All Chapters of 冷酷御曹司は逃げた妻を愛してやまない: Chapter 81 - Chapter 90

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3-31 糾弾 2

 沙月は驚いて司を見つめる。(司……! まさかつけてきたの!?)司は沙月の横を素通りすると、女性局員たちに近づいた。「彼女は機材室に閉じ込められていた。しかも中からは開けられないように外から鍵がかけられていた。そして、そのことについて彼女は一言も触れていないのに……君たちは機材室に鍵がかけられていたことを知っていた。一体どういうことだ!?」司の責める声が報道部に響き渡り、しんとフロアが静まり返る。相手は天野グループの若き社長。しかも局のスポンサーだ。これにはさすがのデスクも口を出せない。女性社員たちは青ざめたまま、小刻みに震えている。誰も司の視線を正面から受け止められない。「彼女はこの局に入ったばかりの新人だ。それなのによってたかって嫌がらせをしているとは……呆れたものだ」怒りを抑えた口調で語る司の背中を、沙月は信じられない思いで見つめていた。(司……どうして……?)「とにかく、このことは上に話を通しておく。もし、また彼女に同じような嫌がらせをした場合……天野グループはスポンサーから降ろさせてもらおう」「!」その言葉に報道部が凍り付き、デスクが慌てて駆け寄って来た。「天野社長! も、申し訳ございません! 彼女達には反省文を書かせ、天野さんには正式に謝罪させます! どうか、スポンサーを降りることだけは……!」いつも威張り散らしているデスクが平謝りに頭を下げているのを、沙月は信じられない思いで見つめていた。「それは今後の君たちの出方次第だ」司の声は冷ややかだが、有無を言わさぬ威圧感がある。そして次に司は沙月に視線を移した。「もう退社時間は過ぎている。そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」「え……?」するとデスクが笑顔を作り、沙月に話しかける。「そ、そうしなさい。顔色が悪いようだし」「……はい……分かりました」沙月は「お先に失礼します」と会釈すると、重苦しい空気の報道部を後にした。背後では、誰もが凍り付いたまま動けずにいた――****――翌日。「……おはようございます」恐る恐る沙月が出社すると、報道部の空気は昨日とはまるで違っていた。澪の手下だった女性社員たちは彼女を見ると、気まずそうに視線を逸らし、誰も直接嫌味を言う者はいなかった。デスクも妙に柔らかい口調で「おはよう。調子はどうだね?」と声をかけてくる。
last updateLast Updated : 2025-12-10
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4-1 新しい生活の始まり

沙月が機材室に閉じ込められた一件から、早いもので一か月が経過していた。その間、局内では様々な変化が起こっていた。まず澪は報道部からアナウンス部へ異動となった。表向きは「栄転」とされていたが、実際には報道部から遠ざけられた形である。沙月に対する嫌がらせを主導していた女性社員たちは、華やかな現場から外され、資料室や庶務課といった地味な部署へと回された。番組制作の最前線から外され、日々の雑務に追われる彼女たち。かつての勢いを失い、自分たちが馬鹿にしていた相手からこき使われる立場に逆転されてしまっていた。さらに報道部のデスクは降格処分となり、地方支局への異動が決まった。いつも威張り散らしていた彼の姿は、局内から忽然と消えたのだった。これらの人事異動は、天野グループのスポンサーとしての影響力が背景にあった。司が上層部へ圧力をかけた結果、沙月に嫌がらせをしていた局員たちを粛正した形になったのである。沙月はその変化に戸惑っていた。確かに自分を守ってくれる存在がいることは心強い。だがその相手が司だと言うことに複雑な心境を抱いていた。何故今頃になって自分の為に動いたのか、司が何を考えているのか、さっぱり分からずにいた。(でも、私も変わらないと……)周囲の環境が変化したことにより、沙月も以前から考えていた計画を実行することにしたのだった――****――よく晴れた土曜日の朝。沙月は真琴の部屋の玄関に立っていた。その向かい側には真琴もいる。「真琴、今まで本当にありがとう」ショルダーバッグを下げた沙月が笑顔で告げる。「沙月……本当に引越ししちゃうの? 私としてはずっとここで暮らしてもらっても良かったのに。何しろ沙月の手料理は最高に美味しかったもの」「アハハハ。今さら何を言ってるの? もうマンションの賃貸契約を結んでいるのに。手料理が食べたければ、いつでも作りに行ってあげる。もちろん、私の部屋に来てもらってもいいし」笑う沙月の顔は晴れやかだった。「うん……分かった。でもごめんね。引っ越し手伝えなくて……」「やだ、謝らないで。だって真琴はこれからオンライン業務があるじゃない。荷物は全部トラックで運んであるし、元々荷物だって殆ど無いから1人で大丈夫よ」「分かった……元気でね」「うん、真琴も」2人は玄関前で別れの抱擁をし、沙月は真琴に見送られ
last updateLast Updated : 2025-12-11
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4-2 偶然の2人

――翌朝7時ピピピピ…… 四畳半の寝室にスマホのアラーム音が鳴り響く。「う~ん……」布団の中から沙月が手を伸ばしてアラームを止めた。「もう朝なのね……よく寝たわ……」身体を起こすと、思い切り伸びをし……改めて室内を見渡した。ブルーのカーテンの隙間からは太陽の光が差し込み、室内を明るく照らしている。フローリング床の上にはまだ未開封の段ボール箱が何箱も置かれていた。それらを満足して見つめると、沙月の顔に笑みが浮かぶ。「フフ……何だかまだ夢を見ているみたい。でもここが私の新居……」虐げられ、息が詰まるような窮屈だった白石家でも、居候の身分でも何でもない。この部屋は沙月の、自分だけの城なのだ。「今日中に全部の荷ほどきと、家具の組み立てをしなくちゃ」自分に言い聞かせると、沙月は朝の支度を始める為に布団から出た――  **** 生活に必要な家電は昨日のうちに全て設置済みだった。トーストに牛乳という極めて簡単な食事を済ませると、沙月は早速段ボールの荷ほどきを始めた。  15時半―― 「ふぅ……こんなものかしら?」床の上に無造作に置かれていた段ボールはほとんど片付き、ようやく1人暮らしの女性らしい部屋になってきた。ダイニングには小さなテーブルと椅子を置き、備え付けの棚には最低限の食器と調理器具が並んでいる。けれど寝室の隅には、まだ未開封の大きな箱……ベッドフレームが残されていた。「これを組み立てないと、今夜も床にマットレス直置きで寝ることになるわね……」箱を開封し、説明書を広げて部品を取り出してみる。だがネジや金具の数に目が回り、思わずため息をついてしまった。 「うぅ……思ったより大変そう……それに大きくて重いし、1人で組み立てるのは大変ね……」一瞬、脳裏に真琴の姿が浮かぶも首を振った。「ううん、駄目よ。真琴だって忙しいんだから。これからは自立を目指すって決めたのだから自分で何とかしないと。……もっと使いやすい工具を買えば、ひとりで組み立てられるかも」そこで沙月は工具を買うため、駅の近くにあるホームセンターに行くことにした。マンションの玄関を出た瞬間、沙月は思わず目を見開いた。 こちらに向かってくる霧島と目が合ったのだ。 「霧島さん……!?」 「天野さん……?」 「どうしてここに?」2人の声が同時に重なる。
last updateLast Updated : 2025-12-12
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4-3 親切な隣人 1

「どうぞ、お入りください」霧島に声をかける沙月。部屋は既に荷ほどきが終わり、すっかり奇麗に片付いている。「おじゃまします」続いて霧島が室内へ入り、周囲を見渡す。「へえ……僕と同じ間取りなのに、やっぱり女性の部屋は違いますね。華やかで明るい。素敵ですね」」「そう言っていただけると嬉しいです」生まれて初めて手に入れた一人だけの城。インテリアには沙月の好きなものが並び、こだわりが詰まっていた。それを褒められ、頬がほんのり赤く染まる。「それで、ベッドフレームはどこに?」「はい、こちらです」沙月は日当たりの良い寝室へ案内すると、部品は床に散らばったままになっている。「これですね?」「ええ、すみません。ごちゃごちゃしてしまって……自分で組み立てるつもりだったので。分かりづらいですよね?」申し訳なく思い、沙月は頭を下げる。「大丈夫ですよ。それくらいのこと、気にしないでください。それでは早速始めましょう」霧島は腕まくりをして床に座り込んだ。「あの……私も何かお手伝いします」「いえ、一人で大丈夫ですよ。天野さんはご自分のことをしていてください」笑顔で答える霧島に、沙月は少し戸惑いながらも頷いた。「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」そこで沙月はバスルームへ行くと、風呂場の掃除を始めた。****十五分ほどで掃除を終え、霧島の様子をそっと覗くと、組み立てはもう半分ほど進んでいた。(わざわざ組み立ててもらっているのに、何かお礼をしないと悪いわよね……)時計を見ると、時刻はすでに16時を過ぎている。沙月は霧島のためにコーヒーを淹れることにした。「天野さん、終わりましたよ」お湯が沸いた頃、霧島がキッチンに現れた。「本当ですか? ありがとうございます」「ベッドの位置、どこにすれば良いですか?」「はい、今行きます」寝室に戻ると、ベッドフレームはマットレスが置かれていた場所に設置されていた。「とりあえずこちらに置いてみましたが、どうでしょう?」「はい、ここで大丈夫です。本当に助かりました」「そうですか、良かった」そこで沙月は少し緊張しながら口を開いた。「あの……折角ですし、コーヒーでもいかがですか?」すると霧島の顔に笑みが広がる。「ありがとうございます。コーヒー好きなんですよ」「では、どうぞこちらへ」
last updateLast Updated : 2025-12-17
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4-4 親切な隣人 2

彼の優しさに触れるたび、司に冷たい態度を取られた過去の出来事ばかりが思い出される。(もう司のことは忘れるのよ。私はここから新しい生活を始めるのだから)「ところで天野さん。その後、職場の方は大丈夫ですか?」不意に霧島が尋ねてきた。「はい、大丈夫です。今は平穏に仕事をしています」「そうでしたか。最近大きな人事異動があったようですが、環境が良くなられたのは何よりですね」「ありがとうございます」人事の件で、再び司のことを思い出した時。――ピンポーン突然インターホンの電子音が部屋に響き渡る。「……あら? 誰かしら? すみません、ちょっと確認してきます」「ええ、どうぞ」沙月は玄関へ向かい、モニター画面を覗き込んだ瞬間、息を呑む。そこに映っていたのは司だったのだ。「つ、司……!」(ど、どうしてここに……!? 何故私の引っ越し先を知っているの?)血の気が引き、身体が震える。思わず後ずさりしそうになったとき。「どうかしましたか?」霧島が背後から声をかけてきた。「あ、あの……」沙月は振り返り、言葉を失ったまま霧島を見つめる。(よりにもよって、霧島さんが来ている時に訪ねて来るなんて……! 最悪だわ……どうしたらいいの?)モニター越しに司の声が響く。『沙月……いるのは分かっているんだぞ。ここを開けろ』沙月は今の状況をどう回避すれば良いのか分からなかった。「天野さん? どうかしましたか?」青ざめる沙月に、霧島が心配そうに近づく。「あ、あの……」震える声で振り向く沙月。「失礼」霧島は沙月の肩越しにモニターを覗き込み、苦笑を浮かべた。「……あぁ。誰かと思えば、天野か……」「え? 霧島さん……?」モニター越しに、苛立ちを隠さない司の声が響く。『沙月、どうした? いるのは分かってる。早く開けろ』「開けてあげたらどうです?」霧島が穏やかに言う。「え……?」聞きたいことは山ほどあったが、沙月の喉は塞がれたように言葉を失っていた。それに何故か、霧島が何とかしてくれるような気もする。(だ、だけど……)胸の奥で鼓動が早鐘のように鳴り響く。それでもまだ躊躇っていると、ついに司はドンドンと扉を叩き始めた。(仕方ないわ……もう、なるようになれよ)沙月は震える手でドアノブを回し、扉を開けた。「沙月! いるなら何故さっさと扉を開
last updateLast Updated : 2025-12-18
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4-5 修羅場

 司は敵意を込めた目で霧島を睨みつけていた。一方の霧島は余裕の笑みを浮かべ、司の視線を正面から受け止めている。「え? あ、あの……もしかして二人は知り合い同士だったの?」沙月が恐る恐る問いかける。「……」しかし司は答えず、無言を通している。代わりに霧島が笑顔で答えた。「そうですよ、沙月さん。僕と天野は同じ大学だったんです。学部は違うけどね」「そ、そうですか……」突然名前で呼ばれ、沙月は困惑する。(どうして、こんな時に私を名前で呼ぶのかしら……)「霧島、人の妻を名前で呼ぶなと言っただろう! 大体、なぜお前が俺の妻の部屋にいる!?」司の声には苛立ちが滲んでいた。「だからさっき言っただろう? 家具を組み立てる手伝いをするためだよ。それに妻と呼ぶなら、何故別居してるんだ?」「それは沙月が勝手に家を出て行っただけだ! 」その言葉に、沙月の胸に怒りが込み上げる。「いい加減にして! 霧島さんは親切心で困っている私を助けてくれただけよ! 責めるのはやめて! それに私たち、もう離婚したのでしょう? 離婚届にサインをして渡してあるでしょう? あなたの方こそ、どうしてここへ来たのよ! 何故ここが分かったの!?」司は一瞬、視線を逸らし、低く答えた。「……まだ提出はしていない。契約は三年間だ。期限が来るまでは、俺たちは夫婦でいる義務がある。天野グループの力を使えば、お前の居場所など、どうってことは無い。すぐに探し出せる」「まるでストーカーだな」ポツリと小声でつぶやく霧島の言葉を司は無視する。「契約……? そんなもの、ただの口実でしょう!」沙月は強く反発した。すると霧島が、穏やかな笑みを浮かべながら口を挟んだ。「なるほど。契約を理由にしているのか。でも、期限を盾にしているのは、本当は未練があるからじゃないか?」「うるさい! 夫婦のことに口を挟むな!」司が声を荒げるも、霧島は肩をすくめて余裕のまま続ける。「強がっているけど、沙月さんを手放せないんだろう? 契約なんてただの言い訳に過ぎないさ」「……違う!」司は声を張り上げたが、その瞳はどこか揺らいでいる。沙月は言い合いをする二人の間に立ち尽くし、すっかり困惑していた。(どうして私のことなのに、二人がここまで言い合うの……?)すると司が乱暴に手を振った。「もういい! とりあえず霧島
last updateLast Updated : 2025-12-19
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4-6 ここへきた理由

「いいや、思い込みなんかじゃない! とにかく霧島だけはダメだ! 絶対に俺は認めないからな!」司は声を荒げて強く反発するが、沙月も負けてはいない。「どうしてそこまで霧島さんを悪く言うのよ? 二人は親友同士じゃなかったの? それに霧島さんは、とても優しくて素敵な人よ!」必死の思いで抗議する。沙月は別に霧島と特別な関係を持ちたいわけではなかった。ただ、司がここまで嫌悪する理由が分からずにいた。すると司の目つきが変わる。「何……? 霧島が素敵だと……? 沙月……ひょっとして、あいつがここに住んでいるから引っ越してきたんじゃないだろうな!?」あまりの言い分に、沙月の声も大きくなる。「そんなはずないでしょう! ただの偶然よ! 私だって、今日知ったばかりだもの! とにかくこれ以上霧島さんを悪く言うのはやめて!」「お前は霧島の本性を知らないから、そんなことが言えるんだ! あいつの家と天野家がどういう関係か、分かって言ってるのか!?」「分かるはずないじゃない! それじゃ、どういう関係か聞かせてよ!」「……お前に言う筋合いはない」神妙な面持ちで答える司に沙月はため息をつく。「……そう、話すつもりは無いのね? だったら、これでもう終わりよ。 何しに来たか分からないけれど私は忙しいの。帰ってくれる?」そして玄関を指す。「は? 俺を追い出すっていうのか? 霧島のことは家に上げたくせに?」「だけど貴方が追い出したでしょう!? ……まさかとは思うけど、もしかして……妬いてるの?」そんなはずはないと思いつつ、沙月は問いかけた。「……」するとなぜか司は押し黙る。その姿に沙月は眼を見開く。「何……? 嘘でしょう? まさか、本当に……?」「違う! そんなんじゃない!」司は乱暴にポケットへ手を入れると一通の封筒を取り出し、沙月に押し付けた。「白石家からお前宛てに手紙が届いた。だからそれを届けに来ただけだ」「白石家から? だったらここに送ってくれたらよかったでしょう? 住所を既に知っているのだから」「……この付近に用があったから、ついでに届けただけだ」 憮然とした表情で答える司。「……そう」沙月は手紙をじっと見つめる。「読まないのか?」「貴方が帰ったら読むわ」「何?」司の眉が上がる。「だから早く帰ってちょうだい」「……分かった。要件は済
last updateLast Updated : 2025-12-22
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4-7 脅迫の影

 司が出て行ったあと、沙月は白石家から届いた封筒を見つめていた。「一体、何を書いてきたのかしら? もうこの間のパーティーで、司とは離婚するから縁を切るって言ったのに……」そう呟きながら封筒を開封し、手紙を取り出そうとした瞬間――「痛っ!」指先に鋭い痛みが走る。慌てて封筒から手を離すとポタリと血が垂れ、赤いシミが封筒に広がった。「な、何……?」封筒を逆さまに振ると、カミソリの刃と二つ折りの手紙がテーブルの上に落ちる。「カミソリ……?」震える手で手紙を開いた沙月の肩が大きく跳ねた。「!」そこには赤いボールペンで、大きく「お前なんか消えてしまえ」と殴り書きされていた――****一方その頃。司はマンション前に止めた車内にいた。「……」無言で沙月の部屋の階を見上げる。(俺は一体何をしているんだ……?)仕事が休みの日とはいえ、司は忙しい人間だった。(こんなところで時間を潰している暇など無いのに……)軽くため息をついた時、車内に着信音が響き渡る。「沙月か!?」淡い期待でスマホを見るも、相手は秘書の佐野だった。「……チッ」軽く舌打ちし、通話をタップする。「……俺だ。え? ……何だって? それは本当か? ……そうか、分かった。引き続き何か分かったら連絡してくれ」ピッ通話を切ると、司は再びマンションを見上げた。「沙月……」ポツリと呟き、ハンドルを握りしめるとエンジンをかけた――****「……」沙月はリビングでじっと手紙を見つめていた。指先には絆創膏が貼られている。(この手紙……誰からなの? 見たことのない筆跡だし……白石家はこんなまどろっこしい真似をするはずない。私の電話番号もメールアドレスだって知っているんだもの……)けれど今の沙月には恨みを買う心当たりがありすぎた。(まさか……澪さん? それとも左遷されたデスクか、他部署に異動になった女性社員たちかも……)「霧島さんに……相談してみようかな……」『困ったことがあれば何でも相談してください』――霧島の笑顔が脳裏に浮かぶ。「……」沙月はスマホを手に取った――****――翌朝。ピピピピ……室内にスマホにセットしたアラームが響き渡る。「う~ん……もう朝なの……?」昨夜のことが気になり、あまり眠れぬまま沙月は目を覚ました。「……はぁ。駄目ね、こ
last updateLast Updated : 2025-12-23
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4-8 強引な迎え

「司……? どうしてここにいるの?」沙月は目の前にいる司が信じられず、目を瞬いた。いつもより洒落たデザインのネクタイを締め、胸元には普段見たことのないチーフまで差している。それなのに、目の下の薄い隈だけは隠せていなかった。(忙しいはずなのに……どうして今朝ここに?)「昨日、何時にここを出るか聞いただろう? だから今ここにいるんだ」「答えになっていないじゃない!」しかし司は聞く耳を持とうとしない。「いいから乗れ。遅刻するぞ?」「電車で行くから結構よ」そのまま通り過ぎようとした沙月の腕を、司が強く掴んだ。「駄目だ。車に乗れ」「ちょっと! 痛いじゃない! 離して!」すると司が耳元に口を近づけた。「いいのか? そんなに騒いで。これからここに住むのに、周りから注目されても」「!」その一言に沙月は頭がカッとなる。(何よ……! 一体誰のせいで……!)しかし、実際に通行人たちがこちらに視線を送っているのが嫌でも分かる。何しろ司はブランドスーツに身を固め、高級車に寄りかかっているのだ。沙月は悔しげに司を見上げると、彼はどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。「……分かったわ。乗ればいいんでしょう。乗れば」後部座席の扉を開けようとすると、司は助手席の扉を開けた。「どこへ乗るつもりだ。お前の席はここだ」「……」沙月は不貞腐れたまま助手席に乗り込む。司は扉を閉め、自分は運転席へと乗り込んだ。高級車内にはムスクの香りが漂っていた。椅子も座り心地が上質で普通の車とは違い、車にあまり詳しくない沙月でもグレードの高さが分かる。(この車に……澪さんも良く乗せているのね……)複雑な気持ちを抱えている沙月に司は声をかけた。「行くぞ」「……ええ」車が走り出して暫くの間、車内には沈黙が降りた。「……」沙月は無言で窓の外を眺め……時折、ちらりと横目で司を見る。端正な横顔の司からは、何を考えているのか心が全く読めない。(一体何を考えているのよ……)その時。「どうした。先程から人の顔を盗み見して」「ぬっ……盗み見!? そんなんじゃないわよ!」慌てて視線をそらし、司に尋ねた。「今日、会社はどうしたの?」「あるに決まっているだろう?」「だったら私なんか送らないで出社したらどう? 遅刻したらどうするの?」「あいにく俺は社長だ。そ
last updateLast Updated : 2025-12-24
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4-9 車内での言い合い

(おかしいわね……いつもなら大体キレて怒ってくるはずなのに)「今日は自分で運転するのね。いつもなら運転手がついていたじゃない」「佐野のことか」「ええ、そうね」「たまには俺だって運転するさ」「ふ〜ん……そう」沙月は窓の外に目を向けた。すると……。「その指、どうしたんだ?」「え?  指?」右人差し指の絆創膏を見た瞬間、昨夜の脅迫手紙が脳裏に蘇る。だが、それを司に話すつもりはなかった。「……ちょっと包丁で怪我しただけよ」「そうか。気をつけろよ。……なら世話係でもつけるか?」「……何言ってるのよ! そんなの必要ないわよ!」むきになって答えながら、沙月は不思議でならなかった。(珍しいわね……今まで私が怪我をした時だって気にかけたことは無いのに。この間から何だか様子がおかしいわ……? 何を言い出すか分からないから、要人に越したことは無いわね)沙月の緊張をよそに、司は話を続ける。「ところで俺が届けた白石家の手紙……内容は何だったんだ?」「え?」「どうせ金の工面の手紙だったのだろう?」司の口元には嘲笑とも取れる笑みが浮かんでいた。その態度が気に入らなかった。「……別に、貴方に関係ないでしょう? 話すことでは無いわ」フイと視線をそらせる。「いや、関係あるな。俺たちはまだ夫婦だからだ」「何言ってるの? 離婚届にサインはしたでしょう? もしかして、まだ届けていなかったの? 早く手続してよ!」すると司の眉間に皺が寄る。「……そんなに離婚を急ぐのは、あいつがいるからか? 霧島のせいか?」その声には苛立ちが混じっていた。「はぁ? 正気で言ってるの? 霧島さんは関係ないわよ」「どうだかな? 妙に霧島を庇っていたし、実際のところ怪しいものだ」「何よ! そっちだっていつまでも私が金目当ての女だと思っているじゃないの!言っておくけど、天野家と同様、私は白石家とも今後一切の縁を切るつもりだから!」そこで車が止まった。「……縁を切るだと? 本気で言ってるのか?」ハンドルを握りしめたまま、司は睨みつけてきた。「ええ、本気も本気よ。もうこれ以上話してもらちが明かないわね。降りて後は一人で行くわ」「もう着いてるぞ」「え?」窓の外を見ると、そこはテレビ局だった。「あ、ありがとう」「別に。じゃあな」沙月が車から降りると、司は視線を
last updateLast Updated : 2025-12-25
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