由奈は鼻を鳴らした。「やっぱり狸寝入りだったのね。さっきから気づいてたわよ」「そうか」祐一はゆっくり目を開け、気だるげな姿勢のまま彼女を見上げる。「だったら、どうして起こしてくれなかった?」「少しくらいなら付き合ってあげてもいいかなって思ったの」そう言ってドアを開けようとした瞬間――祐一の腕が彼女の脇をすり抜けた。次の瞬間、ドアに伸ばした由奈の手は大きな手に包み込まれる。車内は暖房が効いている。そこへ彼の広い胸が背中にぴたりと重なり、一気に熱がこもった。由奈は思わず身を固くする。このまま腰でも抱かれたらたまらない。反射的に、空いている方の彼の手首を掴んだ。「何するの?」祐一は顎を彼女の肩に預ける。吐息が耳の後ろの髪をかすかに揺らした。「今日の君、なんだか様子が変だな」「別にそんなことはないでしょ……」由奈が戸惑って振り返る。だが祐一は答えず、低く声を落とした。「今日……泊まっていってもいいか?」その一言に、一瞬だけ心が揺れた。けれど次の瞬間には我に返る。「だ、ダメ!」泊まられたら妊娠のことが知られてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。「どうして?」祐一が横から顔を覗き込む。由奈は視線を合わせられず、慌てて言い訳を探した。「だって……その……よくないでしょ!私たち、もう離婚したんだから。ただの他人の男女二人が、理由もなく同じ部屋に泊まるわけにはいかないでしょ?」最後まで言い切ると、祐一は吹き出した。「じゃあ、どうして今すぐ俺を突き飛ばさないんだ?」「こんなふうに抱きしめられたら、身動きが取れるわけないでしょ!」言った瞬間、由奈は自分で顔を覆いたくなった。――今のは失言だった。案の定、祐一は彼女の手を離し、少しだけ体を引く。その胸が微かに震えているのが伝わってくる。笑いを堪えているのだ。「俺、まだ抱きしめてもいなかったけど?」「……っ!」恥ずかしい。とにかく恥ずかしい。由奈は勢いよくドアを開けると、そのまま家へ向かって逃げるように駆け出した。……その後の二日間、ネットは予想どおり大騒ぎになった。公式ニュースサイトが一時アクセス集中でダウンしたという話まで出るほどで、トレンドには滝沢家と影山家に関する話題が並んでいる。名家同士の確執に加え、刑事事件
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