由奈はしばらく窓の外を見つめたまま、なかなか車を降りようとしなかった。隣の祐一が振り向く。「中に入らないのか?」彼女は視線を戻し、静かに言う。「必要ないわ。ここはもう、私の家じゃないから」「でも、君が子どもの頃からずっと過ごしてきた場所だろう?」「家族はもう誰もいないし、ただの空き家よ。何を懐かしむ必要があるの?」祐一はじっと彼女を見つめた。しばらくして、低く問いかける。「じゃあ浩輔は?弟のことも、もう何とも思わないのか?」由奈は言葉に詰まり、すぐに不機嫌そうに返した。「あなた、話をすり替えてるでしょ」彼はかすかに笑い、指先で彼女の髪をなぞる。「浩輔が回復して海都市に戻ってきたら、この家も彼が継ぐことになるだろう。そしたらもう、池上家の親戚に奪われる心配もない」由奈ははっとして彼を見た。「……あの人たちに、何をしたの?」祐一は笑うだけで答えない。代わりに、麗子が口を開いた。「真理子さんとご主人の義昭さんの工場は倒産しました。義昭さんはギャンブルで高利貸しにまで手を出して、今は離婚騒ぎの真っ最中です。おそらく、浩輔さんに構う余裕もないはずです」由奈は視線を落とし、唇を引き結ぶ。しばらくして、ゆっくり口を開いた。「……昔、父があなたに四千万を借りたことを、まだ覚えてる?」祐一に向けての問いだった。祐一は結婚指輪に触れていた手を止める。喉仏が上下し、声はかすれていた。「ああ……覚えてる」「当時、義昭さんもギャンブルで借金を抱えていたの。真理子さんに知られるのを恐れて、父に泣きついた。まさか、いきなり四千万を要求してきたなんて。私は、そのお金があなたから借りたものだとは知らなかった」祐一の表情が固まる。車内に沈黙が落ちた。「その四千万のせいで、私はあなたの中で、権力やお金のためにあなたに近づいた女になってしまった」由奈の声は淡々としている。まるで他人の話をしているかのように。「あのとき、あなたは言ったわ。池上家は欲深くて、金のためなら何でもするって」「……もうやめろ」祐一の呼吸が荒くなる。影に覆われた横顔は、苦しげで複雑だった。何度も繰り返し突きつけられた過去は、癒えたはずの傷口を再び切り裂き、塩を塗り込まれるようだった。祐一は深く息を吸い込む。「……どこのホテルに泊まってるんだ?送るよ」
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