21.第三話 マナーの範囲内の嘘 涼子は先日の出禁客のことを思い出していた。 (あの人。確かに良くないのはわかるけど、出禁って。そこまで悪い事だったのかな。お父さんがそう決めたんだからこの店にはそれでいいんだろうけど) しかし、彼がとった行動はと言えば6秒間の『考えるフリ』だけである。 ほんの6秒、言ってしまえば彼のしたマナー違反は1ゲーム45分ほどの中のたった6秒間のことである。 そのことをマコトに質問してみた。するとマコトは納得いく答えを出してくれた。 「うん、りょうちゃんの言いたいことはわかるよ? 私も何が本当に正しいかは分からない。だけどさ、オーケーかアウトかを決めないといけない。それが店主の仕事だもん。だとするとあれはアウトだなと判断したんじゃないかな。あの人はずる賢い人だったから、そういう人って甘やかすとつけあがるし、見た限り雀力そのものはあるからこれを見逃してやったりしたら今後も店員の目の届かない所を狙ってあの手この手で勝ちに来るのはわかりきってる。そうなれば本当に居て欲しいお客さんを失うことになるの。ルール違反じゃないなら何をやってもいいと思う自己中な発想は社会不適合者特有のものだし、のさばらせたら良くない。それよりは、悪は切る! でいいんじゃないかな」「なるほどね。でも、麻雀って考えるゲームだし、騙し合いという側面も必ずあるよね。マナー違反の嘘とそうでない嘘の線引きはどうやればいいのかな」「うん、とても難しいことなんだけど分かりやすい例を言うなら三元牌を想像してみて。白ポンのあとに発を噛みつく勢いで即ポンしたらどうかな?」「死んでも中は切れないかも」「でしょ、大三元入ってそうに見えるもんね。これを単なる2000点の手の時にやる。これが許される嘘」「あっ、そうか」「あるいは白ポンのあとに出た発を一拍置いて自然なリズムでポンと言う。これだとどう?」「中は切っても大丈夫かも。と少し思う。切らないけど」「うん、大三元をやって
Last Updated : 2025-10-10 Read more