初めての職場。初めての仕事。新人が入って来たと言うのに、誰も沙月を気に掛ける人物はいない。資料整理を終えて高橋に送信すると、次は別の仕事を割り振られた。報道部の一角で番組台本のコピーをホチキスで綴じたり、資料室で棚の整理。「この資料、放送順に並べてもらえる?」通りすがりの女性社員に声をかけられ、沙月は「はい」と微笑んで応じる。やがて昼休憩を告げるチャイムが鳴り響き、社員たちはぞろぞろと部署を出て行く。自分も休憩に入っていいのか分からなかったが、頼みの高橋の姿は見えない。そこで沙月は仕方なく、手作り弁当を持って休憩スペースに行くと一番済の席に座って食事をした。(新人て……こんなに誰にも相手にされないものなのかしら)少しの疑問を抱きながら食事を勧める沙月。周囲では各グループが出来ており、談笑しながら食事をしている。たった一人で食事をしているのは沙月ただ一人。だが……社会人として働いたことのない沙月は何も気づいてはいなかった。この状況が「作られたもの」だということに――**** 昼休憩後、ふたたび沙月は仕事に戻って黙々と作業を続けた。そして17時半に高橋がふらりと現れ、「今日は初日なので上がっていいです」と告げてきた。フロアではまだ誰もが忙しそうに働いている。「あの、本当に帰っても良いのでしょうか?」「ええ。また明日、よろしくお願いします」笑顔で言われてしまえば、頷くしかない。「分かりました。ではまた明日よろしくお願いします」「はい、お疲れさまでした」 こうして、沙月の1日目の勤務は終わりを告げた――****――19時過ぎ。キッチンで食事の用意をしていると、真琴が帰宅してきた。「ただいま~。沙月、帰っていたのね? それに食事の用意までしてくれていたとは思わなかったわ」「うん、17時半に退社してきたから」フライパンで炒め物をしながら答える沙月。「え? 17時半? 報道記者の仕事って、そんなに早く帰れるものなの?」「さぁ? よく分からない。でも……皆忙しそうに働いていた。誰も私のことを気にかけてくる人もいなかったし……」「沙月……」じっと見つめる真琴。「でも、それでいいのかもしれない。誰も私を気にかけないということは、もう天野夫人の肩書から解放されたってことだから。与えられた仕事を一つ一つ着実にこなしていって
Terakhir Diperbarui : 2025-10-03 Baca selengkapnya