――月曜午前九時。ここは天野グループ本社の最上階。重役だけが使用できる会議室に役員が勢揃いしている。楕円形のテーブルの中央に司が座っている。役員たちは全員、苦々しい表情で司を見つめていた。彼らは突然の招集を受けて、役員専用会議室に集められたのだ。そして司を含め、彼らを集めた人物は言うまでもない。天野グループの会長であり、司の父でもある隆司だった。誰もが、金曜夜のパーティーで起きた事件を重く受け止めていた。壇上での朝霧澪の婚約宣言。そして司がそれを否定しなかったこと。彼等は司の言葉を無言で待っていたのである。「……まずは説明してもらおうか?」沈黙を破ったのは、会長――天野隆司だった。隆司は冷たい眼差しを司に向ける。司は、ゆっくりと顔を上げた。その態度は堂々としている。「何についての説明をご希望ですか?」隆司は眉をひそめる。「澪の婚約発表に決まっているだろう? あれは一体何のつもりなのだ? 我々に何の相談もなく、勝手な真似をさせおって……。しかも、おまえは現在沙月と正式に婚姻関係にある。それなのにお前と婚約していると、嘘の公表を澪にされてしまったのだぞ! お前の軽率過ぎる態度が彼女を勘違いさせてしまったのではないか!? あのパーティーは天野グループがスポンサーだったと言うのに……あの態度は何だ!? 企業の顔として、あまりにも分別が無かったと言う自覚はないのか!?」司は一度だけ視線を落とし、そして父を見据えた。「……あの夜のパーティーは、朝暮澪の復帰を祝う公式のパーティーでした。しかもご承知の通り、天野グループがスポンサーとして全面支援していた場です。あの場で騒ぎを起こせば、企業イメージに傷がつくのは明らかです。だから、私はあえて否定しなかったのです」その言葉に、役員たちは一様に眉を寄せた。「それは事実なのか?」「ええ、当然です。嘘をつくなどありえません」(本当はあのとき驚きで言葉が出なかったがな……まさか澪があんなことを言いだすとは思いもしなかった)司は一瞬だけ視線を伏せたが、すぐに背筋を伸ばし、何事もなかったように続けた。「他に何かご質問はありますか?」まるで澪の宣言など初めから計算に入っていたかのような態度で、司は周囲を見渡す。「……では、今後どう対応するつもりだ?」隆司は更に尋ね、役員たちの視線が再び司に
Last Updated : 2025-11-10 Read more