All Chapters of 【麻雀女流名人伝】遅番女子のミズサキ: Chapter 21 - Chapter 30

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その3 第三話 マナーの範囲内の嘘

21.第三話 マナーの範囲内の嘘  涼子は先日の出禁客のことを思い出していた。 (あの人。確かに良くないのはわかるけど、出禁って。そこまで悪い事だったのかな。お父さんがそう決めたんだからこの店にはそれでいいんだろうけど) しかし、彼がとった行動はと言えば6秒間の『考えるフリ』だけである。 ほんの6秒、言ってしまえば彼のしたマナー違反は1ゲーム45分ほどの中のたった6秒間のことである。  そのことをマコトに質問してみた。するとマコトは納得いく答えを出してくれた。 「うん、りょうちゃんの言いたいことはわかるよ? 私も何が本当に正しいかは分からない。だけどさ、オーケーかアウトかを決めないといけない。それが店主の仕事だもん。だとするとあれはアウトだなと判断したんじゃないかな。あの人はずる賢い人だったから、そういう人って甘やかすとつけあがるし、見た限り雀力そのものはあるからこれを見逃してやったりしたら今後も店員の目の届かない所を狙ってあの手この手で勝ちに来るのはわかりきってる。そうなれば本当に居て欲しいお客さんを失うことになるの。ルール違反じゃないなら何をやってもいいと思う自己中な発想は社会不適合者特有のものだし、のさばらせたら良くない。それよりは、悪は切る! でいいんじゃないかな」「なるほどね。でも、麻雀って考えるゲームだし、騙し合いという側面も必ずあるよね。マナー違反の嘘とそうでない嘘の線引きはどうやればいいのかな」「うん、とても難しいことなんだけど分かりやすい例を言うなら三元牌を想像してみて。白ポンのあとに発を噛みつく勢いで即ポンしたらどうかな?」「死んでも中は切れないかも」「でしょ、大三元入ってそうに見えるもんね。これを単なる2000点の手の時にやる。これが許される嘘」「あっ、そうか」「あるいは白ポンのあとに出た発を一拍置いて自然なリズムでポンと言う。これだとどう?」「中は切っても大丈夫かも。と少し思う。切らないけど」「うん、大三元をやって
last updateLast Updated : 2025-10-10
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その3 第伍話 テレパシー

23. 第伍話 テレパシー 「ガー ガー」 (ん… カー子が鳴いてる……。起きる時間か〜) 「おはよう、カー子。今日もありがと」 ジリリリリリリリリ  カラスに少し遅れて目覚まし時計が鳴る。 カチ  「今日はカー子の勝ちだったねえ」「ガー!」  あたりは夕焼けに染まり人々の一日が終わろうとする中で私の一日がまた始まる。 いつも通りの日常だ。……と思っていたのだが、今日は違った。  起きて、さあ支度をするぞと動き出した次の瞬間、聞いたことのない声がしたのだ。 [おはようございマス。そろそろ機は満ちましたネ] 「誰?!」(というか、どこから聞こえてきてるんだ?)  [ダレってことはないでショウ。ワタシですよワタシ、カー子デス] 「ハッ? えっ、ハァ!?」   いや、あれ? まだ夢の中? 実は起きてなかったのか私?  何が起きてるのかわからない。大体この、アタマに直接話しかけるような声はなんなんだ。 [そんなに動揺しますカ……? 今までだって会話は成立してたじゃないでスカ。変なカラスだな。普通じゃないな。トカ思ったでしょうに……] 「いや、それは思ったけども。でも、カラスは賢いって言うしさ」 [賢
last updateLast Updated : 2025-10-12
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その3 第六話 お買い物

24. 第六話 お買い物  早く帰った私はまだ真夜中なのでとりあえずしばらく寝た。人間夜は寝れるものである。普段起きてる時間であれ、夜に寝ていいよと言われたなら簡単に寝つける。 久しぶりの夜睡眠だ。おやすみ世界―― ──────  ハッ! (いけない! 仕事! あれ? いま何時?? ウギャー8時45分じゃん! 遅刻する!!)  バタバタッと動き出して遮光カーテンが揺れると差し込む光があった。 (あれ? 明るい。朝の8時45分? あ、そーだった早上がりしてたんだ。ていうかそもそも今日は休みだっけ)  目覚まし時計が呆れた顔で見てる。何を1人で慌ててるのか。おれが信じられないのか? と言われてるように感じた。 「そーだよねー。アナタを買ってから一度だって起きれなかったことないモンねー」  私はかなり寝坊する方なのですごく起きやすい目覚まし時計を店員さんに選んでもらった。この時計の目覚まし音で起きなかったことはない。まして今はカー子もいる。 (そうだ、カー子だ。あの野郎。どういうことか説明してもらわなきゃ) 「カー子。いるー?」 …………………………  居なかった。そういうこともあるか。ずっといたりしたら逆に嫌だし、いないならいないで良いか。きっとそのうち来るだろう。 「そうだ、涼子を呼ばないと!」 "今日と明日連休でしょ。今日来てよ。り
last updateLast Updated : 2025-10-13
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その3 第七話 とりあえず焼き肉

25. 第七話 とりあえず焼き肉  ……さて。焼き肉の準備も整ったので涼子が来るまでしばらく寝よう。早く起き過ぎた、まだ眠い。遅番にとって朝と夜は真逆だ。今は昼の12時。つまり私の体内時計的には深夜0時と同じこと。ミッドナイトだ、眠いに決まってる。 「カー子。いる?」 …………………… (まだいないのか。ま、夕方になれば来るだろう)  涼子は何時に来てとか決めずに呼んだ。いつ来るかは分からないけど合い鍵渡してあるから勝手に開けてくれればいい。 (それまで寝よ)  カー子も夕方には来るでしょ。起きてると考え込んじゃうし、何より眠い時は寝るのが一番だ。   ZZZZZZ   「カー! カー!」 「あ、カー子おはよ」  むくりと起き上がると肉の焼けるいいニオイがしてきた。 「あ、起きたのね。もう先に焼いてるよー」「いや、りょうちゃん来てたなら起こしてよ。少し高い肉買ったんだからさ。一緒に焼き肉やらせてよ。カー子も、気ぃ使っていつまでも寝かせとくことないからね?」「……ねえ、マコト。カラスに普通に話しかけるのちょっと変だから人前ではやらない方がいいよ」  そう言われて思い出した。そうだ、それについての話がしたくて今日は涼子を呼び出したんだった。&
last updateLast Updated : 2025-10-14
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その3 第八話 カー子の正体

26.第八話 カー子の正体 私はあらかじめ買っていたカー子用の紙皿を出した。「カー子も醤油とか使う?」[欲しいデス。あと、レモン汁と大根おろしもネ]「なっ、まだ出してないのになんでわかんの?」[私は鼻が利くんですヨ。レモンと大根おろしがあるのはニオイでわかりマス。ちなみに本物のカラスは鼻が効きません]「ね〜。くだんない話をテレパシーしないでくれないかな。脳に直接来るから変な感じするのに内容が私には極めてどーでもいいんだが」[あっ、すみません。まあそのうち慣れますヨ]「ちなみに私はもう慣れた」[はやっ]「でさ、りょうちゃんに来てもらったのはほかでもない。打ち明けたい秘密があったからなんだけど」「その秘密。もう完全に理解したけどね」[でしょうネ]「そういうこと。まあいいや、とりあえず食べ終わってからにしよっか」──────「「ごちそうさまー」」[ふぅ、満腹デス]「で、このカラスなんなの?」「私にもわかんない。カー子ってなんなの?」[私は神デス]「「ああ!?」」[ちょ、なんですか。怖いなモウ……]「えっ、神とか言った?」[言いましたネ]「いや、冗談でしょ。カラスじゃん」[これは借りてる身体です。飛べると監視する上で都合良かったノデ] 監視? なんで私が神に監視されねばならないのか。「なんで私を監視するのよ?」[いいかなーと思っテ]「何が」[うちの店員としてちょうどいいかなーっテ]「店……員?」[私、こことは違う星。つまり地球人の言うところの『異世界』で麻雀店をやってまして。従業員不足で悩んでいたんでス]「ちょ。待ってよ。異世界ファンタジーに雀荘は無いでしょ」[いや、うちの異世界にはあるんデス。私が作ったノデ] その瞬間、ハハハハハハ!! と涼子が大笑いした。「ハハハ! あーおかし。……ふー。なにそれ。結局麻雀の誘いなわけ? 神とか異世界とか出てきてわけわからんと思ったけど、麻雀の誘いなら納得ねー。マコト」「いや、納得はいかないよ。なんで何日も監視してんのよ。ストーカーじゃん。エロじゃん。私基本的に部屋で一人だとノーブラなんだからさ。見ないでよね」[ま、ま、私も女ですから。そのへんは許して下さいヨ]「いや、許さん。神でも許さん」「神を許さんとか、そんなんあんの」 カー子が言うにはこういうこ
last updateLast Updated : 2025-10-15
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その3 第九話 旅立ちの日

27. 第九話 旅立ちの日 「行く前に聞いておきたいんだけどさ。その、異世界と現世って何度も行き来できるの?」[可能です。でもその都度大きな魔力を使うので回数は控えたいですネ(私が大変だから)]「はい」と涼子も手を挙げた。[なんでショウ]「今回、カー子さんは目的の時代に来れなかったわけですが、なぜ調整してまた移動しようとはなさらなかったのですか?」  なにげに涼子の言葉遣いが丁寧になってる。神様って聞いたからかな。意外と真面目なとこあるな涼子。 [ンー、微差だったから。このくらいなら成長するの待ってりゃいいかなって思いまシタ]「おそれながら。カー子半年くらい前からいるじゃんか。微差じゃないっしょ」 私もわざと『おそれながら』とか使ってみた。一度言ってみたかったのよね、おそれながら。ふふふ。 [なんでしょう……感覚の差? 私は3000年くらい生きる種族なので時間の感じ方が人間とは違う可能性がありますね。こう見えて神ですカラ]   こう見えて神。……おそれながら、どっからどう見てもカラスでございます。「なるほど、つまり微調整してぴったりに時空移動するのも可能ではあるけどそうなると魔力も使うし、ほとんどベタピンだし、そこまでしないでもいいか……と思ってしなかっただけということね。いや、帰ってくる際にキチンとしてないと不便だなと思って」 [そういうコトです。じゃあ、とりあえず行きまスカ]  そう言うと、カー子は器用に窓を開けて外に出た。そして ボワン! 「わわっ! カー子から子供が出てきた!」  カー子の身体から小さめな女子が出てき
last updateLast Updated : 2025-10-16
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その4 第一話 いざ、マージへ

28. ここまでのあらすじ 『麻雀こじま』の遅番として働くミズサキは人語を理解する謎のカラスと出会い、それを『カー子』と名付け、生活を共にする。 月日は流れて約半年後。 ある日、カー子はミズサキの脳に直接話しかけてきた。カー子の正体は別世界の神だと言うのである。 神に選ばれたミズサキたちはこことは異なる世界へと呼び出されることになった――  【登場人物紹介】 水崎真琴みずさきまこと  雀荘『こじま』の遅番メンバー。麻雀が好きなのと働きたくないのがリンクして雀荘遅番という職業につくことを選んだ現代に生きる遊び人。最近はしっかり打てるようになり1人前となりつつある。  小島涼子こじまりょうこ  雀荘『こじま』の店主の娘でミズサキの親友。とても真面目な見た目と裏腹にかなりふざけた性格をしてる。パズルには弱くてアタマは固いほうなので麻雀はあまり向いてないが、それでも次第に上手になってきた。柔軟性の化身のようなミズサキ惹かれるものがあるようだ。  カー子かーこ  人語を理解するカラス。その正体はなんと異世界の神だった?! マージという世界で神をやりつつ雀荘を経営している。   その4 第一話 いざ、マージへ 「うわああああああ!」「きゃああああああ!」「大丈夫だから安心して掴まっててヨ。この時のために怪力魔法をわざわざ買ってきたんだカラ」「そ、そんなこと言われてもおおおお」 時空を超える穴の中は
last updateLast Updated : 2025-10-17
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その4 第二話 熱量

29. 第二話 熱量 「あの、ドアノブにヒモが垂れ下がってるのが私の部屋デスヨ」 (なんでヒモが垂れ下がってるんだろ……?)と思ったけどその事は別に聞かなかった。それほど気にもならなかったし。  とにかく、私達はエルの部屋に到着した。 「ふー、それでは私が今回なぜここに呼んだのかの説明をもう一度しますカ?」「そうね、いまいち納得してないからね」「わかりました。まずここ『マージ』は地球の方から見たらいわゆる異世界です。こちらは文化レベルがまだ地球ほどではない星ですが、科学が発達しなかったかわりに魔法が研究されました。マージは魔法が普通に販売されている国だと思って下サイ」「売ってんだ。魔法」「はい、ちなみに怪力魔法は高級なんですよ。家一軒が買えるくらいしまス」 「そうなんだ。(異世界の家の相場がわかってないけど)」「それでですね。科学以外にもこの星は地球よりも劣ってる点がありまして。それが娯楽です。マージには娯楽がほとんどありません。なので参考までに地球の娯楽を調査しました。すると『麻雀』という娯楽こそが至高であると結論づけるに至りましタ」「面白い」「ちなみにどうやって麻雀だと結論づけたの?」 と涼子が私も疑問に思っていた事を聞いた。すると……「熱量デスネ」「熱量?」「そう、プレイヤーがこのゲームに対して持つ熱量。その熱中レベルが他のゲームと比較にならないくらい熱いのが麻雀だという調査結果デシタ。なのでマージは地球から麻雀を持ち帰ることに決定したんでス」「なるほど、サーモグラフィー的な測定機械があるということか。それならば納得」「いえ、私は神ですからね。単純にすごく目がいいんです。ほんの少しの汗とかも見えますから熱くなってるとかは見りゃわかるんでスヨ」「目視で判断した
last updateLast Updated : 2025-10-18
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その4 第三話 どこにいても楽しめる

30. 第三話 どこにいても楽しめる 「で、なんで私なんだっけ」「はい、それは今はまだ子供ですけど将来『ミズサキマコト』は麻雀の伝道師になります。なのでマージに呼ぶにはあなたがいいと思いまシタ」「私の将来まで知ってんだ。それも神様だから?」「人間だって水晶玉に映して将来を占うとか出来るじゃないですか。あれと同じデスヨ」  水晶玉に映して占いなどという不思議な技が人間に出来てるかどうかは知らないが、神様には未来も見えるというのは分かった。 「じゃあなんでカラスだったの?」「飛べる方が移動も楽だし、高い位置でも監視しやすいノデ。カラスならどこにいても不自然じゃないですし。あ、ちゃんとあのカラスには正式に憑依許可の了承を得ていますからネ」「カラスとも話せんの?」「ハイ。言語翻訳魔法は私の一番得意な分野なのデ、動物とも会話可能なんデス。ちなみに2人にもこちらの言語がわかる魔法を既にかけてマス」 「なるほど、だから異世界人と会話できてるのか。しかし、よく了承したねカー子は」「了承してくれたら一生の身の安全を保証すると言ったら二つ返事でOKが貰えマシタ」「あーー……野生の生き物にとって一番ありがたい条件だ」 「ええ。あのカラスには護りの加護を与えておきました。まァバリアみたいなもんなんで餓死とかするパターンじゃなければ安全に生きていけマス」 (なるほど、つまりまとめるとこうだな) 私はリュックからノートと筆記用具を取り出して現在の状況が分かるよう書き出した。 ①異世界『マージ』には娯楽の文化がない。②マージの神様である『エル』は地球から麻雀を学んで雀荘を作った。③地球から一時的に呼んだ専門家の助けもありマージでの雀荘の経営はうまくいき、今は人手不足になってる。
last updateLast Updated : 2025-10-19
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