『ここは不便で私に優しくない世界だけど、銃がないことだけはいいところね』 夕暮れ時、ツグミの母親──香苗は、幼いツグミの手を引いて歩きながらそう言った。反対側には、父親がいる。『じゅうってなぁに?』 子供が持つ純粋な好奇心でツグミが尋ねたら、香苗は「うーん……」と困り顔になる。『火薬の圧力を利用して弾丸を発射する鉄製の武器って言ってもわかんないよね?』『そうだねぇ。この説明だと僕でも難しいから、ツグミはちょっとわかんないかも。どうだい、ツグミ?』『うん!わかんない』 父親──レイフィルに尋ねられたツグミは、大きく頷く。すぐにツグミの両親は声を上げて笑った。『あははっ。難しいよねー。ま、帰ったら絵を描いて教えてあげよっと』『うーん……絵に描いても難しいかも。僕がもっと創造魔法を上手に使えたら良かったんだけどね』『実物なんか作ったら駄目!あれはこの世界にあっちゃ駄目なものなのよ』 香苗から叱られたレイフィルは、しょんぼりと肩を落として「ごめんねぇ」と謝る。 その情けない姿にキュンとしたのか、香苗はレイフィルに身を寄せ、その頬に口づけを落とす。 夕日に照らされた三人の影が一つになり、ツグミは幸せな気持ちでいっぱいになった。* 二度と戻れない失った日々の記憶と、エルベルトが持つ武器が重なって、ツグミは混乱を極めた。 そうしている間も、エルベルトは拳銃を構え、冷静に狙いを定めトリガーを引く。 迷いのないその姿は、昨日今日、銃を手にした者ではないことがわかる。そうとう長い期間、使い続けているようだ。「エルベルトさん……ぇっ?……っ!?」 最後の一人が倒れたと思った時には、ツグミはエルベルトに荒々しく掻き抱かれていた。 息ができないほどきつく抱きしめられ、全身に安堵が広がる。顔を上げると、泣きそうなエルベルトが、視界いっぱいに映り込んだ。「遅くなって悪かった」 ビロードのような艶のある声は、ツグミが抱えていた不安と恐怖を消していく。 安堵から、ポロポロと涙をこぼすツグミに、エルベルトは自分が酷い怪我を負ってしまったかのような表情になる。「泣かないでくれ……本当に、すまなかった」「ぅぇ……ひぃっく……ぅぅ……」 違うの。謝らなくていいの。 そう伝えたいのに、嗚咽が邪魔して言葉が出てこない。せめて気持ちだけでも伝わればと、ツグミ
Last Updated : 2025-11-08 Read more