旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させていただきます

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させていただきます

last updateLast Updated : 2025-09-25
By:  結城 芙由奈Updated just now
Language: Japanese
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【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽なことに気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた――

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Chapter 1

第1話 いつもの朝

 午前7時半――

 いつものように朝食の席に夫のラファエルが現れるのをダイニングルームで待っていた。

しかし一向に彼は現れない。

私は7時からこの部屋で夫を待ち続けていたが、どうやら今朝も無駄な様だ。

先程から給仕のフットマンが気の毒そうに私をチラチラと見ているし、何より忙しい彼をいつまでもこの部屋で待機させるわけにもいかない。

「ごめんなさい、夫は今朝も来ないようだから今日も1人で頂くことにするわ。用意して貰える?」

笑みを浮かべて、隣に立つ給仕のジェフに声をかけた。

「は、はい! 承知いたしました! で、でも……すっかりお料理が冷めてしまったので温め直してまいりましょうか?」

ジェフが申し訳なさそうに私を見る。

「いいのよ。今日で最後だから別に冷めていても構わないわ。それに忙しい貴方の手をわずらわせるわけにはいかないしね」

「は、はぁ……」

今日で最後と言う言葉が気になったのだろう。ジェフは首を傾げながら料理を私の前に並べていくが、理由を尋ねることは無かった。

「あ、あの……奥様。旦那様は……恐らく、今お部屋で……」

冷めた料理を並べ終えるとジェフはためらいがちに言った。

「ええ。分っているわ。ラファエルはアネットと一緒に部屋で食事をしているのでしょう? だって2人は同じ部屋で寝食を共にしているのだから。それでは朝食を頂くことにするわ」

私はすっかり冷めてしまったスープを飲み始めた。

冷めた料理を口にしながらジェフの様子を伺うと、彼は困ったような顔で私を見ている。

私のことを気にしているのだろうか……? その目には憐みが宿っているように見えた。

夫のラファエルは自室で幼馴染で恋人のアネットと朝食をとっている。夫は私という妻がいながら、堂々と恋人とほぼ1日中一緒の時間を過ごしているのだ。

晩餐会やパーティーに招かれても、連れて行くのは私では無くアネット。でもこの屋敷の使用人たちは私を憐みの目で見ても、誰もが夫の行動をたしなめる者はいない。

たとえ夫の両親であっても……。

その理由は恐らく私が貴族ではなく、商人の娘だからであろう。私はラファエルの妻であったが実際は単なる書類上の妻というだけの存在で、アネットがこの屋敷の女主人の様に振る舞っていたのだ。

「奥様……今朝はその、何だかまるで別人の様ですね?」

料理を口にしていると、不意にいつもは寡黙なジェフが話しかけてきた。

「え? そう?」

まさか、何か気付かれたのだろうか?

内心ドキドキしながらも、冷静な態度を崩さなかった。

「ええ……いつもなら旦那様の所に怒鳴り込みに行こうとしたり、時には泣いたり、暴れ……コホン。少々乱暴な行動を取られたりしていましたが、今朝はやけに冷静なので。あの……何かありましたか?」

「いいえ。ちょっとした心境の変化よ。毎回いくら泣いたり、暴れたりしてもラファエルの態度は全く変わらないから止めることにしたのよ。だってそんなことをしても私が疲れるだけだから」

疲れる……これは私の心からの言葉だ。以前までの私なら2人の仲を激しく嫉妬し、泣いたり暴れたりと散々な醜態をラファエルやアネット……そして使用人たちの前でされけだしていた。

それがあの2人を喜ばせている行動だとは思わずに。あの時の自分を思うと恥ずかしくてたまらない。

「あの……奥様、大丈夫……なのですか?」

「ええ、もう大丈夫。私は今日から生まれ変わったのよ。もうあんな醜態はさらさないわ」

そう、私は生まれ変わった……というか、何故か今朝目が覚めたら前世の記憶が蘇っていたのだ。

そして真っ先に思った。

あんな夫とはさっさと離縁しようと――

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第1話 いつもの朝
 午前7時半―― いつものように朝食の席に夫のラファエルが現れるのをダイニングルームで待っていた。しかし一向に彼は現れない。私は7時からこの部屋で夫を待ち続けていたが、どうやら今朝も無駄な様だ。先程から給仕のフットマンが気の毒そうに私をチラチラと見ているし、何より忙しい彼をいつまでもこの部屋で待機させるわけにもいかない。「ごめんなさい、夫は今朝も来ないようだから今日も1人で頂くことにするわ。用意して貰える?」笑みを浮かべて、隣に立つ給仕のジェフに声をかけた。「は、はい! 承知いたしました! で、でも……すっかりお料理が冷めてしまったので温め直してまいりましょうか?」ジェフが申し訳なさそうに私を見る。「いいのよ。今日で最後だから別に冷めていても構わないわ。それに忙しい貴方の手をわずらわせるわけにはいかないしね」「は、はぁ……」今日で最後と言う言葉が気になったのだろう。ジェフは首を傾げながら料理を私の前に並べていくが、理由を尋ねることは無かった。「あ、あの……奥様。旦那様は……恐らく、今お部屋で……」冷めた料理を並べ終えるとジェフはためらいがちに言った。「ええ。分っているわ。ラファエルはアネットと一緒に部屋で食事をしているのでしょう? だって2人は同じ部屋で寝食を共にしているのだから。それでは朝食を頂くことにするわ」私はすっかり冷めてしまったスープを飲み始めた。冷めた料理を口にしながらジェフの様子を伺うと、彼は困ったような顔で私を見ている。私のことを気にしているのだろうか……? その目には憐みが宿っているように見えた。夫のラファエルは自室で幼馴染で恋人のアネットと朝食をとっている。夫は私という妻がいながら、堂々と恋人とほぼ1日中一緒の時間を過ごしているのだ。晩餐会やパーティーに招かれても、連れて行くのは私では無くアネット。でもこの屋敷の使用人たちは私を憐みの目で見ても、誰もが夫の行動をたしなめる者はいない。たとえ夫の両親であっても……。その理由は恐らく私が貴族ではなく、商人の娘だからであろう。私はラファエルの妻であったが実際は単なる書類上の妻というだけの存在で、アネットがこの屋敷の女主人の様に振る舞っていたのだ。「奥様……今朝はその、何だかまるで別人の様ですね?」料理を口にしていると、不意にいつもは寡黙なジェフが話しかけて
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第2話 前世の目覚め
 それは今朝のこと――いつものように、朝6時半きっかり。今年20歳になる専属メイドのブランカが私を起こしにやってきた。「奥様……ゲルダ様。起床のお時間です……って。え!?」ブランカは既に起きて着替えを済ませている私を見て驚いている。「ゲルダ様……! まさか今朝は1人で起きられたのですか?」部屋のカーテンと窓を開けて空気の入れ替えをしている私にブランカは駆け寄ってきた。手にはタオルと真新しいピローカバーとシーツを持っている。「ああ……ゲルダ……ね。確かそれが私の名前だったわね。あの有名な名作の主人公と同じ名前なんて何だか妙な感じね」「え? 奥様? なんの話ですか?」ブランカは首を傾げる。「あ〜……何でもないわ。気にしないで。あ、タオル持ってきてくれてありがとう。後は自分で全部やるからいいわよ。タオルとカバーシーツ貸してくれる?」「え? 何故ですか?」「そんなの決まってるじゃない。自分で交換するからよ」ブランカからタオルを受け取った。「な、何を仰っているのですか!? 奥様にそんなことさせられるはずないじゃありませんか!」ブランカは目をこれでもかというくらい見開いた。「大丈夫だってば。これでもベッドメイキングには自信があるのよ。何しろ25年位昔に仕事で経験済みだから……」言いかけて、しまったと思った。「え? 25年くらい昔……? それに仕事って何のことですか? ……奥様はまだ21歳ですよね? それに働いた経験てありましたっけ?」「いいからいいから。私のことは構わずに貴女は自分の仕事をしに行ってちょうだい」無理やりブランカの背中を押して部屋の外においやる。「あ、あの!? 奥様!?」――バタンブランカを追い出すと、腕まくりをした。「さて、ベッドメイキングのついでに部屋の掃除でも始めますか」先程掃除用具置き場から拝借してきたモップで床掃除を始め……今朝目が覚めた時のことを回想していた。****「う〜ん…」いつもの習慣で朝5時に目が覚め、驚いた。何故なら天蓋付きのフカフカベッドの上で自分が眠っていたからだ。「え……? う、嘘でしょう……?」ベッドからムクリと身体を起こし、さらに驚いた。縦縞模様の綿パジャマを着て眠ったはずなのに、今着ているパジャマはいわゆるネグリジェと呼ばれる代物だったからだ。ツルツルと光沢のある素材…
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第3話 前世の私
「全く……前世でも浮気が原因で離婚しているのに、何で生まれ変わっても結婚相手が堂々と浮気しているのよ。ほんと、私って生まれ変わっても男運が悪いのね」キュッキュッと窓拭きをしながらブツブツ愚痴を言う。けれど、不思議と悔しいと思う気持ちは沸かなかった。前世の記憶を思い出す前は、あれほど2人の仲を嫉妬して周囲の視線もはばかることなく、泣いたり暴れたりしていたのに。今では何とも感じない。まるで憑き物が落ちたようだ。何しろ私と夫は夫婦生活の営みすらなかったのだから。「きっと神様が私を哀れんで前世の記憶を取り戻してくれたのかもね……あ、ここまだ汚れてるわ」ハ〜ッと息を吹きかけて、再び窓掃除を続ける私。さて……何故私が前世の記憶を取り戻すと同時に夫への愛? 嫉妬? が綺麗サッパリ無くなったのかと言うと理由はシンプル。「結婚相手が前世の自分の我が子と同じ年齢なんてありえないじゃないの……」そう、前世の私は日本人で25歳の息子がいる母親だったのだ――**** 前世では若気の至り? で僅か20歳で結婚し、21歳で男の子を出産した。親子3人、幸せな生活を送っていたのはずなのに、それも束の間。夫の浮気が発覚して結婚生活は僅か2年で破綻。その後、狭い団地で女手1人、シングルマザーとして寝る間も惜しんで必死に働き、子育てを頑張った。そんな頑張る私の背中を見て育った息子は期待通りの良い子に成長してくれた。国立の一流大学に合格。卒業後は大手商社に就職し、息子は25歳で結婚した。親孝行の息子は私と同居することを強く望んだけれども、そこは丁寧に断った。何しろ結婚相手は息子の就職先の会社の部長の娘だったのだ。若い二人の為に新居のマンションを購入したのも先方の父親。そんな環境で私が一緒に暮らせるはずはなかった。息子が結婚後は1人築40年の団地に残り、相も変わらず必死で働き続けた。何故なら私には夢があったから。いつかパン屋を開業させるという夢が……。そしてついにその夢が叶った。私は念願のパン屋を開業させることが出来たのだ。まさに順風満帆、人生これからという時に……。****「恐らく、あのままきっと私は死んでしまったのね……」窓拭きをしながらポツリと呟く。でも息子が結婚後で本当に良かった。それだけが救いだ。「よし! こんなものかな?」部屋を見渡せば、窓はどこも曇りがない
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