All Chapters of 旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させていただきます: Chapter 11 - Chapter 20

50 Chapters

第11話 生意気なメッセンジャー

「ふ〜いい運動になったわ」約10分かけて部屋に戻った私は少し部屋で休憩してから外出することにした。お気に入りのソファに座り、部屋の壁掛け時計を見ると時刻は午前10時を過ぎている。「もう10時過ぎていたのね……。この時間なら全ての商店が開いているわね」それにしても喉が乾いた。東塔と南塔を2往復、片道10分×4回で40分もウォーキングをしたことになる。よし、決めた。今度は例え呼び出されても絶対にこっちから行ってやるものか。大体呼び出した本人達が来るべきなのに、何故私一人が呼び出され、屋敷の端から端まで日に何往復もさせられなければならないのだろう? 全く理不尽な話だ。その時。――コンコン『奥様。お時間よろしいでしょうか?』ノックの主はブランカだった。ナイスタイミング! 彼女に何か飲み物を持ってきてもらおう。「どうぞ〜」ソファに座ったまま扉に向かって声をかけると、「失礼します」と言ってブランカが部屋の中に入ってきた。「丁度良かったわ。ねぇブランカ。何か飲み物を持ってきて貰える?」「かしこまりました。どのようなお飲み物がよろしいでしょうか?」「そうね〜本当ならスポーツドリンクかカロリーゼロのコーラが飲みたいところだけど……」「え? スポーツドリンク? コーラ? 一体何のことでしょう?」首を傾げるブランカ。うん、そうなんだよ。この世界ではスポーツドリンクもコーラも無いのが辛いところだ。「う〜ん……スポーツドリンクっていうのは運動や汗を掻いた時に飲む最適な飲み物で、コーラって言うのは……まぁいわゆる飲むと口の中でシュワシュワする味のついたジュース……みたいなものかなぁ……」「え? 口の中でシュワシュワする飲み物ですか? そう言えばこの間行商人の人が屋敷に来た時に言ってましたよ。最近町では子供でも飲めるシャンパンみたいなものが流行しているそうです。え~と、確か……あ、ソーダ水って言うそうです」「え!? ソーダ水があるの!?」知らなかった! この世界にあの炭酸水があるなんて! これは是非町に出掛けたら飲んでこないと !なら今は飲み物を諦めてすぐに出掛けよう。「それじゃブランカ、私出掛けてくるわ!」ソファから立ち上がるとブランカが慌てた。「あ! お待ち下さい! 実は今メッセンジャーが奥様に伝言があると言ってこちらに来ているんです」何だか果
last updateLast Updated : 2025-10-02
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第12話 雇用主はだ〜れだ?

「オータム、貴方ねぇ……」立ち上がってオータムをジロリと睨みつけると、何故か彼は首を傾げて妙な目で私を見ている。「な、何よ。その顔は」「いえ、オータムって誰のことです?」「何惚けたこと言ってるのよ。貴方のことに決まっているでしょう?」私はオータムを指さした。「いやいや、だから、オータムって誰ですか!」「貴方の名前だって言ってるでしょう!」すると……。「あの〜俺の名前……オータムじゃなくてウィンターって言うんですけど?」「へ?」「だ・か・ら! 俺はウィンターって名前です!」「……」自分の顔が羞恥で真っ赤になるのが分かり、慌てて背を向けた。こんな男に赤くなった顔を見られるわけにはいかない。「あ……そ、そう言えばそんな名前だったわね!」背中を向けながら強がる。それにしても何という失態。季節系の名前だとは記憶していたけれどもオータムとウィンターを間違えるなんて……!「そんなことより、早くラファエル様の所へ向かって下さいよ。あの方は待たされるのが一番嫌いなんですから」またしてもぞんざいな口の聞き方にカチンときたので振り返った。「だから言ったでしょう? 用があるなら自分から来ればいいのよ。ラファエルにそう伝えておきなさいよ」「冗談じゃない。俺はラファエル様のメッセンジャーですよ。奥様の言うことなんか聞けるはずないでしょう? ほら、もうこのまま行きますぜ」そして手招きしてきた。恐らくこの男は自分の立場というものを全く分かっていないのだろう。「ウィンター。私の言うことを聞かないなら……クビにするわよ」「は? 何言ってるんです? どうして奥様に俺をクビにする権限があるっていうんですか? 名前だけの妻のくせに」最後の台詞は小声で言ったのかもしれないが、生憎私の耳にはばっちり聞こえていた。確かに私はウィンターの言う通り、名前だけの妻かもしれないが、それ以上の権力を握っているのだ。「……ふ〜ん……ちょっと待ってなさい」自分の机に向かうと、引き出しに取り付けられたナンバーロックを解除して分厚いファイルを取り出し、パラパラとめくっていく。あ、あった。あった。そして1枚取り出してウィンターの目の前でヒラヒラ振った。「はい、これな〜んだ」「一体何なんですか……?」ウィンターは書類に目を近付け、そこに自分の名前が記されていることに気付いた。「
last updateLast Updated : 2025-10-03
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第13話 前世の知識を生かした営業相談

 さて、懐も潤ったし、早速あの方の処へ行ってみよう。 大金が入ったずっしりと重みのあるショルダーバッグを抱えてメインストリートに出ると、タクシー乗り場へと足を向けた―― **** タクシー乗り場へ向かうと、並んでいる人が1人もいなかった。それとは対照的に隣にある辻馬車乗り場には行列が出来ている。「ふ~ん……タクシーもバスも走っているのに、やっぱりまだまだタクシーは浸透していないのねぇ……」ここはタクシー会社の為にも、現在懐が温かいこの私が乗って売り上げに貢献してあげなければ。 私は客待ちで待機しているタクシーに近寄ると運転手に声をかけた。「すみません、乗せて下さい」「あ、お客様ですね? どうぞお乗りください!」タクシー運転手はお客が来てくれたことが余程嬉しかったのか、それとも営業スマイルなのか、笑顔で返事をした― **** タクシーに乗ること、およそ30分。目的地へ辿り着いた。「お客様。到着致しましたよ」タクシー運転手の男性が振り向く。「ありがとうございます。おいくらですか?」「8千シリルになります」「はい、どうぞ」私は1万シリルを運転手に手渡した。「ではお待ち下さい。ただいまお釣りを……」「あ~いいの、いいの。お釣りはチップとして取っておいて」「え!? な、何ですって! お釣りは2千シリルもあるのですよ!? ほ、本当に宜しいのですか?」「ええ、いいのよ。だって貴方達歩合制で働いてるんでしょう?」「はい。その通りですが……」「いくらバスやタクシーが最近出回って来ても、まだまだ人々は運賃が安い辻馬車を使う人が主流だからね~生活かかってるんでしょう?」「そうなのですよ! タクシーを利用する人がまだまだ少ないから、花形職業に見えても我らの給料は雀の涙程度しか貰えないんです!」途端に運転手は営業スマイルが崩れ、素の顔に戻ってしまった。「うん、分る分る。皆がタクシーを乗らないのは運賃が高いっていうのもあるけど、その良さを知らないからなのよ。辻馬車はすごく揺れてお尻が痛くなるけどタクシーは揺れないし、馬車よりもずっと早く目的地へ着けるし……言う事なしなのにね」「お客様はまだお若い方なのに、よくお分かりですね? お客様はどうすればタクシー利用客が増えると思いますか?」いつの間にか私はタクシー運転手の相談相手になって
last updateLast Updated : 2025-10-04
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第14話 モンド伯爵夫人と私

 門をくぐり抜け、屋敷へ続く緑道を歩きながら空を仰ぎ見た。「本当にこの世界の青空はとても澄んでいるし、高層ビルも建ち並んでいないから空が広く見えるわね〜」感心しながら歩き続けること約5分――ついにモンド伯爵夫人の屋敷が見えてきた。この屋敷はまるでヨーロッパの古城のような城だった。3階建ての白い石壁の建物に紺色のとんがり屋根。昔はさぞかし美しい城だったに違いない。しかし、今は……。 白い城壁には屋根まで届きそうな蔦が無数に壁を這っている。屋根部分の窓はガラスにひびが入っているし、城の壁も一部亀裂が走っている。さらに手入れの行き届かない庭には雑草が生い茂り、荒れ放題だった。その光景はパッと見るとまるで廃墟のような……さながらお化け屋敷のようにも見える。何だか……少し来ない間に一段と凄いことになっていた。「う〜ん、やはり噂通り、相当生活が困窮しているのは間違い無さそうね」よし、これなら私とモンド伯爵の利害関係が一致するかもしれない。私は扉の前に立つとドアノッカーを掴んで早速扉をノックした。 ゴンゴンッ!扉を叩くと物凄い音がした。それに……何だか今、扉にヒビが入ったような……?「……」少しの間、待っては見るものの誰も扉を開けてくれる気配はない。その時、ふと目の前に呼び鈴を鳴らす長い紐が玄関の扉からぶら下がっていることに気が付いた。「ああ、ドアノッカーじゃなくてこっちの呼び鈴を鳴らすのね」迷わず呼び鈴の紐を掴み、引っ張ってみた。よし、手ごたえあり。きっと今頃は部屋の中にベルの音が響き渡っているだろう。念のために後2回ほど呼び鈴を引っ張っておこうかな? そう思った私は勢いよく紐を引っ張り……。ブチッ「あ……」ま、まずい! 呼び鈴の紐が途中で切れてしまった!何とか誤魔化す為にちぎれた紐どうしを玉結びで結びなおしたところ、ようやく扉が開かれた。「まぁ、ようこそ。ゲルダさん」何と扉を開けに来たのはモンド伯爵夫人、その人だったのだ――****「ごめんなさいね……折角いらしていただいたのに、何もおもてなしすることが出来なくて」ほこりまみれの応接室に通された私は、向かい合わせにモンド伯爵夫人とソファに座っていた。モンド伯爵夫人は今年70歳になる高齢の伯爵夫人で、随分くたびれた古めかしい室内ドレスを着用していた。彼女は夫を20年ほど前に亡くし
last updateLast Updated : 2025-10-05
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第15話 辻馬車の中で秘密? の会話

 モンド伯爵夫人を連れて屋敷を出た私達。途中で辻馬車を拾って乗り込むと婦人が尋ねてきた。「あの……そろそろ何をしに銀行へ行くのか教えていただけないでしょうか?」「ええ、勿論です。モンド様は先程屋敷も爵位も手放したいと仰っておりましたよね?」「はい、もう屋敷の手入れどころかあそこに住んでいるだけで借金が増えていく一方ですから。それに私には親戚も身内も誰もおりませんし、家紋を守ることも出来ません。お金があればまだ養子縁組出来るのでしょうけど、あいにく今の私には借金しかありません。なので全てを手放して残り静かな余生を送りたいものですわ……」ため息をつきながら現状を語る婦人。聞けば聞くほど哀れでならない。「モンド様のその悩み……私がまるごと解決してみせましょう」「え? ゲルダ様がですか?」「はい、そうです。先程モンド様は銀行からの借入金2億8千万シリルあると仰っておりましたよね? 今から銀行へ行き、ノイマン家の預貯金を全額引き出してまずはそのままモンド様の借入金を私が返済致します」「えええ!? ほ、本気で仰っているのですか!?」「ええ、本気も本気です。それだけではありません。残りの預貯金は全てモンド様の銀行口座に振り込ませていただきます。今は金利が高いですから、恐らく利息だけで毎月の生活費は補えるはずです」小声で私はモンド様に説明する。なにしろこれから億単位のお金を動かすのだ。壁に耳あり、障子に目あり……の心構えで慎重にいかないとならない。「で、ですが何故そこまで私にしてくださるのです? 私はゲルダ様に何もして差し上げられることはありませんよ?」モンド様も私にならい、耳元に小声で囁いてくる。いつの間にか私達は馬車に横並びに座り、互いに耳元でヒソヒソ声で話していた。……傍から見れば少し異常な光景に見えるかもしれない。その証拠に私達を乗せた御者が時折、ビクビクしながらこちらの様子を伺っている。そして気のせいだろうか……? 御者と一度視線が合った時、彼の顔には怯えのような影が走って見えた。「いいえ、モンド様は素晴らしい物をお持ちです。それをノイマン家の預貯金全額と交換していただきたいのです」御者のことはさておき、モンド伯爵夫人の耳元で囁いた。「素晴らしい物……? それは一体何でしょう?」「勿論……」私は笑みを浮かべながら答えた。**** 
last updateLast Updated : 2025-10-06
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第16話 遅く帰った夜は……

 2時間後―― 私とモンド伯爵夫人は最近開店したウッドデッキがお洒落なカフェでティータイムを満喫していた。あ〜それにしても幸せ。美味しい紅茶に美味しいチーズケーキを食べながら、こんなにのんびりした時間を過ごせるなんて前世の頃は思いもしなかった。でも、出来れば俊也の奥さんと一度くらいこのような時間を持ってみたかったのに……。あの若夫婦、今頃うまくやっているだろうか?少しだけセンチメンタルな気持ちになりながら紅茶を飲んでいるとモンブランを食べ終えたモンド伯爵夫人が話しかけてきた。「それにしてもゲルダ様。本日は窮地を救っていただき、本当にありがとうございました。貴女はまさに救いの神ですわ」そして深々と頭を下げてくる。「そんな、頭を上げて下さい。モンド様の借金返済と伯爵家の爵位……それに屋敷の買い入れ金として4億5千万シリルをお支払いしただけですから。つまり、これはいわゆる取引。私達はギブアンドテイクの関係なのです」「ギブアンドテイク……ですか? 初めて耳にする言葉ですが響きが良い言葉ですね。分かりました。つまり私達はギブアンドテイク仲間と言うことですね?」「ええ。そうです」そして残りの紅茶を飲み終えるとモンド伯爵夫人に尋ねた。「モンド様、もしよろしければこれから私と一緒に新しく住む物件探しに行きませんか?」「物件……ですか?」モンド伯爵夫人は可愛らしい仕草で小首を傾げた。「ええ、そうです。買い物などの利便性を考えれば市街地で暮らすのが良いですけど何しろ賃貸料が少々高いですし、部屋の間取りも狭いですからね。私としてはモンド様は今まで広いお屋敷に住まれていたのですから、町の中心部から少し離れた郊外の戸建ての庭付きハウスがよろしいかと思うのですが。戸建てならペット可ですよ」「成程……それでしたら私は町の中の騒がしい場所よりは閑静な住宅街に住みたいですわね」確かにおっとりしたモンド伯爵夫人に都会暮らしは似合わないかもしれない。「分りました。ではモンド様の意見を踏まえて、これから不動産屋さんに行きましょう。何所までもお付き合い致しますよ」私はモンド伯爵夫人を見てニッコリと微笑んだ。「まぁ。本当にゲルダ様には感謝の言葉しかありませんわ」嬉しそうな顔で私を見つめるモンド伯爵夫人。彼女は私を「救いの神」と呼んだが、まさにモンド伯爵夫人こそ私の窮地
last updateLast Updated : 2025-10-07
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第17話 役に立たない男

 午後9時――ノイマン家の東塔の自分の自室に戻って来た。「ふ~…流石に朝から出歩いていたからちょっと疲れたわね…」部屋のソファにドサリと座ると、すぐに扉がノックされた。『ゲルダ様! お戻りになられたのですね!』それはフットマンのジェフの声だった。「ええ、入っていいわよ」扉に向かって声をかけると、すぐにジェフが部屋の中に入って来た。彼の背後にはあの生意気なメッセンジャーの……確かウィンターだったかな?彼が立っている。そしてウィンターは前に進み出て来ると気持ちの悪い位、低姿勢で私にお願いしてきた。「失礼致します。ゲルダ様。じ、実は……ノイマン家の方々がゲルダ様がお戻りになられたら大至急南塔の大旦那様の執務室に来るようにと伝言を承って来ているのですけど……」「ふ~…ん…」私は腕組みしながら足を組んでわざと気の無い返事をした。だけど席を立つようなことは決してしない。「あ、あの……大旦那様達の元へ行かれないのですか?」私が動く気配を見せないからだろう。オドオドしながらウィンターが尋ねて来た。「ええ、私は何所にも行かないわよ。ところでウィンター……」「は、はい!」「まだ誰が雇用主か分っていないようね? 私、言ったわよね? 用があるなら自分達からこっちへ来るように皆に伝えなさいって」「そ、そんな……言える訳ないじゃないですかぁっ! あの方々は俺をメッセンジャーとして採用してくれたんですよ?!」悲鳴混じりにウィンターが言う。「ええ、そうよ。彼らはね、私がここの使用人全員のお給料を支払ってあげているのに、面接には関与させないのよ。私が貴方を面接していれば絶対に採用なんかしなかったのに。……言ってる意味分る?」ニッコリ笑みを浮かべながらウィンターを見た。「あの……つまり……?」「私の為に役立てないならクビにするって言ってるのよ」ボソリと言うと、途端にウィンターの顔が真っ青になる。「分りました! い、今すぐ大旦那様と大奥様、そしてラファエル様、ついでにアネット様をこちらへ連れて参ります! だからどうかクビだけは勘弁して下さい!」そして一目散に私の部屋を飛び出して行った。ウィンターは余程クビになりたくはないのだろう。それにしてもついでにアネットなんて……彼女も私に用があるのだろうか?「全く……疲れる男ね」コキコキと首を鳴らすと、それま
last updateLast Updated : 2025-10-08
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第18話 私の勝手でしょう? 1

「どうぞ、ゲルダ様」書類に目を通しているとジェフがカモミールのハーブティーを机の上に置いてくれた。「ありがとう。あら? 珍しい。ハーブティーじゃない」いつもならブランデー入りの紅茶を淹れてくれるのに。そんな私の考えが分かったのだろう。「ゲルダ様は……その、少々酒癖の悪いところがありますから。それにこれから大旦那様や大奥様、それにラファエル様にアネット様がいらっしゃるのですよね? これを飲んで気持ちを落ち着けていただこうかと思ったのです」「ふ〜ん。そうなの? 私はとても落ち着いているけどね……でも、ありがとう」むしろ落ち着くべきはこれからこの部屋にやってくるかどうかも分からないノイマン家の人々とアネットの方だろう。「どれどれ……」早速カモミールティーを一口飲んでみた。「うん、とっても美味しいわ。ありがとう」再び書類に目を落とすとジェフが尋ねてきた。「所でゲルダ様……先程から何の書類を見てらっしゃるのですか?」「ええ、これはね……」言いかけた時、バタバタと複数の足音がこちらに向かって来るのが聞こえた。そして次の瞬間――バンッ!激しくドアが開かれ、真っ先に部屋に入ってきたのは他でもないラファエルだった。その後ろに義父、義母、そしてアネットが続く。「ゲルダ! お前か!? お前の仕業なのか!?」ラファエルはズカズカと私の前にやってくると、バンッと両手を机の上に叩きつけた。「へ〜てっきり来ないと思ってたけど……本当にここまで来たんだ」チラリとラファエルを横目で見ると再びハーブティーを飲んで書類に目を落とす。「な、な……」怒りの声を震わすラファエルに続き、今度は義父がテーブルの前にやってくると大声で怒鳴りつけてきた。「何だっ! その生意気な態度は! 嫁のくせに!」「は? 嫁? 私のこと……今迄嫁だと思っていたのですか?」こんな1人離れた別の塔に住まわせておいて? 夫と寝食を共にした事だって一度も無いのに? 本気で言っているなら思考回路がイカれているに違いないだろう。「ええ、そうよ! 嫁はね、夫や義父母の命令は絶対なのよ? そ、それを……こんな遠くまでわざわざ足を運ばせて……!」義母は何故か手に扇子を握りしめている。……どういうつもりなのだろうか?「こんな遠く……と言うなら来なければ良かったじゃないですか。大体用があるのは私で
last updateLast Updated : 2025-10-09
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第19話 騒がしい人々

「待って! ラファエル! ゲルダさんは一応貴方の妻でしょう? 乱暴はいけないわ!」あ、いたのか……。存在が薄くて気付かなかった。「アネット……やはり君は心優しい女性だな…」「ラファエル様…」手を取り合って見つめ合う恋人たち。……全くそういうことは他所でやって欲しい。冷めた目で2人の様子を見ていると、アネットが口元に笑みを浮かべる。「あら、やめておきましょう。ゲルダさんがこちらを悲しげに見ているから」は? 誰が? いつ悲しそうに2人を見ていただって? ひょっとするとアネットは視力が悪いのだろうか?「お前……俺とアネットの仲を焼いているのだろう? 悪いが俺はお前には何の感情も持っていない。いくら俺に恋い焦がれても無駄だからな」ラファエルが鼻で笑う。こっちだってそうよ。息子と同じ年の夫なんて気持ちが悪いったら無い。「ええ、そうよ。あなた達はこんな嫁のこと気にする必要はないのよ?」義母が2人の肩を持つ。「そうだ、所詮平民の女なのだから、お前は気にせずアネットと仲良くしていれば良いのだ」義父は自分が何を言っているのか分かっているのだろうか? 誰のお陰で生活出来ているのか全く自覚がないなら当主失格だ。そんなことよりも……。「あの〜……結局用件は何なのですか? 用が無いなら出ていってくれませんか? これから出かけるので」「な、何だと!? こんな夜に何処へ出かけるっていうんだ!?」ラファエルが目を見開いた。「何故、それをあなた達に言わなければならないのでしょう? 私が何も知らないとでも思っているのですか? あなた達4人はしょっちゅう、旅行に行っていましたよね? しかも私に内緒で、私のお金で」「そ、それは……!」そこへ義父が割り込んできた。「う、うるさい! お前には関係ないことだろう! だいたい、婚姻するにあたり、我々は条約を結んだだろう? こちらのすることに一切関与しないとな! お前はそれで納得しただろう?」「ええ、私も先程条約を見直していたのですけどね……ということは、それは私にも言えることですよね?私がすることに一切関与しないという風にも解釈できますよね?」「うぐっ!」義父も言葉につまる。「も、もうそんなことはどうだっていいわ! ゲルダ! お金は!? 私達の預貯金を何処へやったのよ! 4億5千とんで237シリルは何処へ消えたのよ
last updateLast Updated : 2025-10-10
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第20話 金の亡者共 1

「オ……」義母の言葉に首を傾げる。オ? 一体どうしたのだろう。すると……「オーホッホッホッホッホッ……!!」義母が突然高笑いした。大変だ! ついにイカれてしまたったのか?「お、おい! どうしたんだ!」「母さん! しっかり!」「キャアッ! お、おばさま!」高笑いが止まらない義母を3人が囲んで大騒ぎしている。そして未だに笑いが止まらない義母を前に義父がギラリと私を睨みつけた。「おい! ゲルダ! お前のせいで妻がおかしくなった! 責任を取れ! 慰謝料だ! 慰謝料5億シリルを請求するぞ!」言ってることがメチャクチャだ。「は? 何故私がそんな物支払わなくちゃならないのです?」「オーホッホッホッホッホッ……!!」義母のけたたましい笑い声は止まらない。耳障りでしょうがない。「母さん! 気を確かに!」「ええ、おばさま! 正気に戻って下さい!」「ゲルダ! 早く慰謝料をよこせ!」甲高い笑い声に3人の叫び声が部屋の中に響き渡る。うるさくてたまらない。気づけばジェフはとっくにいなくなっている。……恐らく恐怖のあまり逃げたのだろう。もう我慢の限界だ。机の上に置いておいた読みかけの新聞をくるくる丸めて筒状にすると、口を当てて思い切り怒鳴った。「うるさーい!」するとピタリと3人は静かになった。何とあの狂ったように笑っていた義母までも。そして義母は私をビシッと指差す。「笑わせないでちょうだい! ゲルダ!」あ……何だ。別に義母は頭がおかしくなったわけでは無かったのか?「お、おい。お前……平気なのか?」「母さん、頭が狂ったわけじゃなかったんだね?」「おばさま……心配掛けさせないで下さい」義母を囲んで語りかける3人を尻目に、ボストンバッグに重要書類を詰め込んでいるとラファエルが話しかけてきた。「おい? ゲルダ。お前、本気で今から出掛けるつもりなのか!?」「ええ、そうですよ。だから早く出て行って下さい」ボストンバッグの蓋をパチンパチンと止めながらラファエルの顔も見ずに返事をする。「待て! 勝手に行かせないぞ!」義父が睨みつけてきた。「ええ、そうよ! お前がお金を置いていくまでは出ていくものですか!」義母は腰に両腕を当てて私を見ている。「分かりましたよ……置いていけばいいんでしょう?」全く、はた迷惑な。この3人、まるで子供だ。駄々っ子と何
last updateLast Updated : 2025-10-11
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