私はタクシー会社へとやってきた。タクシー会社の隣には大きな倉庫があり、10台程のタクシーが並べられている。倉庫の隣には背もたれの無いベンチが置かれ、暇そうなタクシードライバー達がやはり10名程座っていた。ドライバーたちは全員若い男性達である。「こんにちは」私は彼等に近付くと声をかけた。「あ、お客様ですか!?」1人の男性が立ち上がった。「いいえ……まぁ、お客と言えばお客だけど……あなた達はここで何をしているのですか?」すると次々と若者たちが声を上げた。「お客の依頼待ちですよ。タクシーを利用されるお客様を待っているのですが、一向にお呼びがかからないんですよ」「折角苦労して運転免許を取ったって言うのに、お客がいないのでは宝の持ち腐れです」「辻馬車乗り場では行列が出来ていると言うのに……このままじゃ今に首を切られそうで怖いですよ……」「そうなのですか。私は辻馬車よりもタクシーの方がずっと良いと思いますけどね。何しろ辻馬車よりも早いし、揺れなくて体が痛くならないのもいいですから」私の言葉にその場にいた全員が頷く。「そう、そうなんですよ! 車は最高ですよ!」「走る音も気にならないし、揺れもない。馬車酔する人達こそ、利用するべきなのに……!」「やっぱり問題なのは料金の高さだと思うのよね……。というわけで、社長に会わせていただくことは可能かしら? あ、ちなみに私はゲルダ・ブルームと言うの。ブルーム家と言えば……当然聞いたことがあるわよね?」私は口調を変え、彼等に向かってにっこり微笑んだ――****「どうもはじめまして。私が社長のカエサル・オットーと申します。ご用件は何でしょうか?」私の前にはお腹の出ているスーツ姿の中年男性が座っている。この人物はブルーム家の名を聞いた途端、目の色を変えたらしい。私をこの社長室に案内した女性社員がこっそりと教えてくれた。「ええ、実はこちらに在籍している運転手を3名ほど引き抜きさせていただきたいのです。タクシーごと」「ええ!? な、何故ですか!?」カエサル社長は背中を逸らせながら大袈裟に驚く。「私が何も知らないとでも思っているんですか? この会社……経営が火の車なのでしょう? 彼らに支払うべき給料が滞って2カ月になるそうじゃないですか?」「うっ! そ、それは……!」社長はビクリと身体を震わせた。「
Terakhir Diperbarui : 2025-11-11 Baca selengkapnya