父が破産して以来、私は「もううんざりだ」と言い訳をして、三年間愛人として囲っていた医大生の相良晴嵐(さがら せいらん)を突き放した。あの夜、彼は土砂降りの中で八時間も膝をつき、赤い瞳で私に懇願した。私には、そのとき既に妊娠四か月であることがわかっていた。五年後、かつて貧しかった医学部一のイケメンは、兆単位の資産を操る大富豪へと成り上がった。晴嵐は富豪ランキングの頂点に立った日の会見で、記者にこう尋ねられる。「相良社長、五年で貧乏学生からここまでの財を成す秘訣は何ですか?」彼は口元に冷たい笑みを浮かべ、切れ長の目に嘲りを宿して答えた。「虚栄心の強い彼女を見つけて、思い切り突き放されることだ」会場は騒然となった。午後には「兆単位の資産の富豪が元カノに裏切られた」という見出しが街中の話題になった。その一方で、私は今日で八つめの仕事を終えたばかりで、過労により娘を迎えに行く途中で突然倒れて息を引き取った。そして再び目を開けると、私は空中にふわりと浮かんでいる。絶望の淵にいた私は、ある事実に気づいて凍りついた。あの、私を一生後悔させると誓った晴嵐が、娘の通う保育園を突き止めていたのだ。「相良さん、こちらがお探しの瀬川心音(せがわ ここね)です。ママは毎日仕事でお迎えに来ていますよ」女教師・山本の案内で、晴嵐は心音の前に立った。「おじさん、誰を探してるの?」五歳の娘が顔を上げ、目の前の男を不思議そうに見つめる。晴嵐は言葉に詰まり、ゆっくり膝を折った。「瀬川南楓(せがわ みなか)を探している。彼女はどこにいるか知っているか?」娘は瞬きをして、にこりと甘い笑顔を向けた。「ママを探してるの?ママはお仕事に行ってるよ」晴嵐の顔色がさっと変わる。「まだ働いているのか?で、お父さんは?自分の妻や子を養えないのか?」娘は唇を尖らせて言った。「私のパパは遠いところで働いているの。ママが言ってた。パパは外で一生懸命働いて、たくさんお金を稼いでいるんだって。いっぱい稼いだら、迎えに来てくれるんだよ。おじさんは私のパパを知ってる?」彼女は期待に満ちた目で晴嵐を見つめる。だが晴嵐の表情はさらに陰った。「知らない」晴嵐は冷たくそう言うと、立ち上がって去ろうとした。教室の入口まで歩いてからふ
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