All Chapters of 旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させていただきます: Chapter 21 - Chapter 30

50 Chapters

第21話 金の亡者共 2

「……何だ? これは?」義父がテーブルの上に置かれた小銭を忌々し気に見ている。「見て分かりませんか? お金ですよ。え〜と……全部で4852シリルあります。どうぞ受け取って下さい」どうよ? お金は置いたのだから文句はないでしょう? 私は呆気に取られている4人をグルリと見渡した。「は? ふざけないでちょうだい! こんなはした金、お金のうちに入らないのよ!」一度も働いたことがないくせに、何とも罰当たりな台詞を言う義母に苛立ちが募る。「ああ、そうだ! たったこれっぽっちで何が出来るというのだ!」「おい、ゲルダ。冗談はその顔だけにしておけ」ラファエルはどさくさに紛れて失礼なことを言う。「あ……そうですか。ならどうぞこのままここにいてください。私は出ていきますから」「「「は……?」」」3人の声が見事にハモる。そうだ、彼等が出ていかないのならこの部屋に残して私がさっさと出ていけばいいのだ。部屋にある重要書類は全て手持ちのバッグの中に入っているし、アクセサリーの入った金庫も隠してある。鍵は私が持っているので決して彼等に見つかることは無いだろう。呆気にとられている彼等の前を素通りしようとすると、我に返ったラファエルが呼び止めた。「おい? 何処へ行く気だ? やはり頭がイカれてしまったんだな? こんな夜更けに外に出ていこうとするなんて。これでも俺はお前の夫だからな? とにかく落ち着け、落ち着くんだ。今のお前は頭が一時的におかしくなっているだけなんだ。深呼吸でもして落ち着けば絶対に金の在処を思い出せるはずだ」落ち着けを連呼するラファエル。いや、むしろ落ち着くのは自分の方ではないだろうか?「そうだ、ゲルダ。落ち着いて金の在処を思い出せ」阿呆義父までクズ息子と似たようなことを言う。「そうよ! だったら……こっちは所在場所を知っておく必要があるわ。ゲルダ! 何処へ行くのか正直に言いなさい!」義母は眉間にシワを寄せてこちらを睨みつけている。「分かりましたよ……実家です。お金の相談で実家へ行くんですよ」そう、ノイマン家に今後のお金の援助を止めてもらう為にね……!すると……。「何だ? そうだったのか? だったら初めからそう言えばよかったのだ」急に手の平を返したかのような態度を取る義父。「まぁ、そうだったのね? 引き止めて悪かったわ。だったらさっさと行か
last updateLast Updated : 2025-10-12
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第22話 我が家に到着

 私はラファエルが用意してくれた馬車に乗り込み、『テミスの大富豪』と呼ばれている我が家へ向かっていた。「う〜ラファエルの奴め……『一番乗り心地の良い馬車を用意してやった』なんて言ってたけど……騙したわね……」ここ『テミス』は発展した町であり、道路はきちんと石畳で舗装されているのだが……いかんせん、馬車だと揺れが酷い。ガタガタ揺れるし、座っているとお尻が痛くなる。だから通常貴族が所有する馬車は座面部分がフッカフカになっているはずなのに。ぺったんこの座面でスプリングも利いていない。お陰で馬車の揺れがダイレクトに椅子に響き渡って痛いのなんの……。「これは嫌がらせだわ……絶対に意図的な悪意を感じる。アイツ、私が預貯金を全額引き出したことにやはり恨みを持っていたのね。これじゃモンド婦人と乗った辻馬車の方が余程マシだったわ……!」よし、決めた! ラファエルと離婚出来たら、絶対にこの世界で車の免許を取ってやる!「フフフ……大丈夫。運転なんてチョロいものよ。何しろ私は前世で軽トラに乗って自家製パンを売りに出ていたのだから……イタッ!」激しく揺れる馬車の中で独り言を言ってしまったものだから舌を噛んでしまった。……もう自宅に到着するまでは口を閉ざしていよう……。そして私は激しい揺れとお尻の痛みに耐えながらそれから40分間もの苦行? を耐え続けた――**** 0時15分――ついに馬車は実家にたどり着いた。……相変わらずいつ見ても城塞のような作りをしている。屋敷の周囲は高い塀にグルリと囲まれ、門はピタリと固く閉ざされている。門の奥に見える庭園の奥には3階建の学校のような建物が見える。……あれが我が家だ。建物は松明に照らされ、ゆらゆらとゆらめき、オレンジ色に浮かび上がっている。1階部分の窓は明るく照らし出されているので、多分家族はまだ起きているだろう。「ご苦労さま。ここから先は1人で行くから貴方はもう帰りなさい」今は御者を勤めているウィンターに声をかけた。「ゲ、ゲルダ様……本気で言ってるのですか? 俺が1人で帰ってきたらラファエル様に何を言われるか分かったものじゃないですよぉっ!」真夜中で静まり返っている住宅街でウィンターが情けない声を上げる。「こ、こら! こんな真夜中に大声を出すんじゃないわよ! 近所迷惑でしょう!?」小声でウィンターを注意すると質問
last updateLast Updated : 2025-10-13
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第23話 深夜の帰宅

 ボストンバッグを右手に持ち、門を潜り抜けて月明りに照らされたアプローチを歩き続けること約5分。ようやく我が家に到着した。屋敷には10名程のメイドとフットマン達が住み込みで働いているけれど時間はもう深夜。きっとぐっすり眠っているに違いない。それにも関わらず父と祖父の共同書斎は今も明かりが灯っている。……恐らくまだ仕事をしているのだろう。何しろこの2人は3度の食事より仕事が好きと言っても過言ではない位働くことが大好きなのだ。まぁそのおかげで我が家は『テミスの大富豪』と呼ばれるまでの大商民に成長し、庶民でありながら『ブルーム』と言う苗字まで手に入れることが出来たのだから。ボストンバッグから鍵を取り出して玄関の扉を開けると、廊下の明かりはすべて消され、月明りでほんの僅かだけ辺りが青白く照らされている。「全く……明かりぐらいつけておいてほしいわ。お金持ちなんだから光熱費ぐらいけちらないで欲しいのに…これじゃ足元が見えなくて危ないじゃない」ブツブツ言いながら足元に気を付けつつ、ほぼ暗闇状態の玄関を抜けてようやく月明りが差し込む廊下にやって来た。「よし、父と祖父に挨拶に行こう」そして私は2人の共同書斎に挨拶へ向かった――****共同書斎の前に辿り着くと、早速目の前の扉を強くノックした。ドンッドンッ!すると……。「誰だ? こんな夜更けに……」ガチャリと扉を開けて出てきたのは父だった。「こんばんは、お父様」父を前に愛想笑いする私。すると父は目を見開いて私を見た。「ゲ、ゲルダ!? な、何故お前がこんな夜更けに……しかも我が家にいるのだ!?」「何!? ゲルダだって!?」父の声が聞こえたのか、祖父が背後から姿を見せた。「ちょっと訳アリで実家に戻って参りました。出来れば数日この屋敷に置いて下さい」そして頭を下げた。「全く……何があったか知らんが、こんな夜更けにやってきた娘をおい返すわけにはいかんだろう。とりあえず中に入りなさい」父は額に右手を当て、ため息をつきながらも部屋に招き入れてくれた。****「それで? 一体何があってこんな真夜中に実家に戻って来たのだ?」私の正面に座った祖父が威厳たっぷりに尋ねてきた。「こんな非常識な時間にやって来たのだから、相当の緊急事態だろうな?」父はコーヒーを飲みながら私を見る。「ええ、緊急事態です
last updateLast Updated : 2025-10-14
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第24話 離婚……認めてくれますよね?

「この書類を御覧下さい」茶封筒から1枚の書類を取り出すと、テーブルの上に置いた。2人は互いに顔を近づけ書類に目を通すと声を上げた。「こ、これは……!」「な、何と言うことだ!」父と祖父が私の思惑通りに? 身体をのけぞらせて驚いた。「ゲルダ! この書面は……本物なのか?」父は書類を手に取った。「はい。勿論本物です。その書類に押されている印章は間違いなくモンド伯爵家の物です。すでに印章指輪も預かっております」ボストンバックから指輪ケースを取り出すと、蓋を開けた。中にはモンド家の家紋を記した指輪が入っている。この指輪はモンド夫人から爵位を買い取りした際に一緒に譲り受けたものだ。「モンド伯爵家の事は御存じですよね? かれこれ400年近く続く由緒正しい伯爵家です。ただお気の毒なことにモンド夫人は子供に恵まれませんでした。夫を亡くした後は再婚もせずに今まで過ごしてこられましたが、夫人もお年を召されて屋敷の管理も家紋を守るのも難しくなってまいりました。それで兼ねてより屋敷も爵位も手放したいと考えておられたのでこの際私がノイマン家の預貯金全額を引きだした4億5千万シリルで爵位と屋敷を買い取りさせていただいたのです」すると私の言葉に父が顔色を変えた。「な、何!? 4億5千万シリルだと!?」「は、はい……」しまった! お金を使い過ぎてしまっただろうか? しかし……。「たったそれだけの金額しか払わなかったのか!? それでは我がブルーム家の名折れではないか!」ええ!? そ、そうなの!?」「そうだ! ゲルダ、何故それだけしか支払わなかったのだ?」祖父までもが机をバシンと叩く。「あの……それがノイマン家にあるお金がそれだけしか残されていなかったので……」恐る恐る答えると、今度は父が両手でバンバン机を叩きながら悔しそうに喚いた。「何だと!? 贅沢せずに普通に暮らしていれば10億シリルは貯められているはずなのに……!」ダンッ!!父が拳でテーブルを叩きつけた。ピシッ!ひえええっ! い、今、はずみでガラス製のテーブルにヒビが入ったよ!「くっそ〜っ!! ノイマン家の奴らめ! よくも我らの金を湯水のように無駄に使ってくれたな! ゆ、許せん! しかし、とにかくたった4億5千万シリルしか払っていないとなると我らの面目が丸つぶれだ。夜が明けたら追加金5億シリルを
last updateLast Updated : 2025-10-15
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第25話 家族団欒の朝

 翌朝――カーテンの隙間から眩しい太陽の光が差し込み、私の顔を直撃した。「う〜ん……ま、眩しい……」そこでパチッと目が覚め、慌てて飛び起きた。「大変! 寝過ごしたわ! 仕事に遅れる! パン屋の朝は早いから最低でも5時には起きて仕込みをしなくちゃならないのに……!」そこではたと気が付いた。この部屋は狭い団地の6畳間などではない。まるでスイートルームのような豪華な部屋である。そしてスプリングの効いた豪華なベッド。「あれ……? ここどこだっけ……? えっと……」そして何気なく壁に掛けてある鏡に目がいった。するとそこには今の自分の姿が写っている。長い栗毛色の髪に青い瞳の美女……。その姿を見てハッと気が付いた。「そ、そうだったわ……今の私は『小林美穂』(45歳)では無かったんだっけ……」どうも前世の記憶のほうが全面に押し出されて混乱を招いてしまう。「それにしても……ゲルダって本当に美人よね」我ながら鏡に映る今の自分の美しさに見惚れてしまう。尤もラファエルは私の美貌? を前にしてもアネットしか目に映らなかったのだが。他の女に決してなびくことは無かったラファエル。これはある意味誠実な男? と見ても良いのかもしれない。顔はそんじょそこらのハリウッドスターよりも余程イケメンかもしれないが……。しかし!前世の記憶が戻った今の私にはラファエルなんぞ眼中に無い。あんな男はお断りだ。むしろに熨斗をつけて渡してプレゼントしてやりたいくらいなのだから。そもそも大前提として、前世の自分の息子と同じ年齢の夫なんて有り得ない。何しろ今の私の好みのタイプの男性は……。「やっぱりロマンスグレーになりかけの男性よね〜」そう、真に魅力的な男性というのは40歳を超えてからなのだ。色気や味が出てくるのはやはりこの位の年齢を重ねていないと話にならない。というわけで。「まず、最初の目標は絶対にラファエルとの離婚を成立させることよ!」そうと決まればすぐに行動開始だ。ベッドから飛び降りると、すぐに朝の支度を始めた――****「おはようございます、お祖父様、お父様、お母様」ダイニングルームに顔を出すと、既に全員食事を済ませた後でテーブルの上には紅茶の入ったティーカップしか置かれていない。「ああ、おはよう。ゲルダ。今朝は随分ゆっくりだったのだな」祖父が経済新聞から目を離さ
last updateLast Updated : 2025-10-16
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第26話 誓約書の落とし所

「お祖父様、お父様、お母様、それでは行って参ります!」紅茶でお腹を膨らました私は肩からショルダーバッグを下げるとリビングに集まっていた家族に挨拶をした。「そうか、これから役所へ行ってくるのだな?」経済新聞から目を離した祖父が尋ねてきた。「はい、そうです。離婚届を取りに行ってきます」元気よく返事をする。「……」母はチラリと私を見ただけで、すぐ手元に視線を落して領収書の計算を再開した。「ゲルダ、それでは本日限りでノイマン家への援助金を打ち切っていいのだな?」父が書類にサインをしながら質問してくる。「ええ、勿論です。あの屋敷には今後1シリルも援助しないで下さい。お金をドブに捨てるようなものですから」「おお! 言い切ったな! 以前のお前なら『あのお金はラファエル様のお顔を見るための拝観料です』等と訳の分からないことを言っておったのに」祖父はニヤニヤしながら私を見た。「ううう……お願いですからその話はもうしないで下さい」そう。前世を思い出す前の私は愚か者だった。あんな顔だけ良しの最低男の何処が良かったのか、我ながら理解できない。「そうね。ノイマン家は確かにクズの集まりだわ。ろくに働きもしないで私達の援助金を当てにする、まさに寄生虫のような奴らよ。全く反吐が出るわ」吐き捨てるような母の発言に私だけでなく父も祖父もギョッとした顔で母を見た。ひょっとすると母は初めから私の離婚を望んでいたのだろうか? 何しろ昔から感情に乏しく、能面のような表情しか見せたことが無いので感情が全く読めない人なのだ。「ゴ、ゴホン。つまり我々『ブルーム家』は全員ゲルダの離婚に賛成ということだ。よいか? 必ずあのろくでなしと離婚するのだぞ?」父が咳払いする。「はい、見ていてください。必ず3日以内に離婚しますから!」私は3人にVサインを見せ、意気揚々とリビングを後にした――**** 馬車は懲り懲りだったので、屋敷を出ると真っ先にタクシー乗り場へ向かった。幸いタクシー乗り場は自宅から徒歩5分以内の場所にあるのだ。 タクシー乗り場へ行くと客待ちのタクシーが10台ほど並び、運転手たちは皆暇そうにしていた。そこで一番先頭車両で客待ちをしているタクシーに近づくと、窓ガラスをノックした。――コンコンすると顔を上げてこちらを見たのは青年。彼は慌ててタクシーから降りると尋ね
last updateLast Updated : 2025-10-17
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第27話 離婚届を携えて

 午前11時――実家に戻った私は祖父と父の執務室の前に立っていた。――コンコン部屋の扉をノックする。「誰だ?」部屋の中から父の声がする。「私です、ゲルダです。ご報告したいことがあって伺いました」「分かった、入って来い」父の声に促され、目の前の扉をカチャリと開けた。「それで何だ? 報告したいこととは?」祖父が山のように積み上げられた書類の隙間から顔をのぞかせながら尋ねてきた。「はい。離婚届も貰ってきたことですし、これからすぐに実家に戻って離婚届をノイマン家に突きつけてこようと思っています」「そうなのか? それで離婚出来そうなのか? 昨年結婚時に交わした誓約書はあまりこちらに取って不利なことばかり書かれていたようだが」父が顎に手をやり尋ねてきた。「ええ、それはもうばっちりです。実は誓約書を見直したのですが……とっても重要な記述を見たのです。あれはノイマン家も盲点だったのでしょうね。尤も私も今までその事実に気付かなかったので浅はかでしたけど」「重要な記述……盲点?」祖父が首を傾げた。「一体何のことだ? 何しろ我々はゲルダがさっさと誓約書にサインをしてしまったから、まともに目を通す余裕も無かったからな。あの顔が拝めないなら生きている意味が無いと言う位にラファエルの顔に惚れこんでいたからなぁ」父が嫌味を込めた言い方で遠回しに責めてきた。「は、はい……あの時の私は馬鹿でした、愚かでした。どうしようもない人間でした。ラファエルの顔にばかり囚われて、本質を見失っておりました」だから、どうかもうあの時の話は持ち出さないでよ! あれこそ私の黒歴史、人生の汚点なのだから!「まぁ良い。それで重要な記述とやらを我々に見せてくれ」祖父の言葉に頷くと、ショルダーバッグから結婚時に交わした誓約書を取り出して2人に見えるように机の上に置いた。「ご覧下さい。こちらがその記述になります」指で指し示すと、2人はその個所を食い入るように見つめ……祖父と父は顔を見合わせた――****キーッタクシーがノイマン家の屋敷の前で停車した。「はい、どうもありがとう。お釣りはいいわ。チップだと思って受け取って」「えええ!? こ、こんなに頂いちゃってもよろしいのですか!?」タクシー運転手はチップとして受け取った2000シリルを前に興奮しまくっている。「ええ。だ
last updateLast Updated : 2025-10-18
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第28話 旦那様、離縁させていただきます

「ゲルダ! 遅かったじゃないか! 実家に泊まってくるなど一言も言っていなかっただろう!?」ラファエルが真っ先に文句を言ってきた。「ええ、そうよ。大体ここの嫁でありながら無断外泊などして、そんな事世間が許しても、この私が許さないのだから!」義母がただでさえ、つり上がっている目を釣り上げた。その顔を一目見た時、真っ先に狐の姿を思い出したのは言うまでもない。大体、私のことを嫁と認めたことなどただの一度もないくせに都合の良いときだけ嫁扱いするなど図々しいことこの上ない。思わずジト目で見ると義母が眉間に青筋を立てて喚いた。「な、何なの!? その生意気そうな目は……!」「そんな事など、今はどうでも良い!今この屋敷の金はゼロだぞ! ゼロ! 買い物一つ出来ないではないか! 大体ウィンターが1で人屋敷に帰ってきた時は驚いたぞ!」義父の言葉で、今初めてウィンターのことを思い出した。そう言えば彼はどうなったのだ?「全くアイツは使えない奴だったな……。必ずゲルダと一緒に屋敷へ戻るように伝えたのに1人でノコノコ帰ってくるなんて!」ラファエルがイライラしながらウィンターの話をする。「ウィンターには私が1人でこの屋敷に帰るように言ったのですよ? それが何か?」「まぁ! つまりウィンターはラファエルの命令ではなく、ゲルダさんの命令を聞いたというわけね?一体何を考えているのかしら!」するとアネットが驚いたように声を上げた。何だ、いたのか。存在感が薄くてまたしても忘れていた。「でもウィンターが私の言うことを聞くのは当然でしょう? 何しろここの使用人たち全員のお給料を支払っているのは我が実家である『ブルーム家』なのですから」「「「……」」」すると私の言葉で失礼な輩たちは押し黙った。たった1人を除いては。「う、うるさい! 屁理屈を抜かすな! 彼らはこのノイマン家の屋敷で働いている使用人たちだ! と言うことは誰の命令を聞かなければならないのかは分かりきっているだろう!?」義父は私を人差し指で指差してきた。人を指差すなど、言語道断。しかし、これから私はラファエルに離婚届を突きつけなければならないのだ。落ち突いて冷静になろう。こんな馬鹿どもと同レベルで言い合いをしている場合ではない。「つまり、その言い分ではまるで私はこのノイマン家の人間ではない、と仰っているのと同じことですよ
last updateLast Updated : 2025-10-19
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第29話 クズ男確定の瞬間

「な、何だって!? 今……お前何と言った!?」ラファエルは目をひん剥き、私を見た。「ええ、いいですよ。何度でも言って差し上げましょう。離縁させていただきます! 今すぐ!」ラファエルに離婚届を押し付けた。すると一斉にラファエルに群がる3人。「な、何と! 信じられん……! 本当に離婚届だ!」「本当だわ! 何かの冗談かと思ったけど……!」義父と義母が交互に声を上げる。「う、嘘だろう……?」ラファエルは顔面蒼白で離婚届を手にして震えている。義父も義母もラファエルも青ざめているのに、ただ1人喜んでいるのは他でもないアネットだった。「まぁ、ようやくゲルダさんはラファエルと離婚する気になったのね。まぁ当然だわ。ラファエルには私という恋人がいるのだから……ねぇラファエル」アネットはラファエルに腕を絡めようとして…4…振り払われた。「キャアッ!!」腕をつかみ損なったアネットはそのまま無様に顔面から倒れ込む。ベチンッ!!……今、物凄い音がしたけど大丈夫だろうか?しかし、あろうことかアネットが床に顔面から倒れ込んで起き上がれないにも関わらず、義母や義父、ラファエルは何やら円陣? を組んでコソコソと話し合いをしている。仕方がない……。「ねぇ……大丈夫?」床に倒れたままピクピク震えているアネットに声をかけた。「い……」するとアネットが声を発する。「い?」「痛い! い〜た〜い〜!!」余程痛かったのだろう、顔面を押さえながらゆっくり起き上がったアネットは鼻血を垂らしてボロボロ泣いている。「大変! 鼻血が出てるじゃないの!」アネットの鼻に手持ちのハンカチを当ててあげた。「いい? 小鼻をしっかりつかんで下を向いているのよ? 分かった?」するとアネットはグズグズ泣きながら無言でうなずく。それにしてもラファエルめ……アネットを怪我させておいて無視するとは。「ちょっと! アネットが鼻血出したのに何やってるのよ!」3人に向かって怒鳴りつけると、一斉に彼等はこちらを振り向く。「うるさい! アネットなど、どうだっていい!」義父が怒鳴った。「ええ、そうよ。今一番肝心なことはお前が何故離婚届を突きつけてきたかということ。まさか本気じゃないでしょうね?」義母が若干すがりつくような目で私を見ている。「ああ、そうだ。お前は俺の顔を1日1回は拝まないと、死
last updateLast Updated : 2025-10-20
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第30話 早くサインしろ!

 そこにはこう書かれていた。『ただし、ゲルダ・ブルームが離婚を希望した場合は異議を唱えずに即座に応じること。以上を持ってこの誓約書は成立する』私とラファエルが結婚する際、当時の私はラファエルにべた惚れで離婚など絶対に考えられなかったのだ。誓約書を弁護士の元で作成した際に、あまりにも不平等すぎる誓約書だということで、一部この文章を付け足していた。勿論言い出したのは私ではなくノイマン家。彼等にしても私が自分から離婚を告げるとは考えもしていなかったのだろう。「な、な、何だこ! の誓約書は!」「ええ! 絶対におかしいわ! 何かの間違いよ!」義父も義母も悲鳴を上げる。「何だ、こんな書類……!」ラファエルは書類を破こうとした。「言っておきますが、そんなことしても無駄ですよ。この誓約書は私のですが、ノイマン家でも同じ誓約書をお持ちですよね? それに、この誓約書を作成した際に立ち会って下さった弁護士の先生にも同じ誓約書が渡っているはずですけど?」「「「あ……っ!!」」」3人が誓約書を見つめながら声をあげる。……なる程、彼等も今気付いたのか。大体この世界では一度結婚したら死ぬまで生涯をともにするのが普通。離婚は恥とされ、実家に戻れないのが世間の一般常識なのだから、まさか私が離婚を言い出すとは夢にも思わなかったのだろう。まぁ、当時の私も自分から離婚なんてありえないと思ってサインしたのだけど。しかし今の私は違う。離婚する気は満々だ。今直ぐ荷物をまとめてここから秒速で出ていきたい位なのだから。「さぁ、分かったのならこの離婚届にサインをお願いします。おっと、少しでも拒否しようものなら弁護士に訴えますよ。契約不履行だとしてノイマン家を訴えますから。まぁ……そうなると誰が裁判で勝つかは一目瞭然ですけどね? 下手すればこの屋敷を差し押さえられかねませんよ」腕組みする私を見て益々顔が青ざめるノイマン一家。「旦那様、早くサインして下さいよ。私は色々忙しい身なのですから。……さもなくば、訴えますよ?」「な、何だと生意気な……! こうなったら無理やり閉じ込めて……」義父が私に掴みかかろうとした時。そこへいつの間に現れたのかフットマンのジャンが義父を羽交い締めにした。「は、離せ! くそ! 全然振りほどけ無いじゃないか! 使用人のくせに主にこんな真似をするとは……さっさ
last updateLast Updated : 2025-10-21
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