「ただ、紗音を一緒に連れて行ってくれないか?あいつの症状はまだ波がある。君がそばにいてくれた方が落ち着くんだ」灼也は真剣な眼差しで切り出した。水琴はこくりと頷いた。本当は自分から紗音を連れて行きたいと言い出したかったのだが、灼也が心配するだろうと躊躇していたのだ。向こうから頼んでくれるなら、これほど好都合なことはない。「分かった。重人お兄ちゃんは明日の午前中に出発するって言ってたから、明日の朝早く、紗音ちゃんを連れてきて。お兄ちゃんも、無下には断らないと思うから」実のところ、水琴自身も重人を説得できる確証はなかった。灼也は水琴の鼻先にチュッとキスをする。「俺はまだ、約束を果たせていない。重人さんとしっかり話をすると言ったのに、それを果たす前に君たちは行ってしまう」水琴は両手で灼也の顎を包み込み、くすっと笑った。「たぶん、重人お兄ちゃんはあなたが諦めないって分かってるのよ。だからあんなに急いで出発しようとしてるんだわ」「みーちゃん。俺を信じてくれ。必ず重人さんを説得してみせる」絶対に諦めるつもりはない。「ええ、分かってる」灼也は熱を帯びた瞳で水琴を見つめた。すべてを焼き尽くしてしまいそうなほど熱い眼差しだ。「みーちゃん」何かを言いかけて、結局その言葉は喉の奥に飲み込まれた。「どうし……」不思議に思って口を開きかけた瞬間、強引に唇を塞がれる。灼也の腕が力強く体を締め付ける。まるで水琴の存在そのものを己の体内に溶け込ませようとするかのように。重なり合った唇の間に、微かに血の滲むような鉄の味が広がった。激しい感情が複雑に絡み合い、溶け合っていく。水琴は灼也の深い愛情が作り出す海へと堕ちていき、息が止まるほど甘い熱にどこまでも溺れていった。心地よい疲労感の中から、灼也はふと目を覚ました。スマートフォンの通知音が二度、短く鳴ったのだ。画面に目をやると、一通のメールが届いていた。添付されていたのは、航空券の予約完了画面のスクリーンショット。それを見た瞬間、灼也の心臓がドクンと嫌な音を立てた。急いで服を着る。ベッドでは、水琴がまだ気持ちよさそうに寝息を立てていた。灼也は身を屈め、その滑らかな額にそっと唇を落とす。「ごめんよ、みーちゃん」振り返ることなく、灼也はホテルを後にした。どうしても水琴のそばに残るわけにはいかない
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