――昼休みも終わりに近い頃。社員食堂の窓際席に沙月と霧島は向かい合わせに座り、コーヒーを飲んでいた。「どうです? 社員食堂とはいえ、ここのコーヒー、中々美味しいでしょう?」霧島が明るい笑顔で沙月に話しかける。「はい、美味しいですね。香りがすごく良いです」沙月は頷き、珈琲を一口飲んだ。「良かった。気に入っていただけたようで」穏やかな口調で語る霧島を見ていると、何故かふと自分が今抱え込んでいる悩みを打ち明けたくなってしまった。「霧島さん……この度は声をかけていただいて、嬉しかったです。実は私……職場では、あまり歓迎されていないようなのです。新人だから仕方ないのかもしれませんけど……」沙月は手にしていたコーヒーカップに視線を落とし、続けた。「金曜の夜に、大きな集まりがあって出席することになっているんですけど……正直、少し気が重くて。でも出席しないわけにはいかないし……」黙って沙月の話を聞く霧島。その姿勢が今の沙月にとって、すごく好感が持てた。そこでつい本音を口にしてしまった。「……私、昔からあまり弱音を吐くのは得意じゃないんです。でも今日は少しだけ……誰かに話したくなってしまいました」すると霧島は一瞬目を見開き……口元に笑みを浮かべた。「その気持ち、僕も良く分かりますよ」「え?」沙月が顔を上げると、霧島は穏やかな笑顔のまま両手を組んだ。「職場での人間関係って、誰でも少し悩むものだと思いますよ。僕自身も入社したばかりの頃は同じでしたから。コミュニケーションがうまく取れない相手だと、もしかして自分は嫌われているんじゃないかって考えてしまいますよね」「霧島さんがですか? その話、本当ですか?」 彼の話は驚きで、沙月は信じられなかった。「ええ、本当ですよ。ですが、そんなに驚くことですか?」「だって、霧島さんは人当たりも良くて親切な方ですから。誰かに嫌われるなんて、そんな……。その証拠に女性社員たちからとても人気がありますよね?」すると霧島はおどけたように肩をすくめる。「そうでしょうか? 自分ではそんなふうに思っていませんでしたが……天野さんにそう言っていただけると光栄ですね。でも何か思い悩むことがあるなら僕でよければ、聞かせてください。無理に話す必要はありませんが、誰かに話すことで心が軽くなるなら、是非」沙月は心がふっと軽くなっ
Last Updated : 2025-10-11 Read more