All Chapters of 旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させていただきます: Chapter 1 - Chapter 10

92 Chapters

第2話 前世の記憶覚醒

 それは今朝の出来事だった。――午前5時目覚めた私は震えながら全身鏡の前に立っていた。「そ、そんな……」鏡の中には見知らぬ、若くて美しい女性が映っている。青い宝石のような瞳に栗毛色に波打つ背中まで届く長い髪……。まるで絵画に描かれた貴族のような面立ち。「え? ま、まさか……これは私……?」鏡に手を当て、青い瞳を覗き込んだ瞬間。記憶が鎖のようにカチカチと繋がっていく。思い出した。これは夢ではない。私は転生したのだ。前世の全ての記憶を携えて―― 前世、若気の至りで結婚した私。夫の浮気が発覚して結婚生活は僅か2年で破綻。その後は狭い団地で女手1人、シングルマザーとして寝る間も惜しんで必死に働き、子育てを頑張った。一人息子は良い子に成長し、国立の一流大学に合格。卒業後は大手商社に就職し、25歳で結婚した。生活は落ち着き、私は長年の夢だった念願のパン屋を開業させることが出来たのだ。まさに順風満帆、人生これからという時。僅か数カ月で運命によって全て奪われてしまった。そして……ここに押し込まれた。見知らぬ華麗な貴族の世界に――「なるほど……これはもう一度チャンスがあるってことね」鏡の前で、私はニコリと笑みを浮かべた――****冷めきった料理を食べ終え、私は部屋に戻ってきた。ベッドの淵に座り、今の夫のことを考えた。若くて端正な顔立ちをしているが、私を見るその瞳は背筋が凍り付きそうになるほど冷たい。「ん? 若い……?」そこでハッとなる。ラファエルはたったの21歳。そして前世の私は46歳、息子の年齢は25歳だった。ラファエルは自分の精神年齢より25歳も年下、挙句に息子より4歳も若い。「なるほど……。だからラファエルのことを思い出しても、心が少しも動かなかったのね」いや。むしろ幼ささえ感じてしまう。前世を思い出すまで、かつての私はラファエルの時折見せる優しさに心を奪われた。彼の愛人アネットに嫉妬し、狂い、屋敷中に響く程泣き叫んでいた。だけど今は……。「アハハハハハッ!」私はお腹を抱えて笑った。ラファエルに対する愛、執着、嫉妬。それら全てが前世の記憶とともに完全に吹き飛んだ。私は既に、前世で夫の不倫。裏切り、孤独な子育ての苦しみを経験した。今の私は、もはや人生を1人の男に委ねたりはしないのだから――
last updateLast Updated : 2025-12-18
Read more

第3話 必殺ノック

 私は夫ラファエルに話をつける為、彼のいる部屋目指して歩いていた。それにしても広い、広すぎる。かれこれ5分近く屋敷の中を歩いていた。「全く広すぎる屋敷と言うのも考えものよね……」着ているドレスは邪魔だし、何より文明が遅れている。一応自動車もバスも存在しているが、主流は馬車。明かりはガスランプか石油ランプ。電話も、庶民にはまだまだ手が届かない高嶺の花。「前世の記憶が強いと困るわね。ネットが恋しくてたまらないわ。電子レンジだって無いんだもの……」途中何人もの使用人達にすれ違ったが、誰一人として挨拶すらしてこない。つまり、それだけ私はこの屋敷に歓迎されていなかったのだ――****ラファエルの部屋に到着し、扉をノックしようとしたとき。「ああ! お、奥様! いけません!」夫の専用フットマンのリックがバタバタと駆け寄って来た。「おはよう、リック。何がいけないの?」「おはようございます、奥様。張り紙をご覧ください」リックが指さした先には小さなメモが貼り付けられていた。そこには私の出入り禁止、破った場合二度と口を聞いてやらないと記されている。全くばかばかしい。 メモ紙をクシャクシャにすると、リックに渡した。「ゴミよ、捨てておいて」「お、奥様……何てことを……」リックは涙目になる。「大丈夫、貴方は何も見ていない、ここには私しかいなかった。泣かなくていいのよ」そして背伸びしてリックの頭を撫でてやる。「こ、子供扱いしないで下さい! だ、大体奥様は私より年下じゃないですか!」リックは顔を真っ赤にさせた。「あら、ごめんなさい。つい……」「ですが、何だか奥様……雰囲気が随分代わりましたね?」リックがじっと見つめてくる。「ええ、そうなの。今日から心を入れ替えることにしたのよ。リックのことは黙ってるから安心して」「はい、よろしくお願いします!」その場を逃げるように去るリック。「さて、旦那様とアネットに朝のご挨拶をしますか」早速扉をノックする。 ――コンコンまずは右手で軽くノック。……はい、出るわけないわよね。――ゴンゴン!次は強めにノック。それでもやはり無反応。「す〜」大きく深呼吸すると……。ダンッ!ダンッ!ダンッ!拳を握りしめ、身体を海老反りして両手で思い切りドアをノック。その名も『必殺!管理人ノック』。
last updateLast Updated : 2025-12-18
Read more

第4話 悪臭と汚部屋

ラファエルは金色の巻毛が美しい青年だ。外見は天使のようだが、その実態は小悪魔に近い。今世の私はこの外見に惚れ込んで、多額の持参金を持ってノイマン家に嫁いできたのだ黙って見つめていたからだろう。ラファエルはまくしたててきた。「おい! 何なんだよ! お前は! さっきから黙って人の顔を見つめて……! まぁ、僕が美しすぎるから見惚れるのも無理はないと思うがな」ふんぞり返るラファエルの首元には、くっきり残るキスマーク。「やれやれ……駄目ねぇ。そんな目立つ場所にキスマークなんかつけて……」「な、何だって!?」私の言葉に慌てたようにラファエルが首筋を手で抑えた。「そっちじゃないわよ、左側だから。取り敢えず、スカーフを巻いてごまかしたら?」「お、お前……僕を馬鹿にしてるのか!? 女じゃあるまいし男がそんなもの巻けるはずないだろう!? しかも何だよ! お前のその口の聞き方は! ……あっ! 勝手に入るなよ!」私はラファエルを無視して室内へ入り、鼻をつまんだ。「な、何よ……この鼻をつくような匂いは……」室内は食べ物と香水の匂いで異臭を放っている。「換気! 部屋の換気をしなくちゃ!」「お! おいっ! 勝手に部屋へ入るな!」「な、何よ! 勝手に私達の部屋へ入ってこないでよ!」部屋の中央のテーブルには料理が残されており、椅子に座るアネットの姿があった。肩にかかるふわふわな金髪に紫の瞳のアネットはこちらを睨みつけている。「あら? いたのね。あまりにも静かだったからいないのかと思ったわ」「何ですって! 誰に向かってそんな口を叩くのよ!」アネットが私の前で本性を現す。眉を釣り上げ、歯をむき出しにする姿は……。「まるでハイエナみたいね」「ちょっと誰がハイエナよ!」「おい! 待て! ゲルダ! 勝手に部屋に入るなよ!」構わず窓あけると、3月のまだまだ冷たい風が部屋の中に一気に吹き込んでくる。「さ、寒いじゃないか!」「ちょっと! は、早く閉めてよ! 凍え死んじゃうわ!」けれど私は寒さに強い人間。「あ〜気持ちいい。2人とも、後最低でも10分は部屋の窓を開けて換気をしておくのよ。それじゃ、私はこれで失礼するから」「おいっ!ゲルダッ!」ドアノブに手を触れた時、ラファエル声を上げる。「何?」「お、お前……、一体……何しにこ、ここへ来たんだよ!?」
last updateLast Updated : 2025-12-18
Read more

第5話 煩わしい呼び出し

 部屋に戻ると、どうすれば離婚できるか思案した。祖父と父は親子2代で財を築いた大商人で『テミスの大富豪』と呼ばれていたが、平民だった。どうしても爵位を手に入れたかった2人。そこで2人は【独身貴族求む! 巨額の持参付きの花嫁あげます】と大々的に宣伝し、名乗りを上げたのが今の夫の両親だったのだ。私はラファエルに一目惚れしてしまい、圧倒的に理不尽な条件を飲んでしまったのだ。年間1億2000万シリル(日本円と同等)の支援金。ノイマン家の生活スタイルに異議申し立てはしない。私だけ別の塔で暮らす。そしてアネットと言う幼馴染兼、恋人の存在。結婚後も2人は寝食を共にし、私は一切の文句を言ってはいけない。あまりにも私にとって不利な条件が隠されていたのだった。過去を振り返っても仕方ない。私は今後の未来の為に行動することに決めた。まず高級貴金属を全て売りに出すことにしよう。クローゼット奥に隠された金庫から10点ばかりアクセサリーを取り出し、スカートのポケットにしまった。そこへ遠慮がちなノックの音と共に、専属メイドのブランカが現れた。「奥様……大旦那様と大奥様が南塔の自分たちの部屋へ大至急来るようにと伝言が届きました」「はぁ?」この私を呼びつけるとはいい度胸だ。しかし、私は大人。ここで下手な行動をとって無関係なブランカを困らせるわけにはいかない。「そう、分かったわ。それじゃ大至急向かわないとね」心のなかで舌打ちをしながら、再び遠くの南塔へ向かった――****歩くこと10分。ようやく義理の両親のいる部屋へたどり着いた。それにしても疲れた……要件だけ聞いたらすぐに退散しよう。ノックをするとすぐに扉が開かれ、義父が現れた「……おはようございます。お義父様。何か御用でしょうか?」スカートの両端を少し上げて、貴族風の挨拶をする。「用が無ければ、わざわざお前を呼び出すはずがないだろう? 中へ入れ」「……はい、失礼いたします」部屋の中に入ると、ソファに座って紅茶を飲んでいる義母がいた。「おはようございます、お義母様」すると義母はチラリと私を見てため息をつく。「ハァ〜朝から面倒な……」は? 面倒? それはこちらの台詞なんですが。要件があって呼び出したのは自分たちのくせに面倒と言うのは聞き捨てならない。義父は義母の隣に座り、私を立たせた
last updateLast Updated : 2025-12-18
Read more

第6話 ご挨拶に参りました

「な、何よ……この鼻をつくような匂いは……」換気! 部屋の換気をしなくちゃ!ラファエルの脇をすり抜けて部屋の中へと入っていく。「お! おいっ! 勝手に部屋へ入るな!」背後でラファエルの声が追っかけてくるけど、私の歩みは止まらない。「な、何よ! 勝手に私達の部屋へ入ってこないでよ!」部屋の中央のテーブルには食事中だったのか、半分以上は手つかずの料理が残されており、椅子に座るアネットの姿があった。肩にかかるふわふわな金髪に紫の瞳のアネットはこちらを睨みつけている。「あら? いたのね。あまりにも静かだったからいないのかと思ったわ」「な、何ですって! 誰に向かってそんな口を叩くのよ!」普段からまるでお人形のように美しいともてはやされているアネットが私の前で本性を現す。眉を釣り上げ、歯をむき出しにして睨みつける姿はさながら……。「まるでハイエナみたいね」小声でポツリと言ったのに、アネットにはばっちり聞こえてしまった。「ちょっと誰がハイエナよ!」「おい! 待て! ゲルダ!」全く……うるさい若者たちだ。私は返事もせずにバルコニーへ続く掃き出し窓の側へ寄ると大きく窓を開け放った。途端に3月のまだまだ冷たい風が部屋の中に一気に吹き込んでくる。「さ、寒い!」「ちょっと! は、早く閉めてよ! 凍え死んじゃうわ!」 背後で寒さで悲鳴を上げるラファエルとアネット。でも、私は寒さに強い人間。「あ〜気持ちい」両手を広げて冷たい風を身体に受ける。前世では1年中乾布摩擦をしていた私にとってはこのくらいの寒さどうってことない。それより新鮮な空気を取り入れる方が重要だ。「さて……2人とも。後最低でも10分は部屋の窓を開けて換気をしておくのよ? 空気が悪すぎるから」「「は?」」寒さで震えながらラファエルとアネットが同時に首を傾げる。「それじゃ、私はこれで失礼するから」それだけ言うと部屋の扉に向かった。「おいっ!ゲルダッ!」ドアノブに手を触れた時、ラファエルが声をかけてきた。「何?」振り向いて返事をするとラファエルが寒さでカタカタ震えながら尋ねてきた。「お、お前……、一体……何しにこ、ここへ来たんだよ!?」「はぁ?」何を今頃言い出すのだろう?「私……最初に言ったわよね? 朝のご挨拶に参りましたって」「え……? そ、それだけ……か?」「
last updateLast Updated : 2025-09-27
Read more

第7話 洗濯の基本

約10分かけて恋人たちの異臭部屋からピカピカに掃除された自室へ戻って来ることが出来た。「あ、お帰りなさいませ。奥様」自室の前でに籠に入れた洗濯物を運ぼうとしていたブランカが私に気付いて声をかけてきた。「ええ、ただいま」返事をすると何故かブランカがじ〜っと私を見つめている。「え? 何?」「いえ……今日は泣かれなかったのだなと思って」「え? 泣く……? あ!」そうだった。今までの私はラファエルが朝食の席に現れないので毎回泣きながら部屋に戻って来ていたんだっけ……。その私の態度がますます周囲の使用人たちから馬鹿にされる原因になっていた事に気付きもせずに。それにしても前世の記憶が戻る前の自分が情けなくてたまらない。あんな顔だけしか取り柄の無い男に惚れこんでいたなんて。前世で産み育てた我が息子の俊也の方が断然魅力に溢れていたわ。……まぁ、少し親の欲目もあるけどね。「……本当に昨日までの私って馬鹿だったわね」ぽつりと呟くと、どうやらブランカに聞こえていたようだった。「え? 奥様? 何かおっしゃいましたか?」首をかしげてきた。「何でもない、何でもない。ほら、早く洗濯しに行った方がいいわよ。3月とはいえ、まだまだ外は寒いんだから早く洗い物をして干さないと乾かないわよ」その時、ブランカの持つ洗濯物の中に私が今朝着ていたネグリジェが入ってることに気付いた。「あら、それも洗うのね?」「はい、そうです」「ちなみにそれは素材はシルク?」「え、ええ……そうですけど?」そうか、やはりあのネグリジェはシルクだったのか。「ねぇ、シルク素材も太陽の光に当てて干していたの?」「はい。勿論です」当然のように返事をするブランカ。「あ〜それはダメよ。いい、シルク素材はね、日光に当てて干すと黄色くなっちゃうから絶対に陰干しがお勧め。分かった? 今度からそうするのよ?」するとブランカが何かに気づいたのか、あっと驚きの顔を見せた。「そう言えば、シルクの素材って、すぐに黄色く変色してました。何故かと思っていたのですが、日光の下で干していたからなんですね? ようやく分りました!」「ええ、そうよ。シルクは日陰干しが基本。だから早くお洗濯してきたほうがいいわよ。そうじゃないと乾かないから」「はい! 分かりました!」ブランカは洗濯籠を持って小走りに去って行った。その
last updateLast Updated : 2025-09-28
Read more

第8話 不利な条件

「そうだ。まずはこの世界では離婚をする場合どこに相談すればよいか、調べないと。それに両親にも報告して……」そこまで考え、がっくりと肩を落とした。そうだった……。祖父と父は貴族に目が無い人達だった。親子2代で財を築いた大商人。その財力に物を言わせて今まで欲しいものは全て手に入れてきた。たった一つをのぞいて。そのたった一つのものと言うのが貴族の【爵位】だったのだ。成金らしく、どうしても爵位を手に入れたかった祖父と父は一人娘である私に白羽の矢を立てた。爵位は高いけれどもお金に困っている貴族に巨額な持参金付きの嫁として私を差し出そうと考えたのだ。そこで父と祖父は【独身貴族求む! 巨額の持参付きの花嫁あげます】とうたったビラを大々的にこの町一体に撒いて宣伝し、名乗りを上げたのが今の夫の両親である。それが今から1年前の出来事だった――****「それにしても爵位欲しさに娘を売りに出すなんて、ろくでもない身内よね」ソファにゴロリと横になった。 恐らく私がラファエルと離婚したいと言っても祖父も父も認めてくれないだろう。何しろこのノイマン家……没落貴族ではあったけれども、この地で400年続く由緒正しい伯爵家なのだから。そのノイマン家が困窮し始めたのは先先代のノイマン伯爵が浪費家かつ賭博好きのろくでなしだったからだ。彼のせいでノイマン家は借金がかさみ、先祖代々引き継いできた領地を手放す寸前に、ここ『テミス』の町で一番の大富豪商人のばらまいたビラを手にした。そして『テミスの大富豪』と呼ばれた一人娘の私、ゲルダとノイマン家の嫡男ラファエルとの婚姻関係が結ばれることになったのだ。「あの当時の私に今出会えるものなら、一発殴りつけたい心境だわ……」頭を抱えながら思わずため息が漏れてしまった。何故なら私はラファエルに一目惚れしてしまい、彼と結婚出来るならどんな犠牲もいとわない! と、圧倒的に理不尽な条件を飲んでしまったのだ。その条件には様々な内容が多岐にわたって決められていた。例えば我が屋敷から、年間1億2000万シリル(日本円と同等)の支援金を保証すること。ノイマン家の生活スタイルに異議申し立てはしないこと。私1人だけ別の塔で暮らすこと……等々が盛り込まれていた。けれども、これらは特に大きな問題ではなかった。何故なら支援金に関して言えば、実家は世界的にも有名な【テミ
last updateLast Updated : 2025-09-29
Read more

第9話 義理の両親からの呼び出し

「まぁ、過去のことは振り返っても仕方ないし。これからは未来に向けて進んでいかないとね」ソファから立ち上がると、早速出かける準備を始めた。まず前世を思い出す前に買い揃えた高級貴金属を全て売りに出すことにしよう。クローゼットに向かうと扉を開ける。ハンガーに大量に吊るされたドレスを両端に寄せると、その奥に隠し金庫が現れた。「それにしても嫁ぎ先に内緒で金庫を持ち込むなんて、今世の私もなかなかやるじゃない」思わずほくそ笑む。クローゼットの奥から出てきた金庫は私が実家から持ち込んできた代物で最高級のアクセサリーばかりが隠されている。そしてこの金庫はダイヤル式の鍵で暗証番号は私しか知らない。早速ダイヤルをカチャカチャと回し、金庫の蓋を開けると中には目もくらむような光り輝くダイヤやゴールドのアクセサリーが大量に現れた。でもこれはほんの一部。他に隠し金庫を私は嫁いで来た時に3つ持ち込んできたのだ。勿論この屋敷の者たちは誰も知らない。取り敢えずここからいくつかアクセサリーを持ち出して、町に売りに行こう。まず離婚するに当たって、先立つ資金がなければどうにもならない。前世で苦い経験があるから、じっくり準備をしなければ。そこで適当に10点ばかりアクセサリーを取り出すと金庫を閉じて再びドレスで隠す。「よし、今日のところはこれくらい持っていけばいいかしら」巾着袋に無造作に金庫から取り出したアクセサリーを入れるとスカートのポケットに突っ込んだその時。――コンコン遠慮がちなノックの音と共に、専属メイドのブランカの声が聞こえてきた。「ゲルダ様、お話がございます。よろしいでしょうか」「どうぞ〜入っていいわよ」「失礼いたします……」カチャリと扉が開かれ、ブランカがモジモジしながら私を見る。「あ、あの……大変申し上げにくいのですが……」「何? 私と貴女の仲じゃない。遠慮せずに言いなさいよ」するとブランカが両手を胸の前に組んだ。「奥様……実は先程大旦那様と大奥様が南塔の自分たちの部屋へ大至急来るようにと伝言が届きました。何でも大事な話があるそうです」「はぁ?」この私を呼びつけるとはいい度胸だ。私は前世の年齢46歳+今世の年齢21歳、合計年齢が67歳なのに、共に年齢45歳の夫婦に呼び出されるとは……。しかも伯爵家でありながら私達の援助が無ければとっくに没落している貧
last updateLast Updated : 2025-09-30
Read more

第10話 プライドの高い一族

「ゲルダ……昨夜、お酒を飲んだと聞いたが?」義父は足を組むと両手を組んで顎を乗せ、私を鋭い目つきで見た。「はい、そうです。飲みましたけど?」昨夜私は確かにお酒を飲んだ。しかもかなり、浴びる程大量に。自分の今置かれている状況が辛すぎて現実逃避をする為に地下室に並べられた高級ワインを2本貰って泣きながら部屋で飲んだ。どうか生まれ変わらせてくださいと誰に言うとも無しに……。そして今朝目覚めると私は前世の記憶を取り戻していたのだ。「やはり飲んだのだな! しかも勝手に!」ダンッ!義父は右手拳を握りしめ、目の前のテーブルを思い切り叩いた。以前の私ならこれくらいのことで震え上がっていたが、前世を思い出した私にはこんなことは何てことはない。「何故許可がいるのでしょう? あの地下室のワインだって、お義父様のリクエストがあったから、私が実家に頼んで手配して届けさせた物ですよね? 何故私が飲んではいけないのですか?」ほら、言い返せるものなら言ってみなさい。「ぐ……っ!」義父は顔を赤くしてブルブル震えている。ふ〜ん…肌の色が白いと綺麗なピンク色に染まるのか……。妙に納得しながら義父を見ていると、今度は義母が私を睨みつけた。「な、何て生意気な口を叩くのかしら……!」「そうでしょうか?」生意気? むしろ生意気なのは目の前に座っているこの2人だと思う。「うるさい! お前はもうこのノイマン家に嫁いで来た身なのだろう? 当主である私の許可なしに我が屋敷の財産を勝手に盗むな! お前が飲んだワインはなぁ……私が楽しみにとっておいた30年物オールドヴィンテージワインだったのだぞ! しかも2本も!」義父はよほどそのワインが飲みたかったのだろう。「だったらさっさと飲んでれば良かったじゃないですか。世の中、早いもの順ですよ」「な、な、何だと! 謝るどころか開き直るとは! 弁償しろ! 同じワインを用意するように実家に催促するのだ!」「は? 弁償? 催促?」肩をすくめてやった。「お前が勝手に飲んだのだから、責任を取るのは当然だろう?そうだな…この際ついでにワインを1ダースつけてくれ」ニヤリと笑みを浮かべる義父。「嫌ですよ。何故私が催促しないといけないのですか? どうしても欲しいなら自分で頼んだらどうですか?だって私には十分あのワインを飲む資格があるのですから」にべも
last updateLast Updated : 2025-10-01
Read more
PREV
123456
...
10
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status