午前7時半―― いつものように朝食の席に夫のラファエルが現れるのをダイニングルームで待っていた。しかし一向に彼は現れない。私は7時からこの部屋で夫を待ち続けていたが、どうやら今朝も無駄な様だ。先程から給仕のフットマンが気の毒そうに私をチラチラと見ているし、何より忙しい彼をいつまでもこの部屋で待機させるわけにもいかない。「ごめんなさい、夫は今朝も来ないようだから今日も1人で頂くことにするわ。用意して貰える?」笑みを浮かべて、隣に立つ給仕のジェフに声をかけた。「は、はい! 承知いたしました! で、でも……すっかりお料理が冷めてしまったので温め直してまいりましょうか?」ジェフが申し訳なさそうに私を見る。「いいのよ。今日で最後だから別に冷めていても構わないわ。それに忙しい貴方の手をわずらわせるわけにはいかないしね」「は、はぁ……」今日で最後と言う言葉が気になったのだろう。ジェフは首を傾げながら料理を私の前に並べていくが、理由を尋ねることは無かった。「あ、あの……奥様。旦那様は……恐らく、今お部屋で……」冷めた料理を並べ終えるとジェフはためらいがちに言った。「ええ。分っているわ。ラファエルはアネットと一緒に部屋で食事をしているのでしょう? だって2人は同じ部屋で寝食を共にしているのだから。それでは朝食を頂くことにするわ」私はすっかり冷めてしまったスープを飲み始めた。冷めた料理を口にしながらジェフの様子を伺うと、彼は困ったような顔で私を見ている。私のことを気にしているのだろうか……? その目には憐みが宿っているように見えた。夫のラファエルは自室で幼馴染で恋人のアネットと朝食をとっている。夫は私という妻がいながら、堂々と恋人とほぼ1日中一緒の時間を過ごしているのだ。晩餐会やパーティーに招かれても、連れて行くのは私では無くアネット。でもこの屋敷の使用人たちは私を憐みの目で見ても、誰もが夫の行動をたしなめる者はいない。たとえ夫の両親であっても……。その理由は恐らく私が貴族ではなく、商人の娘だからであろう。私はラファエルの妻であったが実際は単なる書類上の妻というだけの存在で、アネットがこの屋敷の女主人の様に振る舞っていたのだ。「奥様……今朝はその、何だかまるで別人の様ですね?」料理を口にしていると、不意にいつもは寡黙なジェフが話しかけて
Last Updated : 2025-09-25 Read more