Semua Bab 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す: Bab 51 - Bab 60

87 Bab

51:雨露をしのぐ場所

「大丈夫よ。もう少しだけ、頑張ってね。必ず、あなたが安心して眠れる場所を見つけるから……」 お腹の子に優しく語りかけて、傾いた扉を押し開ける。崩れかけた小屋の中へ転がり込むようにして入った。 小屋はボロボロで雨漏りもひどかったが、嵐の風の直撃を遮ってくれた。それだけでもかなり体が楽になる。 エリアーリアは壁に寄りかかり、荒い息をついた。(よかった。これでやっと、休める)◇ 嵐はやがて通り過ぎて、雲間から太陽が顔を覗かせた。 エリアーリアは疲れ果てて、床に座り込んでいる。疲労困憊した体は重く、すぐには動けなかった。 ふと目を向けると、床板の隙間から、一輪の小さな青い花が健気に咲いているのが映った。 廃屋の薄暗がりの中、壊れた屋根の隙間から差し込む一筋の光を浴びて、その花だけが輝いて見える。「きれい……」 疲労と不安のピークにあったエリアーリアの心に、一輪の花は希望の光を灯した。 戦争や国の動乱、魔女の掟やエリアーリアの苦難とは無関係に、ただ懸命に生きようとする命の力強さ。その姿は、エリアーリアの心を奮い立たせてくれた。(負けていられないわ。私もこの花のように、強く生きなければ。この子のために) 彼女は花にそっと触れた後、立ち上がった。「お願い、植物たち。力を貸して」 残された魔力を使って、壁に這っていた蔓草を伸ばす。屋根の穴を塞いで、崩れた壁を補強した。 それから風の魔法で室内の塵を払う。濡れた体は温風の魔法で乾かした。 壊れたドアは取り外して、蔓草を何重にも垂らしてみる。 崩れかけたあばら家は、見る間に緑の小屋に姿を変えた。 一通りの作業が終わり、エリアーリアは息を吐いた。これでずいぶん過ごしやすくなる。 次の嵐が来ても、安全に過ごすことができるだろう。 寒い冬が来ても、温かく暮らすことができるだろう。そして春を無事に迎えれば、お腹の子が生まれる時期が近づいてくる。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-11
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52:闇夜の罠

 鷲ノ巣砦の勝利から数週間。アレク率いる反乱軍は連戦連勝を重ねて、兵士たちの士気は最高潮に達していた。「アレク殿下、万歳!」「偽王ガーランド、何するものぞ!」 反乱軍の陣営からは、兵士たちの陽気な声が聞こえてくる。 ガーランドの圧政に苦しむ民からの義勇兵も加わり、勢いに満ちていた。 しかし兵士たちの楽観的な雰囲気とは裏腹に、アレクとヴァレリウス将軍の表情は硬い。(おかしい。兄上がこれほど無策なはずがない。あまりに順調すぎる) エリアーリアに教わった森の警戒心――順調な時ほど危険が潜んでいるという教えを、アレクは思い出していた。 ヴァレリウスも言う。「殿下、どうにも腑に落ちませぬ。敵の抵抗が、あまりにも弱すぎる。まるで、我らを誘い込んでいるような……」「お前もそう思うのか。しかも次の進軍先は、谷間の道。やはり罠の可能性が高いな」 アレクは頷いて、配下の兵に指示を飛ばした。「斥候を出せ。いつもよりも人数を増やして、念入りに調べよ」「はっ!」 斥候隊が本陣から放たれた。だが数時間後に戻ってきた彼らの報告は「異常なし」というものだった。(異常なし? そんなはずは……) アレクは訝るが、勢いがついた軍というものは簡単に止められない。ましてや義勇兵が加わったことで、軍隊としての練度は落ちている。「アレク殿下! 出撃のご命令を!」 反乱軍の熱意は、これ以上ないほどに高まっている。出撃を留め置くのは困難だった。「――出撃する。ただし全軍、警戒は怠るな!」「オオオッ!」 出撃の合図に、反乱軍は鬨の声を上げて応えた。◇ アレク率いる反乱軍は、次の拠点へ向かうため霧深い谷間を進軍していった。 辺りには濃い霧が立ち込めている。視界は悪く、すぐ先の友軍の姿でさえおぼろげだ。 両側には岩肌が迫り、道は細い谷間となって続いている。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-12
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 崖上の空間が黒く揺らめいて、今まで誰もいなかったはずの場所に敵兵が現れる。明らかに何らかの魔術の影響を受けていた。 空を黒く染めるほどの無数の矢が降り注いで、味方の兵士たちの悲鳴が響き渡る。「何だ、今のは! 兵が急に現れたぞ!」 反乱軍の兵士たちに動揺の声が走る。 同時、アレクは完治したはずの呪いの感覚を思い出していた。黒い魔術、悪意に満ちた闇魔術のそれを。 伏兵は弓兵だけではない。谷の前後にガーランド軍の重装歩兵が多数現れる。 彼らは尋常の様子ではなかった。表情は血に飢えた悪鬼のようで、武器を握りしめる手には太い血管が浮いている。反乱軍に切りつけられてもものともせず、ひたすらに突撃を繰り返してくる。 闇魔術師ダリウスによる、隠蔽と狂化の魔術だった。 反乱軍は完全に包囲された。たちまち阿鼻叫喚の地獄が始まる。「落ち着け!  陣形を組んで突破口を開くのだ!」 アレクが叫ぶが、その声は悲鳴にかき消された。仲間たちが次々と倒れていく。(くそっ、何ということだ! 俺の読みが甘かったばかりに!) その時アレクの胸を狙って、魔法の黒光を帯びた一本の矢が飛来した。 矢は正確に彼の心臓を狙って、吸い寄せられるように飛んでいく。「殿下!」 ヴァレリウス将軍が叫んだ。騎馬を体当りするようにして、アレクを突き飛ばす。 魔法の矢は老将軍の鎧をやすやすと貫いて、背中まで貫通した。ヴァレリウスの体が力を失い、落馬する。「将軍! しっかりしろ!」 アレクは必死にヴァレリウスを引き上げようとするが、老将軍は首を振った。「殿下……お逃げくだされ……!」 血を吐きながら、ヴァレリウスは前を指し示す。「我らの希望を……ここで絶やすわけには……! 必ず、再起を!」「……っ!」 老将軍は傷ついた体に鞭打って立ち上がり、剣を掲
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-12
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 それからのガーランド軍の反撃は、苛烈を極めた。 反乱軍の残党を徹底的に狩って、義勇兵を出した村は焼き払った。ヴァレリウス将軍の一族は捕らえられて、赤子まで殺された。 ガーランド王の復讐は、ほとんど妄執のようだった。 アストレア王国に悲鳴と怨嗟の声が満ちる。 アレクは地下への潜伏を余儀なくされた。兵力は既になく、頼る先もない。 故国で血の粛清が吹き荒れるのを、ただ黙って見ているしかできなかったのだ。「俺が無力なばかりに、多くの国民を死なせてしまった」 アレクは無力感に奥歯を噛みしめる。 進むべき道を見失いながら、彼を支えるのはエリアーリアへの思いと、国への責任感。 光なき闇夜をさまようように、アレクの苦難の旅が始まる。 ◇  南の辺境の町外れに住処を定めたエリアーリアは、少しずつ新しい暮らしを整えていた。その様子は、森の動物や鳥たちが巣を整えるようでもある。 彼女の家である小屋は、植物の魔法で補強する他、荒れ地で拾い集めた材料を使ってコツコツと補修を続けている。 一番近くにある町は、歩いて半日ほどの距離にあった。 エリアーリアは月に二、三度ほど町まで行って、食料やその他の必要なものを買い求めた。(手持ちのお金が残り少ない) そうと気づいてからは、工夫を始めた。 荒れ地にも少ないながらも薬効のある草が生えている。彼女はそれを摘んできて、薬として使えるよう天日に干したり、煎じ薬を作ったりした。 それらを持って町まで行けば、よく売れた。町は小さく医者がいなかったこと、戦争が起きて怪我をする人が増えたためだった。「エリアーリアさん、助かりました。あなたの薬草を使ったら、傷口の化膿が良くなって」「うちの子の熱も、下がりました。これはお礼です。お腹に赤ちゃんがいるのだから、しっかり食べてくださいね」「いえ、そんな……」 町の人々は素朴な善意で、エリアーリアに接してくれる。 寄
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-13
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55:双子の誕生

(深緑の森も、春になった頃かしら) 百年住んだ故郷の森を懐かしく思い出せば、蘇るのは孤独と諦念ではなく、アレクと過ごしたたった数ヶ月の時間。 もう会えない人との恋の思い出を胸に、エリアーリアは現在の時間を生きていく。 そうして春が過ぎて、初夏に差し掛かった頃。彼女の体に異変が起きた。 いよいよ赤子の誕生を控えた、最初の兆候だった。◇ 辺境の廃屋でエリアーリアは一人、産みの苦しみを迎えていた。 外は冷たい雨が降りしきっている。遠いどこかで起きている戦の悲しみを、天が悼むかのような雨が。 時折、遠くから軍馬の蹄の音が聞こえてきては、彼女の不安を高めた。  ランプの頼りない明かりが、汗でぐっしょりと濡れた彼女の姿を淡く照らす。天井の梁に括り付けた布を、エリアーリアは血が滲むほど強く握りしめていた。(痛い、痛い、苦しい。怖い……!) 魔女の強靭な体も、人間の子を産むという初めての体験に軋んでいる。激しい痛みに何度も意識が遠のきそうになった。 彼女を支えるのは、子を守る強い愛情だけ。(大丈夫、大丈夫よ。あなたは必ず、私が守る……) 歯を食いしばり、苦痛の声を漏らしながらも、エリアーリアは必死に耐えた。◇ 陣痛の波が頂点に達して、エリアーリアは意識が朦朧とする。 痛みのあまり、心が折れそうになった。 もう無理かもしれない。この子をちゃんと産んであげられないかも。その諦めが心をよぎった瞬間、彼女の脳裏にアレクの顔が鮮明に浮かんだ。 裏切られても呪われても、決して生きることを諦めなかった彼の強い瞳。明るい夏空のような青。その記憶が、彼女の心を再び浮上させた。「アレク!」 彼の名を呼ぶ。助けを求める声ではない。自らを奮い立たせるための、愛と祈りの叫びだった。「アレク、どうか力を貸して! この子が無事に生まれるよう、私に力を!」 祈るような言葉
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 驚きと混乱の中、彼女は自分が双子を宿していたことを知る。最後の力を振り絞り、二人目の産声が最初の産声に重なるように、小さな小屋に響き渡った。 エリアーアリアは生まれたばかりの二人の赤子を、震える腕で胸に抱きしめた。「……かわいい」 生まれたばかりの小さな命に、愛おしさがこみ上げる。 疲労困憊した体に鞭打って、赤子たちを湯に浸し、洗い清めた。血の汚れが落ちると、赤子たちの髪の色が明らかになった。 男の子はエリアーリアそっくりの金の髪。 女の子はアレクによく似た銀の髪。 エリアーリアは我が子たちを腕に抱いて、初めての授乳をしながらウトウトとまどろみ始めた。 出産の苦痛は未だ体を蝕んでいたが、それ以上の幸福が彼女を包んでいた。◇ 数日経つと、赤子たちの目が開いた。 男の子は、アレクに生き写しの夏空の瞳。 女の子は、エリアーリアそのものの深緑の瞳である。「髪の色と、目の色。お父さまとお母さまの色が、きれいに分かれて出たのね」 エリアーリアが子どもたちに頬ずりをすると、赤子特有の甘く幸せな匂いが漂った。 その匂いに包まれながら、彼女は子どもたちに語りかける。「あなたたちの名前を決めなくては。そうね……」 考えた末に、彼女は名付けを決めた。 男の子はアルト。父アレクの頭文字をもらって、彼のように強く生きる願いを込めた。 女の子はシルフィ。両親のしがらみにとらわれず、風のように自由に生きてほしいと祈りを込めた。「アルト、シルフィ。これから、よろしくね」 二つの小さな命を胸に抱きながら、エリアーリアは母となった喜びを噛み締めていた。 これからは、この子たちをたった一人で育てていかなければならない。 喜びと不安とが同時に襲ってきて、彼女は静かに涙をこぼした。 かつての追放の日に、もう泣かないと決めたけれど、今日だけは特別。新しい命を目の前にして、ぱたり、ぱたりと涙
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-14
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57:地下水道

 双子の誕生から、時は半年ほどさかのぼる。 冷たい秋の雨が降りしきる夜の森を、アレクたちは逃げていた。 霧の谷の惨敗から数時間、ガーランド軍の執拗な追撃は、夜の闇の中でも緩むことがなかった。ぬかるんだ地面に足を取られ、生きを切らしながら木々の間を駆け抜ける。背後からは追手の角笛の音が、決して鳴り止まずに何度も響いてきた。木々の合間に灯る敵軍の灯火が、執拗に迫る。「しっかりしろ、ヨハン! 死なせはしない!」 アレクは、足を負傷した騎士ヨハンの肩を貸しながら、必死に励ました。 ヨハンはヴァレリウス将軍の息子。父の壮絶な最期を目の当たりにして、彼の顔からは血の気が失せている。『必ず、再起を!』 将軍の最期の言葉が、アレクの脳裏に何度も響く。 けれどその言葉は奮起ではなく、アレクを罪の意識で苦しめた。(再起だと? 俺の甘さが、これだけの被害を招いた。将軍、俺にその資格が本当にあると言うのか) 逃げ込んだ先が森であったのが、唯一の幸運だった。 深緑の魔女の教えを受けたアレクは、森での動き方を知っている。 泥の上に撹乱のための足跡をつけて、脇の藪に飛び込む。草を結ぶだけの簡易な罠を手早く作って、時間を稼ぐ。 森の知恵を駆使していけば、食らいつくようだった追手も徐々に遠ざかっていった。◇ 森で数日間潜伏した後、アレクたちは再び進み始めた。 夜の森の先に明かりが見える。小さな村の灯火だった。 持ち出せた物資は少なく、手当が必要な怪我人は多い。最後の希望をかけて、アレクは村の門を叩いた。「夜遅くにすまない! 誰かいないか!」 門の奥から出てきたのは、村長と思われる壮年の人物である。 彼は傷ついたアレクたちをぎょっとした顔で眺めた。「誰だ、あんたらは。何をしにきた」「俺たちは……」 言いかけて、アレクはためらった。敗北した反乱軍など、匿えば罪に問われるのは必至だ。名乗らずに物資だけ求めるべきか。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-14
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「ついさっき、王の軍隊が触れ回りに来た。反乱軍は全滅したそうじゃないか。わしの息子は、義勇兵として反乱軍に加わった。息子はどうなったんだ。生きているのか!?」「それは……」「息子を殺して、お前たちだけが逃げ延びたのか! 義勇兵を出したせいで、この村の若い男たちは皆殺しにされた。我らには倍の税が課されるそうだ! お前たちのせいだ!」 他の村人たちもやって来て、怒りと憎しみと悲しみに満ちた声を上げる。お前たちのせいだ、と。(俺のせい、なのか……) 味方だったはずの民の怨嗟の声が、アレクの心に突き刺さった。自分のために戦ってくれた人々の家族を、自分が不幸にした。その事実が彼をひどく打ちのめす。「これ以上我々を巻き込むな。さっさと立ち去れ! さもなければ、王の軍を呼ぶぞ!」 引き下がる以外にない。 村を追い払われたことで、アレクは今の自分立ちが「希望」ではなく、関わる者全てを不幸にする「災厄」であると悟った。アストレア王国に、彼らの居場所はもうどこにもない。「……アレク殿下」 騎士ヨハンが口を開いた。「いっそ王都へ向かっては如何でしょうか。灯台下暗しと申します。王都で密かに潜伏し、再起の機会を待つのです」「…………」 どこへ行っても追われるならば、選択肢はない。 アレクは生き残ったわずかな手勢を連れて、王都へ向かうことにした。◇ 王都の地下は、下水道が張り巡らされている。汚水が流れ、ネズミが走り回る暗く湿った水路に潜伏してから、数週間が過ぎた。 悪臭、絶えず滴る水音、そして決して陽の差すことのない永遠の闇。その劣悪な環境は、生存者たちの心身を確実に蝕んでいった。 負傷の重かった者が数人死んで、ろくに弔うこともできない。元々少なかった反乱軍の生き残りは、櫛の歯が欠けるように数を減らしている。 アレクの消耗は激しかった。村での出
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-15
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「そのようなこと。父は武人です。殿下のために命を使えて、本望であったかと」 話を交わす二人の元に、部下の一人が歩み寄ってきた。王都の様子を見てきた者だ。「アレク殿下、ヨハン様。申し上げにくいのですが……」「何だ。言ってみろ」「ヴァレリウス将軍の一族が反逆者として捕らえられ、赤子に至るまで全員処刑されたと……」「…………!」 アレクとヨハンは絶句する。 ヨハンはずるずると床に崩れ落ち、拳で強く地面を打った。 アレクは自らの敗北が招いた惨劇に、涙を流すことさえできなかった。◇ 完全に希望を失ったアレクは、地下水道の暗い片隅で座り込んだまま動かない。 虚ろな瞳がふと、汚水の中を泳ぐ一匹のネズミを捉えた。 ネズミは必死に流れに抗い、小さな足場にたどり着こうともがいている。その姿は、少し前までの自分自身に重なった。しかし結局ネズミは力尽きて、汚水の流れに呑まれて闇の奥へと消えていった。 アレクはその光景に、民たちのために戦って無残に死んでいった兵士たちの姿を重ねる。この全てを引き起こした自分自身も、やがてこのネズミのように闇に消えるべきだと感じた。 彼は無意識に、父の形見である指輪を握りしめる。魂喰いの呪いを受けてもなくさず、敗戦の長い逃避行にあっても、この指輪は常に彼と共にあった。 エリアーリアとの思い出と、王子としての誇り。その二つが辛うじてアレクの心を繋ぎ止めている。(エリアーリア。俺は君にふさわしい男に、なれそうにない……) 王国の希望だったはずの王子は、闇に閉ざされた水路の底で深い苦悩に苛まされている。 光はまだ、見えない。 ◇  初夏に誕生した双子は、秋になる頃にはずいぶんと大きくなっていた。 緑の蔓で補強された小屋は、今では二人の子どもと母親の暮
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「まあ、坊っちゃん、お嬢ちゃん。今日もかわいいこと」「二人とも目鼻立ちがしっかりしている。こりゃあ将来、母さん似の美人になるね」 道行く人は皆笑顔だ。 戦乱はこの地方にも色濃い影を落としていたが、この町はまだ影響が薄く、人々の生活は以前とあまり変わらない。(この穏やかな日々が、ずっと続いてほしい) アルトとシルフィの健やかな寝顔を眺めながら、エリアーリアは心から願ってやまなかった。◇ しかし平穏は長く続かなかった。 ある夜のこと、アルトがすやすやと眠る隣で、シルフィが苦しげな息をしているのにエリアーリアは気付いた。 折しも外は秋の嵐。強い風がごうごうと渦巻いて、緑の小屋を揺らしている。 シルフィの小さな頬は赤く上気して、額には汗が浮かんでいた。(可哀想に、かなりの熱だわ。ただの風邪ではなさそう) エリアーリアは不安を覚えたが、同時に「私が治してあげる」と強く思った。 病や怪我の治療は、彼女の得意とするところである。自然との絆が切れたとはいえ、エリアーリアは元は深緑の魔女。生命の魔法の腕も薬草の知識も、余人の追随を許さない。 彼女はアルトが目を覚まさないように静かに動いて、手際よく解熱効果のある薬草を煎じた。 シルフィの小さな口に少しずつ薬湯を与えながら、優しく子守唄を口ずさんだ。「大丈夫、すぐに良くなるからね。悪い病気は、飛んでいけ……」 秋の夜の小屋に、エリアーリアの小さな歌声が響いていった。◇ ところが、エリアーリアの懸命な看病にもかかわらず、シルフィの容態は悪化の一途を辿った。 薬草が全く効かない。それどころか熱は危険なほどに上がって、小さな体がびくりと痙攣を起こし始める。エリアーリアの表情から冷静さが消えて、焦りと恐怖が浮かんだ。 彼女はシルフィの小さな体に手をかざして、目を閉じて意識を集中させる。魔女としての感覚を使い、娘の魂を探ったのだ。 そうして感じ取ったの
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