《婚約者は私にプロポーズをしたその口で、初恋の幼馴染に愛してると宣う》全部章節:第 191 章 - 第 200 章

303 章節

191話

◇◆◇ 国際線の成田空港。 キャリーケースを引き、空港内に入ってきた女性は、真っ赤な唇をにんまりと吊り上げ、かけていたサングラスを外した。 「久しぶりね、日本。待っていて、私の大切な婚約者、涼真。すぐに会いに行くわ」 女性は、カツカツとヒールの音を響かせ、スマホを取り出し誰かに電話をかけた。 ◇◆◇ パーティーが終わった後、私たちは一気に忙しくなった。 涼真さんは、先日のパーティー主催者の氷室社長と何度か打ち合わせを重ねている。 その間、私は一時的に涼真さんの秘書から離れ、生地開発の方の仕事に集中した。 秘書として仕事をしていないから、涼真さんと顔を合わせる機会もとても少ない。 パーティーに参加する前にあれだけ涼真さんといつも一緒に行動していたのが嘘みたい。 涼真さんとは、家で顔を合わせるくらいで終わってしまっていて、私は会社に出社するなりすぐに開発室に籠ってしまうし、涼真さんは涼真さんでとても忙しいから全然会えないし、会話をする暇も、無い──。 私は、改札室でぺたりと頬をつけてデスクに突っ伏す。 「涼真さんとお話、したいなぁ……」 同じ会社にいるはずなのに、全然会えない。 いえ、会えないのは仕方ないんだけど。 私も、この仕事が大事だし、どうしても生地の開発を成功させたい。 今のままでも清水グループの生地には十分勝てるだろうけど、完璧に完成させたい。 「よしっ!定時まであとちょっと!時間が合ったら涼真さんと一緒に帰りたいなぁ」 ここ数日は、涼真さんは遅くまで残業していたから中々時間を合わせて帰る事が出来なかった。 だから、今日は定時で上がって。社長室に行ってみよう。 そう決めた私は、気合いを入れて今日の仕事に取り掛かった──。 定時。 帰宅する人で会社のエントランスは賑わっていた。 私は、エントランスで涼真さんと待ち合わせをしていて。 涼真さんに連絡をしてみたら、今日は仕事を定時で終わらせて下りる、と言ってくれたから。 久しぶりに一緒に帰ろう、と約束したのだ。 「まだかな……」 エントランスの柱に背を預けて涼真さんを待っていると、私の前をヒールの音を響かせて通り過ぎる女性が居た。 「──?こんな時間に来社……?打ち合わせかしら?」 珍しい、と思っていると、視界の隅に涼真さんの姿が映る。 「──あっ!」
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192話

「──え」 目の前の光景に、私の胸はずきりと痛んだ。 涼真さんと、愛海と呼ばれた綺麗な女の人がキスをしている──。 しかも、エントランスには定時退社をした沢山の社員がいて、その光景を私のように目撃してしまっている。 ざわざわ、とざわめき、誰かが呟く。 「え……滝川社長って、加納さんと婚約してるんじゃ……」 「確か、そうだよな?なのに、他の女性とキスしてるって事は……」 「まさか浮気か?」 まじかよ!と言う声があちらこちらから聞こえてきて。 私は涼真さんとその女性の姿を見ていたくなくて。 噂話を聞いていたくなくて。 2人に背を向けて、その場から逃げ出してしまった。 ◇ 「──やめろっ、愛海!」 「あっ、涼真……」 俺は、突然抱きついてキスしてきた愛海を遠慮なく剥がすと、1歩後退した。 周囲にはまだ沢山の社員がいる。 俺たちを驚いた目で見ている者が殆どで──。 「くそっ、ふざけた事を……っ」 俺は、自分の手で唇を拭う。 拭った手の甲に、愛海の唇を彩っていた真っ赤なそれが付着していて。 不快感で俺は眉を顰めた。 「せっかく久しぶりに会ったのに……。どうしてそんな冷たい態度を取るの?」 愛海は、俺の行動を然程気にした様子もなく、ゆったりと俺に近付いて来る。 どうして愛海がここに。 いや、そもそも俺の事を愛海は何と言った? あんなふざけた言葉を、この場にいる社員達に聞かれたとしたら──。 俺は心と婚約を結んでいるのに、変な噂が立ってしまう──。 「冷たい態度も何も……俺は君と何の関係も無いだろう?どうしてこんな事をした」 「やだ、怖い顔しないで?私たち、婚約者じゃない?」 愛海の言葉を聞いた社員達がざわりとざわめく。 確かに、過去は一瞬だけそうだったかもしれない。 だが、今はそんな関係ではないし、俺には心がいる。 愛海を睨み付け、きっぱりと告げる。 「それは俺たちが子供の頃の話だろう。確か俺が高校の辺りでその話はなくなったはず。いつまでも俺の婚約者だと勘違いしないでくれ。俺には──」 「もう既に大事な婚約者サマがいるって訳?そんなの認めないわ」 「君が認めていなかろうが関係ない。既に俺の婚約は、本家も認めていて、相手の両親とも合意している」 「ふん。それなら婚約破棄してもらうまでだわ。ね、涼真。私と
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193話

絶対に心はこのエントランスに居たはず──。 一緒に帰る約束をしていたから、俺を待っていてくれたはずだ。 俺は周囲の目も気にせず、急いで会社の入口から外に飛び出した。 恐らく、心は駐車場には向かっていないはずだ。 俺と愛海の、あんな場面を見て、心が駐車場に向かうはずがない。 それなら、きっと外に出て行ってしまったはず。 電車だろうか。 それとも、タクシー? そもそも、今日心は俺の家に帰って来てくれるだろうか──。 様々な不安が俺を襲い、胸が苦しくなる。 あんな場面を見て、俺に幻滅して家に帰って来なかったら。 もう、一緒には住めないと言われたら。 婚約者の振りも、やめたいと言われたら──。 そんな事を言われたら、心臓が止まってしまいそうだ。 ちらほらと雪が混じる外を、ひたすら走る。 だが、俺が求めている心の姿はどこにも見つからなくて。 「──くそっ、どこだ!?」 焦りばかりが募り、周囲を見回す。 沢山の人の怪訝気な視線を感じるが、そんなものに構っている暇は無い──。 心の姿を探し、周囲を見回している俺の視界に、ようやく求めていた姿が映った。 「──いた!」 ビルとビルの間の細い路地。 その路地に入り込んだ、細い肩と小さな背中──。 見間違える訳が無い。 あれは間違いなく心の後ろ姿だ。 俺は、早く信号が変われ、と苛立ちながら信号を待っ。 信号が青になった瞬間、俺は再び駆け出した。 ◇◆◇ どうしよう、どうしたらいいの。 私は、走ったせいでぜいぜいと乱れた息をそのままに、ふらふらとビルとビルの間にある細い路地に足を進めた。 いったん、落ち着きたい。 思わずあの場から逃げ出してきてしまったけど。 私が帰る場所は、涼真さんの家だ。 だけど、今はどうしても涼真さんの家に帰りたくない。 目を閉じると、あの女の人とキスをしている涼真さんの姿が鮮明に思い出されそうで。 私はひゅうひゅうと息を乱しながら、胸元に手を当てて必死に息を整える。 どうしよう。 帰りたく、無い。 このまま今日はどこかホテルに泊まってしまおうか。 ああ、だけど待ち合わせの約束をしていたから、涼真さんに連絡は入れないと。 だけど、あの女性と一緒に帰るだろうか。 「……っ、my darlingって言ってた……」 それに、涼真さんもあ
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194話

ふわり、と香った涼真さんの香水の匂い。 嗅ぎなれた、爽やかな涼真さんの香水。 だけど、その香りに混じって、知らない香水の香りが私の鼻腔を擽る。 「──っ」 一瞬で分かった。 この香水は、きっとあの愛海さんの香水だ。 愛海さんは、涼真さんに抱きついていた。だからきっと、涼真さんにその香りが移ったのだろう。 「離し、て……っ、離してください、涼真さんっ」 「無理だ。離したら、心は逃げるだろう……。そうしたら……」 取り返しのつかない事になりそうだ。 そう、痛々しげに呟く涼真さん。 悲しげな涼真さんの声に、私は折れてしまいそうになったけど、その瞬間にまたふわりと愛海さんの香水の香りが漂ってきて。 「──っ、離れて、くださいっ!あの人の香水臭いっ!」 「──っ!?」 涼真さんは驚いたように目を見開き、そして自分の体を見下ろした後、間髪入れずにコートとスーツを脱いだ。 「ごめん、心。これ以上は流石に脱げない……。シャワーを浴びる。心も来て。今ちゃんと話をしたい」 「りょ、涼真さ……っ」 涼真さんは、コートとスーツをあっさりその場に投げ捨てると、私の手を握って歩き始める。 「りょっ、涼真さん……っ!風邪をひいちゃいますっ!」 今の季節は冬だ。 吐く息が白い。 それなのに、涼真さんは白いワイシャツにベストを着ただけの姿。 私がこんな所まで走って逃げてしまったから、涼真さんもここまで自分の足で探しに来てくれたのだろう。 近くにはいつもの涼真さんの車は無い。 早く涼真さんが室内に入らないと、風邪をひいちゃう──。 私が泣きそうになっていると、歩いていた涼真さんの足がぴたり、と止まった。 「とりあえずここに入ろう」 「りょっ、涼真さっ」 腕を引かれ、涼真さんと一緒に入ったのは、都内の高級ホテル。 涼真さんが足を進め、私は彼に促されるまま、ホテルに入って行った。 涼真さんが手続きをしている間、私はエントランスのソファに座って待っていた。 涼真さんをちらちらと見る他の利用者も多い。 こんな寒い日に、あんなに薄着の涼真さんは目立ってしまうのだろう。 私が涼真さんを見つめていると、手続きをしていた涼真さんが振り返る。 「ごめん、お待たせ心。部屋が取れた。行こう」 「わ、分かりました」 涼真さんは、さっきみたいに私の手を
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195話

部屋に入るなり涼真さんはネクタイやベストを脱ぎ、部屋に備え付けられているゴミ箱に投げ捨ててしまう。 「心、悪いがシャワーを浴びてくる。少しだけ待っててくれ」 「わ、分かりました」 こくり、と頷いた私を見た涼真さんは、ほっとして表情を緩める。 私に手を伸ばそうとして、そこで涼真さんの手はぴたりと止まった。 香水の移り香を気にしてくれたのだろう。 「すぐ出てくる」 涼真さんは悔しそうに唇を噛み締めると、すぐに踵を返してシャワールームに消えた。 私は、部屋の中で一人。 涼真さんがシャワールームに入ってすぐにシャワーの音が聞こえて来た。 「……わ、私が嫌がったから、捨てちゃったの……?」 涼真さんは迷いなく着ていた服をゴミ箱に捨ててしまった。 私のせいで、涼真さんに気を使わせてしまった。 どうしよう。 涼真さんが着ているスーツは、全部がブランド物だ。 私でも知ってるくらいの高級ブランド品で、全てがオーダースーツだと、思う。 「私があんな風に我儘を言わなければ……そもそも、私はあんな風に我儘を言える立場じゃないのに」 どうしよう、泣きそうだ。 私は、滲んで来た視界を振り払うように目をごしごしと擦る。 私がそうしていると、背後からふわり、と抱きしめられる──。 「目をそんなに擦ったら赤くなる」 「涼真さん!?」 いつの間にシャワーから上がったのだろう。 涼真さんは、バスローブを着て、私を背後から強く抱きしめている。 涼真さんから香るのは、備え付けのコンディショナーとシャンプーのいい香り。 そして、温かいシャワーを浴びたからだろう。 涼真さんの体がぽかぽかと暖かくて。 「頭も体もちゃんと洗った。もう、あいつの香水の匂いはしない?」 くるり、と私を腕の中で反転させた涼真さんは、恐る恐ると言った様子で話しかけてくる。 だけど、私は涼真さんの姿にぎょっとして目を見開いた。 「りょ、涼真さん!髪の毛がびしょびしょです!このままじゃあ風邪をひいちゃいます!」 「──え、ああ、確かに。急いで出たから」 「ちょ、ちょっとソファに座っててください!ドライヤー持ってきます!」 私はぽかんとした涼真さんをソファに座らせ、慌ててシャワールームに向かう。 ドライヤーを探して、見つけて振り返る。 すると、シャワールームのゴミ箱には、
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196話

「涼真さん……」 「心、戻ってき──どうした!?」 私が泣きそうな顔をしていたからだろうか。 涼真さんは私の声に反応して、振り向いたのだけど。 私の顔を見た瞬間、さっと顔色を変えて駆け寄ってくれる。 「悪い、心。俺はまた心を傷つけるような事を──」 「ちが、違うんです」 涼真さんの言葉に、私は力一杯頭を横に振る。 涼真さんは心配そうな顔をして、両手で優しく私の頬を包み込むと、力を込めずにそっと上向かせた。 「どうして涼真さんはそんなに優しいんですか……っ」 「──っ」 どうして、こんな風に優しくしてくれるのか。 誰にでもこんな風に優しいの? 涼真さんは、包み込んだ私の頬を優しく撫でながら困ったように笑った。 「俺が、優しい──?」 首を傾げる涼真さんに、私は必死になって何度も頷く。 「涼真さんは優しすぎます……こんな風にされたら……勘違いする女性が出てきちゃいます」 「……俺が優しいなら、それは心に優しくしたいからだよ。……他の女性になんて興味ないから、優しくなんてしない」 「──え」 私が驚いて目を見開くと、涼真さんは真剣な目で私を見返していた。 「言ってる意味、分かる?」 すり、と涼真さんの指先が私の頬を撫でる。 何だか涼真さんが触れた箇所が、どんどん熱を持ってきているような気がして。 きっと、私の顔は今真っ赤になっている事だろう。 そんな私を見て、涼真さんが「ふはっ」と声を出して笑った。 でも、その笑い声は優しくて、蕩けていて。 「顔真っ赤だ、心」 「だ、だって涼真さんの言ってる事って……だ、駄目ですよ……勘違いしてしまいます」 「何で?勘違いすればいいのに」 すり、すり、と涼真さんは指の甲で私の頬をくすぐり続ける。 私が真っ赤になって視線を彷徨わせていると、涼真さんの手のひらが私の顔を優しい力で固定した。 「勘違いしてくれ、心」 「涼真さ……」 「ああ、だけど心に1つだけ謝らなきゃならない事があったんだ。聞いてくれる?」 「あ、謝らなきゃいけない事──?」 どくどくと騒ぐ心臓が、至近距離にいる涼真さんにも聞こえてしまいそうで。 私は、涼真さんに何を言われるのか。 そんな事にまで頭が回らなくって。 だけど、涼真さんは私の耳元に唇を寄せて囁いた。 「──本当は、心は俺と婚約しなくて
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197話

ふわり、と私の唇に重なる何か──。 何かなんて、確認しなくても分かる。 涼真さんに、キスされたのだ。 涼真さんが車内で寝ぼけていた時のような、事故じゃない。 しっかりと、涼真さんの意思で私にキスをしてくれた。 すぐに唇が離れて、私は閉じていた瞼をそっと持ち上げた。 すると、すぐ目の前に涼真さんの顔があって。 私は涼真さんとキスをしてしまったのだ、と言う実感がじわじわと溢れてきて。 顔が熱くなってきてしまう。 「……叩かなくて良かったのか?」 不安そうな涼真さんの声が耳に落ちて、私は真っ赤な顔のまま、こくりと頷いた。 その瞬間──。 今度は涼真さんに強く引き寄せられて、ぐっと唇が重なり合う。 「──んっ!ぅ……っ!」 何度も何度も唇が重なり合う。 涼真さんの手のひらが、私の後頭部に回っていて。 優しく手のひらで頭を撫でられる心地良さに、私は体の力が抜けてしまう。 涼真さんに体を委ねてしまう形になってしまうけど、涼真さんはしっかり私の体を支えてくれていて。 一体、どれくらい唇を重ね合わせていたのだろう。 私と涼真さんは、夢中になってキスを続けていた。 すると、突然涼真さんのスマホが着信音を響かせる。 静かな空間に電話の音が鳴って、私はとろりと溶けていた思考がハッキリとしてくる。 「──っ、涼真さ……、電話が」 「ああ……。…………くそっ」 いつの間にソファに押し倒されていのだろう。 私の上に乗っかっていた涼真さんがたっぷり悩んでから、起き上がる。 するり、と服の中から涼真さんの手が出て行って。 私は真っ赤になって上半身の服を素早く直した。 未だに、どくどくと心臓が激しく脈打っている。 もし、涼真さんの電話が鳴っていなかったら今頃──。 「──〜っ」 私はパタパタと熱くなった顔の熱を冷ますように、両手で風を送る。 すると、電話に出て誰かと話していた涼真さんが私の方へ戻ってきた。 今はもう、通話は終わっているようで、画面が真っ暗になったスマホが涼真さんの手に握られている。 「心……間宮に車を回させたから、待っている間……さっきの事について説明させて貰ってもいいか?」 「──あっ」 そうだった。 涼真さんはさっきの女性──愛海さんの事を説明する、と言ってくれていたのだった。 それなのに、さっきまで
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198話

「さっきの女性は、花里 愛海(はなざと まなみ)。昔、滝川家と花里家は……確かに婚約を結んでいた事はある」 「そう、だったんですね……」 まさか、本当に涼真さんの婚約者だったなんて、と私は俯いてしまう。 だけど、私が俯いた事に気がついた涼真さんは、私の手を握って、そっとその手の甲に唇を落とした。 「だけど、それは子供の頃の話だ。俺が高校に上がる頃には……婚約は解消してる」 「えっ、そんなに前に!?」 「ああ。子供の頃の婚約の話も、ただ単に家同士の政略的な物だ。……必要がなくなったから、婚約も解消された。俺も、彼女に特別な感情は抱いていなかったしな」 「昔の……、でも、どうして花里さんは急に……?」 「──ああ、俺もそれは分からない。高校で彼女とは完全に関係が切れたし、連絡も特に取り合っては無かった。……それに、彼女は海外で仕事をしていたはず……それなのに、どうして国内に戻ってきたのか」 「その……花里さんは、涼真さんの事が好きなように、見えました……。だから、涼真さんが私と婚約したと聞いて……帰国したんじゃあ……?」 「彼女が……?まさか──」 涼真さんはそう言ったけど、はっとして途中で言葉を止める。 そして、難しい顔をして、呟いた。 「そう言えば、俺の婚約者に挨拶を、とか言っていたな……。心が同じ会社に居る事も知っていそうな雰囲気だった」 「──えっ」 「だが、俺たちの婚約は大々的に発表しているし……知っていても何ら問題は無い……。だが、タイムラグはあったはず」 「……もし、花里さんが自然に耳にしたなら……帰ってくるのが早い気がしますね」 「ああ。誰かが愛海──花里に、情報を教えた可能性が高いな。だが、一体誰が……?」 涼真さんと、花里さんがかつて婚約を結んでいた事。 そして、花里さんが未だに涼真さんを諦めていない事。 その事実を知っている、若しくは調べられる人物だ。 「ある程度、地位のある人か……」 「ああ。若しくは、元々花里と面識のある人間か、だな……」 そこまで口にした涼真さんは、疲れたようにため息を吐き出す。 「涼真さん、間宮さんが服を持ってきてくれるまで、もう少し時間がかかりますよね?少しだけでも目を閉じていますか?」 「んー……そうするか……」 「なら、ベッドに移動した方が──」 私がそう言葉を
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199話

──遠くで、扉の開く音が聞こえた気がした。 そして、近付く足音と、涼真さんの低くて、優しくて心地良い声が薄っすらと聞こえる。 ぼそぼそ、と声のトーンを落として静かに喋っているような──。 ……待って? 涼真さんが、誰かと喋ってる……? 室内には、私と涼真さんしかいなかったのに? そこまで考えた私は、心地良い微睡みから一瞬で目が覚めた。 「──あ、起きた」 「涼真さ……っ、間宮さん!?」 私は、涼真さんの体に乗っかった体勢のままで。 私が起きた事に気づいた涼真さんが優しく笑う。その彼の隣に、スーツを着た男性の姿を見た私は、ひゅっと息を飲み込んだ──。 そして、涼真さんの隣に居た男性の姿を見た私は、彼の名前を叫んでしまった。 まさか、こんな所を間宮さんに見られるとは。 恥ずかしすぎて、この場から逃げ出してしまいたい! 私がわたわたとしつつ、涼真さんの上から逃げようとしたのが涼真さんに伝わったのだろう。 涼真さんは笑みを浮かべたまま、私を離さまいと言うようにぎゅうっと強く抱き締めた。 「りょ、涼真さんっ!間宮さんがいるのに……っ!」 「大丈夫だ」 「な、何が大丈夫なんですか!は、恥ずかしいので早く離してくださいっ!」 「恥ずかしい?それなら、間宮が後ろを向いていればいい。なあ、間宮?」 「ええ、そうですね。お話は後ろを向いていても出来ますから」 涼真さんの言葉に、間宮さんは笑顔で同意してくるりと後ろを向いてしまった。 ひ、酷い……! 横暴だわ……!私は恥ずかしいのにっ 私がじとっとした目で涼真さんを睨んでいると、涼真さんは何故か目を細め、堪らないと言うような顔をした。 涼真さんの唇が、愉しげににいっと歪む。 私は何だか嫌な予感がして、再び涼真さんの上から逃げようとしたのだけど。 がしっと涼真さんの手が私の腰を掴み、引き上げられた。 「──っ!!」 涼真さんは私の唇に噛み付くと、数秒後に満足そうに顔が離れた。 間宮さんが後ろを向いているからって、こんな、こんな事をしたら勘付かれてしまうのに。 私が真っ赤になったまま、涼真さんの胸を叩いていると、涼真さんは楽しげな表情のまま、間宮さんに声をかける。 「間宮。花里愛海の家と、花里愛海本人の身辺調査を頼む。ここ5年前後でいい。海外で愛海本人にどんな交友関係があった
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200話

間宮さんから「どうぞ」と言って手渡されたスーツが入った袋を受け取った涼真さんは、受け取ったままじっと私を見つめていた。 「涼真さん?」 どうしたのだろう。 着替えないのかな、と思った私が涼真さんを見て首を傾げていると、涼真さんは不意に間宮さんに顔を向けた。 「──間宮、先に車に戻っていてくれ。着替えたら、心と一緒に向かう」 「…………分かりました。お早めにお願いしますね」 「努力する」 涼真さんと間宮さんの会話が終わり、間宮さんは呆れたようにため息を吐き出すと、部屋の扉に向かって歩いて行ってしまう。 私が状況を飲み込めず間宮さんの背中を見送っていると、間宮さんが「あっ」と声を出して振り向いた。 「加納さん。社長は今、浮かれ果てているので、本当に嫌でしたら殴ってもいいと思います」 「な、殴っ!?そ、そんな事できませんよ!?」 「お可哀想に……」 何故急にそんな事を間宮さんが言い出すのか。 その理由は分からないけど、私が咄嗟に間宮さんに言い返すと、間宮さんは本当に悲しそうに。私を憐れむような顔をして、呟いた。 そして「では」と残してあっさりと部屋を出て行ってしまう。 「──え?え……?」 間宮さんは一体何の事を。 私がそう考えていると、後ろにいた涼真さんが私の名前を呼んだ。 「悪い、心。着替えを手伝ってもらってもいいか?」 「お手伝いですか?分かりました」 着替えのお手伝いくらい、と思って私が涼真さんを振り返ると──。 既に涼真さんはバスローブの前を緩めていて。 しっかりと筋肉のついた涼真さんの上半身が顕になっていて──。 「……っ、」 「ワイシャツを袋から取ってもらってもいいか?」 「わっ、分かりました……っ!」 私が物凄い勢いで涼真さんから顔を逸らすと、くつり、と笑ったような気配がした。 だけど、涼真さんを振り返る事はできない。 ばさり、とバスローブが床に落ちる音が聞こえて、私の顔は益々赤みを帯びて行く。 もしかしたら、耳まで真っ赤になっているかもしれない──。 私は急いで袋の中からワイシャツを取り出し、パッケージからワイシャツを取り出した。 「りょ、涼真さんどうぞ……」 「ああ、ありがとう心。ネクタイを取ってもらっても?」 「分かり、ました……」 ワイシャツを羽織る、微かな衣擦れの音が聞こえて
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