「エルベルトさんから助手をやれって誘ったくせに、なんか嫌っぽく見えるのは私の気のせい?」 拗ねたツグミは、わざと可愛げのない質問をしてやった。「まさか。カナほど適任者はもう二度と現れないと断言できる」 真顔で答えるエルベルトに、ツグミは面倒くさい質問を重ねる。まだちょっとだけ、腹の虫がおさまらないのだ。 「ふぅーん……私、暗殺なんてしたことないのに?」「だろうな。見るからにどんくさそうだし」「その通りですけど、もう少し言葉選びません?」「すぐカッとなるところも暗殺に向いてないな」「自分だってすぐ怒るくせに」「俺はカナに合せてやってるんだ」「……へぇ」 その割には目が本気でしたけど?と言い返そうと思ったが、やめた。ツグミだって、もう子供じゃないのだ。「助手っていっても、カナは人殺しには関与しなくていい。俺の雑務をやってくれればいいだけだ」「例えば?」「……うーん……そうだなぁ……まぁ、その時になったらで」 言葉を濁すエルベルトに、ツグミは少々不安を覚えてしまう。 しかしポジティブに考えるなら、すぐに助手の使用方法がわからないというのは、しばらく暗殺をする予定がないということだ。 正直、そっちのほうがありがたい。「わかった。じゃあその時は頑張る」 任せて!と言いたげにツグミは自分の胸を軽く叩いたが、エルベルトは思いつめた表情を浮かべた。 てっきり「ああ。期待してる」と、ニヒルな笑みを返されると思っていたのに。「ねぇ……どうし……っ……!」 エルベルトの顔を覗き込もうとした瞬間、素早い動きで手首を掴まれてしまった。「一度だけ、訊く」「う、うん」「本当にいいのか?」 エルベルトの藤色の瞳が、心の奥底まで見透かしているようで、ツグミはソワソワしてしまう。「この提案は俺にとったらとてつもなく僥倖だが、カナにとったら違うことはわかっている。危険な目に合わせることはないと誓うし、カナが嫌だと思うことはしなくていい。だが断るなら、今だ。機会は一度しか与えない。慎重に考えてくれ」 胸の内を吐き出すエルベルトの声音は、少し震えていた。 この人は優しい。本当に、馬鹿みたいに優しい。 力でねじ伏せることも、権力で囲い込むことだってできるのに、こんな小娘に選択を委ねてくれる。(……あ、なんかこの表情、どっかで見たことある) 記
Last Updated : 2025-10-07 Read more