湿り気を帯びた熱い空気が森に満ちる夏の午後、空が急速に暗くなった。 エリアーリアが軒先に干していた薬草を取り込もうと手を伸ばした瞬間、大粒の雨が地面を叩き始める。空を見上げた彼女の髪が、みるみるうちに水に濡れていった。「大変だ! 薬草を取り込まないと、濡れてしまう!」 アレクが慌てて薬草を集めようとするが、エリアーリアは制した。「気にしないで。それよりも早く小屋に入りなさい。この雨は、荒れるわ」 遠くの空に稲光が走った。続く雷鳴は、アレクの予想を超えて近くに落ちる。轟音が辺りに鳴り響いて、大気と地面が揺れた。 先に小屋に戻ったエリアーリアに続き、アレクも小屋に駆け込んだ。◇ 激しい雨が屋根を打ち、窓に光る稲妻が小屋の中を一瞬だけ青白く照らし出しては、また暗くなる。 ランプの灯火が今は頼りない明かりとなって、二人の影を壁に映していた。 狭い小屋の中は、降りしきる雨の音と雷鳴だけが満ちている。 アレクと二人きりで閉じ込められる状況に、エリアーリアは落ち着かない気持ちを覚えていた。この小屋はつい春先までは、彼女のたった一人きりの聖域だったのに。今ではこうして当たり前のように彼がいる。 そして、異物であったはずの彼の存在に慣れてきているのを自覚して、内心でため息をついた。「すごい雨だな。この森は、時々こうして荒れるのか?」 沈黙を破ったのは、アレクだった。エリアーリアはどこかほっとして、頷いた。「ええ。森が溜め込んだ魔力を、こうして吐き出すの。……怖くはないの? 激しい雨に、落雷。人間は、こういうのを恐れるものだと思っていたわ」 深緑の森は魔女の森。魔力の流れは強く、普通の森とは違う環境になっている。 エリアーリアの問いに、アレクはわずかに微笑んだ。「君がいるから、怖くない。それに……なんだか、懐かしい気がする。昔、兄上と雨宿りをして、お互いに雷を怖くないと言い合ったものだ。本当は怖いのに、意地を張って」「あら。
Last Updated : 2025-09-20 Read more