会場の隅で白石家の人間たちが騒ぎを起こしている様子を司は少し離れた場所から見つめていた。そして彼らの会話も全て聞いていた。(知らなかった……沙月は白石家で、そんな不当な目に遭っていたのか……?)司はじっと沙月を見つめる。凛とした横顔は、息をのむほどに美しかった。「沙月……」名前を呟いたとき、ボーイが近づいてきた。「ワインはいかがでしょうか?」差し出されたグラスには赤い液体が揺れ、芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。「……ワイン」司は短く呟き、グラスを受け取る。その香りが、あの夜の記憶を呼び起こした――****――2年前のあの夜。司は謝恩パーティーに参加していた。普段の会社での堅苦しいパーティーとは違い、気心の知れた友人や知人たちが多く参加していた。司自身もパーティーを楽しんでいた。……だから油断していたのだろう。ボーイから差し出されたワインを何も気にせず、口にした。その後しばらくは何も感じることなく、招待客たちと普段通りの談笑を交わしていた。だが……徐々に身体に異変を感じてきた。喉の奥がチリチリと熱くなり始め、胸の内側から、じわじわと火が灯るような感覚。視界が揺れ、額に汗が滲む。呼吸が乱れ始め、気づけば女性たちの姿を目で追い……思わず喉がゴクリとなる。(……これは、マズイ)司はグラスを置き、談笑していた相手に静かに頭を下げた。『……失礼、少々飲み過ぎたようなので、私はこれで失礼いたします』談笑していた相手は戸惑いの表情を浮かべていたが、『お大事になさって下さい』と笑顔で返事をした。『……はぁっ……』ふらつきながら会場を出ると、空気が妙に重たく感じる。Yシャツが肌に張り付くだけで身体がゾクリと刺激される『はぁ……はっ……はぁ……』足取りがおぼつかなくなり、呼吸が浅くなる。スイートルームの扉を開けたときには、すでに視界が霞んでいた。『くっ……!』スプリングの利いたベッドに身を投げ出し、背広を脱ぎ捨てネクタイをむしり取った。『くそっ……』ベッドに横たわると、天井を見つめる。身体の芯が、焼けるように熱い。皮膚の下で、何かが暴れ……司はこの異常に気付いた。――自分は今、無性に女を欲していると。『あのワインのせいだ……きっと何か仕組まれていたに違いない……』荒い息を吐きながら、自分の熱が収まるのをじっと耐え
Terakhir Diperbarui : 2025-10-27 Baca selengkapnya