広々とした2LDKのタワーマンションの一室に、朝の光が明るく差し込んでいた。ダイニングルームに沙月の姿があり、湯気の立つ紅茶をじっと見つめていた。その向かい側に座るのは沙月の親友――中野真琴。この部屋は彼女が暮らすマンションで、現在沙月は彼女の世話になっていたのだ。「……沙月。本当に、あの人たちが夫婦みたいに振る舞ってたの?」尋ねる真琴の声は、驚きと怒りを含んでいた。沙月は頷きながら、唇を噛みしめる。「うん……。ジュエリーショップで……澪さんが司の腕に絡んで、店員から『ご夫婦ですか?』って聞かれていたの。司は否定しなかったわ」「最低ね。まだ離婚してないのに、堂々と不倫するなんて……絶対に許せないわ」悔しそうに拳を握りしめる真琴。その仕草は正義感が滲み出ていた。真琴は都内でも名の知れた弁護士で、企業案件から刑事事件まで幅広く扱っている。真琴に弁護を依頼したいと願う人々は数多くいて、忙しい日々を送っているのだ。その彼女が、今はただ親友として、正義感に燃えている。「カードも凍結されてたの。だから、指輪を売りに出すしかなかったのに……。まさか偶然会うなんて思わなかったわ。でもこれではっきり分かった。あの人にとって、私はもう完全に邪魔者なのよ」「……」真琴はしばらく黙っていたが、やがて立ち上がり、書類の束を持ってくると沙月の前に置いた。「これ、テレビ局の記者職の応募書類。応募してみたら?」沙月は驚いたように目を見開いた。「私が……記者に?」「忘れたの? 沙月はX大学を首席で卒業してるじゃない。学生時代は教授たちが“将来の報道界の星”って言ってたでしょう? あなたには、あの人たちに負けない力がある」「でも……今の私は何も持ってないのに……」「持ってるじゃない。知識も、分析力も、言葉の力も。沙月の卒業論文は本当に素晴らしかったのを今でも忘れないわ。弁護士の私が言ってるんだから信じなさいよ」沙月は封筒を受け取り、応募要項を読んだ。光り輝いていた過去の自分が、今はもう遠い幻のように思えた。けれど真琴の言葉で勇気を貰えた。「……ありがとう。私……やってみる。応募してみるね」「良かった。沙月ならきっとそう言うと思ってた。私も全力で応援するから、頑張ってね」真琴は沙月の両手を握りしめた――****――同日、19時過ぎ。司が仕事から帰
Last Updated : 2025-09-21 Read more