私は小林由衣(こばやし ゆい)、出張に出て三日目、長らく静まり返っていた息子のクラスの保護者ライングループに、突然一人の女性保護者が入った。音声メッセージを再生すると、聞き覚えのない甘い女性の声が流れる。「はじめまして。新任の国語教師の白石真帆(しらいし まほ)です。後藤智也(ごとう ともや)の母でもあります。これからはよろしくお願いします」私は全身がこわばり、グループのメンバー一覧を開いて何度も見比べた。智也は私の息子。彼女が智也の母なら、私はいったい誰?すぐ夫の後藤亮介(ごとう りょうすけ)に電話する。「ねえ、保護者のライングループ、誰か間違って入ってない?」電話口で、彼は一拍おいて、それから何でもないふうに笑った。「名前のかぶりじゃない? 学校って同姓同名、けっこうあるし。どうしたの、何かあった?」私は笑って「大丈夫」と言い、通話を切った。けれど胸のざわめきは消えず、空港へ駆け込み、その夜のうちに飛び立った。飛行機が着くなり、私はそのままタクシーを拾い、息子の小学校へと向かった。智也は七歳、小学一年生だ。今は午後一時四十分、ちょうど五限目が始まったところだ。校門にいた警備員はきちんと対応してくれて、私が保護者だと分かるや否や、すぐに担任の先生へ連絡を取ってくれた。数分後、白いブラウスに黒いスカート――新卒のように若い女性が足早に駆けてくる。顔立ちは普通で、かろうじて清楚といったところだが、声はやわらかく、物腰は柔らかい。女の勘が告げる――この女が、私の探していた相手だ。予感どおり、私を見るなり彼女はうろたえた。彼女の顔はさっと青ざめ、手足は勝手に震えだす。まるで猛獣でも見たかのように。「こ、こちらの保護者の方、本日はどのようなご用件で……」あまりに怯えて言葉もまともに繋がらない。それでいて、保護者のライングループでは堂々と自分を智也の母だと名乗ったのだ。「保護者のライングループでのメッセージ、どういうことかしら」警備員の前で、私ははっきり切り出す。「あなた、智也の母だと?すごく気になるわ」膝の横に下げていた手が一瞬ぎゅっと握り締められ、彼女は慌ただしく警備員を見やる。そして、引きつった笑みを浮かべながら言い訳を始める。「それはですね、もうすぐ学校で保護者会が
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