一方、水琴も波打ち際でヒトデやカニ、小さな巻貝などを次々と拾い集めていた。そこへ、バケツを片手に提げた灼也が歩み寄り、静かな声で言った。「手を出して」「え?」水琴がきょとんとして顔を上げると、灼也はもう一度繰り返す。「手を」何かいたずらでもされるのかと警戒しながら、いつでも引っ込められるようにそっと両手を差し出す。灼也はその上に自分の握り拳を重ね、ゆっくりと指を開いた。コロン、と冷たい感触が水琴の掌に落ちる。「……貝殻?」「拾った」水琴の手の中にあったのは、淡いピンク色をした、美しい波模様の貝殻だった。「綺麗……」水琴は嬉しそうに微笑むと、大切にポケットへしまった。少し離れた場所から、紗音がその光景をじっと見つめていた。波打ち際に佇む二人のシルエットに、傾きかけた夕陽が重なる。オレンジ色の淡い光に包まれた兄と水琴の姿は、まるで昔読んだ恋愛小説の挿絵のように美しかった。「紗音ちゃん、何見てるの?」鹿耶が後ろから肩に手を置き、同じ方向へ視線を向ける。「兄様と水琴お姉ちゃん。……なんだか不思議なの。わたし、あの景色をずっと昔にも見たことがあるような気がして」紗音は首を傾げながら、自分の頭を軽くポンポンと叩いた。鹿耶はそんな紗音の髪を優しく撫でる。「二人の空気がぴったり合いすぎてるから、そう感じるんじゃない?」そう言いながら、鹿耶自身も同じように感じていた。灼也と水琴。二人は出会って間もないはずなのに、まるで何年も前から寄り添ってきたかのような、穏やかで完成された空気を纏っている。誰にも入り込めない、そして誰も邪魔をしたくないと思わせるほど、優しく調和した光景だった。水琴と灼也は波打ち際を歩いていた。海の幸でいっぱいになったバケツは砂浜に置き去りにしてある。足の裏に触れる柔らかく温かい砂の感触が、水琴の心をこの上なく解きほぐしていった。太陽が沈む方角へ向かってゆっくりと歩を進める。寄せては返す波が、足首を優しく撫でていく。こんなにリラックスできたのは、本当に久しぶりだった。鹿耶と頻繁に買い物や旅行に行っていた頃は、思い立ったらすぐにカバン一つで旅に出るような、自由で無鉄砲なところがあった。しかし、臣と結婚してからはどうだろう。毎日「貞淑で良き妻」を演じ、義母である佳乃の機嫌をとり、小姑の雅に仕え
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