の気が引いたように青ざめていた。 唇が固く結ばれ、霧島を睨みつける。「霧島……! お前……どういうつもりだ!」司は霧島のネクタイを掴み、壁に押しつけた。「何故怒るんだ? ただ事実を聞いただけだ」「貴様……!」司の怒号が廊下に響く。(嘘……? 司は昨夜、澪さんと……?)「つ、司……」沙月の声は震えていた。「沙月……」振り返った司の顔は、顔面蒼白になっている。 その表情だけで、沙月は悟ってし
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5-18 ここから私は変わる

少しの間、涙を拭きながら床にうずくまっていた沙月だったが……やがてゆっくりと立ち上がった。(……そうよ。もう司は二度と宛てにしない。あの家を出たとき、私は覚悟していたじゃない。最初から司が大切にしていたのは——朝霧澪さんだったんだから。それに、あのSDカードと手紙……送り主の目的はまだよく分からないけれど、パスワードまでかけてあんなものを送ってくるなんて……きっと私を試しているに違いない……)部屋を見渡す。引っ越してきたばかりの部屋。けれど、どこに監視カメラが仕掛けられているか分からない空間に、未練など一つもなかった。(こんな場所、もう私の家じゃない。今すぐ出るべきだわ)クローゼットから大きなスーツケースを引っ張り出し、無言で荷造りを始める。(いいわ……好きなだけ監視すればいい。だって私は、もうここを捨てるのだから)覚悟が決まると、沙月の動きは驚くほど淡々としていた。黙々と沙月は荷造りを続けるのだった―― ――18時過ぎ。「……ふぅ」 部屋を見渡すと、もうほとんど何も残っていない。単身で来た部屋だから、荷物も少ない。「段ボール、残しておいて良かった……」足元の箱を見つめる。「……このPCも、もう使わない方がいいわね」テーブルの上のPCに視線を落とす。ここに置いていくわけにもいかない。PCをケースにしまい、スーツケースを二つ手に取る。沙月は一度も振り返らず、マンションを後にした――****――21時過ぎ。都内のビジネスホテルに沙月の姿はあった。「ふぅ……気持ちよかった」シャワーを浴びたばかりのバスローブ姿で、沙月はベッドに腰を下ろす。「今日は疲れたわ……」沙月の呟きも当然だった。何しろ、マンションの解約手続き。荷物を運送会社に連絡して、予約を入れた。そして次の引っ越し先が決まるまでの間、トランクルームの手続きまで済ませたのだ。「でも、これで少しは安心ね」9畳ほどの簡素な部屋、料金は1泊5500円。「……司から貰った慰謝料のお陰で助かったわ」そう呟いた瞬間、ハッとする。「……やだ。私ったら、あんな男の名前を……!」ブンブンと首を振り、気持ちを切り替える。備え付けのPCの電源を入れ、足元の自分のPCケースを見下ろす。「新しいPCも買わなきゃ……でもその前に新居探しね。あ、そうだ、真琴に電話しなきゃ」バッグ
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5-19 電話では言えないこと

「え……? もうニュースになってるの……」尋ねる声が震える。『そうだよ! 大騒ぎになってる! 沙月の方は大丈夫? 色々大変だったんじゃないの?』真琴の声は、本気で沙月を案じていた。親友の優しさに胸の奥がぎゅっと締めつけられる。(大丈夫って言いたいけど……真琴は弁護士。嘘なんてすぐ見抜かれるわ)「ま、まぁ……色々あったよ」『仕事はどうだったの?』「今日は……仕事にならないからって、帰らされたの」『そうだったの……それじゃ、今はマンションにいるのね?』「!」思わず息を飲む沙月。それだけで真琴に気付かれた。『沙月……まさか今、マンションじゃないの?』「……実は、もう出てきたの。ちょっと色々あって……それで……」そのとき。沙月の局専用スマホに着信が入る。相手は AD高橋だった。「あ、ごめん真琴。職場から電話が入っちゃった。ちょっと一旦切るね」『うん、待ってる』沙月は通話を切り、局スマホをタップした。「はい、天野です」『……天野さんですか? 今、お話しできます?』「はい、大丈夫です。どうされましたか?」『あの……上の方から先ほど連絡がありまして。しばらく天野さんは自宅待機でお願いします、とのことです。リモートで作業するようにって……』「……リモート勤務、ですか?」予想もしていなかった話に沙月は眼を見開く。『はい。局内がまだ落ち着いていなくて……警察の方も引き続き来ていますし、詳しいことは僕も聞かされていないんですが……明日以降のことは、また改めて連絡します』高橋の声には戸惑いが混じっているように感じた。「承知しました。ご連絡ありがとうございます」『いえ……遅い時間にすみません。何かあったら、すぐ言ってくださいね』「ありがとうございます」『それでは失礼いたします』高橋からの通話が切れ、部屋に静寂が戻る。「……まさか、リモート勤務になるなんて……」(でもその方が都合がいいかも。出社すれば司に会ってしまうかもしれないし)沙月は息を吐くと、再び真琴の番号をタップした。トゥルルルル……『もしもし!?』真琴はワンコールで電話に出た。「ごめんね、真琴。電話終わったから」『そうだったの? どんな内容……あ、ごめん。守秘義務があったわよね』「ううん、大丈夫。暫く出社しなくていいって。リモート勤務になったの」『リモ
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5-20 駆けつける親友

 二十二時半――「……」 部屋の一室に沙月の姿があった。沙月は自分の宿泊する部屋の窓から、夜の街を無言で眺めていた。――そのとき。テーブルの上のスマホが突然室内に鳴り響く。 画面には真琴の名前が表示されている。「もしもし!?」慌てて応答すると、すぐに真琴の声が聞こえてきた。『沙月? 今ホテルに着いたよ。部屋番号教えて』「三〇五号室よ」『分かった、すぐ行く』通話が切れ、沙月は扉を見つめた。 真琴は沙月の話を聞き、すぐに向かうと決めてくれたのだ。「真琴……」親友の名を呟いたその瞬間―― ――ピンポーン 室内にインターホンが響く。 ドアアイを覗くと、真琴の姿が映っていた。 沙月がドアを開けると、真琴は素早く中へ入ると鍵を掛けた。「沙月、大丈夫だった?」真琴の顔には心配そうな表情が浮かんでいる。「う、うん……ごめんね。こんな夜分にわざわざ来てもらって」「いいのよ。弁護士なんて、いつ呼び出されるか分からない仕事なんだから。それに何より親友の頼みなら、尚更だから。とりあえず座って話そう?」真琴は軽く肩をすくめ、沙月をソファへ促した。「そうね」向かい合って座る二人。 テーブルには沙月のPCが置かれていた。「それで、一体何があったの? 電話ではただ事ではない様子だったけど?」「……うん。今日、仕事にならないから帰るように言われて……マンションに戻ったの。そしたら郵便ポストにSDカードと手紙が入ってたのよ」「手紙とSDカード?」真琴の眉がわずかに寄る。「これよ」沙月は手紙を差し出した。 真琴は目を通し、表情を険しくする。「……何これ。『真相が知りたければ中身を確認しろ。警察には知らせるな』って……完全な脅迫じゃない」「やっぱり……そう思う?」「当然。こんなの普通じゃないわ」真琴の声が低くなる。「それで、SDカードは?」「ここに入ってる」沙月はPCを立ち上げながら説明した。「SDカードにはパスワードがかかってたの。差した瞬間、私のスマホに暗号文が送られてきて……『五回間違えたらデータは消え、真実は闇に潜む』って。何とか解除はできたけど……」「……暗号文? パスワード回数制限? 自己消滅メッセージ……?」真琴は膝を組み直し、深く息を吐いた。「沙月、それ、ただのSDカードじゃないわ。犯罪者やハッカーが
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5-21 真琴の推理

「……」PCの画面に映るSDカードの中身を見つめながら、真琴は長いあいだ一言も発しなかった。眉をひそめ、目を見開き……時折息を呑む。その反応に、沙月は息を潜めるようにして真琴の横顔を見守っていた。やがて――「……ふぅ……」真琴は大きく息を吐き、ソファの背もたれに寄りかかる。「……どうだった?」沙月は恐る恐る尋ねる。「どうもこうも……驚いたでしょう? 沙月」「真琴……」「素人……しかも女にこんなもの見せるなんて、相手はどういうつもりかしら。SDカードの暗号を解かせるだけでも十分脅しよ。……それとも、面白がっているか、沙月を試しているか……」「試す? 私を?」「うーん、ごめん。今のは私の勘。でも……驚きの内容ばかりだったわ。不正取引、性接待……朝霧澪のセンシティブな動画に、被害者の遺体写真。しかもあの写真、普通じゃない。遺体に白い百合を飾るなんて、イカれてるとしか思えない」真琴は画面から目を離し、深く息を吐いた。その横顔には、弁護士としての冷静さと、親友を案じる緊張が入り混じっていた。「……沙月。犯人は、ほぼ間違いなく男よ」沙月は思わず身を固くした。「え……どうして、そんなことが分かるの?」真琴は指先でテーブルを軽く叩きながら、淡々と説明を続けた。「まず、女性が『女性の性暴行動画』を脅し目的で送りつけるなんて、ほとんどあり得ないの。私は仕事柄、性犯罪の資料も見るけれど……こういう手口は圧倒的に男性に多いわ」「!」沙月の肩がピクリと跳ねる。「それに、このSDカードの内容……不正取引、賄賂、性接待。全部、男社会の中で起きる犯罪よ。女性がこんな証拠を集めて、わざわざ暗号化して送りつけるなんて考えにくい」真琴の目が鋭く細められる。「極めつけは、遺体に白い百合を飾るという演出。あれは支配欲と自己顕示欲の強い男性の犯行心理に近いわ。女性はああいう死体の飾り方をしない。あれは……見せつけるための行為よ」「見せ……つける?」沙月は息を呑んだ。真琴は沙月の手にそっと触れた。「だから沙月……これは、あなたを脅すために男がやっている。あなたを狙っているのよ。ねぇ沙月。こんなSDカードを送りつけられるなんて……何か心当たりあるんじゃないの?」「真琴……」「お願い、話して」真琴は沙月の手を上から握りしめた。その目は真剣で、弁護士
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