夕闇がゆっくりと街を包み始めていた。もう夕食の時間なのに、真由美はいつまで待っても、奈々美が自分の部屋から出てこない。苛立つあまり、執事へ声をかけた。「奈々美を呼んできてちょうだい」だが執事はその場に立ったまま、なぜか動こうとしない。「聞こえなかったの?呼んできてと言ったのよ」真由美が顔を上げると、執事は躊躇いがちに口を開いた。「奥様……お嬢様ですが、本日お戻りになった時から少々ご様子がおかしくて……」真由美は鼻を鳴らした。今日のドレスの試着で、彰に置いて行かれたことは聞いている。どうせまた拗ねているだけだろう。「そんなことで取り乱すなんて、情けないわね」その時だった。「きゃあああっ――!」突然、二階から悲鳴が響いた。真由美の顔色が変わる。ただ事ではないと悟り、箸を放り出し、慌てて階段を駆け上がった。「来ないで!違うの!わざとじゃない!本当にわざとじゃないの――!」「奈々美!」真由美は勢いよく部屋の扉を開く。ベッドの上では奈々美が布団にくるまり、ひどく震えていた。顔は血の気を失うほど青白く、充血した目には怯えが張り付いている。まるで恐ろしい悪夢の中から抜け出せなくなったようだった。「お嬢様、一体どうなさったんですか?」執事が近づこうとした瞬間、「来ないで!」と、奈々美が頭を抱えて絶叫した。「私のせいじゃない!あなたを殺そうなんて思ってなかった!」その言葉に、真由美の表情が一変し、すぐさま奈々美の肩を掴んだ。「奈々美!」声を張り上げる。「私よ!お母さんよ!」だが奈々美は聞こえていないかのようだった。「お願い……来ないで……お願いだから……」脳裏に焼き付いて離れないのは、血の海に倒れた由夏の姿だった。あの光景を思い出すだけで全身が震える。真由美は娘を抱き寄せ、できるだけ優しく囁く。「大丈夫よ。怖くないわ。お母さんがいるから。誰もあなたを傷つけたりしない」そう言って執事へ視線を送り、部屋から出るよう合図した。扉が閉まり、真由美は根気よく奈々美を落ち着かせ続けた。どれほど時間が経っただろう。ようやく奈々美の呼吸が少しだけ整い、目の前にいるのが母親だと認識できるようになった。「……お母さん……」真由美は娘の手を握る。「何があったのか話してごらんなさい。大丈夫。どんなことでも
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