Semua Bab 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す: Bab 31 - Bab 40

87 Bab

31:新たな生命2

 と、その時だった。 彼女の腹の奥で、ぽこりと、小さな命が動いたのだ。 胎動というにはあまりに小さい動き。魔女であるエリアーリアだからこそ感じられた、わずかな魔力の脈動。 けれどそれは、確かに命の証だった。 その小さな動きが、彼女の心を突き動かした。 心の奥底から、これまで経験したことのない感情が噴き出してくる。曝け出された本能が、叫んでいる。 ――愛おしい、と。(この子を守らねばならない。この子を守れるのは、私だけなのだから!) 強い衝動は、あっという間に恐怖を吹き飛ばした。後に残るのは、母としての強い決意。 エリアーリアはもう一度、腹に手を添える。「私の中で、生きている。アレクとの子が」 愛おしさが込み上げてきて、涙がこぼれた。 エリアーリアは流れる涙を拭いもせずに、続ける。「この子の未来を守るのが、私の新しい運命。必ず守ってみせる」 口に出して言えば、すとんと腑に落ちた。百年の孤独よりも「大いなる還元」よりも、新しい命の未来こそがエリアーリアの全てとなった瞬間だった。(でも、どうしたらいいの。魔女が子を産むだなんて、聞いたこともない) 考えても答えは出なかった。小屋に置き去りにした書物を思い出しても、そのようなことは書かれていなかったと思う。 一人で考えて分からなければ、他者の知恵を頼るしかない。エリアーリアは親しい友人である魔女たちを思い浮かべた。 湖の魔女、リプル。火口の魔女、イグニス。彼女らであれば、エリアーリアが知らない知恵を持っているかもしれない。 人間と交わって子をなすなど、禁忌中の禁忌だ。たとえ親しい友人といえど、どんな反応が返ってくるか予想ができない。 下手をすれば糾弾され、断罪されるかもしれない。 それでもエリアーリアは、何もしないではいられなかった。 彼女が友人に助けを求めると決意した、その時。 目の前の泉の水面が揺らいだ。青い水に映るのは、古い魔女の文字。 年に一度の「魔女集会(ヴァルプルギス)」の開催を告
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-01
Baca selengkapnya

32:反撃の一歩

 南の砦、作戦室にて。壁には松明が掲げられ、重厚な木製のテーブルには巨大な地図が広げられている。 集まっているのは、白髪の老将軍ヴァレリウスと、彼が信頼する数名の屈強な騎士たち。その中心に、アレクが立っていた。 旅の汚れを落としたアレクは、王子としての気品を取り戻している。銀の髪は月光を思わせる輝きを放ち、夏空のような青い瞳は曇りなく前を見据えていた。 以前と違うところといえば、瞳に深さが増した点だろう。父王が健在だった頃のアレクは、どこか無邪気で少年めいた雰囲気があった。 だが今は違う。腹に覚悟を据えた大人の男として、将軍らの前に立っている。 集まった者たちは、期待と不安が入り混じった視線をアレクに注いでいる。彼はそれを堂々と受け止めた。 アレクの根底には、エリアーリアへの想いがある。彼女にふさわしい男となって、いつか迎えに行く。 そのための第一歩として、王族としての責任を果たそうとしていた。「殿下、兵力は圧倒的に我らが不利。王都軍の精鋭部隊が動けば、この砦も半日と持ちますまい」 ヴァレリウスの言葉に、場の空気が重くなる。 南の砦は精兵揃いだが、いかんせん数は多くない。アレクは頷いた。「だからこそ、正面からの衝突は避ける。我らが武器とすべきは、剣の数ではなく、知恵と地の利だ」◇ アレクの指が、地図上のある一点――険しい崖に挟まれた狭い谷を指し示した。迷いのない動きだった。「明日の夜明け、兵糧の輸送部隊がこの谷を通るということだったな」「はい、殿下。奇襲をかけるには絶好の機会ですが、敵の護衛は我らの倍はいる」 ヴァレリウスが懸念を口にするが、アレクは首を振った。彼の頭には、エリアーリアから教わった森の教えが息づいていた。「力でぶつかる必要はない。見てくれ、将軍。ここは崖が連なっている。エリアーリアに……大切な人に教わった。森では、強者も高所からの奇襲には弱いと。岩を落として道を塞ぎ、混乱したところを叩けば、少ない兵でも勝機はある」 彼は、集った者たち
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-02
Baca selengkapnya

33:反撃の一歩2

 夜明け前、霧が立ち込める谷。崖の上に、ヴァレリウス麾下の兵たちが息を殺して潜んでいる。アレクもまた、戦の先頭に立つべく兵たちと共に機会を窺っていた。 やがて地響きと共に、ガーランド王の紋章旗を掲げた輸送隊が姿を現した。兵糧やその他の物資を運ぶ輸送隊は、足が遅い。そのために隊列は細長く、そのままの形で狭い谷に入ってくる。「今だ!!」 合図と同時に、崖の上から巨大な岩が落とされた。岩を支えるロープが切って落とされると、轟音を立てて岩は転がり、輸送隊の行く先を塞ぐ。 混乱する敵兵に対し、アレクは容赦なく命令を下した。「弓隊、撃て!」 身動きの取れない輸送隊と護衛隊に、雨あられと矢が降り注ぐ。敵兵たちは逃げ惑い、逃げ場がなくて、次々と矢に串刺しにされていった。「さあ、行くぞ! 狙いは物資ではない、敵の戦意を砕くことだ。アストレアの旗の下に!」 アレクは剣を掲げて、馬で崖を駆け下りた。掲げた剣がぎらり、夜明け前の薄明かりを反射して銀色に光る。 彼の戦いぶりは、冷静な怒りとエリアーリアへの誓いに満ちていた。 王子が先陣を切ったことで、兵士たちの士気が大きく上がった。鬨の声を上げながら、崖を駆け下りていく。 奇襲はこれ以上ないほど完璧に成功した。南の砦の反乱軍は、最小限の損害で勝利を収める。 朝日が登る。まばゆい朝の陽の光がアレクの銀の髪を弾いて、気高くも美しく彼を彩った。 兵士たちは、誰よりも勇猛果敢に戦った若き王子の姿に熱狂し、剣を突き上げた。「アレク殿下、万歳!」 反乱軍が、初めて一つの意志を持つ軍隊として結束した瞬間だった。◇ 勝利に沸く砦で、アレクは最も高い塔の上に立つ。父王の時代の獅子の紋章が描かれた旗を、自らの手で高々と掲げた。 その旗は、朝日に照らされて力強くはためいた。 兵たちの歓声を聞きながらも、彼の心はすでに次の戦いへと向かっていた。「見事な初陣でしたな、殿下」 傍らに立つヴァレリウスが言う。「これで、兄上も
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-02
Baca selengkapnya

34:魔女集会

 秋の初めの満月の夜。 人界から隔絶された活火山のカルデラが、今年の「魔女集会(ヴァルプルギス)」の舞台となった。 地熱で空気が陽炎のように揺らめいて、溶岩の赤い光が集った魔女たちの様々な姿を影絵のように映し出している。 風の魔女は竜巻に乗って舞い降り、人魚の魔女はカルデラ湖から姿を現していた。 魔女たちは旧知の友人を見つけると、互いに楽しそうにおしゃべりに興じている。「おい、氷の魔女。君のせいで今年は春が遅かったじゃないか」 そう言ったのは、昆虫の魔女。光沢のある玉虫色の髪をして、よく見れば瞳は複眼のような網目になっている。「あら、そう? おかげで雪解け水が豊富だったでしょう?」 答えるのは氷の魔女。真っ白な髪、わずかに青みがかった銀の瞳の、およそ色素というものを持たない魔女だった。 他にも数多くの魔女たちが、ここでしか会えない友人と旧交を温めている。おかげで火口はとても賑やかだ。 エリアーリアは、久しぶりに感じる同胞たちの気配に懐かしさを覚えながらも、心の底から楽しむことができなかった。身に宿した秘密が、彼女を他の魔女たちから隔てている。(懐かしい。魔女集会は、いつも変わらないわ。でも、今年は……) 喧騒の中、彼女は二人の親友の姿を探した。 カルデラの中心近く、彼女たちはいた。 燃えるような赤毛を揺らし、金色の瞳を爛々と輝かせているのは、火口の魔女イグニス。彼女は溶岩の噴気孔で巨大なトカゲ肉を豪快に炙り、仲間と笑い合っている。 一方、湖のほとりには、穏やかな湖の魔女リプルがいた。水色の髪を風になびかせて、水の魔法で冷やした果実を友人たちに配りながら、青い瞳を優しく細めている。 懐かしい二人の顔を見て、エリアーリアの心に安堵が広がる。けれど同時に、この友人たちを裏切ってしまったという罪悪感が胸を刺した。「よぉ、エリア! 一年ぶりだな。相変わらず森に引きこもって、根暗になってないだろうな?」 イグニスがエリアに気づいて、手を振った。「今年は火口が魔女集会の会場だ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-03
Baca selengkapnya

35

「それで、聞かせてくれるよな。あたしたちとあんたの仲だ。隠し事はよしてくれ」 三人だけになった岩陰で、イグニスとリプルは真剣な表情をしている。 もう後には引けない。 エリアーリアは恐れる心を押し殺して、これまでの話を始めた。 深緑の森で、呪いに侵されて傷ついた人間の青年を助けたこと。 魔女の禁忌を忘れたわけではないのに、少しずつ彼に惹かれていったこと。 そして魂喰いの呪いを祓うために、禁断の儀式を行ったこと……。「今、私のお腹には……彼の子がいるの」 エリアーリアが全てを話し終えると、岩陰には重い沈黙が落ちた。 二人の友人はそれぞれの表情で、驚きと戸惑いを浮かべている。 最初に沈黙を破ったのは、火口の魔女イグニスだった。彼女は金色の目に怒りをたぎらせて、エリアーリアの肩を掴む。「馬鹿野郎! あんた、自分が何をしたか分かっているのか!? 人間との子なんて、大師匠が知ったら……!」「イグニス、落ち着いて。エリア、体の具合は大丈夫? 赤ちゃんは、元気なのですか?」 リプルが、友人たちの間に割って入った。「ちっ! ……そうだ、大事なのはあんただ。体は大丈夫なのかよ。辛くないのか」 イグニスは舌打ちしたが、怒りの浮かぶ瞳の奥にはエリアーリアへの気遣いが見える。友人の不器用な優しさに、エリアーリアは目を伏せた。 友人たちは、エリアーリアよりも長く生きる魔女だ。禁忌の重さは誰よりも知っている。 知っていながらエリアーリアを気遣い、守るために考えてくれている。心遣いが、とても嬉しかった。 リプルが言う。「こんな大事は、隠し通せません。大地の魔女様に告白するべきです。あのお方は、エリアーリアのお師匠様でしたね。きっとうまく取り計らってくださるはず」「そうだな。テラ様には、あたしが話す。あんたのしたことは馬鹿げてるが、それでもあんたはあたしのダチだからな。だから…&he
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-03
Baca selengkapnya

36

 火口は、大地の魔女テラの登場で静まり返った。 長く豊かな漆黒の髪は、夜の闇よりも深い。千年を生きた魔女でありながら、その姿は若々しく肌には一点の曇りも見受けられない。けれど黒曜石のように静かな瞳の奥には、人間では到底計り知れない悠久の時が宿っていた。 魔女たちはおしゃべりをやめて、最年長の魔女であるテラに敬意を表すためにひざまずいた。 テラは溶岩ドームの上を滑るように歩いて、火口の岩へと降り立った。 エリアーリアとイグニス、リプルも、岩陰から出て地面に膝をついた。 テラは、身を縮こませるように固めている三人を、ちらりと見やる。それだけで彼女らは、見えない力に押されたような圧迫感を感じた。「深緑の魔女、エリアーリア。ここへ」 厳かな声が、彼女の名を呼んだ。逆らうことを許さない、絶対者の声。 他の魔女たちが好奇と疑惑の目で、エリアーリアを眺めている。「何かあったのかしら?」「さあ? こんなの、初めてだよね」「深緑の。まだ若い子じゃない」 魔女たちのささやき声の中、イグニスが意を決して立ち上がりかけたが、テラの黒曜の瞳に見据えられると、悔しそうにまた膝をついた。「ごめん、エリア。あたしじゃあ、役に立てそうにない」 隣ではリプルが、肩を震わせながらうつむいている。「いいのよ。これは私の問題だもの。……行ってくるね」 火口の岩肌を踏んで、エリアーリアは前に出る。数十年ぶりに相対した師は、深い瞳で彼女を見つめていた。(師匠……) エリアーリアは悟っていた。敬愛する師の前では、言い訳も嘘も意味をなさない。 彼女の心に、遠い昔の記憶が蘇る。◇ 魔女は最初は人間の娘として生まれて、ある時魔女の宿命に目覚める。 エリアーリアも例外ではなく、ある小さな国の下位貴族の娘として生を享けた。 子ども時代を何の変哲もない少女として過ごしていたが、異変は十五歳の時に起きた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-04
Baca selengkapnya

37

 強すぎる魔力はエリアーリアの家どころか、周囲の領地にも影響が広がっていく。農作物に被害が出始めた。 雑草が過剰に生い茂って、作物を駄目にしてしまう。作物そのものも急激な勢いで育ち、育ちすぎて食べられなくなってしまう。 留まるところを知らない、荒れ狂うような緑の力だった。 両親も、周囲の人々もエリアーリアの強すぎる力を恐れた。 人間たちは魔女の存在は知っていたが、目の当たりにすることはめったにない。エリアーリア自身を含めて、どうしていいか分からずに混乱してしまった。 不幸中の幸いは、両親が愛情深い人であったこと。彼らは娘を見放さず、根気よく寄り添った。 領民たちの不満をなだめ、旅の魔術師や呪術師を領地に呼んでは、話を聞いた。 するとある一人の魔術師が言ったのだ。「お嬢さんの魔力は、既に人の域を超えている。恐らく彼女は、魔女になったのでしょう」「そんな。それでは娘は、どうなるのです」 父と母は手を取り合って、嘆いた。「魔女には魔女の領域がある。同じ魔女から教えを乞うて、今後は人と違う場所で生きることになる。……これを」 魔術師が取り出したのは、一本の細い香木だった。「これは私の亡くなった師匠が、もう百年も前に、とある魔女から譲り受けたもの。この香木を焚けば、かならず魔女の同胞が迎えに来てくれましょう」 魔術師は香木を両親とエリアーリアに託して、去っていった。 香木を手に、両親は苦悩していた。 エリアーリアの有り様がもはや人間ではないのは、傍目から見てもよく分かる。けれど大事な娘を、魔女などという得体のしれない相手に渡していいのか。ましてや彼らは、息子を亡くしたばかりなのだ。なのに娘まで。 悩み苦しむ両親に、彼女は言った。「お父さま、お母さま。その香木を焚いてみましょう。私はこれ以上、皆さんにご迷惑をかけたくありません。私が魔女だというのであれば、きちんと同胞に教えを乞いたいのです」「エリアーリア……」 そうして焚
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-04
Baca selengkapnya

38

 夜の庭で、生まれたばかりの魔女と古い魔女は言葉を交わす。「新しき魔女よ。お前を歓迎しよう。お前はこれから、学ばねばならぬ。魔女の宿命、大いなる還元への道を。千年の時を穏やかに過ごし、全ての未練を捨て去って、この世界の礎となる。それこそが魔女の定め」 エリアーリアは、テラの言葉の半分も理解できなかったが、答えた。「学ぶのですね。学びながら、何をすればいいでしょう?」「まずは力の使い方を覚えなさい。お前の力は美しい。だが、磨かねばただの嵐と同じだ」「……!」 エリアーリアははっと目を見開いた。荒れ狂うばかりの緑の力は、まさに嵐そのものだったので。「はい、磨きます。力を使えるようになります」「よろしい。それではこれから、この家を出る」「えっ」 背を向けたテラに、エリアーリアは驚きと動揺の声を上げた。「魔女様、なぜでしょうか。ここは私の生家です。弟が亡くなったばかりで、お父さまもお母さまも心配しています。私まで家を出て行ってしまったら……」「ならぬ。魔女は人と交わらぬ掟。短命の人間に情を持ちすぎれば、それは未練となる。お前の適性は、どうやら『深緑』のようだ。深い森の奥こそが、お前の住処となるだろう」「でも、大切な親なのです! お別れもなしに行くなんて、できません!」「では手紙を書くといい。別れの言葉をな……」 エリアーリアは呆然としながらも、羊皮紙と羽ペンを手に取った。彼女の身の内に渦巻く魔力が、人の身を変質させつつあるのは、彼女自身が一番良く分かっていた。 今はまだいい。でもいずれ、人間ではないと思い知る日が来る。そんな予感が確信となって、彼女の中にあったのである。 エリアーリアは涙をこらえながら、両親への手紙を書いた。今まで育ててもらった感謝と、荒れ狂う魔力を見守ってくれた感謝。もう会えなくなるけれど、心配はいらない、と。(魔女とは、なんて非情な生き物なのかしら) この時のエリアーリア
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-05
Baca selengkapnya

39

「エリアーリア。我ら魔女は魔力を存在の根幹とする。肉体を重んじる人間とは、基本的に違う生き物なのだ。だからこそ我らは、呼吸を行うような自然さで、鼓動を打つような無意識のうちに、魔法を行使できる。詠唱や魔法陣を必要とする人間の魔術とは、系統が違うのだよ」「人間の魔術は、劣っているということですか?」「そうとは限らない。進歩発展において、人間はこの世のあらゆる生き物を凌駕する。魔女の魔法に学び、独自の魔術を編み出した例もある。私が記したその書物も、人間の魔術を取り入れて、より効果的に魔法を使えるようにしたものがある」 エリアーリアは写本途中の書物を見た。完成すれば、古い叡智の結晶となるだろう書物だ。「エリアーリア、我らは元が人であるからこそ、気をつけなければならない。揺れ動く進取の気風は、人間だけに許されたもの。我らはより自然に近いものとして、不変であると誓わねばならないのだ。――そう、大いなる還元のために」 そうしてテラは語ってくれた。年若い弟子を慈しむように、いたわるように。「エリアーリア、深緑の魔女よ。我ら魔女の大いなる還元は、世界の礎となるもの。人として生まれた我らが、人を捨てて自然に還る。その皮肉を思う時もあった。しかし私は思うのだ。人もまた、自然の一部であると。知恵によって理を逸脱し、未練によって世に留まるが、人間も命の一つであることに、代わりはない――」 エリアーリアは師と過ごした日のことを、まるで昨日のように思い出していた。◇ 古い回想は、現在のテラの声によって断ち切られた。「エリアーリア。お前は私の最後の弟子だ。お前の魔力は、誰よりも生命の輝きに満ちている。……だからこそ、分かる。その身に宿る、異質な理(ことわり)が」 過去に受けた恩を、彼女は今、罪を以て返そうとしている。その事実が心を締め付けた。 エリアーリアはこらえきれずに、師の前に膝をついた。「……申し訳、ありません。師匠……」 テラはエリアーリアを責めなかった。ただ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-05
Baca selengkapnya

40

 エリアーリアは師であるテラの後を追い、全ての魔女が見守る中心へと歩を進めた。 集まった魔女たちは、テラの歩みを邪魔しないように次々と道を開ける。同時に好奇と詮索の入り混じった視線をエリアーリアに投げかけて、ひそひそとささやき合っていた。「エリアーリア、あの子、一体何をしたのかしら」「ただ事じゃないね」「深緑の魔女は、テラ様の最後の弟子でしょう。何をしたのやら」「異質な理? 未練? まさか……」 エリアーリアは、視線の全てが突き刺さるように感じたが、それでもしゃんと背筋を伸ばして歩いた。 師へ恩を仇で返した罪悪感はある。魔女の理を侵した自覚もある。 だがそれ以上に、我が子を守ろうとする決意が上回った。 テラが溶岩ドームの前で振り返った。エリアーリアも足を止める。 魔女たちのざわめきは静まって、裁定の始まりを告げる張り詰めた空気が場を支配した。◇ 大地の魔女テラは、その場の全ての魔女たちを見渡して、威厳のある声で語り始めた。「皆も知っておろう。我らの還りを妨げるもの、それが『未練』。特に人間との絆は、魂をこの世に縛り付ける、最も重い楔となる。……ここに、その最大の禁忌を犯した者がいる」 テラの言葉に、全ての魔女の視線がエリアーリアに注がれた。 好奇、恐れ、嫌悪、侮蔑。様々な感情の渦巻く中、エリアーリアはそっと腹に手を当てて、毅然と顔を上げた。 彼女の心に、不思議と恐れはなかった。もう自分は魔女ではない。この子を守る「母」なのだと、自然とそう思える。「私は、後悔していません。たとえ還る道を失っても、この子を守れるのなら、満足です」 決然とした声は、火口に響き渡る。魔女たちの間に衝撃が走った。「なんて厚かましい……! 大いなる還元は、世界を支えるための重要な柱なのに!」「役割を放棄するなんて、あり得ないわ。無責任すぎる」「一時の感情に身を任せて、後で後悔
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-06
Baca selengkapnya
Sebelumnya
1234569
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status