沙月が家を出て行ってから、司はずっと気がかりなことがあった。「確か、同居人は女だと言っていたが……本当にそうなのか?」沙月を起こさないよう、司は足を忍ばせて部屋の様子を見て回ることにした。広々としたリビングダイニングには淡い色のソファと花柄のクッションが並べられている。大きな鏡が置かれた棚にはアロマキャンドルや化粧品の瓶が並び、廊下の奥には二つの寝室がある。一部屋は整然とスーツや書類が並び、ベッドが置かれた真琴の部屋。もう一部屋はサービスルームで、広さは6畳ほど。小さな箪笥とマットレが置かれ、沙月が居候している部屋もある。そしてこの部屋には生活感が漂っていた。部屋を確認すると、念のため司は玄関へ向かった。玄関の靴箱にはパンプスやヒールばかりで、男性物の靴は一つもない。ハンガーラックにも女性用のコートやストールだけが掛けられている。どこを見ても、この2LDKは女性たちの空間であることがはっきりしていた。司はその事実を確認すると、安堵した。(やっぱり家主は女性だったか……)リビングに戻って来ると、ソファで眠っている沙月の様子を伺った。「全く……人の気も知らずに呑気に寝ているとは……」静まり返った部屋に、沙月の微かな寝息だけが時折聞こえている。あまりに静かで自分が意図的に無視してきた記憶が蘇ってきた。彼がどんなに遅い時間に帰宅しても、沙月は起きて待っており、笑顔で迎える。リビングには、用意された食事。そして食後に飲むお茶。シワひとつないワイシャツに、美しく整頓された部屋……。さらにこの二年間、沙月は一度も司の前で酒を飲むことは無かった。それは司が酒の匂いを嫌っていたからだった――「……うっ……」沙月が突然動き、司はすぐに体を起こした。「どうした?」「き、気持ち悪い……」目を閉じた沙月の顔は青ざめている。「おい、待て、トイレまで抱えて……」言い終わらぬうちに、沙月の身体が崩れ落ちる。次の瞬間――「ウォエ……」ビシャッ!沙月は嘔吐し、司が着ている高価なスーツの上着が瞬く間に被害に遭ってしまった。「……はぁ~……」目を閉じるが、怒りは湧かず……ただため息をつく。「……まったく……」汚れた上着を脇に投げると、袖をまくって吐しゃ物を片付け始めた。「え~と……拭く物は……これでいいか。 だが、袋はどこだ
Last Updated : 2025-11-30 Read more