Semua Bab 冷酷御曹司は逃げた妻を愛してやまない: Bab 71 - Bab 80

81 Bab

3-23 奪われる者

 ――翌朝レースのカーテンから太陽の光が差し込み、明るく室内を照らしている。ソファの上には眠っている沙月の姿。「う~ん……」小さく身じろぎすると沙月は重たいまぶたをゆっくりと開けた。視界に映ったのは、見慣れたリビングの天井。沙月は自分がソファの上に寝ていたことに気づく。身体にはブランケットが掛けられていた。「え……? 一体どうして……」昨夜の記憶を思い出そうとするも、断片的にしか思い出せない。「えぇと……確か昨夜はカフェでお酒を飲んでいたら霧島さんに偶然出会って、二人でお酒を一緒に飲んで……霧島さんが先に帰ったんだわ……その後私もマンションへ帰って、そこで……」マンション前で不機嫌そうに立つ司の顔が脳裏に浮かぶ。「そうだった……司が来て、一緒に部屋に入って……その後は……」そこから先は霞がかかったように曖昧だった。ブランケットを掛けてくれたのが司だと気づいた瞬間、頭痛が走って思わず顔をしかめる。「いった……」壁の時計を見ると午前六時。まだ出勤には間に合う。沙月はソファから降りると薬箱を探しにキッチンへ向かった。キッチンに置かれた頭痛薬を飲むと、コンロの上に置かれた鍋に気づく。「何かしら……?」蓋を開けると、香草の香りがふわりと漂った。「これは……薬膳スープ? 節子さんがよく作っていた味だわ……まさか、ここにきて作ってくれたの?」このスープを司が作ったとは夢にも思わない。沙月は節子に感謝しながら鍋を温め、カップに注いで口にした。二日酔いの身体に染み渡る優しい味に、少しだけ元気になれた気がする。「……美味しい、ありがとう。節子さん」その後――シャワーを浴び、通勤服に着替えた沙月は鏡の前に立ってみた。「やだ……顔色が悪いわ」映った自分の顔色は冴えない。そこでいつもより濃い目にメークをすると、沙月は重い足取りでマンションを後にした。****――8時半「おはようございます」出勤した沙月が声を掛けても、報道部にいる局員からは何の返事もない。代わりに冷たい視線が一瞬向けられ、すぐに楽しげな会話が始まる。「昨夜の飲み会、楽しかったわね」「うん、澪さんも来てくれたし」その言葉に沙月の肩が小さく跳ねた。(澪さん……やっぱり行ったのね。妊娠しているのに……お酒を飲んだのかしら?)そこへ澪の明るい声が響き渡った。「おは
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-02
Baca selengkapnya

3-24 嫌がらせの始まり

――11時半沙月はPCに向かって、AD高橋から預かった仕事を黙々とこなしていた。けれど、画面越しに笑顔で語っていた澪のことが時折脳裏に蘇ってくる。(あのフリップ……私が作ったのに。それを澪さんが自分で作ったことにしてしまうなんて……)少なからず、そのことにショックを受けていると背後から不意に女性局員から声をかけられた。「そこの新人」「はい」呼ばれた沙月は振り返る。もう誰も苗字で呼ばない。澪の差し金だと分かっていても、反論することはできない。「こっちに来て」「はい」促され、沙月は廊下の奥へと連れていかれた。案内された場所は不要な書類が山積みになった、旧資料保管室。段ボール箱が棚に並び、古びた紙の匂いが部屋に漂っている。「ここにある資料を全部シュレッダーにかけて」「え? これ全部ですか?」目の前に積まれた段ボールの数に、沙月は思わず声を上げた。「そうよ。何か文句あるの?」「いえ……文句なんてありません。ただ、本当に全て処分してよろしいのですか?」警戒しながら尋ねると、女性は鼻で笑う。「ふん。今は全部クラウドに保存してあるから安心しなさい。そんなことも知らないの?」「はい……申し訳ございません」沙月は頭を下げるしかなかった。「いいこと? 今日中に全部終わらせなさいよ。棚にある書類を一枚残らずシュレッダーにかけるの。どうせ新人は私たちとは違って大した仕事をしていないんだから、時間は沢山あるわよね? 分かったら返事をしなさい」(大した仕事をしていない……確かにそうかもしれないけれど、そんな言い方するなんて……)言いたいことは山ほどあったが。沙月は言葉を飲み込んで頷く。「……はい、分かりました……」それだけ言い残し、女性は部屋を出ていった。ひとり残された沙月は深いため息をつくと、段ボール箱をカートに積み上げて地下のシュレッダー室へと運んだ。そして誰もいないシュレッダー室で、沙月は何箱もある書類の裁断を始めた――****「ふぅ……やっと終わったわ」時計の針はすでに午後四時を回っていた。疲れた体を引きずる様に報道部へ戻ると、室内はがらんとして誰もいない。「え……?」背筋に冷たいものが走る。(どうして誰もいないの……?)何があったのか聞ける相手もいない。いや、それどころか、この局内の全員が自分の敵に思えてなら
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-03
Baca selengkapnya

3-25  罠 1

――17時半会議室での件が尾を引き、沙月は暗い気持ちで仕事をしていた。チラリと机の上に置いてあるスマホに目をやる。(もう今度はメールを見逃さないようにしておかないと……)沙月はスマホをジャケットのポケットに入れるとPC作業を再開した。今や、沙月の周囲は悪意で満ちていた。沙月の方をチラチラ見ては、聞こえよがしに沙月の悪口を言っているのが耳に入ってくる。「ほんと、あの新人使えないよね~」「何で、あんなの採用したんだろう」「そういえば、面接官に食い下がったって話聞いたことがあるよ」それらの話を、沙月は歯をグッと食いしばって耐えていた。(気にしちゃ駄目……何も感じない、聞こえていないふりをするのよ……)そんな様子を遠くからじっと見つめている澪。そして傍らにいる女性局員に何か囁くと、彼女は頷いて沙月に近づいてきた。「そこの新人!」鋭い声が聞こえ、振り返ると女性局員がこちらを見つめている。「あの……何か御用でしょうか?」返事をすると女性は腕組みした。「そうよ。用があるから呼んだでしょう? ちょっと機材室に行って。予備のマイクケーブルを取ってきてよ。会議に出なかったんだから……それくらいするべきでしょう?」そういわれてしまえば逆らえない。「はい……分かりました」沙月は立ち上がると返事をした。「こっちよ、ついてきなさい」「はい」女性局員に案内され、沙月は機材室へ連れていかれた――****「ここが機材室よ」案内された場所は地下1階にあるシュレッダー室の隣だった。女性局員は扉を開けて電気をつけると、棚には古い備品や段ボールが雑然と積まれていた。あまり掃除もされていないのか、埃とカビの匂いが鼻をついた。「ここよ。探すのに時間かかるかもしれないけど、ちゃんと見つけなさい」「あ、あの……ここを1人で……ですか?」無駄と思いつつ、沙月は尋ねた。「当然でしょう? 物を探すのに人員を割いてられないのよ。みんな忙しいの、こういう単純な仕事は新人がやるべきだとは思わないの? いい? 絶対探して持ってきなさいよ」そう言い残し、彼女は扉を閉めた。機材室に1人取り残された沙月は必死に棚を探し回り、ようやく目的のケーブルを見つけることができた。「よかった……これで戻れる」沙月は扉を開けようと、ノブに手を伸ばした。ガチッ!乾いた音が
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-04
Baca selengkapnya

3-26 罠 2

一方その頃。司が報道部に姿を現した。名目はスポンサー企業の代表として、報道部が進めている新しい企画の進確認に来た……と言うのは建前で、本当の目的は沙月だった。(そうだ、俺がここへ来たのは沙月が心配だからじゃない。スポンサーとして企画の進捗を確認するためだ)自分に無理に言い聞かせるも、沙月の様子が気になって仕方なかったのだ。昨夜アルコールで酔ってしまった沙月……。嘔吐してしまったにも関わらず、マンションを出しまった罪悪感。そして自分が作ったスープを飲んだのか確かめたい気持ち……それらの感情が司の中で渦巻いていた。「司!」するとどこから聞きつけてきたのか、澪が笑顔で駆け寄って来た。「チッ」口の中で小さく舌打ちし、司の顔が歪む。「来てくれたのね? 電話してくれれば良かったのに」澪は笑顔で話しかけてくる。周囲でこの様子を見つめている局員も「婚約者に会いに来た」と勘違いしている。司は澪や周囲の笑顔に不快感を覚え、視線を周囲に走らせた。だが、どこを見渡しても沙月の姿が無い。(妙だな……まさか体調不良で休んだのか?)「ねぇ、どうしたの? 司」無反応な司にじれた様子で話しかける澪。司は、じろりと澪を見つめ……。「澪、ちょっと来い」腕を引き、人気のない踊り場へ連れていくと問い詰めた。「沙月はどこだ? 今日は出勤しているのか?」沙月という名前を聞き、途端に澪の顔が険しくなる。「何よ、怖い顔して……知らないわよ、あんな女のことなんか」「本当に知らないのか!?」「知らないって言ってるでしょう! 大体何故、あんな女のこと聞いてくるのよ! 私に会いに来たんじゃなかったの!?」その時。トゥルルルル……司のスマホが鳴り響いた。「チッ……何だ? こんな時に……え!?」画面を見た瞬間、司の目が見開かれる。着信相手は沙月からだったのだ。「沙月か!?」司はスマホをタップすると、今まで一度も出たことが無かった沙月の電話に応じた。すると、弱々しい声が聞こえてくる。『助けて……』その声は震え、今にも消え入りそうだった。「助けてだって……? 沙月!? 今、どこにいるんだ!?」『地下にある……機材室……閉じ込められたの……』「機材室だな!? 分かった! 今行く!」電話を切って顔を上げると、澪が青ざめた顔で両手を広げて立ちふさがっていた
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-05
Baca selengkapnya

3-27 フラッシュバック

――薄暗い機材室の中。床に座り込んだ沙月は冷たいコンクリート壁に背をあて、頭を抱えて震えていた。「はぁ……はぁ……」呼吸は荒く、息をするのが苦しい。沙月は過呼吸を起こしていたのだ。そして……脳裏に過去の辛い記憶がフラッシュバックとして蘇ってくる――**** あれは小学生だった頃。登下校の途中、背後から突然ランドセルを強く叩かれて転びそうになったことが何度もあった。振り返っても誰も謝らず、『ば~か!』と罵り、笑いながら走り去って行く同級生たち。そこには意地悪そうな笑みを浮かべた遥が混じっていた。中学生の時。昼休みになると教室の片隅で一人、自分で作った質素な手作り弁当を広げる。周囲は楽しそうな笑い声に包まれているのに、誰もこちらを見ようとはしない。まるで透明人間のような扱いだった。食後、友人が一人もいない沙月は教室に居るのが辛くて図書館に逃げ込んでいた。ここにいれば、誰の目も気にすることもなく過ごせる。午後の授業開始のチャイムが鳴る寸前まで、沙月は図書で時間を潰した。そして高校生の頃。移動授業の連絡が回ってこず、教室に一人取り残されてしまった。クラス全体による、あからさまな嫌がらせは沙月の心を傷つけるには十分だった。『どうして私だけ……』誰もいない教室で、目に涙を浮かべながらポツリと呟いた記憶。沙月に嫌がらせをするよう先導したのは全て遥だということは分かっている。けれど白石家の養女である沙月は、成す術も無かった。そして……もっと幼い頃。白石家の物置。来客の日に『恥ずかしいから出てくるな』と義両親に言われ、食事も抜きにされて閉じ込められた暗闇。泣いても叫んでも、誰も助けに来なかった。今度は朝霧澪によって、沙月は理不尽な目に遭わされている。現在の機材室の冷たい壁と、あの時の物置の湿った匂いが重なり合う。「またいつもと同じ……誰も助けてくれない……」呼吸が乱れ、視界がぐるぐると回ってくる。過去と現在が混ざり合い、フラッシュバックを引き起こす。「誰か……助けて……」震えながら沙月はポケットからスマホを取り出した。だが、連絡を取れる人物は限られている。真琴は今、出張中。仮に連絡を入れたとしても、対処できない。その時……脳裏に霧島の笑顔が浮かんだ。『何か悩みがあれば、いつでも相談に乗りますよ』『いつでも
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-06
Baca selengkapnya

3―28 救出

「司! 待って! 行かないで!」澪が必死に腕を伸ばして止めようとしたが、あっという間に司は走り去ってしまった。「司……! どうしてよ……!」澪の声も、伸ばされた手も司を引き留めることは出来なかった。自分の元から去って行く司に、増々沙月に対する憎悪が膨れ上がっていく。遠ざかる司の背中を睨みつけ……澪は震える声で呟いた。「沙月……絶対に許さない。この私から司を奪うなんて……もっともっと、あんたを苦しめてやる……」澪は唇を強く噛み締めた――****苛立ちを抱えたまま踊り場から出てきた澪は、廊下で若手男性スタッフに呼び止められた。「あ! 朝霧さん! 今までどちらへ行かれていたのですか!? 本番まで、もうあまり時間が……」すると澪はスタッフを睨みつけ、ヒステリックに喚いた。「うるさいわね! 一々、あんたにそんなこと言われなくたって分かっているわよ! この私に指図するな! 私を誰だと思っているの!? この局の顔、朝霧澪よ!」「も、申し訳ございません……」青ざめて震えるスタッフ。その様子を周囲で見ていた局員たちも息を呑んで立ちすくむ。数人は顔を見合わせ、ひそひそと囁いた。「……朝霧さん、どうしたんだ?」「何か様子がおかしいな……」その囁きが澪の耳に入る。ギラリと鋭い視線を向けると局員たちは慌てて目を逸らした。「なによ! 見世物じゃないんだからジロジロ見ないでよ!」苛立ち紛れに踵を返すと、澪はヒールを鳴らしながらスタジオへと向かう。その全身からは怒りが滲み出ていた。(私という者がありながら、沙月のところへ行くなんて……! これも全部あの女が悪いのよ……私から司を奪うなんて絶対に許さない! もっともっとお前を追い詰めて、どこまでも苦しめてやる……!)澪の目は憎悪で燃えていた――****――その頃。局の顧問弁護士である霧島は、契約関連の確認のため局に来ていた。そして報道部へ向かう途中……ふと足を止めた。「ん? あれは……?」廊下を走り抜ける司の姿が視界に飛び込んできた。「……天野?」霧島は驚きで目を見張った。(なんで局に来ているんだ? それにしても……あの天野が、あんなに取り乱しているなんて……何かあったのか?)普段冷静沈着な男が、あんな必死な様子を見せるなど想像もしていなかった。霧島は立ち止まり、司の背中を見送っ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-07
Baca selengkapnya

3-29 揺れる心

青白い顔でぐったりしている沙月を見て、司は恐怖を覚えた。「沙月……! しっかりしろ!」司が何度も呼びかけると、沙月はゆっくりと瞼を震わせ……薄く目を開けた。「司……?」かすれた声で名を呼ぶ。「そうだ、俺だ」返事をする司の声はいつにもなく優しい。「……これは……夢……?」弱々しい声が漏れる。「何を言ってるんだ? これは夢なんかじゃない、どうしてそんな風に思うんだ?」すると沙月は弱々しく笑った。「だって……貴方は今まで一度も私の電話に出てくれたこと無かったじゃない……」「!」司は言葉を失った。沙月に痛いところを突かれて何も言えない。そう、今までの司は敢えて沙月の存在を無視していた。白石家の目論見で自分を罠に嵌めた存在。天野家に寄生する、煩わしい存在だと……。(だが、現実は違った……沙月は俺との結婚を望んでいなかった。それに彼女も罠に嵌められていた。そして白石家から都合の良い存在として利用されてきた哀れな存在だ……)「ごめんなさい……迷惑かけてしまって……」沙月はうつろな瞳で司を見つめる。「……いや、別に……」気の利いた言葉が見つからない司。「皮肉なものね……離婚してから貴方と電話が繋がるなんて……でも、他に連絡できる相手が思い浮かばなくて……」沙月は俯きながら呟いた。その話を司は複雑な思いで聞いていた。孤独の果てに自分を頼ったことが憐れでもあり、同時に嬉しくもあった。「……もう支えてくれなくて大丈夫よ……」沙月に身体を押され、その時になって初めて自分が今まで沙月を抱き寄せたままだったことに気付いた。「大丈夫なのか?」身体を離すと沙月は壁に寄りかかり、コクリと頷いた。「……誰にやられた? 澪か?」沙月は黙って司を見つめるも、やがて首を振った。「違うわ。同じ報道部の女性スタッフよ。マイクケーブルが必要だから、機材室に取りに行ってと言われたの……」「名前は?」「分からないわ……大体、同じ部署の人の名前だって分からないもの」その言葉に司は眉を顰める。「分からないだって? どういうことだ?」「私は誰からも相手にされていないから、名前も分からないってことよ。もう……行かなくちゃ。マイクケーブルを届けないといけないから……」ふらつきながら立ち上がる沙月。「おい、あまり無理しない方が……」「そういうわけにはい
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-08
Baca selengkapnya

3-30 糾弾 1

沙月はふらつきながらマイクケーブルを抱え、報道部へと戻っていった。おぼつかない足取りの沙月。司は黙って後ろを追っていたその時。「天野、こんなところで何してるんだ?」突然背後から肩を叩かれ、司は思わず大きな声を上げた。「うわっ!」振り向くと、あっけにとられた様子の霧島が立っている。「驚いたな……何もそんなに大きな声を上げなくてもいいだろう? 久しぶりだな、天野。でも何で局に来ているんだ?」霧島は人懐こい笑みを浮かべる。「き、霧島……? 驚かせるな。この局は天野グループが出資している。別に俺がいても不思議じゃない」会話しながらも、司の視線はずっと沙月に向けられていた。まるで今にも彼女が自分の視界から消えてしまうのを恐れているかのように。「ごめん、さっきから呼びかけているのに、全く反応が無かったから……でも局にいたのはそういうわけか。俺はてっきり……ん? 天野、さっきからどうしたんだ?」「悪いが、今はお前の相手をしている余裕はない。俺は忙しいんだ」「あ、ああ。呼び止めてすまなかったな」霧島は笑顔で謝る。「いや、もういい。それじゃあ、また」「ああ、またな」司は霧島に背を向けると、再び沙月の後を追った。「……」霧島はその後姿を意味深な瞳で黙って見送った――****「え……?」ケーブルマイクを抱えた沙月が報道部に戻ってくると、女性局員たちの間でざわめきが起きた。「ちょっと……あれ見て」「どうなってんの……?」「鍵を掛けて閉じ込めたんじゃなかったっけ?」女性局員たちがコソコソと囁き合う。「ねぇ、ちゃんと鍵かけたの?」一人が、沙月を閉じ込めた女性に問い詰める。「か、掛けたわよ! だって何度もノブを回して開かないことを確認したもの!」彼女たちは澪がスタジオ入りしているため、司が助けに行ったことを知らない。そこへ沙月が近づいてくる。「ちょ、ちょっと……こっちへ来てるじゃない!」「私たち知らないわよ!」「貴女が対応しなさいよ!」彼女たちは、沙月を閉じ込めた女性スタッフ一人に押し付けようとする。「そ、そんな……!」そこへ沙月がやって来た。「あの~……」「な、何よ! 私は何も知らないわよ! 勝手に鍵がかかったんじゃないの!?」「そ、そうよ! 私たちを責めるのはお門違いよ!」「言いがかりはやめてよね!」他の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-09
Baca selengkapnya

3-31 糾弾 2

 沙月は驚いて司を見つめる。(司……! まさかつけてきたの!?)司は沙月の横を素通りすると、女性局員たちに近づいた。「彼女は機材室に閉じ込められていた。しかも中からは開けられないように外から鍵がかけられていた。そして、そのことについて彼女は一言も触れていないのに……君たちは機材室に鍵がかけられていたことを知っていた。一体どういうことだ!?」司の責める声が報道部に響き渡り、しんとフロアが静まり返る。相手は天野グループの若き社長。しかも局のスポンサーだ。これにはさすがのデスクも口を出せない。女性社員たちは青ざめたまま、小刻みに震えている。誰も司の視線を正面から受け止められない。「彼女はこの局に入ったばかりの新人だ。それなのによってたかって嫌がらせをしているとは……呆れたものだ」怒りを抑えた口調で語る司の背中を、沙月は信じられない思いで見つめていた。(司……どうして……?)「とにかく、このことは上に話を通しておく。もし、また彼女に同じような嫌がらせをした場合……天野グループはスポンサーから降ろさせてもらおう」「!」その言葉に報道部が凍り付き、デスクが慌てて駆け寄って来た。「天野社長! も、申し訳ございません! 彼女達には反省文を書かせ、天野さんには正式に謝罪させます! どうか、スポンサーを降りることだけは……!」いつも威張り散らしているデスクが平謝りに頭を下げているのを、沙月は信じられない思いで見つめていた。「それは今後の君たちの出方次第だ」司の声は冷ややかだが、有無を言わさぬ威圧感がある。そして次に司は沙月に視線を移した。「もう退社時間は過ぎている。そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」「え……?」するとデスクが笑顔を作り、沙月に話しかける。「そ、そうしなさい。顔色が悪いようだし」「……はい……分かりました」沙月は「お先に失礼します」と会釈すると、重苦しい空気の報道部を後にした。背後では、誰もが凍り付いたまま動けずにいた――****――翌日。「……おはようございます」恐る恐る沙月が出社すると、報道部の空気は昨日とはまるで違っていた。澪の手下だった女性社員たちは彼女を見ると、気まずそうに視線を逸らし、誰も直接嫌味を言う者はいなかった。デスクも妙に柔らかい口調で「おはよう。調子はどうだね?」と声をかけてくる。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-10
Baca selengkapnya

4-1 新しい生活の始まり

沙月が機材室に閉じ込められた一件から、早いもので一か月が経過していた。その間、局内では様々な変化が起こっていた。まず澪は報道部からアナウンス部へ異動となった。表向きは「栄転」とされていたが、実際には報道部から遠ざけられた形である。沙月に対する嫌がらせを主導していた女性社員たちは、華やかな現場から外され、資料室や庶務課といった地味な部署へと回された。番組制作の最前線から外され、日々の雑務に追われる彼女たち。かつての勢いを失い、自分たちが馬鹿にしていた相手からこき使われる立場に逆転されてしまっていた。さらに報道部のデスクは降格処分となり、地方支局への異動が決まった。いつも威張り散らしていた彼の姿は、局内から忽然と消えたのだった。これらの人事異動は、天野グループのスポンサーとしての影響力が背景にあった。司が上層部へ圧力をかけた結果、沙月に嫌がらせをしていた局員たちを粛正した形になったのである。沙月はその変化に戸惑っていた。確かに自分を守ってくれる存在がいることは心強い。だがその相手が司だと言うことに複雑な心境を抱いていた。何故今頃になって自分の為に動いたのか、司が何を考えているのか、さっぱり分からずにいた。(でも、私も変わらないと……)周囲の環境が変化したことにより、沙月も以前から考えていた計画を実行することにしたのだった――****――よく晴れた土曜日の朝。沙月は真琴の部屋の玄関に立っていた。その向かい側には真琴もいる。「真琴、今まで本当にありがとう」ショルダーバッグを下げた沙月が笑顔で告げる。「沙月……本当に引越ししちゃうの? 私としてはずっとここで暮らしてもらっても良かったのに。何しろ沙月の手料理は最高に美味しかったもの」「アハハハ。今さら何を言ってるの? もうマンションの賃貸契約を結んでいるのに。手料理が食べたければ、いつでも作りに行ってあげる。もちろん、私の部屋に来てもらってもいいし」笑う沙月の顔は晴れやかだった。「うん……分かった。でもごめんね。引っ越し手伝えなくて……」「やだ、謝らないで。だって真琴はこれからオンライン業務があるじゃない。荷物は全部トラックで運んであるし、元々荷物だって殆ど無いから1人で大丈夫よ」「分かった……元気でね」「うん、真琴も」2人は玄関前で別れの抱擁をし、沙月は真琴に見送られ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-11
Baca selengkapnya
Sebelumnya
1
...
456789
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status