朝霧澪――天野司の元恋人。かつて朝霧澪が突然国外へ消えたせいで、天野司は結婚式場に現れなかった――説明の一言すらなかったのだ。沙月はずっと思っていた。澪はもうこの国を離れ、司の世界から消えたのだと。それなのに司が、彼女と一緒にいる?しかもこのタイミングで病院に……?沙月は痛む身体を何とか起こし、ベッドから降りた。壁に手をつき、ふらつきながら廊下を歩き……気づけば13号室の前に立っていた。扉は少し開いており、隙間から見えたのは――司が病床のそばに座り、澪の手をそっと握る姿。沙月が今まで見たことのない優しい笑みを浮かべていた。「!」その瞬間、沙月は息が詰まりそうになった。胸の中の感情を必死に押さえようとするが、澪の声が耳に飛び込んできた。「良かったわ……子供は無事で」澪が自分のお腹にそっと手を当てる様子を見てしまう。ドクンッ!世界が一瞬静まり返った。(子供……? まさか……もう2人の間には子供がいたの……?)その瞬間、脳内に爆弾が投げ込まれたような衝撃を受けた。澪の笑い声、そして「子供は無事」という言葉。血の気が引くように全身が冷え、手足は氷のように冷たくなった。呼吸すら忘れそうになり、心臓がキリキリと締め付けられるような痛みを伴う。「2人は……いつの間に……よりを戻していたの……?」声を震わせながら呟く沙月。けれど……。2人の結婚生活の間、彼らは本当に一度も離れていなかったのだろうか?この2年間、沙月は「妻」として天野司の傍にいた。けれど彼の心に近づくことは一度もできなかった。近づこうとするたび、冷たく突き放されてきた。本当は分かっていた。天野司の「妻」であっても、自分には立場などないことを――****――あの晩餐会の夜薬を盛られた沙月は、司と一夜を共にしてしまった。それは互いが望んだわけではなかった。けれどその一夜が全てを決め、天野家の体面を守るために2人は結婚することになったのだった。司はこの結婚を露骨にイヤそうな態度で承諾したが、沙月は天にも昇るほど嬉しい気持ちで一杯だった。何故なら沙月は誰にも告げていなかったが、ずっと司に恋焦がれていたからだ。自分の手に届かない憧れの存在……それが司。その相手と結婚できるのだ。まるで夢のように幸せだった。今は自分に冷たい態度しか見せないが、誠心誠意をもっ
Last Updated : 2025-09-15 Read more