Semua Bab 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す: Bab 21 - Bab 30

87 Bab

21:最後の手段2

 その瞬間、アレクとの短い日々が脳裏を駆け巡った。彼の不器用な笑顔、森の歌に聴き入る横顔、雨宿りの言葉、頬に触れた温もり。 長い孤独を解かしてくれた、解かしてしまった彼との思い出が、エリアーリアの胸に灯る。 そして、遠い昔の記憶が重なった。 病で衰弱していく弟の手を、ただ握ることしかできなかった、人間だった頃の無力な自分。『美しい。きれいだよ、ねえさま』 忘却の彼方にあったはずの声が、鮮明に響いた。 弟は最期の願いで、野の花を摘んできて欲しいと言った。それで花冠を編んで欲しいと。 エリアーリアがその通りにすると、弟は病み衰えた手で花冠を姉の頭に乗せて、微笑んだのだ。 弟を失った彼女は泣いて、泣いて……。悲しみに暮れるうちに魔女として目覚め、いつしか思い出を失っていた。 大事なことだったはずなのに、諦念と静寂の向こう側に置き去りにしてしまったのだ。(嫌よ! もう、目の前で誰かが消えていくのを見るのは、絶対に嫌!) その時、朦朧としていたアレクが、最後の力を振り絞ってエリアーリアに手を伸ばそうとした。「……エリアーリア。……もう俺に、構うな……」 死の際にあって、彼女を気遣っている。アレクの思いと優しさが、エリアーリアの心を抉った。 アレクの手が力なく床に落ちた。もう時間がない。 万策尽きたエリアーリアは、助けを求めるように小屋の中を見渡した。その視線が、作業台で開かれたままになっている魔女の書物に吸い寄せられる。(そうだ。一つだけ、手があった) 彼女の脳裏に浮かぶのは、禁忌の中でもとりわけ深く禁じられた儀式の記憶。師である大地の魔女テラから、「決して触れてはならない」と固く戒められた究極の秘跡だった。 あの奇跡であれば、魂喰いの呪いであっても浄化できる。あの儀式でなければ、根治は行えない。 しかしそれは魔女にとって最大の禁忌。自らの運命を捨てるに等しい行為だった。◇
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-25
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22:愛の儀式

 決意を固めたエリアーリアは、儀式の準備を始めた。 小屋の中央の空間を清めて、魔法陣を描く。触媒は銀のインク。月光花のエキスを集めたものだ。 貴重な浄化のハーブを暖炉にくべると、甘く物悲しい香りが立ち上った。 エリアーリアの迷いのない動きは、古代の巫女が踊る神聖な舞のよう。立ち込める甘い香りの中、ふわり、ふわりと一つの動作を終えるたび、部屋の中の魔力が濃くなっていく。 小さく歌われる儀式の歌は、古い魔女の言葉。灯されるのは、特別な薬草を練り込んだろうそく。 窓から差し込む月の光が、銀の魔法陣を淡く輝くように照らしていた。 彼女の心には、もう恐れも葛藤もない。ただ愛しい者を救うための、いっそ穏やかなほどの覚悟だけがあった。 師である大地の魔女の教えに背き、百年を過ごした魔女の運命を捨て去る。その行為の重さを理解しながらも、後悔はなかった。◇ 全ての準備が整った。 小屋の中は魔法陣の燐光と、いくつもの燭台に灯されたろうそくの炎が揺らめいている。おごそかな神殿めいた雰囲気がそこにあった。 エリアーリアはベッドに横たわるアレクを見た。彼の呼吸は浅く弱く、今にも止まってしまいそう。(もう、私はあなた方の元へは還れない……) 心の中で、愛した森と師であるテラに別れを告げる。 謝罪はしなかった。謝って許されることではないので。 儀式の最後の仕上げとして、エリアーリアは魔法陣の前に立った。彼女はゆっくりと、自らの衣服の紐を解いていく。一枚、また一枚と身にまとった布が滑り落ちて、燭台の光が白く美しい裸身を神々しく照らし出した。胸元に刻まれた魔女の花の紋様が、銀の光の中で美しくも儚く光る。 エリアーリアは魔法を使ってアレクを浮かび上がらせ、魔法陣の中央へと横たえた。彼女自身も後を追い、魔法陣の中に入る。 そして仰向けに眠るアレクの上に、静かに体を重ねた。「アレク……。必ず、助けるから」 エリアーリアは手を伸ばして、愛しい彼の頬を包んだ。青
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-26
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23:愛の儀式2

 ――アストレア王国の王宮を、二人の幼い少年が走っている。一人は銀の髪に夏空の目をした少年、アレクだ。もう一人は黒髪に冬の空の目をした、少し年上の少年だった。 髪の色こそ違うものの、彼らの面影はよく似ている。『兄上! 今日は離宮まで行って、剣の稽古をしましょう!』『ああ、いいぞ。義母上に挨拶をしなければ』 離宮に住まう王妃は、アレクとそっくりな銀の髪をした女性だった。実の息子と側妃の息子の黒髪の少年に、対等な態度で接している。優しく微笑む人だった。『二人とも、怪我のないようにするのですよ』『はい、母上!』『お気遣いありがとうございます、義母上』 二人の少年は仲良く笑いあって、剣の稽古をしていた。◇ 少し時間が経過したようだ。大きくなった少年たちは、相変わらず仲睦まじく過ごしている。 しかし周囲の大人たちはそうではなかった。『ガーランド殿下。あなたは側妃の子とはいえ、第一王子。側妃様も侯爵家の令嬢で、身分は王妃様と決して引けを取りません。弟君に遠慮する必要がありましょうか。あなたこそが、この国の次代の王だ』 側妃の取り巻きである貴族が、そう囁いた。ガーランドは首を振る。『それでは道理が立たない。それに、アレクは優秀だ。私の出る幕などないよ』『あなたこそ秀でた能力をお持ちではないですか。ですので……』『もういい! 下がれ!』 取り巻きだけではなく、母である側妃も野心を吹き込んでくる。『ガーランド。あなたは王宮を、権力の力を甘く見ている。アレクが王位に立てば、あなた自身はもちろん、この母もどうなることか。最悪、命を奪われるかもしれません』『アレクはそのようなことはしません! 彼は私の弟だ。大事な弟なんです!』『甘いことを。今までの歴史を紐解いてご覧なさい。王位争いに負けた兄弟を断罪した例など、枚挙にいとまがありませんよ』『…………』
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-26
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24:成就

 やがて彼らが大人になる頃、事件が起きた。 流行り病にかかり、王妃が亡くなったのだ。 愛する王妃を亡くした王は気落ちが激しく、同じ病にかかってあっさりと命を落としてしまった。予想外の早すぎる死だった。 王太子はアレクがなる予定だった。成人を間近に控えていたので、成人を迎えると同時に正式に立太子する予定だったのだ。 ところがガーランドは、アレクが正式な王太子になっていないことを指摘して、自分こそが王位を継ぐべきだと言い出した。『私は第一王子。年長の者こそが王位を継ぐべきである』 大臣以下、主だった重臣たちは反対した。 アレクは王妃の子、それも王太子になると内定していたから、と。 しかしガーランドはそれらの声を握りつぶした。侯爵家の権勢を背景にした側妃の力は強く、一方で王と王妃を一度に亡くしたアレクは後ろ盾が弱い。 アレクの明るく人好きのする性格や、垣間見せる統治者としての資質に期待する人は多かった。正統性はアレクにあり、今は後ろ盾が弱くとも、彼自身が派閥を作れば力関係が危うくなる。 だからこそガーランドは弟を危険視して、排除すると決めたのだ。◇ 運命の日。アレクはガーランドに呼び出されて、離宮の中庭に立っていた。 季節は春、時刻は夜。王妃を失った離宮は、今はもう人の気配もなく寂れてしまっている。去年までは春になれば、華やかに花で飾られて、多くの人が行き来していたのに。 たった一年で様変わりしてしまった離宮をアレクは寂しい気持ちで眺めた。 アレクとて、兄が自分を敵視しているのは知っていた。けれど、まだ話し合いの余地があると考えていたのだ。 だから夜遅くの呼び出しにも、わずかな供を連れるだけで応じてしまった。 兄の口実、「今後のことを話し合いたい。兄弟だけで」という言葉が嬉しくて。もう一度子どもの頃のように、忌憚のない意見を交わせると思って。 約束の時刻に現れたのは、ガーランド子飼いの騎士の小隊。騎士と銘打ってはいるが、暗殺や工作を行う闇部隊だった。『兄上!? どうして!』
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-27
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25:成就2

 それからの記憶は曖昧になっている。 アレクは夜通し歩き、夜が明けても歩いて、魔女が住まう深緑の森までたどり着いた。 森に敷かれているはずの結界は、魂喰いの呪いが魔力を食うことで弱まり、彼を森の中へと通した。 そうして歩き続けたアレクは、ある樫の木の根本で力尽きて、意識を失った――。◇ アレクの魂が、声ならぬ声で叫んでいる。(信じていたのに。話し合って、手を取り合っていけると思っていたのに。……兄上! もう誰も信じられない!) エリアーリアの命が、その叫びに応える。(過去は変えられない。でも今は、私がいるわ。あなたは、一人じゃない――) アレクの手が伸びて、エリアーリアを抱きしめた。体温と心臓の鼓動が戻ってきている。 力強い抱擁に、エリアーリアは優しく応えた。 重なる肌と、溶け合う体。深く交わされる口づけ。 愛し愛される喜びに、二人の魂が打ち震える。 深い深い交歓はアレクの魂の根底まで達して、エリアーリアの愛と魔女の神秘を注ぎ込んだ。 強く宿る生命の力に、魂喰いの呪いが霧散しいく。 禍々しい茨が消えていく。「エリアーリア。俺は生きたい。君と一緒に……」 アレクの強い生きる意志が、とうとう呪いに打ち勝った。 黒い茨は無言の悲鳴を上げて、完全に消え去った。◇ 東の空が白み始めて、朝の光が小屋に差し込む頃、魔法陣の光は静かに消えた。 アレクの体を覆っていた黒い茨の紋様は、跡形もなく消え去っている。彼の寝顔は苦悶から解放されて、穏やかなものに変わっていた。 儀式は成功した。 エリアーリアは魔力も体力も全てを使い果たして、深い疲労感に包まれる。 けれど空っぽになった体を満たしたのは、呪いに打ち勝った安堵感だけではなかった。アレクの魂に触れて、彼の全てを知ってしまった。(愛しい) その思いが、泉のようにこんこ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-27
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26:置き手紙

 深緑の森の小屋は、静かな朝の光に満たされていた。 穏やかな寝息を立てて眠るアレクを、エリアーリアはしばらくの間眺めていたが、やがて立ち上がった。(彼には帰るべき場所がある。民を、国を救うという果たすべき使命がある。禁忌を犯し、魔女の理から外れた私が隣にいれば、彼の未来を汚してしまう……) 愛しているからこそ、彼の道を妨げてはならない。人として生きる道に、エリアーリアは寄り添えない。 彼女は自らの心を殺して、彼のもとを去る決意を固めた。◇ エリアーリアはアレクをベッドに寝かせてやった。床に落ちたままになっていた衣服を取り上げて、着る。 肌に布が通る感触が、昨夜の交わりを思い出させて、エリアーリアは顔を赤らめた。 首を振って気持ちを切り替える。 小さな木製の机に向かう。一枚の羊皮紙とインク壺、羽ペンを用意した。窓から差し込む朝日が彼女の白い横顔と、インクを吸ったペン先を照らし出す。 手紙に書く内容は、もう決まっている。別れの言葉と未来を祈る心。それ以外はいらない。 一文字ずつ丁寧に綴れば、胸が引き裂かれそうだった。(愛している) その言葉が喉元までこみ上げるが、飲み込んだ。そう告げれば、アレクの方にも未練が生まれるだろう。彼の使命を果たすのに、そんなものは必要ない。アレクはもう、この森にいてはいけないのだ。『あなたを救うため、私のすべてを使いました。呪いは完全に消えています。もうここに、あなたを引き留めるものは何もありません。あなたの帰るべき場所へ帰りなさい。二度とここへ来てはなりません。どうか、幸せに』 書き終えた手紙を丁寧に折って、テーブルの上に置く。その隣に昨日焼いたパンと旅の糧となる干し肉の包み、傷薬になる薬草を添えた。 それが、彼女にできる最後の世話だった。 眠るアレクの元へ戻り、寝顔を見つめる。寝顔は健やかで、呪いと傷の陰は見当たらない。 彼の記憶で子どもの頃の姿を見たからだろう、少しばかりあどけなく少年のような印象を受けた。 彼の髪に
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-28
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27:置き手紙2

 昼過ぎ、太陽が明るく強い日差しを投げかける中、アレクは目を覚ました。 まず最初に感じたのは、体が信じられないほど軽いこと。怪我の影響はもちろん、魂と肉体を苛んでいた呪いが完全に消え去ったという確信だった。 アレクは勢いよく起き上がった。 昨晩の記憶が蘇る。 死の瀬戸際にいた彼は、エリアーリアに救われたと知っていた。呪いの苦しみと裏切りの記憶のさなか、彼女の温かい体温に縋ったこと。 彼女と深く交わって、魂の奥底に魔力を注いでもらった感覚。 愛する女性を腕に抱いて、心から愛され、彼も想いを返したこと。全て覚えている。 アレクの心は幸福感で満たされた。(片思いだと思っていたけれど、彼女も俺を愛してくれた) 浮かれるような気持ちで、小屋の中を見渡す。小屋はしんと静まり返って、愛する人の気配はない。「エリアーリア? 出かけてしまったのか?」 彼の中で小さな不安が灯った。あれほどの愛情を注いでくれた彼女が、彼の側を離れるなんて。 しばらく待っても何も起こらない。不安はいよいよ大きくなった。 立ち上がって部屋の中を歩くと、テーブルの上に手紙を見つけた。 どくん、と。嫌な予感に心臓が大きく鳴った。 震えそうになる手を押さえて、封筒を開く。書かれた言葉を読んだ途端、アレクの顔から血の気が引いていった。「エリアーリア……? どうして」 何かの間違いではないかと、手紙を何度も読み返す。 そして気付いた。『あなたを救うため、私のすべてを使いました』。 エリアーリアは呪いの解呪に手こずっていた。いよいよ死に瀕した彼を救うため、何か大きな代償を払ったのだ、と。 魔女の宿命と禁忌の話が、アレクの脳裏によぎる。 愛し合いされる幸せな記憶は、苦難の道へと続いていた。「俺の存在が、君から魔女の資格を奪ったのか。それで、君はどこへ行くと言うんだ。俺の元を去り、魔女ですらなくなって、どこへ!」 アレクは小屋の外へと飛び出した。けれどそこにあるのは、いつ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-28
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28:王子の誓い

 深緑の森はアレクの悲痛な叫びを吸い込んで、いつも通りの静けさに戻った。 晩夏の真昼の陽光は、まるで何もなかったかのように明るく降り注いでいる。 アレクはエリアーリアの置き手紙を強く握りしめたまま、小屋の前に立ち尽くしていた。(エリアーリア……どうして……) 絶望が心に押し寄せる。心臓を抉られるような喪失感が、彼を襲った。『どうか、幸せに』 手紙の最後の一文が、今は呪いのように感じられた。(幸せになど、なれるものか。君がいない世界で) 既に涙は出なかった。代わりに虚無感が心を支配していた。 アレクはふらふらと小屋に戻った。思い出のこの場所に戻れば、彼女が出迎えてくれる気がして。そんなことはないと、分かっているのに。 かつて楽しく語り合った食卓に、へたり込むようにして座る。 そこでアレクは、ふと目にした。小さな包みが置かれている。開けてみると、パンと干し肉、それに薬草が入っていた。 エリアーリアが彼のために残してくれた、最後の優しさだった。 それに気づいた時、虚無の中に小さな光が灯った。 アレクはゆっくりと立ち上がる。(そうだ。ただ待つだけでは、彼女に再会する資格すらない。俺は、俺自身の運命を取り戻さなければ) 彼女の優しさを無駄にはできない。彼女に『私のすべてを使った』とまで言わしめて、救ってもらった命。このまま無気力に森で朽ち果てては、彼女の犠牲に泥を塗ってしまう。(負けられない。再び彼女に会うために) 悲しみは強い意志で乗り越えられて、鋼のような決意へと変わっていった。 アレクは旅立つ準備を始めた。雨を弾くマントと、頑丈なリュックを拝借する。リュックにはエリアーリアの置き土産、パンの包みを入れた。 小屋の外に出れば、そこは深い森。昔の彼であれば、ただ迷って命を落としただろう。 けれど今は違う。エリアーリアから受けた教えが、アレクの血肉となって生きている。森で生きるすべを、彼は知っている。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-29
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29:王子の誓い2

 約十日後。王子としての顔を隠すためにボロをまとい、旅に汚れてやつれたアレクは、南の砦の前に立っていた。 堅牢な門の前には、槍を構えた衛兵たちがいる。彼らはアレクに向かって武器を向けた。「何者だ! ここはヴァレリウス将軍の領地。怪しい者は通さんぞ!」「将軍に伝えてくれ。アストレアの第二王子、アレクが会いに来たと」 アレクは槍の穂先を向けられても落ち着いた態度を崩さない。「第二王子? 馬鹿な、アレク殿下は既にお亡くなりだ。葬儀も行われたぞ」 みすぼらしい格好のアレクに、衛兵たちは嘲笑を浴びせた。「これを見ろ」 アレクは懐から王家の紋章が刻まれた指輪を取り出して、衛兵たちに突きつけた。場の空気が一変する。 衛兵が泡を食いながら伝令に走れば、やがて白髪の厳格な老将軍ヴァレリウスが姿を現した。将軍は当初こそ疑いの目をしていたが、アレクの顔を見るなりその場で跪いた。「アレク殿下……よくぞ、ご無事で……! このヴァレリウス、殿下に生涯をかけてお仕えすると、亡き陛下に誓いました。その誓い、今こそ果たさせてください!」◇ 砦の一室。アレクはヴァレリウス将軍と共に地図に向き合っていた。 貧しい旅人の偽装を解いたアレクの顔からは、旅の疲れも消えて王子の気品が戻っている。 老将軍の変わらぬ忠誠は、アレクにとって何よりも心強い。仲間を得たことで希望が生まれる。 しかし将軍の語る王都の惨状は、想像以上に過酷なものだった。「殿下、もはや猶予はありませぬ。王都ではガーランド王による圧政で、民が日々苦しんでおります。王のご生母である側妃様が権勢を振るい、反対する貴族たちが数多く処刑されました。王都だけではありません、重税で国民全てが苦しんでいるのです」「父上が崩御してから四ヶ月。俺が死んだとされてから三ヶ月。たったそれだけの間で、そこまで?」 アレクは顔を歪めた。深緑の森からこの砦までの旅の間にも、困窮した人々を多く見かけた。しかしそこまで状況が
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-30
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30:新たな生命

 アレクが去ってから、ひと月が過ぎた。 季節は夏が終わりを告げ、森の木々が少しずつ秋の色をまとい始めている。 エリアーリアは、かつてアレクを連れて行った森の奥の泉にいた。青い水をたたえた、秘密の庭のような場所。二人が笑い合った思い出の場所は今はただ一人、彼女の孤独を映している。(あの日から、何かがおかしい。魔力が……私自身が、定まらない) エリアーリアはぼんやりと物思いにふけりながら、足元の蔓草を撫でた。 常に満ち足りていたはずの魔力はどこか不安定に揺らいで、わけもなく体が重く、強い眠気に襲われる。放っておけば、一日中でも眠っていそうだ。 儀式で力を使いすぎたのだと、そう自分に言い聞かせていた。けれど不調はいつまで経っても治らず、むしろ悪化していくようだった。 泉の水面に映る自分の顔を見る。金の髪に新緑の目をした、美しい女が映っている。以前と変わらないはずなのに、瞳の奥に自分でも知らない光が宿っているように見えた。 エリアーリアは身震いをした。 ほとんど無意識に、胸元の花の文様に触れる。魔女の証であるそれは、やはり揺らいだ魔力を表していた。 魔女としての知識を総動員し、自らの体調変化の原因を探った。結果、あり得ないと何度も打ち消してきた、たった一つの可能性に行き当たる。(まさか、そんなはずは。魔女が、人間の子を身ごもるなんて) エリアーリアは、自分の腹にそっと手を当てた。 意識を集中させると、自身の魔力の揺らぎとは質の違う――温かい生命の息吹が、確かに感じられた。 もう疑う余地はない。疑問は確信に変わった。彼女の中に、新しい命が宿っている。「嘘……でしょ?」 喜びよりも先に、我が子と自分を待つであろう過酷な運命を思う。恐ろしくてたまらなかった。◇「そんな、子どもだなんて。私は魔女よ。人間との間に生まれる子は、どんな宿命を背負うというの」 怖かった。ただでさえ魔女の禁忌を侵し、アレクに別れを告げたばかりだというのに。
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