司は二年前の出来事を思い返しながら、白石家と口論をしている沙月を見つめていた。濃紺のマーメイドドレスに身を包み、白石家と対峙する沙月。その姿は媚薬を飲んで司の前に現れた、あの時と同じくらい美しかった。(白石家の命令で媚薬を使って、俺を誘惑してきたのだと思っていたのに……)だが、実際は違った。沙月は白石家で虐げられて暮らしてきたのだ。(俺は、何も知らなかった。いや、知ろうとしなかった。初めから白石家が俺に仕掛けた罠だと思い込んでいた……)沙月がどれほど孤独だったか。どれほど冷たい家で耐え忍んで生きていたのかを、司は初めて目の当たりにして動揺していた。――その時。「キャアアアア! 遥!」甲高い悲鳴が会場に響き渡り、司はハッと我に返った。視線を向けると、遥が床に倒れて美和がその身体を抱き起こしている。「遥! しっかりしてちょうだい! 遥!」美和は遥を抱きかかえ、必死で名前を叫んでいるが……司には、どこか芝居がかっているようにしか見えなかった。周囲にいた人々も騒めき始めた。「何の騒ぎだ?」「倒れたのかしら?」「あれは……白石建設の社長じゃないか?」しかし、誰一人声をかけに行く者はいなかった。なぜなら倒れている遥の隣で、白石家の父親が怒鳴り声を上げていたからだ。「沙月! お前のせいで、遥が気を失っただろう! 何てことをしてくれたんだ!」沙月は一歩も動かず、冷静に言い返す。「何故、私のせいになるのですか? どう見ても、遥はわざと倒れたようにしか見えませんが」「な、何を言ってるの!? 遥が演技で倒れたっていうの!? 妹が倒れたのに心配じゃないの!?」美和が叫ぶ。だが沙月は微動だにしない。「はい。演技で倒れたのだから、心配する必要はありません。遥、起きているのでしょう?」沙月が呼びかけるも遥は反応が無い。「な、何が演技だと言うのだ!」「そうよ! ほら、反応がないじゃない! 本当に酷い娘ね! あんたなんか引き取らなければ良かったわ! この恩知らず!」父親に続き、美和が声を荒げる。だが沙月はどこまでも冷静だった。「……親らしいことをしてくれなかった人たちに、そんなことを言われる筋合いはありません。とにかく、私はもう白石家とは無関係ですし、離婚もします。こんな茶番に、これ以上つきあっていられません。それでは失礼します」「ど
Last Updated : 2025-11-06 Read more