「あ、違うの……」文月が慌てて弁解しようとした瞬間、スマホの画面が真っ暗になった。壊れたのかと思ったが、まさかの停電だった。一方、隣の部屋では。文月のその言葉を聞いた博之の胸中で、まるで花火が打ち上がったような衝撃が走った。彼はその言葉を何度も反芻し、こらえきれずに小さく笑った。彼女なりに、努力して自分を好きになろうとしてくれているようだ。たとえほんの少しでも、それだけで十分だった。文月はしばらくあれこれいじった後、充電器に繋いだ。そして、絵の仕上げに取り掛かった。描き終えると、彼女は少し考え込んだ。本当にこれを博之に贈っていいのだろうか?博之は、自分の肖像画を描かれたことを、厚かましいと思わないだろうか。普通、プレゼントに相手の肖像画なんて贈らない。以前、蒼介にも贈ったことはなかった。彼に嫌がられるのが怖かったし、彼の周りには名画を贈る人間などいくらでもいたからだ。彼の家には今でも、数千万円する名画が飾られているのだから。ドアの外で物音がした。正確には、ノックの音だ。文月は一瞬呆気にとられたが、すぐにドアを開けた。そこにはバスローブを纏い、洗面用具を手にした博之が、少し困ったような顔で立っていた。「文月、上のシャワーが壊れてしまったんだ」文月は驚いたが、すぐに道を空けた。「じゃあ、ここでどうぞ」もともとここは博之の家であり、ここにある物はすべて博之のものだ。彼女以外は。居候の生活なら、文月は経験済みだ。かつて養父母の元で暮らしていた時は、まさにそうだった。だが博之の家では、居候としての肩身の狭さや、惨めさを感じたことは一度もない。あるのは、平穏と心地よさだけだ。浴室から水音が聞こえてくる。文月はイヤホンをして音楽を聴いていたため、背後で足音が音もなく近づいてきたことに気づかなかった。「これは、僕を描いたのか?」博之はまだあのバスローブ姿だったが、先ほどと違うのは、襟元が少しはだけており、腹筋がちらりと見えていることだ。水滴が、逞しい腰のラインを伝って滑り落ちていく。文月は途端に顔を赤らめ、鼓動が早くなるのを感じた。本当に、罪作りな男だ。美大の先輩や後輩たちがこんな姿を見たら、きっと発狂するに違いない。文月は、初めてクロッキーを描いた時
Baca selengkapnya