All Chapters of 旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させていただきます: Chapter 91 - Chapter 100

103 Chapters

第91話 心臓が持たない

「え、えっと……あの……そ、それは……」思わず顔を真っ赤にさせながら困っていると、そんな様子を見たジョシュアさんがクスリと笑った。「すみません。どうやら僕は今非常に貴女を困らせているようですね。でも……」ジョシュアさんはさらに私に一歩近づく。「その様子だと……僕はゲルダさんに嫌がられているわけではない……と捉えて良いですよね?」私はその言葉に返事をすることすら忘れてコクコクと頷く。するとさらにジョシュアさんは嬉しそうに笑った。「ああ……良かった。では僕は貴女に好かれているんですね?」えっ?!そんな極端な……! だ、だけど実際私がジョシュアさんに惹かれているのは事実だった。思わず返答に困っているとジョシュアさんが笑いながら私を見た。「アハハハハハ……本当にゲルダさんは可愛らしい方ですね。返事はまたゆっくり聞かせて貰いますよ」「は、はぁ……」駄目だ、ドキドキしすぎて心臓が持たない。「さて、本当は……もう少しゆっくり話したかったのですが……先程からこちらを穴のあくほど見つめている人達がいるので、今夜はこの辺で退散しますね。また後日口説かせていただきます」「は、はい……」ジョシュアさんは突然私の髪の毛を一房すくい上げ、キスしてきた。「前向きに考えておいて下さいね」「!」そしてバーベキュー会場? へと戻って行った。「ジョシュアさん……」何てことだろう。はたから見れば私はまだ21歳のうら若き女性。けれどその中身は前世の年齢と今世の年齢を合わせれば67歳の年寄なのだ。それなのにこんなに胸がときめくなんて……。ん?その時、何処からか突き刺さるような視線を感じて振り向いた。するとそこにはグラスを手にした俊也と大きなヘラを握りしめたウィンターがこちらを見ている。俊也もウィンターも何やら人を非難するような目で私を見ているけれども……。何故!?俊也に非難めいた視線で見られるのはまだしも……何故ウィンターごときにまで、同じ目で見られてしまうのか……。解せぬ。全く理解できなかった。「な、何よ! 2人とも! ほ、ほら! 料理が冷めちゃうわよ! 沢山調理して沢山食べなさいっ!わ、私は先に部屋に戻るからね!」照れ臭さを隠しつつ、私は逃げるように自室へ向かった――**** 午前5時半―ジリジリジリジリ……目覚まし時計が鳴っている。「う〜
last updateLast Updated : 2025-12-24
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第92話 子供のお使いじゃあるまいし

 2人でいつものように厨房に並んで立って料理をしているのだが……。「ちょっと、な~に? 何だか今日は随分視線を感じるんだけど……言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」料理の味付けをしながら私は隣でニンジンを切っているウィンターに話しかけた。「い、いえ! ベ、別にみてなんかいやしませんよ!」ブンブン高速で首を振るウィンター。「ふ~ん……そう。なら別にいいけど……あ、そうそう。朝食後は出掛けて来るから後片付けはアネットと一緒にやってね。その後はブランカと一緒に畑仕事をやってね?」「はい! お任せください! それにハーブも育てるんですよね? ちなみにゲルダ様はどんなハーブが好きなんですか!?」妙に勢いづいて質問してくるウィンター。「え? 私? そうねぇ……ミントやローズマリーはハーブティーとして飲めるから好きね。それにタイムやパセリ、バジルなんかは料理に役立つわよね?」「なるほど、その4種類のハーブが好きなんです? そうだ! 出掛けるってことは町に行くわけですよね? なら俺も買い物に行くので一緒に行きましょう!」「何言ってるのよ。ウィンターは後片付けがあるでしょう? まさか本来厨房係でありながら自分の任務を放棄して、アネットに全て押し付ける訳じゃないでしょうね?」「ま、まさか! そんなことしませんよ! でも……仕方ないですね。今日は一緒に出掛けるのはやめますが、次回は必ず一緒にハーブを買いに行きましょうね?」その言葉に驚いた。「え? ちょっと待ってよ。まさか私と一緒に買い物に行くつもりなの? 子供のお使いじゃあるまいし、1人でハーブの苗くらい買いに行けないわけじゃないでしょうね?」「い、いえ! そうじゃなくて俺はゲルダ様といっしょに……」そこまでウィンターが話しかけた時――「おはよう! ウィンターさん。ゲルダさん!」大きな呼び声に驚いてふり向くと、そこには何故か仏頂面の俊也(ルイス)がドアに寄りかかってこちらを見ている。「あら。俊……ううん、ルイスさん。今朝は随分早いのね?」ウィンターがいるのに、危うく『俊也』と呼びそうになってしまった。「チッ! おはようございます……」ウィンターが隣で舌打ち? した気がする。「今朝は早く目が覚めたんですよ。ところでゲルダさん。少し話したいことがあるので、外に出ませんか?」「え!? 何
last updateLast Updated : 2025-12-25
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第93話 一番大事な存在

 2人で庭へ出た途端、俊也が切り出した。「母さん、一体どうなっているんだよ?」「どうなってるって……何が?」「だから、ジョシュアさんのことだよ」「ジョシュアさん……」その名前に昨夜のことを思い出し、年甲斐もなく? 顔が赤くなってしまった。「あ、赤くなった……。母さんの顔が赤くなってる……」俊也がグラリとよろめいた。「な、何よ。大袈裟ね。彼の名前を呟いたくらいで……」「彼? 彼って言ったね!? まさか、母さん……あの人と再婚するつもり!?」「ちょ、ちょっと待って! 誰かに聞かれたらどうするの? 声が大きいわよっ! し〜っ!」私は慌てて小声で注意した。「あ……ご、ごめん……つい興奮して……」俊也はため息をついた。「だけど、俺は嫌だよ? 彼のことを父さんと呼ばなければいけなくなるの?」「は?」どうやら俊也は大変な勘違いをしているようだ。「ちょっと落ち着きなさい。どうやら俊也も今の記憶よりも前世の記憶の方を引きずっているみたいね。いい? よく考えて御覧なさい? 確かに私達は前世では親子だったけど、今世では親子じゃないのよ?一応赤の他人なんだからね?」「う……た、確かにそうだけど……」それでも俊哉は不服そうだ。「そう言えば…也、貴方はこの世界で何歳なんだっけ?」今更ながら年齢を聞くのを忘れていた。「俺? 俺はこの世界では26歳だよ?」「26歳! 私の年齢より上じゃない!」「あ……確かに言われてみればそうかもなぁ……でも今の俺には母さんは母さんとしてしか見れないよ」「ええ、私もそうよ。貴方の事は私の息子の俊也としてしか見れないもの」「だったら一人息子の頼みを聞いてくれよ。ジョシュアさんとの結婚……考え直してくれないかなぁ?」「だ、か、ら! どうしていきなり結婚の話になるのよ! だ、第一告白はされたけど、プロポーズなんかされていないのよ?」「ああ! や、やっぱり告白されたんだね!? そんなぁ…」俊也は側にあった樹木に頭を押し付けてしまった。何だかまるでその姿は……。「俊也……貴方のその格好……まるで母親の再婚を嫌がる子供みたいよ?」すると俊也は顔を上げて私を見つめる。「そ、そりゃそうだよ! こっちの世界では俺は孤児だったんだよ? 前世の記憶があったものの……ずっと孤独で……ようやく今世で母さんと再会出来て、少しずつ
last updateLast Updated : 2025-12-26
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第94話 何でいるのよ?

「ではゲルダさん、仕事に行ってきますね」ジョシュアさんが笑顔で私に手を振る。「はい、行ってらっしゃい」リビングで洗濯物を畳んでいた私は手を止めてジョシュアさんに挨拶した。ジョシュアさんが嬉しそうに部屋を出ていくと、両端から視線を感じる。「な、何よ……」「何だかすっごく良い雰囲気ですね〜」アネットがからかうような口調で言う。「そ、そんなことないんじゃない?」すると……。「ああ、そうだ。アネット、いい加減なこと言うな!」何故かリビングで玉ねぎの皮むきをするウィンターが口を挟んでくる。「何よ! ウィンター! 大体なんでリビングで玉ねぎの皮なんか剥いてるのよ。洗濯物に玉ねぎ臭がうつるでしょう? あっちでやんなさいよっ!」アネットが文句を言った。「別にちゃんと仕事してるんだからどこでやったって構わないだろう? 大体換気のために窓だって開いてるじゃないか、ほらっ!」ウィンターが指した先には窓があり、大きく開け放たれて外で家財の修繕をしているジャンとジェフの姿が見える。「2人とも……仲がいいわねぇ……」「「はぁ!? 何処がですか!!」」私の言葉に、アネットとウィンターが同時に声を上げた――****「それじゃ、タクシー会社に行ってくるわね」外出着に着替えた私はアネットとブランカに声をかけた。「はい、行ってらっしゃいませ」「行ってらっしゃい、ゲルダさん」2人に見送られながら外に出て驚いた。何と帽子を被ったウィンターがニコニコしながら扉の前に立っていたのだから。「お待ちしてましたよ、ゲルダ様」「な、何でウィンターがここにいるのよ!? 仕事は? 畑仕事はどうしたのよ!」するとウィンターが肩をすくめた。「ええ、それが畑仕事をやろうと思っていたら肝心の肥料が無くなってしまったんですよ。ゲルダ様もこれから町に行くんですよね? 俺も買い物があるので2人で一緒に出掛けましょうよ。別々に出かけるより一緒に辻馬車に乗ったほうが路銀も浮くでしょう?」尤もらしい話をするウィンター。「……全く、仕方ないわね。でも町に着いたら別行動よ? 私は忙しいんだから買い物に付き合ってられないんだからね?」「ええ、それでも構いませんから。さ、早く行きましょうぜ」ウィンターはニコニコしている。……全く何がそんなに嬉しいのだか……。「分かったわ、行きましょう」
last updateLast Updated : 2025-12-27
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第95話 必要な人材とは

「ゲルダ様〜俺が悪かったですから許して下さいよ〜」辻馬車を降りて銀行へ向かう私の後を何故かウィンターがついてくる。「ちょっと! 何でついていくるのよ! 貴方は園芸店に行って肥料を買ってくるんじゃなかったのっ!?」「いや〜そうなんですけどね、ほら。さっき大金を引き出すから気をつけないとって言ってたじゃないですか? だから護衛……むごっ!」私は咄嗟にウィンターの口を塞ぐと腕を引っ張って、路地裏へと連れて行った。そして辺りをキョロキョロ見渡した。「よし、ここなら人の気配は無いわね……」ここならウィンターに伝えておきたいことを言える。すると何を勘違いしたのか、ウィンターが妙な事を口走った。「こ、こんな人気の無い路地裏に引っ張り込むなんて……ゲルダ様は大胆な方ですよね……?」そして何故か顔を赤らめて私を見下ろす。「はぁ〜っ!? 何訳の分からない事言ってるのよ? いい? とにかくあんな町中で大金を引き出すとか言わないでよっ! いつ、何処でどんな人間に聞かれるか分からないでしょう!? もっと考えて喋りなさいよ!」「ですから護衛をしますって言ってるんですよ」ウィンターはケロリとした顔で言う。全く……最近のウィンターは私が何を言っても堪えないのか、ニコニコする一方である。「……仕方ないわね。それじゃ銀行に行って現金を引き出した後は別行動よ」「それじゃ危ないですって! 銀行にいた人間が後をつけるかもしれないじゃないですか!?」全く……ああ言えばこう言う……。「分かったわよ……それじゃタクシー会社までよ。その後はちゃんと園芸店に行って肥料を買って屋敷に戻るのよ?」「え? タクシー会社の帰りだって危ないんじゃないですか?」「それなら大丈夫よ。私はタクシーに乗せてもらって帰るんだから」「え”? そうなんですか!? まさか早速今日から男をはべらすんですか!?」ぷちっ私がその言葉に再び切れたのは言うまでも無かった――****  銀行を出た私とウィンターはタクシー会社目指して歩いていた。「しかし、400万シリルも引き出すとは……中々太っ腹ですね?ゲルダ様は」大金をショルダーバッグに入れて歩く私にウィンターは話しかける。「太っ腹とかそういう問題じゃないわよ。何しろこのお金はこれからタクシー3台の買い取りと、3人の若者たちを引き抜くための必要経費なん
last updateLast Updated : 2025-12-28
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第96話 皆のゲルダ

 ウィンターを伴ってタクシー会社を目指す為に辻馬車に揺られていた。馬車の窓から外を眺めていると、不意に向かい側に座るウィンターが声をかけてきた。「ゲルダ様」「何よ」「あのジョシュアって男……いけ好かないです。追い出しませんか?」「はぁ!?」突然の言葉に驚いてウィンターを見る。「ちょっと、何言ってるのよ? 寝ぼけるのも大概にして?」「別に俺は寝ぼけてなんかいやしません。ちゃーんと起きてますって」「大体何で追い出さないといけないのよ? 彼はシェアハウスの住人で、お客様なのよ? 彼は貴重な私達の収入源だと言うことを忘れていない?」むしろ追い出すべき人物は目の前のウィンターが適任だ。「だって……あいつ、俺のゲルダ様に色目なんか使って……ほんっとに自分の年齢を考えて行動しろって言ってやりたいですよっ!」「年齢……」それをならむしろ年齢を考えろと言われてしまうのは私の方だろう。前世と今世の年齢を合わせれば67歳のおばあちゃんになるのだから。ん? そう言えば今、ウィンターは何と言った?「ちょっと! そう言えば……ウィンター。今、私のこと何て言った? 『俺のゲルダ様』って言わなかった?」するとウィンターは開き直ったかのように頷く。「ええ、言いましたよ? 俺のゲルダ様」「ちょっとっ待ちなさい! 私がいつウィンターの物になったのよ? いい? 私はね、『皆のゲルダ様』なんだからね!?」腕組みをして言い放ってやった。そう、私はシェアハウスのオーナー。『皆のゲルダ』なのだから。そんな私をウィンターが呆れた目で見ていたのは言うまでも無い――****「どうもありがとうございました」タクシー会社の前で辻馬車を下ろしてもらった。「い、いえ、またのご利用をお待ちしております」御者は目的地がタクシー会社だというのが嫌だったのだろう。まるで逃げるように馬車を走らせて行ってしまった。そして背後からは待機中のタクシードライバー達の突き刺さるような視線……。「う〜ん……やはりタクシー会社に辻馬車で乗り付けたのはまずかったかしら……」「気にすることはありませんぜ? 文句があるやつは俺が片っ端からのしてやりますよ」ウィンターが指をポキポキ鳴らす。「ちょっと、物騒なこと言わないでくれる。私達はここに喧嘩しに来たわけじゃないんだから。……というわけで、ウィンター
last updateLast Updated : 2025-12-29
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第97話 いずれ全て話します

 真っ先に声をかけてきたのはハンスだった。「ええ、お待たせ。貴方たちを迎えに来たわ。ついでにタクシー3台も一緒にね」「本当に助かります……今月まだ3人しかお客を乗せていなかったので、家賃も払えなくなりそうで不安だったんですよ」クリフが胸をなでおろす。「俺は4人ですよ。本当にタクシーを利用する客がこんなにいないとは思いませんでした」ケンがため息をついた。すると――「おうおう、お前らか? 俺のゲルダ様を誘惑しようとしている男たちは。何だ? 1人を除き、ガキどもじゃないか?」まるで私の用心棒にでもなったかのようなガラの悪い態度で3人の若者たちを睨み付ける馬鹿ウィンター。「ちょっと! 何失礼なこと言ってるのよ!」私は慌ててウィンターを睨み付けた。「けど、ゲルダ様! こいつら全員ゲルダ様に色目使ってきてますぜ!?」「はぁ~!?」誰が色目を使っているだって!? 3人の若者達は呆気にとられた様子でウィンターを見ている。「あの~ゲルダ様。この人、何者ですか?」ハンスがウィンターを見ながら尋ねてきた。「うん、良い質問ね。彼は……」すると私が言い終わる前にウィンターは余計なことを言った。「俺か!? 俺はゲルダ様の下僕であり、将来の夫候補のウィンターだ!」「「「えぇ~っ!?」」」のけぞる3人の若者。「ちょっと! 何寝ぼけたこと言ってるのよ!!」私はウィンターを怒鳴りつけた。「いい!? 私にだって選ぶ権利位あるのよ! でもウィンターだけは絶対にお断りですからね!」「そ、そんなぁ~ゲルダ様……」何とも情けない声を上げるウィンターは無視し、私は3人の若者達に向き直った。「それじゃ、社長の処に挨拶に行ってくるからね」「「「はい」」」彼等は返事をし……何故かウィンターまでついて来ようとする。「……ちょっと。一体何の真似かしら?」「え? ですから俺も付き添いに……」「そんな事はいいから、貴方は早く園芸店へ行って肥料を買って帰りなさいっ! さもなくば……」「ひぃっ! わ、分りました! 分りましたから……どうか追い払わないで下さい!」そしてウィンターは逃げるように園芸店へ向かって駆けだして行った。「ふぅ……全く、鬱陶しい奴め……」長い髪をかき上げて、ため息をつくと私はタクシー会社の社長の元へ向かった――****「お待ちしておりま
last updateLast Updated : 2025-12-31
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第98話 もう1人の新しい住人

「本当に? 本当にいずれ全て話してくれるんでしょうね?」用心深げにケンに確認する。「ええ、勿論ですよ」ハンドルを握りしめながらニコニコ笑顔で答えるケン。恐らく私と話がしたくて自分のタクシーに乗せたことは理解した。それに 見たところ、悪そうな人間には思えない。「ひょっとして……貴方……」言いかけたものの、ケンによって素早くさえぎらる。「すみません、ゲルダさん。今はまだ何も話せないのですが……いずれ全てお話するので、とりあえず忘れて下さい」そんな忘れるなんて……。けれど何故かケンの顔が真剣で、何処か切羽詰まっているように見えたので、私はそれ以上尋ねるのはやめにした――****「ようこそ、お待ちしておりました」モンド伯爵邸ではブランカが出迎えてくれた。「あ、よろしくおねがいします」「お邪魔します」「ありがとうございます」ハンス、ケン、クリフが挨拶する。「それじゃ、皆中へ入ってくれる?」「「「はい」」」3人は声を揃えて返事をした。  リビングへ通すとすぐに私は3人に尋ねた。「あなた達、住まいはどうなっているの?」するとクリフが答えた。「俺は実家暮らしです。両親と妹の4人で住んでいます」「そう? ここにはどの位の時間で来れそう?」「う〜ん……そうですね。歩いても40分位でしょうか……? あ、でも乗り合い馬車の停車場がありましたよね? あれに乗ればもっと早く来れます」「そう? なら貴方は自宅通勤出来そうね? ケンはどうなの?」「俺はアパートメントに一人暮らしです。乗合馬車を利用すればここまで恐らく20分位で来れますね」「それじゃ、最後にハンスはどう?」「はぁ……実は僕、タクシー会社の寮に入っていたんですよ。だからもう出なくちゃいけなくて……」「そう? ならここに住めばいいわ。ここのシェアハウスの手伝いもしてくれれば格安で入居させて上げるから。ところで寮費はいくらだったの?」「はい、5万シリルです。食費は含まれていません」「ならここは食事付きで7万シリルはどう? その代わり、条件としてこのシェアハウスの運営のお手伝いもすること。どう? 悪い話じゃないと思うけど?」「本当ですか!? 実に良い話ですね! 是非ともお願いします!」ハンスは嬉しそうに頭を下げる。「ええ、それじゃハンス。今日からこのシェアハウスの住人よ。
last updateLast Updated : 2026-01-01
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第99話 私の最終目標は

「ジャンー! ジェフー! お茶でも飲まなーい!?」リビングの窓から顔をのぞかせ、庭で家具の修繕をしていた2人に声をかけた。「はい、行きます!」「丁度喉が乾いていたんですよ!」ジャンとジェフが交互に返事をし、作業の手を止めて屋敷の中へと入ってきた。「はい。いつもご苦労さま、二人は偉いわね。いつも文句一つ言わずに黙々と働いてくれるから助かるわ」2人の前に紅茶を置いた。「え? ゲルダ様?」「一体突然どうしたんですか?」ジャンとジェフが首を傾げる。「ううん、本当にそう思っただけよ」ニコニコしながら言うと、ジェフが警戒心を露わにして私に尋ねてきた。「ゲルダ様……もしや何か考えていますね?」「え? そうなんですか!?」ジェフがギョッとした顔で私を見る。「ええ、実はね……2人にお願いがあるのよ」「い、一体何をさせようとしているんです?」ジャンが紅茶を飲みなが尋ねる。「それはね……」2人の顔にうんざりした表情が浮かんだのは言うまでも無かった――**** 14時を過ぎた頃にハンス、ケン、クリフの3人が荷馬車に荷物を積んで戻って来た。「お帰りなさい、3人共」ドアを開けて迎えに行くと、荷馬車には数個のトランクケースしか入っていなかった。「あら、荷物ってこれだけなの?」あまりにも荷物の量が少ないのでハンスに尋ねた。「ええ、お恥ずかしいですが……家具も全てついている部屋だったので、衣類しか持っていなかったんです」ハンスの顔が赤くなる。「なーんだ、そんなの気にすること無いじゃない。ここは家具付きの部屋があるから安心して暮らせるわよ」「本当ですか!?」「ええ、それじゃ……」するとそこへ畑仕事が終わったブランカが部屋に現れた。「あ、ちょうど良かったわ、ブランカ。ハンスを部屋に案内してくれる?」「はい、分かりました。こちらへどうぞ」ブランカがハンスに声をかけた。「ありがとうございます!」荷物を持ったハンスが礼を述べる。「俺たちも荷運び手伝うよ」「そうだな」ケンとクリフも荷物を持つと、先頭を歩くブランカの後をついて行った。彼らの後ろ姿を見届けると、私はうでまくりした。「さて、パン作りの練習でも始めようかしら」私の最終目的は自分の店……パン屋をオープンさせることだ。ゆくゆくはこの屋敷を一部改装してパン屋を始めたい……こ
last updateLast Updated : 2026-01-02
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第100話 幸せな時間

――18時厨房でパンを焼いていると、バタバタと駆けて来る足音が響いてきた。そして……。「酷いじゃないですか! ゲルダ様!」ウィンターが厨房に現れるなり、大声で喚いた。「は? 何が酷いのよ。それはこっちの台詞よ。ウィンター! 今の今まで何処をほっつき歩いていたのよ! 夕食の準備もしないで!」私は粉まみれの手でウィンターを指さした。「何言ってるんですか! 俺は園芸店に行った後、ずーっとゲルダ様がタクシー会社から出てくるのを待っていたんですよ! なのに……待てど暮せどゲルダ様は戻って来なかったじゃないですか!」私は頭を押さえた。「あのねえ……常識で考えてみたって分かるでしょう? 何時間も戻ってこなければ普通は帰ったと思わない? それに第一、どうして私がウィンターと一緒に帰らなければならないのよ。そんな約束だってしていないわよねぇ?」「ええ……そんなぁ……」ガクリと項垂れるウィンター。しかし、すぐに顔を上げた。「ところでゲルダ様。これ……ぜーんぶゲルダ様が作ったパンですか?」「ええ、そうよ。今夜はパンパーティーよ。取りえず今夜は私が夕食を用意したけど、明日からはウィンター。貴方が料理を作るんだからね? 分かった?」「はい! 分かりました。いや〜やっぱり流石はゲルダ様。口では沢山文句を言ってくるけれども、優しい方ですよね〜。それで俺も惚れてしまったんですけどね」ウィンターはドサクサに紛れてとんでもないことを言ってきた。「ちょっと! あんまり変なこと言うと追い出すからね!」冗談じゃない。こんな話をジョシュアさんに聞かれようものなら……。「やぁ、随分美味しそうな匂いがすると思ったら……ゲルダさんだったんですね?」タイミング悪くジョシュアさんが現れた。「あ! お、お帰りなさい! ジョシュアさん!」笑みを浮かべて迎えると、ウィンターが口を挟んできた。「ゲルダ様! あまりにも俺と待遇が違いすぎやしませんか!?」「当然でしょう? ウィンターは従業員、ジョシュアさんは大事なお客様なんだから、待遇の差に文句は言わないでちょうだい」するとジョシュアさんが嬉しそうに笑う。「本当ですか? そう言っていただけると光栄です。このシェアハウスに住めて本当に良かったです。それじゃ一度部屋に戻りますね」ジョシュアさんは厨房から出ていった。「はぁ……やっ
last updateLast Updated : 2026-01-03
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